ある日夢の中に言葉を話すパンダが現れた。こんにちは、というパンダにこんにちはと返す。なんてファンシーな夢だろう。そう思ったのも束の間、パンダは言った。
「折角だから丸川と40回キスをなさい」
「折角とは……?」
「折角だから」
「いや、……ていうか貴様も例の一味か!」
「ふぉっふぉっふぉ、神は万物に宿るのじゃ!」
やはりそうなのか、最早七福神のような外見というフォーマットすら崩してくるのか。可愛い外見をして俺に強いてくるタイプの一人なのか。しかし今までの無茶ぶりに比べればたやすいものだ。
「して、期間は?」
「明日中じゃ!」
「短っ! てか急っ! 急すぎるそれはいくらなんでも! 明日は仕事なんですけど!」
「オフィスでキッスせい!」
「無理! ていうかマジ無理!」
「オフィスラブ!」
「うっさい聞け! 人の話を!」
「明日中に丸川と40回ディープキスをしなければおぬしの局部にカビが生える!」
「ちょっ、マジ無理!」
ディープキス40回とかマジ無理っていうか局部にカビとか本気で無理! 勘弁して! と、交渉を持ち掛けようとしたら朝。もう慣れたものだぜ、このパターン。
早速俺は丸川に相談した。始業前から相談があると便所に連れ込んだのだ。
「今度はなに? コスプレとか?」
「今日中に40回キスです」
「なんだ」
「ディープキス40回です」
「まあ、できるでしょ」
「本気で言ってんの?」
「夜空けるし。お前も空いてんだろ」
「空いてるけども」
「じゃあとりあえず一回な」
「えっ、あっ……んっ、ふ」
急に腰を抱き寄せられたと思ったら丸川の舌が唇を舐めて口の中にぬるっと入ってきた。マジかよ、とか朝っぱらから、とかここ個室じゃないのに、とか思ったのは最初だけで丸川の舌が気持ちいいところをガンガン責めてくるせいで下半身にじわっと降りる熱をどうにかごまかそうと、しないと、と思いつつどうにもならん気持ちいいヤバい。
「待っ、……ふぁっ、んっ、あっ、待っ……」
どれだけ時間が経ったのか。一瞬だったのか数分だったのか。唇が離れた時には軽く息が乱れていたし目からは涙が出そうだったし若干勃起していた。
「一回が本気すぎる」
「ちゃんとしないでカウント無効になるの嫌じゃん」
「確かに……。ていうか夜やるんじゃなかったの?」
「予定は未定っていうだろ。どうなるか分かんないんだから前倒しにしていくべきだろ」
「確かに……?」
そうなのかもしれないが、それにしたってほんの一瞬二人きりになった隙に本気でベロを入れられ続けたら口の中が変になるというもので、仕事中、自分の舌が口内を掠めるのにすら変な気がしてムズムズして治まらない。
それ以上は無理だというところまで快感は迫ってくるのにもっと欲しいと思うと離れていく。丸川を見るたびに変な期待が募って、中途半端に行き過ぎた気持ちよさが与えられる。もう帰りたい。こんなの本気でダメすぎる。
昼休み、例の便所の個室で引っ付きあってキスしまくった。丸川の手が首や背中や腰に触れるとそれだけで皮膚がその気になって、でも縋り付いても丸川はそれ以上してくれない。舌で掻き回される口の中は自分の知らない器官になってしまったように気持ちよさで一杯になる。
「んっ、あっ!」
無意識に擦り付けた股間を丸川は太ももで押し返してくる。
「やらしい顔してる」
「だって……」
しょうがないじゃん。そういうキスするからじゃん。やらしい触り方するからじゃん。ていうか前戯じゃんこれ。そんな風にされたら身体はその先を欲しがって、内側をかき回されるのを期待してしまう。
「抜いとく?」
「うっ……、ううっ……」
俺の膨らんだ股間を撫でながらイケボで問うてくる。なにいい声出してんだよバカ。エロ。会社だぞここは。
結局俺は昼休み、会社の便所でパンツを脱いだ。
ヤバいって分かってるのに抗いがたい誘惑に流されてしまった。
丸川のでかい手に擦られて俺のものはすぐにギンギンになった。丸川のものも俺の手の中でぐんぐん育っていく。引けた腰を押し戻すように丸川の手がケツを押さえつける。
二つのちんこの先が触れ合って、あからさまに俺の先から先走りが漏れた。だってこんなのやらしい。
丸川が腰を揺すって俺のに擦りつけてくる。ヤバいって。会社なんだって。別にいいか。いやよくねーよ。
唇が合わさる。舌と舌も擦り合わせて、頭がおかしくなりそうだ。促されるまま丸川のちんこも握る。丸川の手がケツの狭間を割り開く。
「んんっ、ちょっ、むり、そこ」
「指だけ」
耳元でイケボを出してくる。やめろばか。
「あっ、むっ……、んうっ……!」
また唇を塞がれて指がぬるっと入ってくる。指だけ入れてなにが楽しいんだよ。と、思うが、ちょっとのっぴきならない。
浅いところを擦られて仰け反った胸に丸川の空いた片手が触れる。ワイシャツ越しに浮いた乳首を擦られるとそれもヤバくて、身体が震えてくる。
いく、出る、ヤバい、もう。自然と自分を追い上げるように握った手の上下運動が早まる。丸川のものもドクドクしてる。丸川の指が前立腺を押し上げて、舌を甘噛みされて、咄嗟に空いた手で先を覆って射精した。
唇が離れるとぬるついた唾液が糸を引いた。エロい。
「俺もいかせて?」
エロいわ、こいつ。なんなんだよ。なんなんだよばか。
結局丸川がいくまで俺は丸川のものをしごき続け、その間指は入ったままだった。
中途半端に熱がくすぶるままズボンを履いて、丸川の携帯用ファブリーズを股間にシュッシュされた。
フローラルな香りをまとい午後の仕事に戻ったがそれどころではない。涼しい顔をして仕事をこなす丸川はやはり化け物なのか。すげぇな、と改めて丸川を見直した。
終業後、俺らは何食わぬ顔で夕飯を済ませ丸川の家へ向かった。玄関開けて2秒でセックスとは現実に起こりうることだったのか。扉が閉まりきる前からキスをしてベルトに手をかけた。
とにかくなんだかわからんがキスをしまくった。激しいのからゆっくりなのも。唇がほてり舌の付け根が痛むほどキスをしまくった。
「今、何回?」
ひとしきり熱を開放しきったまどろみの中、丸川が訊く。
「えっ……わかんない」
「数えとけよ」
笑いながら丸川は俺の顎を上向けるとまたキスをする。舌と舌を擦り合わせる穏やかなキスだった。
いつの間にか眠っていたのか目の前に喋るパンダが現れる。ノルマが達成できたのかどうか、俺の局部にカビが生えるのかどうか、もうどうでもいいほど丸川とキスしまくった一日が濃密すぎた。
「ありがとうございます……」
「えっ……?」
なぜ感謝するのだ。新手のなにかかこれは。
「私たちも40回と言わずもっともっと回を重ねていこうと思います……」
「なんの話? えっ、ていうか大丈夫なの?」
「それはもう! 私たちも見習わなくっちゃ!」
結局何回丸川とキスしたのかは知らないが大丈夫らしい。
礼儀正しい喋るパンダはその後感謝の舞を踊り天へ昇って行った。
朝、目覚めると丸川がいて、大丈夫だったと報告をした。お互い地味に痛む唇にリップクリームを塗ってシャワーを浴びて出社した。そういう怒涛の一日の話でした。