TASTE OF XXX


 大会議室では週に一度の定例報告会がいつも通り行われていた。
 現在の同盟軍の状況―戦士の数、抱えている難民の数、食料の状況から城の中で起こったちょっとした揉め事まで、アップルの口から簡潔に報告されていく。
 正面に座るのはディランと、その隣にシュウ。
 あとはビクトール、フリックを始めとした幹部連中がそろっていた。
「では次の議題ですが…サウスウィンドウの周辺で起きていた盗賊騒ぎの件は…」
 アップルが手元の資料をめくる。
 騒ぎを鎮圧に行ったのはフリックとハンフリーだった。
 シュウが視線を上げ、真向かいに座っているハンフリーをうながす。ずいぶん以前から盗賊が出没し村を襲っていうという報告を受け、フリックとハンフリーが1週間ほど前に足を向けたのだ。
 ハンフリーが立ち上がり、無事に盗賊たちを退治した、と口を開こうとしたその瞬間、大きな物音とともに会議室の扉が開いた。
 その場にいた全員が手に剣を持ち、瞬時に腰を浮かせる。
 しかし、そこにいたのはシーナだった。
 赤い顔をして、大きく胸を喘がせている。どうやら3階にあるこの部屋まで一気に駆け上がってきたようである。何事かと慌てた連中がみなほっと肩の力を抜いた。
「会議中だぞ」
 シュウが冷たく言い放つ。
 シーナはそんなシュウには見向きもせず、つかつかとハンフリーの元へと近づくと、手にしていた荷物を投げつけた。
 その場にいた全員がぎょっとする。
「ばかっ!!!!」
 シーナが大声でハンフリーに怒鳴った。
「……!?」
 いきなり荷物を投げつけられ、暴言を吐かれたハンフリーは突然のことで言葉も出ない。少々のことでは表情の変わらないハンフリーの代わりに、周りにいる連中の方が表情を変える。
 いったいこれから何が始まるというのだ?
「シーナ?」
 ハンフリーがつぶやいたとたん、シーナがきっと顔を上げる。
「ばかっ!!!ばか、ばか、ばかっ!!もうハンフリーなんて嫌いだっ!!大っ嫌いだっ!」
 涙目で叫ぶと、シーナは現われた時同様、ばたばたと部屋を飛び出した。
 しんと静まり返った部屋の中。
 見るからに夫婦喧嘩…という気がしないでもないが、誰もそれを口にしようとはしない。そんなこと誰が言えるというのだろうか。
「あ〜、突っ立ってないで、追いかければ?」
 ディランがやれやれと肩をすくめてハンフリーに言う。
「フリックさん、代わりに報告してくれます?」
「あ、ああ…」
 ディランに促され、フリックが我に返って立ち上がる。そして、早く行けというようにハンフリーにうなづいてみせる。
「すまん」
 ハンフリーがフリックに頭を下げる。そして、その返事を聞くよりも早く会議室を出て行った。その後ろ姿を見送った連中は、ハンフリーもただの男か、と安心するやらがっかりするやら。
「まったく、風紀が乱れてるな」
 シュウが苦々しくつぶやく。その言葉にディランがくすりと笑った。
 

