記 憶


 あの夜は  おそらく  二人とも  酔っていたのだ ……



「マイク、雪だよ」
 窓際に立つカミューが夜空を見上げてつぶやいた。
 ベッドに座り、分厚い本を読んでいたマイクロトフが顔を上げる。
 窓の外、暗い闇の中を縫うように白い雪が降っていた。
「ああ…雪が降ってきたのか……」
 どうりで寒いはずだ、とマイクロトフが笑う。そんなマイクロトフにカミューは何かを思い出すかのように遠い目をして声をかける。
「ねぇマイク、あの夜も…こんな風に雪が降っていたな…」
「ん?」
 カミューがくすっと笑って、マイクロトフの元へと戻ってくる。
 何のことだ?
 マイクロトフはカミューが何のことを言っているのか分からず少し考え、そして、ある出来事が思い浮かびはっとした。
「カミュー……お前……覚えていたのか…」
 驚いたマイクロトフの声に、カミューはくすくすと笑いを洩らした。



 
 それは、例年にない寒波がマチルダを襲い、あっという間に街中が雪で覆われたある冬の日のことだった。深夜から降り始めた雪は止む気配を見せず、ひたすらに降り続けた。
 そして夜が明けると辺り一面真っ白で、ロックアックス城から眺める景色は、感動的と言えるほどに美しいものになっていた。
 こんな日に外出をする物好きがいるはずもなく、騎士たちは城内の一通りの除雪作業を終えると、突然与えられた休日を持て余すこととなった。
 すべての音を雪が吸い込んだかのような静かな一日。
 それでも各騎士団長はのんびりしているわけにもいかず、マイクロトフとカミューは溜まっていた事務処理に没頭した。しかし、それも3時頃にはすべて片付いてしまった。仕方なく自室へ戻ったものの、予定外の余った時間をどうしたものかと考え込んだ。
 そんな二人が考えることは同じだった。
 先に行動したのはカミューの方だった。手には秘蔵のワインを持ち、普段着に着替え、すっかり休日のくつろいだ表情でマイクロトフの部屋を訪れた。
「何だ、俺も今行こうと思っていたんだ」
 最愛の恋人の訪問を受けたマイクロトフが苦笑する。するりとマイクロトフの横を滑り込むようにして部屋に入ったカミューも軽く肩をすくめた。
「お互い、真っ先に思い浮かぶのお互いのことだけだなんて、まったく芸がないな」
「そうかもしれんな」
 寒がりなカミューのために暖炉の火を強くして、マイクロトフが柔らかな敷布の上に小さなテーブルを用意する。
「しかし昼間っから酒を飲むというのは自堕落の極みだな…」
「全員休日だ。やるべき仕事はすべて片付けた。そしてすることがない。多少の自堕落は許されると思うが?ま、酔わない程度に舐めることにしようじゃないか」
 カミューは用意された特等席で足を伸ばし、マイクロトフを手招く。やれやれと肩をすくめ、それでもそれ以上断るような無粋なことはせず、マイクロトフはカミュー向かい側に腰を下ろした。
「こんな風にお前と過ごせるなら、大雪も悪くない」
「カミュー、お前分かっているか?明日からは城下の除雪作業に借り出されるぞ。あれはなかなか重労働だ」
「分かってるよ、さっき通達を回したばかりだ。でも実際には身体を動かしてる騎士たちの方がずっとましさ。指揮をするだけのこっちの身にもなって欲しいよ。足元から冷えてくるし、かといって、火の側にばかりいるわけにもいかないし。何が嫌だって、指揮をするだけの雪かきほど嫌な作業はない」
「お前が雪かきをしたいと言っても、みんながさせやしないだろう」
 赤騎士団の連中はお前に甘いからな。とマイクロトフが揶揄する。
