神様の言うとおり!〜ドライオーガズム編〜



 丸川の話を再現するならばこうだ。
「儂はアナルセックスの神! 今から一週間以内にアナルセックスで射精せずにドライオーガズムに至るのじゃ!」
「ほんとにいたんだ……」
 突然夢の中に表れた七福神にでもいそうな福々しいアナルセックスの神に丸川はそう思ったそうだ。そしてすぐさま神様のむちゃくちゃな要求について考えたという。
「それは俺が、じゃなくてもいいんですか?」
「うん?」
「大高がドライオーガズムに至ればいいんですか?」
「うむ? うむ、そうじゃの、おぬしでなくとも構わんかの」
「一週間以内、というのはお約束できませんのでせめて一ヶ月はいただけませんか?」
「う、うむ。一ヶ月じゃの、よ、良いよ……」
「出来なかったからといって死ぬだの家電が壊れると言うのもちょっと困ってしまうので二人とも風邪をひく、程度にしていただけないですかね?」
「そ、そうじゃの……、そうしようかの……」
「では、そのように進めていきましょう」
「あっ、はい……」
 斯様な経緯で俺は一ヶ月以内にドライオーガズムに至らなければ風邪をひくことになったらしい。
「そういうことだから」
 丸川は軽く言う。俺は開いた口が塞がらない。
 神様と交渉してもよかったのか。というか交渉した上でなぜアナルオーガズムなどというわけのわからない条件を覆せなかったのだ。というか「ほんとにいたんだ……」とはどういうことだ。
「あの、もしかして神様信じてなかった……?」
 恐ろしい可能性に思わず声が小さくなる。
「まあ……、変わったアプローチだなとは思ったな」
「ちょっと待って、それってどういう……」
 問いかけた最中、丸川の携帯が懐で鳴動した。丸川は悪い、と一言置いて携帯に出る。ちょっと待てよ、このタイミングで電話かかってくるとかどういうことだよ。
 すぐに終わるかと思った通話は長引きそうで、丸川は申し訳なさそうな顔をして手で謝罪を切るとより話しやすい場所へと移動していった。
 取り残されて俺は丸川が神様の件を信じていなかったことの恐ろしさに改めて捕らわれる。
 俺の話したトンチンカンな神様を信じていなかった丸川は、俺が単に丸川を好きで、付き合いたいとか思って嘘をでっち上げてセックスに誘ったと思っていた、というわけだ。俺はどんだけ変態と思われていたのだ。
 しかし神様を信じていないにも関わらず俺の誘いに乗ったということは誤解とはいえ俺が好きだという気持ちを汲んだうえでセックスしたことになるのか。ということは、どういうことだ。丸川は俺と付き合ってもいいとかそんな感じのことを思ったということなのか。
 頬がカッと熱くなる。心臓もドキドキしてきた。俺は別に丸川のことなんか好きじゃないし。カッコイイな、とは思うけどそれは一般論としてだし別に俺が丸川を好きだからとかじゃないし。
「悪い」
「ひゃっ」
「えっ、なに?」
「なんでもないです……」
 電話を終えた丸川が戻ってきた。別に戻ってこなくていいし俺は丸川のことなんか好きじゃないし別に。
「で、期間は一ヶ月だけど結構慣れが必要みたいなんだよ」
 なんの話だ。ドライオーガズムか。
「俺もできるだけ週末あけるけど自分でも訓練しといてくれる?」
「あっ、うん。分かった」
 軽く答えたものの俺はアナルオナニーを義務付けられてしまったのか。訓練という名の自慰を。
「おまえほんと考えて喋る癖付けた方がいいぞ」
「かっ、考えてるよ」
 考えてなかったけど。すぐ気付いたし。他に変なところがあるのか。ないよな。
「なんか俺が恥ずかしくなってくる」
「えっ」
「別に素直にやりますなんて言わなくていいんだよ」
「そうなの?」
 やばい顔が熱くなってきた。知らないしそんなの。じゃあ言うなよそんなこと。
「まあ、いいと思うよ、そういうとこ」
「えぇー」
「なんだよ、えぇーって」
 分からん。俺には丸川との会話がもう分からん。心臓がどきどきしてきた。別にときめいているわけではない。断じてない。
