町田はにっこり笑う。やばいやばい……なんか知らんがちょっと怒ってる。なんで! 怒るのは俺だろうが。
拘束された腕が引っかかって脱げなかったシャツ以外の服を脱がされる。隠すものの無くなった下半身を晒したくなくて膝を胸に付けるようにして体育座りをする。
「寂しかった?」
「はっ?! なんで? 俺が?」
言っておきながら、自分の声の調子に失敗を感ずる。あからさまに馬鹿にしたような、怒りを呼ぶような調子。俺がまともに働くのをためらう最大の悪癖。町田の表情のない笑い顔が怖い。
両膝に手がかかって開かれる。力を込めて抵抗するが晒される。頭に熱が集まる。羞恥心で死ぬんじゃないか。顔を反らせて町田の視線を感じないようにするが、顎を強く持たれてジッと目の奥を覗かれる。唇を舐め口内に舌を差し込んでくる。噛みやしないのに、顎は強く掴まれたままだ。
柔らかい舌の感触が口内で扇情的な動きをする。上顎を舐められ舌を絡められる。知らず応えていた。身の内から湧き上がってくる性感に思考が単純化したのか。舌を吸われ呼吸が苦しい。
「んんっ…ふ、……は、あぁっ」
町田の指が薄っすら反応を始めたものに絡みついてくる。指先で、先端を抉るように動かされる。唇を吸われ声を出すことを阻まれ、身体だけがビクビク跳ねた。
「まちだ…っ! も、ヤメッ…」
町田は唇を離すと俺のシャツを捲り上げシャツの端と一緒に俺の口を塞いだ。苦しい。晒された胸板に濡れた唇を押し付けられる。乳首に歯を立てられ、強く吸われ、下半身を刺激する手も休めない。声を出すことも許されず性急な快に頭の中が白くなる。
口元の木綿は零す唾液を吸っていく。目尻から涙が流れる。ああ、身体って正直だ。限界だ。町田の手の中で痙攣したのが分かる。限界を町田はきつく握りこんで放出を阻む。押さえられていた口が解放され、新鮮な空気に喘いだ。町田はテーブルにあった輪ゴムを取り上げ、握っていたものの根元にきつく巻き付けた。
「ッ! 頼む…もう、止めてくれ」
「止めない」
何故か町田は本当に怒っていた。意味が分からない。町田は自分の鞄を漁りローションを取り出す。なんでそんなものを、という苛立ち以上に恐怖が湧き上がる。それには良い印象がない。受け入れ口ではない所を受け入れ口にしてしまうものだ。
「嫌だ、止めろ……」
ひんやりとした感覚が後腔にもたらされる。襞を広げるように丹念に周辺をなぞり指を差し込んでくる。身が竦んだ。入口付近を出入りする動きに排泄感を煽られて、そこがひく付くのが分かる。町田の指に食いついている。
町田は中を掻き回し、俺が指の動きに翻弄される様を蔑むように見ている。
「この部屋にいれば寂しいなんてことはないか」
町田の身体が離れる。資料箱の中を探ってる。まずいって。町田はいちいちスイッチを入れて玩具が稼動するか確認している。
「どれが好きなの?」
「好きじゃねぇ!」
じゃあコレでいいや、と言って町田は決めてしまったようだ。町田が手に持っているものを見て、青褪めた。男性器の模型は、実用向きとは思えない恰好をしている。まさか。
「町田……嫌だ。こんなこと、もう」
町田は答えない。それどころか俺の口にボールギャグを噛ませ言葉を封じる。手錠を掛けられた両腕を更にベッドの足に括られる。ビニール紐の食い込む感触を手首に感じる。
内モモに指先の感触を覚える。町田はまたローションを塗りこんで身体を開いていく。制止の言葉も何もかも、まともに形にならなかった。呻きと唾液だけ、だらだら流れる。張り型が押し付けられる。息を詰める。湿りが挿入を易くする。内臓を押し上げてくるような圧迫感。町田は俺に目隠しをする。見えないけれど気配がある。