「確かにあの連中は私に過保護で困る。私だって騎士の頃は雪かきをしたものだ」
「そうだったな」
 見かけによらず、カミューは雪かきのような単純作業が得意のようで、黙々と作業を続けていたのを思い出してしまった。しかし飽きるのも早く、いつもマイクロトフの邪魔をしては叱られていた。カミューもそれを思い出したのかくすっと笑った。
「さ、飲もうじゃないか。秘蔵のワインだ。味わって飲めよ」
 カミューがグラスを掲げる。
 そうして二人だけの酒盛りが始まった。


「カミュー、風邪を引くからこっちへ来い」
 窓辺に佇み、飽きることなく降り続く雪を見つめるカミューにマイクロトフが声をかけた。
「よく降るなぁ、この分だと明日の朝まで降り続くんじゃないかな」
「カミュー」
 はいはい、と手にしたグラスのワインを飲み干し、カミューがマイクロトフの元へと戻ってくる。
 暖炉の前には空になったワインボトルが5本。
 舐めるだけにしよう、などと言ったくせに、カミューもマイクロトフも次々にグラスをあけ、気づくとすでに5本空けていた。そして今、マイクロトフは次の1本の栓を開けたところである。
 二人とも酒には底なしに強いが、さすがに5本も空けるとそろそろ思考もおかしくなってくる。マイクロトフは普段に比べて饒舌になっており、カミューはいつも以上に陽気になっていた。
「さ、カミュー、もう一戦だ」
「まだするのかい?もういいだろう?」
「まだ勝負はついていない。お前だって決着をつけないと終われないだろう?」
 負けず嫌いのカミューをからかってのマイクロトフの言葉。
 しかし、実際にはマイクロトフの方が勝負をつけたがっているのは明白だった。
 床に置かれたチェスの盤。
 ワイン片手に始めた久しぶりの勝負。4戦して二勝二敗。
 マイクロトフは5戦目の準備を始めている。
 カミューは腰を降ろすと、手を伸ばして開けられたばかりのワインをグラスに注いだ。
「ねぇ、マイク。次の勝負には何かを賭けようじゃないか」
「賭け?賭け事は騎士団の心得で禁止されている。忘れたのか?第15条第2項……」
「分かってるよ。そう固いことを言うんじゃないって。それに、別に金銭を賭けなければ問題はないだろう?たとえ、金銭であったとしても、お前と私の間で多少の金が動いたところで、何の問題があるって言うんだい?」
「まぁそれはそうだが」
「それに、何か賭けないと、もう楽しみがないよ。いいだろう?」
 にっこりとカミューが微笑む。その微笑にマイクロトフが逆らえるはずもなく。
「仕方がないな。だが、何を賭けるのだ?」
「そうだなぁ……」
 確かに金銭というのは情緒がない。
 カミューが持っていなくてマイクロトフが持っているもの。そして、カミューが欲しいと思っているもの。そんなものが何かあるだろうか?
 カミューはぼんやりと目の前のマイクロトフを見つめた。
 今さらマイクロトフから何を貰えばいいというのだ?
 すでにマイクロトフは自分のものだというのに。
 マイクロトフのすべては自分のもの……それは何て甘い響きだろう。
「確かに改めて聞かれるとすぐには思いつかないなぁ。ところで、マイクは何か欲しいものがあるかい?」
「俺?う〜む、そうだなぁ……」
 どこか虚ろな目で、マイクロトフは天井を見上げる。
 カミューはワイングラスに唇をつけたまま、マイクロトフの返事を待った。
 しばらくして、マイクロトフはじっとカミューを見つめたままつぶやいた。
「俺はお前が欲しい」
「………」
「お前が欲しい」
「でもマイク、私はもうお前のものだろう?」
 ひどいヤツだ。
 違うとでも思っていたのだろうか?