「まあそういうわけだから、よろしくな」
 そう言って丸川はトイレを出て仕事へ戻っていった。そう、また便所で話し込んでいたのだ。
 なんとなく、別に意味はないけど出るタイミングをずらしてみる。意識しているわけではない。そんなんじゃない。
 しかしふと気付いてしまった。丸川が神様を信じていないにも関わらず俺と関係を結んだということは、もしかして付き合ってるつもりだったのか。それともセフレ的なやつなのか。そういう目で俺を見ていたということなのか。そういう目で、俺を見ていたということなのか。
 なんだよ、あいつ俺のこと好きだったのかよ。それは違うか。違うのか? 分からん。俺はこれから丸川とどう接していけばいいのだ。一ヶ月以内にドライオーガズムに至らなければならないというのに。
 大体なんなんだよ、ドライオーガズムって。いきなり専門性高すぎるだろ。ついこの間アナルセックスさせて次はアナルでイケってむちゃくちゃだろ。さすがアナルセックスの神ってところか。いい加減にしろよ。調子乗ってんだろ、あいつ。なんで丸川の言うこと素直にきいてんだよ。好きなのかよ。
 顔の火照りを冷ますべくアナルセックス神への怒りへ意識をスライドさせていく。全部あの爺さんが悪い! そんなことを考えていなければ丸川のことばかり考えてしまう。もしかしてあいつ俺のこと好きなのか……、なんて、勘違いだったら死にたくなるようなことを考えないように俺はアナルセックスの神に対する悪口を考え続けた。

 その日の夜、丸川に言い渡されたようにアナルオナニーをした。指を二本入れた。もう指二本入れようと思えば入ってしまうんだな、と気が遠くなりそうだった。丸川のことを考えないように努めて義務的に行った。そのせいなのか全然気持ちよくなかった。手が痛くなったら止めた。速攻止めた後ろめたさからアマゾンでディルドを買った。アマゾンが俺に変態グッズを勧めてくるようになった。それもこれも全部アナルセックス神のせいだ。
 翌日から、丸川がなんとなく優しくなった気がする。もちろん気のせいだと思う。目が合うたびに微笑んでくるから俺はそのたびに会釈して返した。帰りに食事に誘われたがアマゾン来るからと断った。
 誘いを断ってまで受け取った荷物が性玩具、という疲労感から箱を開けずにその日は眠ってしまった。丸川に義務付けられた訓練を早々に放棄している罪悪感はあったが、ディルドを買ったのだから少しくらいはいいだろうという気持ちになっていた。それから三日間、アマゾンから届いた箱は開くことはなかった。
「週末どうする?」
 金曜日、丸川はさり気ない風にアナルセックスの実践のための打診をしてきた。俺はとっさに断っていた。
「ごめん、おふくろが瀬川瑛子のコンサートくるっていうから……」
「……別にそれおまえ関係なくない?」
「いや、こっちくるっていうから、なんか泊まるとか泊まらないとか、分かんないけどちょっと今週は無理っていうか」
「あー、そう」
「ごめん」
「いや、いいよ。大変だな、休みの日に」
「あ、おふくろ? うん、まあ、説教されるのかな……」
「それも親孝行のうちみたいだぜ。うちもおふくろうるさいよ」
「どこも同じだな」
「な」
 じゃあ、って感じで解散になる。俺の心臓は痛いくらい鳴っている。
 嘘を吐いたわけじゃない。おふくろが瀬川瑛子か誰か知らんがコンサートを観に上京してくるのは本当だ。でもそんなもん俺に関係ないしおふくろも勝手にやるだろう。大体俺の実家は電車で一時間半くらいの所にあるのだ。上京というほど大げさな話ではない。むしろおふくろの方が東京に詳しいくらいだ。
 言われた通りの自主練をしなかった誤魔化しをしてその場をしのいだつもりでも、一ヶ月以内というタイムリミットがある限りいずれ丸川とセックスすることになるのだ。逃げ続けられないのは分かっている。
 週末は反省して開けもしなかったアマゾンの箱を開いた。
