ノノちゃんはなんでも食べる



 幼気だったわたしにキラキラした世界を見せてくれた人は今やすっかり妖怪になってしまった。
「変なとこでメス入れるもんじゃないわよ、維持に掛かってしょうがない」
 出会った頃は本当に綺麗で憧れだったその人は今独立して小さなバーをやっている。
「お姐さんもう悪あがきするお歳じゃないんじゃなあい?」
「あんたもいずれこうなるのよ」
「やーん、怖ぁい」
 年齢を隠しきれない手で細い煙草を指に差す。わたしはその手が嫌いじゃなかった。在りし日の美しい顔は崩れ、人工的に作られたおっぱいだけは張り出したまま。工事しようか悩む若い子らに親身になって相談に乗っている。
 いつかわたしがもう少し目を大きくしたいと言ったとき、その目が美人度を上げているんだから止めときなさいと言われあっさり気が変わってしまった。可愛い系より美人系で、と路線を替えてから確かにモテ始めたので姐さんの見立てに間違いはなかったのだろう。
 お陰様でひっかけた男、ゆうじはわたしを女だと思っている。そんなバカな、と自分でも思うがそんなバカなことが起こり得たのだ。
 べろべろに酔ったゆうじにナンパされ、カミングアウトのタイミングを失ったまま「まあいいか」と何回か食事して今、ゆうじの部屋のソファに座り肩を抱かれつまらない映画を眺めている。
「のの子さんだったらうちの母も気に入るだろうな」
 外国人の男女のカップルの女の方と男の母親が不仲というようなシーンが流れる中ゆうじは言った。
「まあ、そうかしら?」
 そんなことあるわけないしおまえの母親のことなど知るか、と思ったがゆうじはいかに母親が気難しく、しかし理想的な母親で母の気に入る人なら間違いがないと信頼している旨を熱く語り始めた。
「……のの子さん、手が……!」
 手が、無意識にゆうじの股間にあった。
「いけない、わたしったら……!」
 しょうもない話にうんざりして無意識に股間に触れてしまっていた。一応これまでゆうじ好みの清純派を演じてきていたのだが、もうまどろっこしいしいいか、やってしまえ。いってしまえ。なんとかなるなる。
 キスをする。合間にゆうじの股間のファスナーを下ろし脈動と共に育ち始めたものに指を這わす。ゆうじの手もわたしの身体をまさぐり始めたがもう少し待とうか。もうちょっとなんでもいい雰囲気になるまで気持ちを高めていこうか。
 あたかも自然を装ってソファを降り、ゆうじの脚の間に座る。
「の、のの子さん……!」
「ダメ、ですか……?」
「いいと思います!」
 いいのかよ。いいならいいか。穴があったらなんでもいい状態までもっていこう。外見はゆうじのドンピシャなんだから多少おちんちんがついていてもいいか、というところまで持っていきたい。
パンツごとズボンを脱がし期待値マックスといった感じのゆうじのものに指を絡める。半端ない先走りにわたし結構完璧なんじゃない、と上の空に思う。
 濡れた先端にキスをすると更にじわりと湿りを帯びる。雫を舐めとって括れに舌を這わす。
「あっ、あっ、のの子さん、裏筋も……!」
 声を震わせつつしっかり要求してくる。ご要望通り裏筋を尖らせた舌で刺激する。舐めたり吸ったりしてるうち、ゆうじの脚が開いていく。結構欲しがるタイプか。太ももが快感にビクビク震えて正直だ。
 張りつめた玉に吸い付くとゆうじは一際高い声を上げた。
「あっ! そんなところ……」
 過去の女に玉を舐める女はいなかったのか。上目遣いでゆうじを見ると真っ赤な顔に涙を浮かべてありがとうございますと言う。そんなプレイなの?