 アルコールが回ってきた頭でカミューは思う。
 私はお前のものではなかったのか、と。
「いや、違う…そうじゃなくて…」
 どうやらマイクロトフもそろそろアルコールが効き始めているようで、何度か軽く頭を振ると、少し考えたあとできっぱりと言った。
「お前は……そうだな、俺のものだ。俺のものだ……だが、カミュー。俺はお前以外に欲しいと思えるものがないんだ。だけど、もうお前は俺のもので……だから賭けは成り立たない。お前は何か欲しいものがあるのか?それを賭けることにしよう」
 なるほど。欲しいものはお互いともお互いだけとは。確かに賭けは成り立たない。
「じゃあ、マイク。とりあえず、勝ったらお互い欲しいものをあげる、ということにしようじゃないか」
「………」
「今すぐには思い浮かばなくても、何か欲しいものくらいあるだろう」
「………まぁ、そうだな」
 マイクロトフはいいだろう、とうなづいた。
 そして二人は再びチェスの駒を手にした。
 実際、どちらの方が強いかは分からない。戦い方が違うだけで、本当に五分五分だった。緻密に罠を張るカミューの作戦は、本能とも言えるマイクロトフの思いもかけない駒の動かし方に役に立たず、真正面から勝負を挑んでくるマイクロトフのやり方は、巧みなカミューの作戦に簡単に封じられてしまう。
 けれど、永遠に続くかのように思える勝負でも、いつか決着はつくものである。
「さ、マイク、これでチェックメイトだ」
 かつん、とカミューがナイトを置いた。
 しばらくそれを眺めていたマイクロトフはふぅっと大きく息をついた。
 どうやら負けてしまったらしい。負けるのは素直にくやしいが、だが、カミューとの勝負はいつも心地よい満足感を与えてくれる。
「まいった。見事な作戦だった」
 マイクロトフが両手を上げる。
 その様子にカミューは満足そうに微笑んだ。この勝負の間に最後のボトルはすっかり空になった。夜も更け、そしてまだ雪は降り続いている。
 カミューは立ち上がると、まだ名残惜しそうにチェス盤を眺めているマイクロトフに手を伸ばした。
「さ、マイク、勝った私にご褒美をもらおうか」
「ご褒美?ああ、賭けをしてたんだったな。いいだろう、何が欲しい?」
「お前だよ」
 カミューはにっこりと微笑んだ。
 


 薄暗い寝室は寒かった。
 窓際に寄せられたベッドに突き飛ばすようにしてマイクロトフを座らせる。弾んだスプリングに、マイクロトフが後ろ手をつき、カミューを見上げた。
「ずいぶん乱暴だな。酔ってるのか?」
「酔ってるよ。あれだけ飲んだんだ。さすがの私ももうまともじゃない」
 そうでなければとてもじゃないが、こんな気にはならない。
 カミューはマイクロトフの脚の間にその身を置くと、片膝を固い太腿の上に乗せた。
「カミュー?」
「さ、ご褒美のキスを貰おうか。上を向いて。目を閉じるんだ」
 カミューは両手でマイクロトフの頬を包み込むと、じっと黒い瞳を覗き込んだ。どこか怒っているようにも見えるその目が、ゆっくりと閉じられる。
 カミューは薄く唇を開くと、マイクロトフの唇を塞いだ。
 上唇を軽く自らの唇で食み、舌先で辿ってみる。少しかさついた唇を濡らし、そして口腔へと侵入する。探るように舌先を動かしてみると、迎えたマイクロトフの舌が絡みつき、きつく吸われた。しばらく睦みあうような戯れの口づけを楽しんだ。
 カミューは唇を離すと、ぺろりと唇を舐めた。
「どうだい?たまには襲われてみるのも悪くないだろう?」
「……悪くない。だが、これ以上襲われるのはごめんだな」
 どうせなら襲う方がいい。
 マイクロトフが微かに笑って、カミューの腰を引き寄せた。
「んっ……」
 いきなり深く唇を合わされ、乱暴なくらいに口腔内を探られた。