 肌色のディルドは画像で見るよりギンギンのちんこ模型で正直無理だな、と思う。握ってみるとなんとなく丸川もこんなサイズだったような気もしてきて、いや、ここまでギンギンじゃなかっただろうと思うが定かでない。口に入れてみたら分かりそうな気はしたが止めておいた。
 準備を済ませ、指が疲れるまで指で拡げ、さあディルドか、と乗り切らない気持ちで張型にローションを塗り広げる。エロい。ピュアちんこな色合いのディルドがぬるぬる光ってエロい感じに拍車がかかる。こんなものをケツに入れるのか。マジか。
 溜息のついでに息を吐き出しケツにディルドの先を当てる。溜息がまた出る。嫌だなぁ。ほんと。こんな。入るのかよ。入るだろうさ。丸川のだって入ったんだから。
「……いっ……、あっ……」
 無理だこれは。全然入る気がしない。先は入る。先は入るが亀頭部が潜り抜ける気がしない。だからといってすぐに諦めたら意味がないよな。なんのためにこんな恥ずかしいもん買ったんだ、って話だ。
「んっ……! あっ……無理だこれ」
 声にも出てしまった。声に出すと無理感は一層高まって、無理矢理押し進めると半端なく痛いし次第にローションも乾いてきた。買うサイズ間違えたか。しかし丸川のサイズを考えてあまり小振りなものを買っても訓練の意味がないのではないか。大は小を兼ねるが小は大を兼ねない。その考えが間違っていたのか。
 一旦ディルドは横へ置きもう一度指で慣らすことから始め、腱鞘炎になるのでは、というくらい慣らしたところで再度ディルドの挿入を試みた。
 散々慣らしたおかげかどうにか亀頭部が潜り抜け、ゆっくり奥へ進めていく。苦痛に息が苦しくなって涙が浮かぶ。もうだいぶ入ったかな? と余った部分を指で探るが全然入ってない。一旦抜くと一気に身体から力が抜けて呼吸が乱れた。
 もう止めようかな、と気がくじけてきたがサボっていた分の後ろめたさからもう一度試みた。
 土曜日も拡張に励み、前日散々いじり倒したおかげか思ったよりもスムーズに指が入った。異物感は残るものの、やればできる感あるな。昨日は指を入れる、ディルドを入れるだけで気持ちが一杯一杯だったから今日は丸川にされたとき気持ちよかったところを探そう。
 狭いアナルの中で指を動かしていく。苦痛の中にムズムズするような感覚もあり、なんだかイケそうな気がする。丸川の指が触った電気が走るみたいな気持ちいいところを探す。多分あれは前立腺だ。
「……ふっ、ん、ん……、ひぁっ!」
 あった。ちょっと指が痛くなり始めてようやく見つけた。微妙な気持ちよさで立っていたちんこの先が濡れた気がした。
 見つけた前立腺を見失わないよう指をあてたまま小刻みに動かすとでかい声が出そうになって咄嗟に枕に顔を埋めた。強い快感から逃れようとするのか無意識に指をずらしてしまう。いけない、とまたそこへ指をあてるとまた突き抜けるような刺激があってすぐ指を離してしまう。腰が跳ねるせいでちんこがシーツに擦れて気持ちがいい。気付いたらそちらに気を取られて、アナルから指を抜き意識的にちんこをシーツに擦り付けていた。
 ディルドを入れてみようか、と思ったがあの気持ちよさがずっと続くのが怖くてその日は入れずに終わらせた。
 日曜日はディルドを挿入したが前日のような突き抜けるような気持ちよさに至らずに入れて出しただけで終わった。

「顔色悪いな」
「えっ、そう? いつもと同じだと思うけど」
 月曜の朝早々丸川に心配された。実際朝鏡を見た感じ顔色に特に変わったところはなかったと思うが、なにか違ったのだろうか。
「なんでもないならいいけど、あんま無理すんなよ」
「あ、うん。ありがとう」
 アナルオナニーがいまいち上手くいかないことに関して勘付いているのだろうか。まさかな。
 それから毎日のようにアナルの訓練を実施した。毎日はしなかった。疲れた日は忘れたふりしてすぐに寝た。それでも先週よりは真面目にやったつもりだ。正直慢性的にアナルが痛い。
 金曜日に丸川からのアイコンタクトに頷く。