「電池買ってくるから、いい子にしてなさい」
耳元に囁かれ、反発しようとした所を舌先が耳を嬲った。言葉にならない非難を気にも留めず町田は言う。スイッチを入れた音。電動音。内側を掻き回すゆるい刺激。
「んんっ! ぐゥ…、ふぅッ!」
「抜けないようにしっかり咥えておくんだよ。落としたら、お仕置きね」
受け入れている襞を撫でて町田は身体を離した。
町田は本当に部屋を出て行った。聴覚と身体の内部から生まれる刺激だけが今、俺にある全部だった。緩くうねる塊が内壁を押してくる。気持ちの悪い感覚を退けたく思っていると、ずるりと排泄に似た感覚が後腔を襲った。町田の言葉を思い出し慌てて締め付けると、感じたくもない性感を暴かれる。
「うぅっ…ん」
根元で塞き止められ放出が叶わない前も辛さを余計にする。
町田は帰ってこない。一体いつまで待っていればいいのか。息苦しい。ベッドに寄りかかって時間が過ぎるのを待つ。疲れた。刺激になれたと思って油断しているとまた形を変えた刺激を与えられる。機械の一定の動きを内壁の蠕動が快楽に変える。ああ……いやだ。
ぐったりする。身体を繋ぎとめておくネジが全部外れたみたいだ。身体がバラバラになるような、しかし己の動物じみた欲求が俺を生き物だと突きつける。扉が開く音がする。ようやくこの生温く拷問のような責めが終わるのだと思いホッとする。しかし町田はなにも言葉を発しない。
部屋を歩く気配がする。町田だろうとは思う。しかし、違ったら? 身体を伝う汗が冷える。人の気配が近付いてくる。
目隠しを外される。町田だった。ボールギャグも外される。唾液が糸を引いた。文句を言おうと思ったが、町田の表情がないのを恐れて上手い軽口が思い浮かばない。手首の拘束も外され、陰茎の根元を締め付けていた輪ゴムも外される。
「ごめんね」
静かな声でそれだけ言って、町田の手が痛いくらい張り詰めたものを扱く。痺れた手で町田のシャツを握って快楽を堪える。後ろに埋まったものを前後させ町田は俺の耳を舐める。
「偉いね。ちゃんと咥えてたんだ」
「あっ…やめっ…! やだ、まちだっ」
「入れたまま、いく? 抜いた方がいい?」
町田はゆっくりとした動きで引き抜き、押し込めてくる。緩やかな電動音は絶えず聞こえ中でムチャクチャしやがる。町田の肩に鼻を埋める。限界だが、こんなもので達してたまるか。
「あぁっ! やッ…町田のが、いいっ」
違う。言い間違った。町田のがまだマシって話だ。ふっと息遣いで町田は笑う。……シマッタ!
「そんな風にお願いされちゃあ仕方ないなぁ」
ニヤニヤ笑う顔。押し退けたいが身体に力が入らない。オモチャを抜かれ町田の指がそこを探る。柔らかいなんて、言うんじゃねぇよ!
町田の体臭が鼻先をくすぐった。熱く脈打つものが、身体の中へ埋め込まれる。何故か、ちょっと安心感があった。町田の重みを心地好く思った。
合間合間に町田が言うには、俺のうちに来れなかった間、せめてメールが欲しかったとか、久し振りに会ったんだからもうちょっと色気のある雰囲気が欲しかったとか。アホらしい、実にアホらしい理由でいじけていたのだ。
「アホか! おまえのメアドなんて知らねぇよ」
「……教えてなかったっけ?」
タチわりぃ……。
町田は甘えたように俺に抱きつきゴメンネと笑う。ああ、コイツと上手に縁を切りたい。下手したら大変だ。身体がいくつ有っても足りない。
早々に眠ってしまえ、と思う。意識がある間はきりがないのだから。
「写真撮ったら出入り禁止な」
それだけ言ってとりあえず眠った。町田のことは言うまでもないが、俺にしたって大馬鹿だ。ああ!