 亀頭を指で撫で割れ目をくじり、玉を責める。素直な太ももが跳ねて、吐息は熱を孕んでいる。玉の下でひくついているアナルは唾液か先走りか汗か知らないが湿りを帯びて、多分こんなところで得る快感は知らないんだろうな、と思ったら舌を伸ばしていた。
「えっ! あっ、待って、そこ……!」
「おしり、気持ちいいですよ」
 片脚を持ち上げてまだ初心な硬い窄まりに舌を挿し込む。唾液を送るように少しずつ切り開いていく。指先で亀頭を責めるとキュンキュン締めてきて可愛い。
 ゆうじは完全にソファに身体を預け快感に身をのけぞらせている。
 緩んできたアナルに中指をゆっくり挿し込んで引き抜いた。ゆうじは特に抵抗もせず甘さを含んだ吐息を零しただけだった。なにされても気持ちいいって身体が覚えてしまったのかもしれない。
 舐めてほぐれたアナルは指の出し入れにチュクチュク音を立てて、もっと欲しがるみたいに吸いついてくる。前立腺を揉みほぐすとゆうじの身体が一際跳ねた。
「あっ! あっ! ダメ、ダメ……!」
「ダメじゃないでしょお」
 二本目の指も上手に飲み込んでもっとしてって欲しがっている。前立腺を可愛がっているとのけぞるゆうじのおへそが見えた。
「おっぱい見せて」
 言うとゆうじは戸惑ったように瞳を揺らして、それでもおずおずとシャツをたくし上げる。期待してるだけあって乳首は既に尖っていた。むかつくくらいピンク色をしている。
「舐めてくださいって言って」
「えっ……、あ」
「舐めてほしくない?」
「あっ……、舐めて……ほしいです」
「じゃあ言って」
「なっ……、舐めて、ください」
 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。今更じゃない? と思うけれど、素直なよい子にはご褒美って決まってる。
 ピンク色に尖った乳首に吸い付いて舌を絡める。コリコリした感触が舌に気持ちいい。馴染んできたアナルも一杯気持ちよくする。
「あっあっ、いく、いく……!」
「いいよ、いって」
 乳首に歯を立てて指三本で前立腺を押し上げる。ペニスも同時にきつく扱きあげればゆうじは高い声を放っていった。
 いや、いったらいかんだろう。なんか雰囲気でいかせてしまったがここで醒められたら困る。
 荒い息を吐いてソファに弛緩した肉体を投げ出したゆうじを眺め冷静に思う。奉仕しすぎた。まあ、まだいけるかな。一発で終了って歳でもないだろうし。むしろこれだけのご奉仕を受けてわたしが男ですっていって突き飛ばすほど非情な男じゃないだろうし、一発カムアウトして手コキまではいけるだろうか。手コキからのステップアップを望めるだろうか。
「ゆうじさん」
「あっ……」
「わたしも気持ちよくなっていいですか?」
 ゆうじの媚態に出来上がっていたペニスを萎えたゆうじのものに擦り付けるとそれは見る見る起き上がって、脚が更に開かれた。
「ゆっくり……入れてください」
「……」
「……」
「……あっ、はい」
 うん。うん? うん。
 あれ? なんか。はい。え?
 何故、彼は男性器に対する驚きや戸惑いがないのだろうか。ばれてたのかな。そんな感じでもなかったけど。まさか棒であったらなんでもいい状態になっているわけ?
 わたしの戸惑いはお構いなしにゆうじは物欲しそうな目でこちらを見ている。分かった。分かってる。入れる。入れればいいんでしょ。
「ああもう!」
 なんで!
 カマが!
 ノンケのケツ掘ってるんだって話よ!