「今週はお母さん大丈夫なの?」
「あっ、うん。大丈夫」
 先週の嘘はばれていたんだろう。しかしここは空っとぼけることにした。昨夜もがっつり訓練したのだ。もう気持ちいいのかどうかも分からんような感じではあるが、この週末で神様の課した無茶な課題も終えられるだろう。
「熱ない?」
「えっ、わ、えっ、大丈夫!」
 いきなり丸川のてのひらが額に触れる。こんな風に熱を測られるのは子供の頃以来か。
「そうか?」
 そう言って額から降りた手を返し今度は手の甲で首筋に触れる。大丈夫だって言ってるのに。俺そんなに具合悪そうな顔してるのだろうか。くすぐったい。
 帰りに一緒に飯を食い、丸川宅へ向かう。今日は替えのパンツもアナルセックスに必要そうなものも持参している。
 玄関くぐって即セックスか、と思われたが今、何故か発泡酒を飲んでいる。お互いシャワーを浴びたというのにだ。丸川の部屋着を借りてスポーツニュースを観ている。
 丸川は肩が触れ合うくらいの近さに座り、カップルくさい距離感とは言える。しかしこんな、カップルなのか、俺たちは。よく分からない。心臓が痛い。落ち着かない。
「なんか緊張してる?」
「えっと、あー、うん。なんか、近いなって」
「いや?」
「じゃないけど、なんか、なんだろ、なんか」
「なんだろ?」
「う、あの、えっと、あのー、丸川さ、俺のこと、なんていうか、なんて言えばいいんだろ、あのー、す、あ、どう? どう思ってるのかなって、思って、なんか、なんだろ」
「好きだよ」
「えっ! えっと、それってさ、それってあの、どういう……、え? どういうあれなんだろう。あの、俺嫌われてる気がしてたっていうか、なんか、こういうことがあったから、あれなのかなって。なんかなに言ってるか分かんないけど」
「逆に訊くけど大高は俺のことどう思ってるの?」
「えっ! ええっと、……分かんない」
「好きみたいだけど」
「えっ! そうかな?」
「好きだと思うよ」
「そうかなぁ」
 落ち着かない気持ちを吐き出してみればわけの分からない質問になりよく分からない流れで俺が丸川のことが好きだということになった。実際自分ではよく分からない。好きなのか? しかし丸川的には俺は丸川のことが好きだというのだからそうなのかもしれない。
「俺別に大高のこと嫌いになったことないけど、俺の方こそ嫌われてんのかなって思ってたから」
「ええっ! あっ! 苦手だった」
「そんな感じした。避けられてたし」
「なんか怖いし」
「そんなことないだろ」
 今でこそ怖くはないが仕事の場で同期となると丸川の足の速さと俺の足の速さは違いすぎて置いてかれるし軽蔑されてるような気がしていたが。
「それまで避けられてたのにいきなり神様がどうとか言われて、そういえば避けてるわりによくこっち見てたなとか、もしかして俺のこと好きで避けてたのかなって、まあ勘違いだったんだけど」
「そう! 勘違い!」
「でも俺のこと好きだろ」
「えっ!」
「なんかそういう顔してんだよな。勘違いかな?」
「いやぁ……、わっかんないです」
 丸川は真面目な顔をしてまばたきなんかをしていて、真面目に話すことなのか分からないが俺もつられてまばたきをして、あって思う間もなく顔が近付いて、唇が触れ合うとなんだか動けなくなった。
「……いや?」
「べ……、つに、嫌じゃないけど」
 なんでかな、とか。分かんないけど、耳が熱くなってるのは分かる。
「そういうとこすごいツボなんだよな」
「どっ、どういう……」
「照れまくって困ってるとこ」
「なにそれ」
「もっと困らせたいなって」
「……なにそれ」
「これってすごい告白じゃない?」
「えぇー、……えぇー、そうなのかな?」
「ドキドキしてる?」
「してるけど」
「俺もしてる。両想いじゃん」
「えぇー」
 そうなのか? 騙されてないか? 丸め込まれてないか? だけどバカみたいに心臓が鳴ってるのは間違いない。ならば両想いということか。えぇー。釈然としないが、そうなのか?