 逃げようとするカミューの舌を追いかけ、からめ、溢れ出した唾液を何度も飲み込んだ。柔らかい粘膜をくすぐられ、カミューはその心地よさに眩暈がしそうだった。
 熱く溶けそうなお互いの舌先を飽くことなく求め合った。いつもよりもずっと深くて長い口づけにカミューは我を忘れて夢中になった。
 ちゅっと音を立てて唇が離れる。唇の端から零れた唾液のあとを拭うようにして、マイクロトフがカミューの唇を舐めた。そのまま舌先は首筋を辿る。
 ごくっとカミューは喉を鳴らした。
「くすぐったい……」
 ゆっくりとマイクロトフの大きな掌がカミューの身体の線をなぞり始め、シャツの裾から浸入してくる。引き締まった腹部から胸へと何度も上下しては、冷たい身体を温めていく。やがて辿りついた胸の尖りを、マイクロトフは指先で摘み上げた。
「あ……っ…」
 びくっとカミューが声を上げ、マイクロトフの首筋にすがりついた。
 何度か指の腹で擦り、堅く立たせると、マイクロトフは乱暴にシャツのボタンを外し、露わになったカミューの胸元にむしゃぶりついた。
「は……っ…う…」
 きつく吸い上げられる。その舌触りを楽しむかのように、薄く色づいた尖りに舌を這わせながら、マイクロトフはカミューの身体をベッドの上でに引き倒した。ぎしっと二人分の体重でベッドが軋む。
「あっ……!」
 軽く噛まれて、カミューはびくびくと身を震わせた。
 マイクロトフの指先が肌を滑るたび、例えようもないほどの痺れが身体の奥から湧き上がる。疼くようなその感覚に、カミューは自分が餓えていることに気づいた。
 久しぶりの度を越えたアルコールのせいだ。
 きっとそうだ。
 カミューは荒く息をつきながら半身を起こすと、潤んだ目で愛しい男を見つめた。
「マイク……」
 震える声でカミューは望みを口にする。
「させて……」
 何を…などと問われれば、きっと何でもないと言っただろう。けれど、マイクロトフはカミューの唇を指でなぞると、その柔らかな髪をつかんで、自らの下肢へと導いた。
 カミューはマイクロトフの下衣をせわしなく寛げると、中からすでに堅く滾った雄を掴みだした。目の前に現われたものに、ごくりと喉を鳴らす。
 もともとこの行為は苦手で、カミューはマイクロトフが求めない限りは自ら行うことはなかった。マイクロトフもそれを知ってか、滅多に強制することもない。
 けれど、どういうわけか、今夜は欲しくて仕方なかった。
 自分を満たしてくれる熱い滾りを感じたい。
 カミューは口を開くと、恐る恐る、舌先で先端を舐めた。とろりとした先走りを音を立てて舐め取ると、徐々に大胆に口の中へと招き入れていく。カミューが舌を這わせるたび、マイクロトフのものはその刺激に反応して膨れ上がる。ぴちゃぴちゃと音をさせながら、カミューは夢中になって唇で男を扱き立てた。
「く……っ」
 マイクロトフが息を飲んで、カミューの頬に触れた。
 いつにない恋人からの情熱的な愛撫に、身体の奥が熱く疼く。マイクロトフはカミューの髪を撫でながら、ゆるく腰を突き入れてみた。熱い口腔の粘膜がねっとりと自身にからみつき、それは得も知れぬ快楽を与えてくれる。徐々にスピードを上げて、抜き差しが繰り返される。
「ん…ふぅ……っ…」
 喉の奥まで飲み込んだ昂ぶりが苦しいのか、カミューはうっすらと目元に涙を浮かべた。それでも必死に舌を絡めてあふれ出る蜜を飲み込んでいく。感じ入ったその表情と、ゆらりと揺れ始めたカミューの腰のラインを目にしたとたん、マイクロトフは耐え切れない射精感に襲われた。
「だめだ…出…っ…」
