オフィス・ショー


「おまえら、もう帰ってもいいぞ」
 オフィスには自分を含めもう三人だけになった。社内に残ってる人間も他にはないだろう。警備員が巡回に来て、帰るときに声をかけて下さいと言って去った。目処が立ったことだし、若い二人を残しておくのも忍びない。
「最後までやらせて下さい」
 そう言って橋本は笑い、吉井もそうですよ、と相槌を打った。
「課長こそ奥さんが待ってるんじゃないんですか」
「生意気言うんじゃないよ」
 笑いながら、この後のことを想像もしていなかったのだ。

 すべての仕事が片付いて、首を回しながら互いに労い合う。良い上司と良い部下の典型的な会話であった。
「課長、ちょっと付き合ってもらえますか」
 橋本が笑いながらデスクに寄ってくる。なんだ、と気安く答えるが、何か、様子のおかしさを感じていた。脇から吉井が迫って来る。何か、おかしい。
 橋本が何か合図して、吉井に羽交い絞めにされる。咄嗟のことで抵抗するが、若い体力は力尽くで私の身体を押さえ込む。
「なっ! なんなんだおまえらっ!」
「ちょっと付き合って下さいよ……俺らもう限界なんですよ」
 反転する視界がぐるりと――。


 ネクタイで両手を括られる。ワイシャツを肌蹴られ、吉井の指先が胸の上を探る。股座に顔を埋めた橋本が扇情的に性器に舌を這わす。嫌だ。舌先を尖らせて追い上げるように裏筋をなぞっていく。ザワザワする。妻にもそんなことはさせたことがなかった。
「うぁ……!」
 下半身に意識をやれば乳首をきつく摘まれ痛みに震えた。
「課長エロいっすね……めちゃくちゃ感じてるじゃないですか」
 吉井が耳元で笑う。憎しみと羞恥心が燃え立った。静止や抗議はすべて色に滲み甘く誘っているようだった。
「あっ! ああぁっ……」
 きつく吸い上げられ、橋本の口内に精を放つ。橋本はいやらしい笑みを浮かべ私の後腔へ指を差し込む。
「いっ…やめろ! 頼むから……」
「今更なに言ってんですか。あんたヤられて喜んでんでしょ?」
 四つん這いの姿勢を取らされて橋本が舌を這わせながら指を差し込んでくる。気持ちの悪い感触に身体が震えた。 橋本の指が音を立てて動かされる。一瞬、何か信じられないような感覚が腰を貫いた。
「あっ! ヤッ…やめろ!」
「ココが良いんですか?」
 橋本の指先がそこをしつこく嬲ってくる。拒絶の言葉が誘うように震えて意味をなさない。吉井が歯を立てるなと言いながら口淫を強要する。痛みと苦しみと言いようもない快楽が襲う。こんな状況で感じている自分が信じられなかった。
 柔らかい舌の感覚と切り開いていく指先の強靭さを粘膜に感じる。吉井の昂りに口を塞がれ鼻で息をするが苦しい。
「んんっ! ふっ……」
 喉の奥を擦られ内壁を擦られ、私の意識は朦朧としていく。口内で吉井のものはどんどん張り詰めていく。激しく腰を遣われ頭が痛い。
「っ…! 課長、出しますよ」
 意識が追いつく前に吉井の精が顔面に浴びせかけられた。顎を伝う液体の感覚に絶望した。
「ははっ…ちょーエロい」
 吉井は笑いながらデジカメのシャッターを押した。
「吉井、和姦ぽく写真撮っとけよ」
「解ってますって」
 二人の笑い声に怒りを燃やしながら、私は後腔を犯す三本の指に言葉を失っていた。口から零れるのはあられもない呼吸と言葉にならない声だけであった。
「良さそうですね、課長」
 フラッシュと一緒に声がする。苦しい。早く放ちたい。私は恥ずかしげもなくまた猛っていた。橋本はそれを知ってて触ろうとしない。ただ己が突き立てるために解していく。
「はぁ…あっ…、もっ止め……」
 橋本が笑ったような気がした。背後から、熱い昂りが入り込んでくる。痛い苦しい入るはずがない。橋本が後ろに身体を引っ張るので橋本の上に座るようなことになり、一気に深く貫かれた。
「あああっ! いぁ…!」
 悲鳴と一緒に涙が溢れた。背中に橋本の体温を感じる。フラッシュがまた炊かれる。ああ、こんなあられもない姿が残されてしまった。その後悔よりも、痛みと熱を解放させる術を考える。橋本は下から腰を突き上げてくる。頼りないような、もっと酷くして欲しい。
「課長……動いて」
 橋本の声が耳をくすぐる。私は拘束された両の手で己を慰めながら腰を動かした。手淫を覚えた猿のようにはしたない行為だと思いながら。
 何度も繋がる姿勢を変えて刺されながら、精を放つ。橋本が果てた後は吉井が、吉井が果てたら橋本が。一体どれほどの時間が経ったのだろう。
 何度となくフラッシュが眼前を照らした。どちらにしろ私に明るい未来はないだろう。解っていた。しかし目前の熱から逃げるには恥もなく馬鹿のよに腰を振るしかなかった。
 一体どれほどの時間が経ったのか。窓から冷たい空気が伝わってくる。
 解放されたときには二人とも笑っていて、濡らしたタオルで身体を拭われながらボンヤリと私も笑う。
 すべてがどうでもいいような気がした。
「言わなくても解ってますよね」
 橋本が悪人のような口振りで言う。解っている。
「いくら必要なの?」
 二人は顔を見合わせて笑うと、違いますよと言った。
「僕らの恋人になって下さいよ」
 私の口から白々しいような笑いが溢れた。
「君ら恋人を二人で共有するの?」
「奴隷になれって言った方が良かったですか?」
 どうでもいい。どっちでも同じことだ。
 きちんと背広を着せられて、タクシーに乗せられる。二人はもう部下の顔をしている。お疲れ様でしたって、それはどういう冗談なんだ?
「良い部下ですね」
 挨拶がきちんとしてる、と言ってタクシーの運転手が笑った。なかなか難しいものですけどね、と笑って返した。
 白々しい。嘘に乗っかっていれば私の人生は安泰なのか。若い部下の奴隷になっても、人から羨まれる上司でいられるのか。
 窓に頭を預け、私は眠ったふりをする。いつまで続くか知れぬ地獄を思いながら。



(05.5.17)
置場