 などと思ってる間にシャツの中に丸川の手が入り込む。背中を直に触られる。待て待て、ここでしたら色々痛いだろ。
「ベッド行きたい……」
「行こうか」
 丸川は半端ない笑顔で言う。違うから。誘ってないから。そういうんじゃないから。なんで言わされたのに俺が誘ったみたいになってんだよ。これがテクか。恐ろしい。
 ベッドに座ると丸川は速攻服を脱いだ。俺も慌てて服を脱ぐ。なんだ、大丈夫か。当初の目的を見失ってないか。俺は丸川のことが好きなのか? わけが分からん。うちに、また丸川にキスされる。今度は唇を舐められて、反射で薄く口を開く。ベロが入ってくる。口の中やらしい。ぬるぬるしてぞくぞくする。
 いやらしい雰囲気が高まっていく中で、丸川の手が裸の上半身に触れる。そういう触り方をしているんだって分かっているのにくすぐったくて、丸川が触ったところ全部、皮膚の神経が剥き出しになったみたいにざわざわする。
 キスしながら布団に寝かされて、見下ろされるの嫌だと思って目を閉じると余計口の中がやらしくなった。息苦しいから必死で呼吸すると恥ずかしい感じになる。
「んっ! んんっ」
 喉の奥が鳴る。丸川が乳首を触るからだ。乳首なんか触る必要ないし、意味ないし恥ずかしいしやだし、やだって丸川の肩を押すと口が離れた。
「乳首、意味ないからやらなくていいし……」
「なんで? 意味はあるだろ」
「えっ、あるのかなぁ」
「あるだろ、めっちゃ立ってるし」
「えぇ……、でもさぁ」
「やだ?」
「っていうか、なんか、分かんないし」
「恥ずかしい?」
「はっ、ずかしいっていうか、なんか、なんだろ、必要ないし」
「あるある」
「えぇ……、わ! えっ、あっ」
 丸川の口が乳首にひっついてちゅうって吸った。いや、いや、これは、ぞわって、なんか、やだっていうか、なんか、なんだこれ。
 舐められたり噛まれたりしていくうちに右の乳首がぬるぬるにエロい感じになっていく。指でいじられる左の乳首が触られすぎて皮膚が薄くなった気がする。
 あんまりやだとか言っても悪い気がして、正直段々気持ちよくなってきたのもあって口を開くと変な声が出そうで黙っていた。黙っていても普通に息ができないからいやらしい感じになってしまう。
 てのひらで口を覆っても下半身まで届きそうな刺激が来ると身体が震えて、そうすると丸川は気持ちよくしたり気持ちいいところ避けたりいきなり腹撫でたり面白がってやってくる。
 丸川ばっかり余裕みたいでやだと思って俺も触ろうって思うのに、乳首触ってもふはって笑って余裕みたいで腹が立つから脇腹をこちょぐると邪魔そげに俺の手をかわす。
「余裕?」
「ないっ!」
「だよな」
 丸川の視線につられて己の下半身へ目をやれば完全に立っている。上半身しか触られてないのに恥ずかしい。
「乳首意味あったじゃん」
 ぐうの音も出ない。丸川の指がヘソを辿ってズボンのゴムに掛かる。人差し指がゴムに掛かったままじわじわと下へ降りる。
「ちょっ、じわじわやんなよ」
 そのままいったら絶対引っかかるじゃん。引っかかったらなんかバカみたいじゃん。自分でズボンとパンツを脱ぐが、丸川はそれを見ているだけだった。おのずとちんこを隠しがちになる。
「脱いでよ」
 俺だけ脱いでるとか、ちんこ立ってるし嫌なんだけど、丸川は動かない。
「恥ずかしい」
「絶対嘘じゃん! もーなんなんだよ」
「うそうそ、ごめんね」
 笑って丸川は俺の頬にキスをする。なんなんだよそれは。頭を撫でてくる。だからなんなんだよそれは! ちょっと変な気分になってくるだろ。やだ。
 またキスされて、絶対誤魔化されてるんだって分かってるのに段々余裕がなくなってくる。裸の腿に触れられるとくすぐったくて息が詰まる。ちんこ扱きたい。けど、丸川が見てる前で扱けない。触らないならやめてほしい。手を押しのけてもまたすぐに産毛を撫でるような不確かな触り方をする。ずっとこんなのが続いたら頭おかしくなりそう。