 マイクロトフが慌ててカミューの口内から己のものを引き抜ぬいた。しかし、カミューの方が一瞬早く、きつく先端を吸い上げた。マイクロトフの雄がカミューの口から吐き出されるのと同時に、どくっと大量の蜜が迸る。
「んっ……!!」
 びしゃりと、それはカミューの白い頬を濡らし、顎先から滴った。
「す、すまん…」
 マイクロトフが慌てて手を伸ばす。その手をやんわりと押しとどめて、カミューは頬を伝う火傷しそうなほどに熱い白濁を指で掬い取った。濡れた指をぺろりと舐めると、上目遣いにマイクロトフを見つめ、妖しい笑みを浮かべた。
「かまわない………」
 赤い舌先が唇の端に残る蜜をも舐めとり、掠れた声でつぶやく。
「お前に汚されると…興奮する……」
「……っ!!」
 喉の奥で低く唸って、マイクロトフがカミューの身体を引きずり上げて押し倒した。
 荒々しく唇を重ね、カミューの両足を左右に押し広げると、しっとりと濡れそぼった花芯に指を絡めた。ひくっと震えたそれを乱暴に上下に扱き始めると、カミューは大きく背を仰け反らした。
「ああっ……っ!…ん…ぅん…」
 とめどなく溢れ出てくる蜜が指を濡らして動きをスムーズにする。ぬめる粘液がくちゅくちゅと淫らな音を立て、その音にカミューは羞恥に震えた。
「やっ……ああっ…マイクッ…いっ…」
「すごいな……どんどん溢れてくる…」
「は、ん……ぁあ…っ」
 カミューが両腕をマイクロトフの首に回して強く引き寄せた。ねだるようにマイクロトフの耳朶に噛み付く。応えるように、マイクロトフが首筋に、胸元に、何度も口づけが落とした。
「あぁ…っ…ん…イイ……っ」
 まるで熱に浮かされたような自分の声に、カミューは羞恥した。
 愛しい男の指に触れられるだけで、こんなに簡単に感じてしまうのは何故だろう。もっと先を望んでしまうのは何故だろう。
 マイクロトフがきつく花芯を括れから先端の窪みにかけてぐりっと刺激した。
「いや……っ!!…ぁんーっ……っ!」
 痛いほどに張り詰めた下肢がびくんと跳ねた。暖かな蜜でマイクロトフの手を濡らしたあとも、カミューの花芯は透明な蜜を滴らせて、ひくひくと震えていた。
「カミュー……」
 マイクロトフは力の抜けたカミューの片足を抱え上げると、まだきつく閉ざされたままの蕾へと指を這わせた。ゆっくりと時間をかけて解してやりたいと思う気持ちと、すぐにでも己のものを飲み込ませてみたい気持ち。マイクロトフはつ、っと濡れた指先を中へと押し込めた。
「あっ、ああ……マイクっ…」
「大丈夫だ……ひどいことはしない……」
 言いながらも、マイクロトフはぐっと指を深く飲み込ませた。焼けるほどに熱い粘膜を押し広げるようにして、指が浸入していく。そしてゆっくりと抜き差しを始める。
 もう何度も行った行為なのに、それでも慣れることのない異物感。カミューはきつく目を閉じて、施される愛撫に胸を喘がせた。ず、ずっと狭い肉壁を掻き分けて、マイクロトフの指が埋め込まれるたび、言いようのない快感が背筋を駆け上がる。
 息を殺して、指の動きに身を震わすカミューにマイクロトフはいつになく興奮した。
 次第に蕩けていく様を確かめたくて、ぐいっとカミューの脚を持ち上てみる。
「なっ……!!嫌だ…ッ…」
「ああ……すごいな…。まだ奥まで入りそうだ…」
 くちくちと収縮を繰り返す入口が、マイクロトフの指を締め付ける。
「ひぁ…っ…あっ…」
 飲み込まされた二本の指。ぐちゅっと音を立てては出し入れさせ押し広げていく。その刺激に反応したかのように、カミューの花芯からぱたぱたと透明な蜜が零れた。
「……いやぁ…も…いやだ…」
「欲しいか…?」
 がくがくとうなづくカミューの身体を、マイクロトフは簡単にうつ伏せた。はっと振り返ったカミューの瞳に一瞬怯えが走った。有無を言わせず腰を高く引き上げ、マイクロトフは屹立をカミューの中へと埋めていった。