「んっ、あっ、あっ、入ってくるぅ」
「入れろって言ったのあんたでしょうが!」
「あうっ……、ごめんなさい」
「いいわよ、もう!」
 半端ない締め付けに脂汗が浮かぶ。ゆうじも眉間に皺を寄せている。
「痛い? 抜こうか」
「あっ、ダメ……」
「ダメ?」
 咄嗟に出てしまった言葉なのかゆうじは頬を染めて目を逸らす。涙に潤んだ瞳は眼球移動だけで涙をこぼしそうだ。
「ゆっくりやろうね」
 汗で額に張り付く前髪を流してやると頬をほころばせる。可愛い顔。こんなはずじゃなかった、という釈然としなさは残るがここまできたら仕方ない。脚を抱え直すとそれだけの刺激にゆうじは小さく息を詰めた。
 唇にキスをして噛締めた奥歯をほどいていく。汗に湿る肌に指をてのひらを這わせていけば、ゆうじは夢見がちに目をとろけさせ色づいた溜息を零す。いいなってうらやましく思う気持ちは頭の片隅にあるけれど、ほんと今更。今更ひっくり返るわけがない。
「動くよ」
「ん、……あっ!」
 ゆっくり、深く入れすぎないように、ただひたすら気持ちいいだけになるように。このサービス精神がわたしの人生ダメにしてんだろうな。
「あっあっ、これっ、これぇ……」
「気持ちい?」
「いいっ、いいよぉ! あっ、そこっ」
「ここ?」
「ん、ああっ……、そこっ、そこぉっ」
 そこという場所を狙って腰を動かす。全然慣れない。しっくりこない。なのに挿し込んでいるペニスは肉壁に搾られて限界まで膨らんでいく。痛いほどきつい締め付けに皮膚が粟立つ。気持ちよさが汗になって浮かび上がってくるみたい。結局気持ちいいんだからどうしようもない。
「ちょっと速くするよ」
「んっ! してっ、してっ、もっと!」
「生意気言わないで」
「ひゃんっ、ごめ、ごめんなさい」
 乳首をつねると背をのけぞらせ中を締め付ける。お仕置きのつもりがわたしまで食らってたら意味がない。
 すぐいきそうなのを堪えて腰の動きを速くする。ゆうじの声がどんどん可愛くなっていく。ねだられるままキスをして、舌を絡め、息が苦しい。だけど、もっと深く繋がっていく。
「いくっ、いく、もうっ!」
「いいよ、いって」
「あっあっ、……んんっ!」
 先走りに濡れたゆうじのペニスを扱いてやれば中を激しく締め付け筋肉を痙攣させて精を放った。搾り取られるようにわたしもいった。
 放出の感覚に息を吐き、ぼんやりと明日の朝いつもより濃いヒゲが生えたらどうしようなんて思った。豆乳飲まないと。
「のの子さん……」
「なあに」
「名前、ほんとの名前、なんていうんですか」
「名前……?」
「だって、子じゃないでしょ」
「……秘密だよぉ」
「なんで」
「嫌いだから、名前」
「僕、はじめてだったんです」
「……ん、まあ、大体界隈の人じゃなければ男は初めてよ」
「誰ともしたことなかった」
「……そ、……そー、それは、うん、ごめん」
「あなたでよかった」
「それは……、よかった」
 うん。正直、今ゆうじを腕枕しているこの状況に不満しかないけれど。慣れないなりに満足していただけたならよかった。というか童貞と知ってなんでわたしが抱いたんだ、という不満がうしろめたさに塗りつぶされていく。どうにか恨まれずに事を収めたい。
「今度は、僕が……」
「えっ? あっ……!」
 ゆうじが覆いかぶさってくる。えっ、筆おろしさせていただけるの? やったー。もう抱かれない流れだと諦めきっていただけにこれは嬉しい誤算。思わず声が跳ねあがる。あん、ダメ! とか言っちゃう。

「あっ、あっ、奥、奥いい、いいよぉ!」
「くっ、ふ」
「気持ちい? ノノちゃんも、気持ちいい?」
「ん、いいよー」
 まさか騎乗位とはなー。乗っかってくるとはなー。
 たどたどしく腰を揺するゆうじは肌を汗に湿らせて征服される悦びに口元をほころばせている。
 緩やかな動きは自分が気持ちよくなるためだけのそれで、ゆうじの目にわたしが映っているのかも最早怪しく、それこそちんこであればなんでもいいんじゃないかという気さえする。
 中途半端に焦らされているような気がして腰を突き上げるとゆうじは小さな悲鳴を上げて喉を晒し中を締め付けた。
「もっと、速い方がいいんじゃない?」
「んんっ、だめ、だめっ、待って」
「だめぇ?」
「あっ、いいっ、奥っ、いいよぉ」
「いいのぉ?」
「いい、いいよぉ……」
 肘をついて上体を起こし対面座位に体勢を変えるとゆうじはしがみついて動物みたいに腰を擦り付けてくる。その動きに合わせて奥に奥に先端を挿し込んでいくとやがてゆうじは言葉もなくあーあーと押し出される声を涎と共に吐き出すだけになった。