「……お願い」
「うん?」
「お願いだから、あの、あの、ちゃんと、ちゃんとっていうか、あの、ちんことか、あの、触ってほしい、んだけど……」
 やばい。恥ずかしくて涙出そう。黙って自分でやればよかった。言うんじゃなかった。
「ごめんね」
「えっ、あっ、……んんっ!」
 いきなりちんこを扱かれてでかい声が出そうになって咄嗟に口を噤む。
「声我慢しないでいいよ」
 やだ。絶対やだ。敏感に尖っていた性器はてのひら一杯に擦られるとすぐに限界に達し、あっという間に精を放った。早い。早すぎる。
「気持ちよかった?」
「あっ、はい……」
 なんなんだこの会話は。というかなんで、出したのにまだしたいなんて思ってんだろう。
「こっちもいい?」
「うん……」
 丸川の指がアナルに触れる。というかそもそもそっちが本題だったはずだ。恥ずかしさを押しのけて脚を開く。
「腫れてるね」
「あの、自主練してたから、かな……?」
「今日は止めとく?」
「えっ!」
 それじゃあなんのために自主練したか分からないではないか。ていうか、だって、それじゃあ、なんでこんな、あっ、そうか、好きだから? えっ、だって、神様のやつ、えっ、なんだろう、だって、やんないとか、考えてなかった。
「……悩ませちゃった?」
「えっ! あっ! あの、あんまり練習上手くいかなくて、それで腫れたのかもしれないけど、平気っていうか、大丈夫だし、あの、大丈夫……」
「どんな練習したの?」
「えっ……、あの、指……とか、張型? とか……」
「えっ、そこまでしたの?」
「えっ!」
「いや……、いや、あのー、うん。頑張ったな」
「え……? あ、うっ……」
 そこまでしなくて良かったのかよ。そこまでしなくて良かったのかよ。言えよ。先に言えよ。そこまでしちゃったじゃんか。なんだよ。なんだよ、なんか。やばい。恥ずかしすぎて泣きそう。
 丸川の手が髪を梳く。こめかみのあたりにキスされる。なんだよそれ。誤魔化してるじゃん。慰めてんじゃん。俺はどういう風に応えたら誤魔化されて慰められるんだろう。分からなくて言葉が喉の奥に詰まる。
「……あんまり上手くいかなかった?」
「うん……」
「じゃあ、ゆっくりやろうな」
「うん……」
 結局やるのかよ。そう思うけど、丸川の肌の温度とか、女の子に触るみたいに触られると変な気分が高まってくる。
 ローションで濡れた指がアナルに触れる。触られるとそこが腫れて熱を持ってるんだろうな、となんとなく分かる。薬を塗り込むみたいに周りをぬるぬる指がなぞる。別にすぐ入れていいのに。ひんやりとしたローションが体温にとろけていく。大丈夫、と丸川の腕に触れるとかすかに笑った。エロい。
「あっ……、あ、あ」
「中、熱いな」
 指が入ってくる。訓練の成果かぬるりと中まで入ってくる。自分の指と違う硬さと長さの指が中を出たり入ったりする。くすぐられぞわぞわ起きる内側の性感に吐く息が熱くなる。
「あっ! はっ! んんっ」
 連日いじり倒していたせいなのか指で前立腺を押し上げられると反射的に背中がしなった。それでも断続的に与えられる快感は逃しきれず、擦られるそこはどんどん神経が剥き出しになっていくようだった。変な声が出そうで両手で口を覆っても喉の奥で快感が鳴っている。
 指が二本になって、ピストンするみたいに出入りしながら前立腺を擦られる。太ももが震えてくる。ちんこ擦りたい。擦ってほしい。中ざわざわする。もっと強くされたら。もっと熱く擦り上げられたら。俺はもう知っている。丸川がどんな風に息を詰めるか。
「まっ、そこ、違っ! あっ、あっ」
 丸川の指が乳首を摘まむから咄嗟にその手を掴む。けれど丸川はお構いなしに乳首もする。中も乳首も両方されるとわけが分からなくなる。放っておかれたちんこが痛いくらい脈打っている。