「あっ…、ああ…うぅ……」
 蕩けた内部はまとわりつくようにしてマイクロトフのものを迎え入れる。ゆっくりと奥深くまで差し込まれて、カミューはきつくシーツを掴んだ。圧倒的な質量、喉までせり上がってくるほどの充足感に息もできない。マイクロトフの唇がカミューの背中に当てられ、熱い息がかかる。
「……はっ…あ、んぅ…」
「カミュー……もっと力を抜いてくれ…」
 できない、と縺れる舌でカミューがつぶやく。
 いくら指で慣らされていても、指とは比べ物にならない太さに身体がすくむ。
 繋がった場所がひどく熱くてどうにかなりそうだった。マイクロトフは繋がったまま、カミューの花芯に手を伸ばし、あやすようにゆっくりと擦り上げた。
「う……っふ…、ん、んぅ…っ」
 与えられる刺激にカミューの身体が弛緩する。
 緩み始めた肉壁を、さらに奥へと自身を埋め込み、マイクロトフは緩く腰を揺すり上げた。其処は誘いこむように、マイクロトフの雄にからみついてくる。
 我慢できずに、マイクロトフは激しく腰を打ちつけた。
「ああっ……っん…ん、はっ…!!」
 次第に早くなる抽挿に、素肌のぶつかる音に、気が狂いそうなほど感じてしまう。
「やっ…もう…おかしく、なる…っ…」
「……っ」
 吸い付くように締め付けてくる秘肉の心地良さに、マイクロトフは低く唸った。もう我慢できないとばかりに、一気に激しく突き上げ始める。
「ひっ……!!あぁ…あ、っ…あ…」
 脳天まで痺れるような快楽の深さに、カミューは堪えきれずに自らの精を放った。粘着質な音が響く中、何度もとろりと花芯から滴らせ、シーツに染みを作る。
「ん、んぅ……マイクっ…!あっ……!」
 崩れ落ちるカミューの腰を持ち上げ、マイクロトフが一際深く内部を抉った。ずちゅっと二度、三度と律動を繰り返したあと、狭い内部へと白濁を吐き出した。
「ふ…ぅ……」
 背後で聞こえる感極まったような男の吐息に、カミューはふるっと震えた。快感が醒めやらないかミューの身体の上に、マイクロトフがゆったりと覆い被る。
 汗ばんだうなじにきつくキスをして、耳朶を舐めると、カミューは喉の奥で小さく泣いた。
「愛してる……」
 男の囁きに、カミューは再び欲情の火が灯ったような気がした。
 未だ繋がったままの場所はびくびくと痙攣しているようで、飲み込んだ男のものをきつく締めつけるのが自分でも分かった。
 やり過ごすにはあまりにも強い欲望が首をもたげる……
「カミュー?」
 マイクロトフの肩を押して、カミューが身体を反転させようと身を捩る。その弾みでまだ固く芯を持ったままのものがずるりと抜き出された。それと同時に、内で溜まっていた欲情の証が流れ出す。ぬるりとした感触に眉を顰めながら、カミューは大きく脚を開いて男の上に跨った。
「もう一度……しよう……」
 手を伸ばしてマイクロトフの股間で存在を誇示するものを握りしめる。指で駆り立てなくても十分なほどに固く勃ち上がったそれの上に、カミューは自ら腰を下ろした。
「んぅ……あ、あぁ…っ」
 先ほどの結合で蕩けきった蕾は難なくマイクロトフを飲み込み、湿った音を立てた。
 ゆっくりと前後に腰を揺らして、根元まで収めきると、満足したように息を吐く。いつにないカミューの欲情しきった表情に、マイクロトフは再びすべてを奪いつくしたい気になった。
「んっ……!」
 カミューがマイクロトフの胸に手をつき、ゆるりと腰を回し始めた。
 自分で自分の一番感じる所に、マイクロトフのものが当たるように前後左右に揺さぶる。
 何て淫らな行為だろう。霞む意識の端でカミューは思った。
 だけど欲しい。目も眩むほどのあの絶頂感をもう一度味わいたい。
