シシカバブー(ちょん切りたい)


 邪魔なものがくっついたこの身体ではそもそも話にならない、というわけで、じゃあ切ってきたら良いのか、と。俺が死ぬまで付き合ってくれんの? っつうわけで、それとこれとは話が違う? おっぱいないじゃん? じゃあ切って付けてをしてきたら良いのか。それだけで愛せるのか。そんなことだけで恋愛の対象になれるのか俺は。
 ふざけんじゃねぇよ。

「別にさ、オレとか関係なくても良いんじゃん?」
 女になりたいんでしょ? って馬鹿野郎ふざけんなおまえなんか。俺がインポじゃなかったら生掘り種付けノンケ調教だバカ犯しまくりだご乱交だ仮面舞踏会だバカヤロウ。しねーよそんなこと。もうチュッチュしたい。イチャイチャしたい。ギュってしたいしされたい。ああ、ああ、もう、なんだかなあ。バカみたい。
 いらないのに付いてるし。いらないけど取っちゃいたいわけじゃない。使えないけど、だからって棄てたいとも思わない。「チンコ嫌ーいキモーイ」とか、言うな。おまえの冗談が時々ものすごく後に残る。女じゃなきゃダメなのか。身体を改造しなけりゃ俺の本気は分かってもらえないのか。「ホモって都市伝説でしょ?」馬鹿にして笑ったくせに。目には好奇心がギラギラ光っていた。告白したその日に、ふられてんのにフェラした俺も俺でどうなんだって思うけどだって、気持ちよければ恋人になれんのかなってちょっと期待しちゃったから仕方ないっちゃ仕方ない。でも別に恋人にはなれなかった。デリヘル俺と化したのみ。電話一本ですぐに駆けつけ口と手で頑張ります! しかも無料です! ってふざけんなよ。
「オレのどこが好き?」
 自信に満ちた顔。目って言われたいんだろ。歴代彼女みんなが言ったチャームポイントだもんな。誰が言うか。
「顔と身体、のみ」
「のみ? ヒデー性格は?」
「性格良いつもりなんだ」
「オレ超性格良いよー」
「俺性格で人好きになったことない」
「なにそれ心の闇?」
「闇? とかってさ、性格悪いヤツが言うよな」
「性格悪いから言うんじゃない?」
「そっかあ」
「じゃあさ、オレの身体でどこが好き?」
「チンコ」
「あーホモだもんねぇ」
「ねー」
 心なんてめんどくせぇよ。今だって、今すぐに、心棄てたい。血の通った肉の感触を舌の先で辿る。唇、歯の先、頬の裏、喉の奥、口でできること全部をやって、俺の得になることなんてひとつもないのに。いやらしい息遣いをして頭を抱えられると少しでも愛情を持たれているのかと錯覚してしまう。これはセックスじゃない。そういう風に思っているから、こんなに簡単に咥えさせるのだ。俺が奉仕に順当な地位を主張したところであの堂々巡り。女じゃないじゃん、で、終わり。ああ、そうね、で、終わり。俺はまったく意味が分からない。この男の俺に同情も共感も示さない、少しの憐れみもみせない頭の悪さが愛しい。自分勝手に酷いことを言う。回りくどく善人ぶって取り繕うよりよほど良い。この最低な男にまったくないものとされる俺の感情は、俺が望む在り方に恐らく近い。
 感情なんかなくていい。呼ばれていって咥えて出させて終わり。じゃあね。またね。それでいい。それでいいのになんで、胸が苦しい。
 ちょん切ったら好きになってもらえるの? 同情してもらえるの? この気持ちに共感してくれるの? 抱きしめてくれるの? セックスしてくれるの? 愛してくれるの? ないくせに、適当なことばかり言う。寂しくて、寂しくて、埋まらない。チンコ咥えただけで俺は逃げられないほど寂しさを感ずるようになった。バカだバカだと思ってはいたが重症だ。重篤のバカだ。喉の奥に精液。涙出る。なんで、出した後に頭撫でるんだろう。
 生まれ方を間違えた、とは思わない。女で生まれてきたかった、なんて思ったこともない。だけどちょっとだけ、こんな風にされると思ってしまう。女だったら、もしかしたら、と。
 脚の間で項垂れて、頭上からの声はもうシラフ。もういいでしょ、だって。どいて、って。止めちゃえばいいのにこんな男。ね。本当に、そう思う。
 やらせてやってるんだって態度はきっと変わらないだろう。もう止めようと言ったところで別にいいけどってそれだけ。それだけで終わってしまう。俺の知らない女の上で腰を振るだけ。さっきまであんなによがっていたくせに。
 ちょん切っちゃいたい。このバカの人格がこれにしかないっていうなら。いっそのこと噛み切っちゃいたい。擦って舌で濡らしたらまたすぐにその気になって、先っぽいじくったら震えながら露を垂れる。なんだって良いんだろ本当は。俺はもうどうでもいいよ。
 これ以上はなくこれ以外は関係性の消滅しかないというなら、このまま飽きるまで続けていこう。どうせ切って棄てる度胸もないんだ。



(07.3.6)
置場