 キスされて、舌がぬるってきて、一遍に色々されるともう分かんない。早く。早く解放されたい。筋肉もバカになってる。意味分かんない。震えてる。
「も、いれていい?」
「いいっ、いいっ、いれて、擦って……、あっ! ああっ!」
 丸川の指が太ももに食い込んで、アナルに熱いのがあたったと思ったら一気にきた。訓練の成果だ。押し広げられる痛みはあるが、ずぶずぶ入ってくる。
 熱い肉傘がゆっくり粘膜を擦って奥へ進む。丸川の呼吸が耳元をくすぐって、それすら気持ちいい。無意識に引けた腰を追いかけるみたいに進む。丸川が動くたび中でぞくぞくした快感が走った。もっと強くされたら俺おかしくなるかもしれない。
「すごいうねってる」
「あっ、きもちい、気持ちいい、から」
「やらし」
「あっあっあっ」
 ゆっくり始まったピストンが徐々に速くなっていく。中の性感帯は破裂寸前の風船みたいに張りつめている。破裂したい。破裂したい。なんで。もっと。分かんない。頂点に駆け上ってピークアウトしない快感に震えてくる。丸川がエロい顔してる。いきたい。いきたい。
「だめっ、だめ、ちんこしたらいっちゃう、出ちゃう」
「いけよ」
「まって、だめ、あっ!」
「んっ」
 丸川の手に擦られてちんこはすぐに爆発した。射精の緊張に力が入った中で丸川のも跳ねる。
 精子を出しきって乱れた呼吸が落ち着くのを待つ。丸川が頬や唇にキスしてくる。短距離走りきった気分。なんか笑っちゃう。そうすると丸川はデコにもまぶたにもキスしてくる。なんか甘ったるい感じにふわふわする。
 いや、ダメだろ。
 なんかいい感じな気がするけどドライじゃない。普通にすげぇ気持ちいセックスだった。ちんこ扱かれたし。単なるこっ、こいびと同士みたいな、やつだった。みたいなっていうか、みたいな? 恋人なのか、最早。最早恋人なのか、俺たちは。
「あの……」
「うん?」
「神様のやつ……」
「ああ、そっか。そうだった」
 忘れてんじゃねーか。やっぱりな。ダメなんだこれじゃあ。
 じゃあ、どうするって。言わないと。ダメだけど。恥ずかしいけど。やばいけど。言わないと。
「あの……、もう一回……」
「大丈夫?」
「うん……、平気だし」
 じゃあ、ってんでもう一回した。ていうか何回かした。回数は忘れた。気付いたら寝てた。
 いつの間にかいた見覚えのある夢空間にアナルセックスの神が現れる。貴様。今回ダイレクトに丸川のところに行きやがって!
「まあ、なんじゃ……、とりあえずはお疲れ様でした」
 慰労だと! どうした突然。口調も変わっているのではないか。
「お約束通り大高はドライオーガズムに至りました」
 丸川! 何故ここにいる。というか同じ夢を見ているのか、俺たちは。なんかロマンチックなことがこんなわけの分からないことで起こっているのか。
「それなんじゃが、射精しておったよね?」
「いえ、合間に何回かドライでいってます」
 な、と同意を促されなにも考えず俺は頷いた。
「いや、しかしかなり微妙なところなんじゃが……」
「間違いありません! 大高はドライでいっていました!」
「確かにドライでいきました!」
「まあ、なんじゃ……、今回は大目に見るとして、今後もよく励むのじゃぞ」
「はい!」
 そうして帰っていったアナルセックスの神の背中はどことなく寂しげに見えた。丸川に自分のキャラが通じなかったのが余程ショックだったのだろう。
 朝、俺と丸川は同時に目覚めた。裸のままで素肌が触れ合うとくすぐったい。
「とりあえず、よかったな」
「うん」
 目が合ってすぐ神様の指令が済んだことを確認しあった。なんとなくキスした。カーテンの隙間から朝日が差し込む寝室でなんとなく身体に触れあいながら、爛れた休日が始まったのである。




(14.5.19)
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