 ぎゅうぎゅう締め付けてくる中を抉じ開けるように抜き差しを続けているとゆうじはビクビク身体を痙攣させ、その震えを押さえ込むようにわたしに抱きついてきた。
 あら、と思っていると腹に精が噴きかかる。ゆうじの身体からふっと力が抜けた。
「おしりでいったの?」
 問えばゆうじは乱れた呼吸を鎮めようと深く息をしながらごめんなさいと途切れ途切れに言った。
 謝ることでもないけれど、そっか。そっかぁ。充実してんじゃん。深い溜息が出る。ゆうじが不安そうに窺ってくる。別に怒っているわけではない。単純なうらやましさだ。そしてわたしなんでお尻にちんちん挿してるんだろうという原点回帰だ。
「ついでに潮でも噴いてみる?」
 折角だから徹底的にやってみるのもいいかもね。もうゆうじに男の子としておちんちんが使えるとは思えないし。
 抱き合っていた姿勢からゆうじを押し倒し正常位に移行しゆうじのアナルでちんちんを扱きつつ濡れたゆうじの亀頭を弄った。めちゃくちゃ弄った。中がきつく締まっても無理矢理抉った。やだとかやめてと言われても止めなかった。ゆうじの言葉が次第にただの声に変わっていった。きっと本人も気付かないくらいいってるんだろう。
 ゆうじの中に精を放って抜き出したときにはゆうじは身体を痙攣させながらマジ泣きして潮ではなくおしっこを漏らしていた。大惨事って感じ。
「ごめんね?」
 とりあえず謝った方がいいかなって。思って、声をかけてはみたがゆうじは上の空でボンヤリしている。
 申し訳なさから後始末をすべて済ませゆうじを風呂場に連れて行き身体を洗ってやる。
 シャワーの温かいお湯を浴びながら泡立てたボディーソープを肌に塗り広げていくと甘さを含んだ吐息をこぼしもたれかかってくる。
「ノノちゃん……」
「なあに?」
「一緒に暮らそ」
 掠れた声でゆうじは言った。見上げてくる目は優しさを帯びている。
「嫌です」
「なんで!」
「絶対イヤ! 絶対無理!」
「なんでなんで! おかしいじゃん!」
「おかしいことあるか! 性の不一致! 不可能!」
「一致してた! めちゃくちゃ一致してた!」
「たわけ! ちんぽに屈した男など願い下げじゃ!」

 色々あってゆうじとは別れました。
 別れましたが彼氏ができるまでは、という条件付きでセフレになることを強要されました。
「こんな身体にしたのノノちゃんじゃん!」
 そう言われてしまうとぐうの音も出ず、ただ責任という二文字のためにゆうじにおちんちんを挿しています。
 これではいけない、青髭が生えてくる。その危機感からタチ寄りのリバという男、けんたろうと付き合い始めました。いまではすっかりネコさんです。
「どうしてケンちゃんはいっつも一人で気持ちよくなっちゃうのぉ?」
「あっ、あっ、だって、ノノちゃんがぁ!」
「わたしのせい?」
「ノノちゃんがお尻気持ちよくするからぁ……!」
 アナル性感にはまってハメてハメて状態です。もう別れます。
「それってノノちゃんがお尻弄らなければいいだけのことじゃないの?」
 同居人のまりちゃんが缶チューハイ片手に言う。
「マグロ女と思われたくなくて……」
「せめて玉弄りまでじゃない?」
「他の女に差をつけたくて……」
「結果抱いて抱いてになるんでしょ? あっ! Sっ気強い男探せばいいんじゃない? 絶対アナルに触らせないような……」
「と、思うじゃん? S男寄ってこないしむしろ避けられんの! どうなってるわけ?」
「本能が察知するのかしら?」
「おかしい!」
「まあ、いいじゃん。男女のカップルでも女王様とブタで成り立ってるところだってあるわけだし」
「イヤ! 白馬の王子様とお姫様がいい!」
「ノノちゃんセックス止めたら?」
「わたしに死ねと言っているの?」
 呆れたようにまあ頑張ってとぞんざいに言ってまりちゃんはチューハイを呷る。自分は上手くいってるからって随分余裕だ。
 携帯にはゆうじとケンちゃんから抱いて抱いてメールが届いている。それはもう仕方ない。抱く。もうめちゃくちゃ抱く。
 けど、最近いい感じのこうすけくんには絶対抱かれてみせる。もう絶対同じ過ちは繰り返さない。
 固く決意しておでんのもち巾着にかぶりついた。お出汁が沁みだしておいしい。冬はやっぱりおでんだよねぇ。




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