「カミュー……っ」
 マイクロトフが手を伸ばしてカミューの花芯に触れた。半ば勃ち上がりかけたそれに指をからめ、ぬちゅっと聞くに耐えないような音をさせて、何度もきつく扱く。
 腰から力が抜けていくような気がしてカミューは緩く頭を振った。
「あ、あぁ……っ……やめ…ひ、ぁああ…」
 きゅっと絞り上げるように内壁の収縮に、マイクロトフは耐え切れずカミューの腰に手を添え、下から激しく突き上げた。
「っ!はっ…っいやぁあ…っ」
 ただでさえ自らの重みで深いところまで飲み込んでいるのに、さらにその奥を刺激され、カミューはあまりの快楽にぱたぱたと涙を零した。
 知り尽くしたカミューの身体。どこをどう攻めればカミューが喜ぶか、マイクロトフには嫌というほど分かっていた。浅く、深く、淫らに蕩けた媚肉を掻き分け、何度も出し入れを繰り返す。先ほど放ったばかりの白濁がその度に溢れ出し、マイクロトフのものを伝った。
「も……っ…イく……っ」
「カミューっ……!」
 一際深くマイクロトフが奥を抉ると、カミューがひゅっと息を飲み、次の瞬間マイクロトフの下腹部に蜜を放った。同時にじわりと身体の奥深くに広がった熱い感触に、マイクロトフが達したことを知る。
 がくりと崩れ落ちたカミューの身体をきつく抱きとめて、マイクロトフはびっしょりと涙で濡れた目元に唇を寄せた。
「………キスして」
 掠れた声でつぶやくカミューに、マイクロトフは応えた。
 何度も、何度も……






「覚えていたのか……」
 マイクロトフが唖然とした表情で、カミューを見つめる。
 あの夜、際限なくお互いを求め、何度も身体を繋げ、意識がなくなるほど激しく愛し合った。
 しかしその翌朝、カミューはまるで何もなかったかのように、いつも通りの寝起きの悪さを見せ、起きたあとも、その夜のことには一言も触れなかったのだ。
 そう、まるで何もなかったかのように。
 二人とも嫌というほどに飲んでいたし、恐らくカミューは何も覚えていないのだろうと思い、マイクロトフはその夜のことには触れなかった。
 カミューの痴態は脳裏に焼きついていたけれど。
「お前だって何も言わなかったじゃないか」
 くすっと笑って、カミューがマイクロトフの隣に腰を下ろす。
「……言ったら、何をされるか分かったものではないからな」
 憮然とした表情でマイクロトフがつぶやいた。
 ベッドの中でのことを口にするのを、カミューはひどく嫌がる。今さら、と思わないでもないが、嫌がることを無理にするような趣味はマイクロトフにはなかった。
 マイクロトフのつぶやきに、カミューがいたずらっぽい瞳を見せた。
「自慢じゃないけれど、私は酒を飲んで記憶をなくしたことは、今まで一度もないよ」
「……奇遇だな、俺もそうだ」
 お互いしばし見詰め合い、そして、ふと笑った。
 マイクロトフの指がカミューの顎にかかり、親指の先でそっと白い頬を撫でる。その手の上にカミューが指を重ねた。
「マイク、知っているかい?」
「うん?」
「記憶というのはね、同じ季節、同じ気温、同じ気候、同じ時間……そんな条件が重なると、いつもよりも克明に甦るそうだよ。そう、まるで時間が戻ったかのようにね……」
「………」
 カミューが口元に笑みを浮かべて窓の外を見る。
「ねぇマイク、今夜もあの夜と同じ匂いがするとは思わないかい?」
 降りしきる雪。
 暖かい部屋。
「……だが酒がない」
 マイクロトフが言うと、カミューは嫣然と微笑んだ。
「そんなものなくても、私がたっぷりとお前のことを酔わせてあげるよ」
 赤い唇が開く。
 吸い寄せられるように、マイクロトフは唇を重ねた。

 雪の夜に、遠い記憶が甦る。
 

 


  BACK