 シーナが辿った道はすぐに分かった。
 ハンフリーの姿を見かける人間が全員、「シーナが泣きながら走っていった」と非難がましい目をハンフリーに向けるからだ。
 泣きたいのはこっちの方だ、とハンフリーは思っていた。
 いきなり「嫌いだ」などと言われなければいけないようなことは何一つしていないはずだ。
 喧嘩もしていない。昨夜だってごくごく普通に一緒に過ごした。それなのに、いったい何があったというのだ?ハンフリーには思い当たる節がまったくないのだ。
「シーナ」
 ノックもせずにシーナの部屋の扉を開ける。
 ベッドの上、シーナは突っ伏したままピクリともしない。小さくため息をついて、ハンフリーがシーナに近づいた。
「シーナ…?どうした、何があった?」
 ベッドに腰かけ、ハンフリーがシーナの背に手を置く。その瞬間、シーナが起き上がりハンフリーの手を払った。
「どうして言ってくれなかったんだよっ!!!」
 その目は真っ赤に腫れていて、今にも涙が零れ落ちそうなほどに潤んでいる。
 これにはさすがのハンフリーも驚かないわけにはいかなかった。
 シーナがこんな風に泣くなんてことは今まで、知っている限りではなかった。
 いつでも呆れるほどに明るく、陽気で、笑った顔しか見たことがなかったのに。
「シーナ、何のことだ?」
 あやそうとするハンフリーの手から逃れ、シーナは逆に拳でハンフリーの胸をたたく。
「どうして何も言わなかったんだよっ!!」
「だから何のことだ?」
「誕生日…」
「え?」
「誕生日っ!!昨日、ハンフリーの誕生日だったんだろっ!!」
「………」
 ばんばんと胸を叩くシーナの手首をハンフリーが掴む。
「離せよっ!俺は怒ってるんだからなっ!!」
「ああ、分かった。だから、泣くな」
「泣くなだって?これが泣かずにいられるかよっ!!何であんたの誕生日をレオナが知ってて、恋人の俺が知らないんだよっ!!何で昨日が誕生日だったのに、俺に一言も言ってくれなかったんだよっ!!ひどいじゃないかっ、あんた、俺のこと馬鹿にしてんのかっ!!」
 ぼろぼろと涙を流すシーナをどう扱えばいいか分からず、ハンフリーはほとほと困っていた。
 どちらにしろ、こんなに興奮していては話し合いもできない。
 しばらくシーナのしたいように殴られることにし、そして泣きたいだけ泣かせることにした。どれくらいそれが続いたか。さすがのシーナも力つきたようで、ぺたりとベッドの上に座ったまま、くすんくすんと鼻をすすった。
「……気がすんだか?」
「すむわけないだろっ!」
 そう、シーナは本気で怒っていたのだ。
 ついさっき、クスクスの街へ遊びに出かけ、帰って来たところにばったりレオナと出会ったのだ。レオナはシーナを見るなり妖しげに微笑んで言った。
『昨夜は二人でステキな夜を過ごしたのかい?』
『え?何が?』
『いやだよ、恋人の誕生日の夜だろ?何もしなかったわけじゃないだろう?』
 そこで初めて知ったのだ。
 昨日がハンフリーの誕生日だったということを。
 知らなかった自分にしばし呆然とし、そして怒りが込み上げた。
 ハンフリーが会議中だということは重々知っていたが、どうにも我慢できなくて先ほどの暴挙に出たというわけだった。
「どうして黙ってたんだよ…」
「……誕生日なんて忘れていた」
「嘘だっ!自分の誕生日を忘れるヤツなんているわけないだろっ」
 シーナが目の前の恋人を睨みつける。ハンフリーは困ったようにシーナを見た。
「嘘じゃない。今、お前に言われるまで本当に忘れていた」
「………」
 ハンフリーの言葉に嘘はないようで、シーナはちょっと拍子抜けしたような気になった。
「シーナ、俺がお前の誕生日を忘れていたというのなら、お前が怒るのもよく分かるが、どうして自分の誕生日を忘れていたことで、お前にそんなに泣かれなくてはいけないんだ?」
「……お祝いしたかったんだ」
 小さな声でつぶやいたシーナの言葉にハンフリーが苦笑する。
「祝ってもらうような歳ではないぞ?それに歳を取ることを祝ってもらっても…」
「違うだろっ!!」
 シーナがぐいっとハンフリーの胸元を掴む。
「それはぜんぜん違うっ。あんた、大人のくせに全然分かってないじゃないか。誕生日っていうのは、歳を取ることを祝う日じゃないだろ。あんたがこの世に生まれてきたことを祝う日だ。俺の大好きな人が…俺の恋人が生きて、今ここにいることを…祝うための日だ」
「………」
 うつむいて、再びぱたぱたと涙を零すシーナに、ハンフリーはどうしようもなく胸が締め付けられた。誕生日なんて本当に忘れていたのだ。歳を取ることを祝っても仕方ないと思っていたから。もちろん、誕生日がそれだけの日だとは思っていない。無事に1年を過ごせたことを祝う日、くらいには思っていた。だから、自分以外の人間の誕生日だって、さして重要には思っていなかったのだ。
 けれど、もしシーナの言う通りなら。
 自分の一番愛する人が今この世に存在し、自分のそばにいることを祝う日なのだとしたら…
「…すまん…」
 もしシーナの誕生日を祝ってやれないとしたら、それはそのままシーナの存在を祝ってやれないことになる。それはやはり辛いだろうと思う。祝ってやりたい、と心から思うから。
 だから、シーナが自分の誕生日を祝えなかったことで、同じように辛い気持ちになったことも、今ならよく分かる。
「シーナ…悪かった…」
「……っ!」
 シーナが両手を伸ばしてハンフリーに抱きつく。
「……ごめんなさい」
「うん?」
「会議…邪魔して…」
「まったくだ」
 ハンフリーが苦笑して、シーナの身体を抱きしめる。
「ハンフリー、1日遅れだけど、お祝いしたい」
「……気持ちだけで十分だが?」
「じゃせめてケーキだけでも食べよう」
 甘いものは好きじゃない、とはとても言えない雰囲気で、ハンフリーは仕方なくうなづいた。


「シーナ……」
 部屋に運ばれたケーキを見て、ハンフリーはげんなりとした。
 ごくごく普通のショートケーキを想像していたのに、目の前にあるのはホールケーキで、それもかなり大きい。生クリームたっぷりで、イチゴが飾られたオーソドックなケーキ。
 確かに美味しそうではあるが、ハンフリーの許容範囲は超えていた。
「お前…自分が食べたかっただけなんじゃないのか?」
「へへ…それもある。だってハイ・ヨーのケーキはすっごく美味しいからさ」
 甘いもの好きのシーナが嬉しそうにケーキをベッドの上に置く。そのケーキをはさんで二人もベッドに腰かける。
「ろうそく立てる?」
「いらん。シーナ、俺はいいから好きなだけ食べろ」
「何いってんだよ、あんたの誕生日だろ。ちゃんと食べろよな」
 せっかく用意したんだから、とシーナはハンフリーを睨む。
 そして人さし指でケーキの生クリームをすくうとぺロリと舐めた。
「ん〜美味しい」
「それは良かった」
「食べさせてあげる」
 再び指でクリームをすくい取り、ハンフリーの口元へと運ぶ。ハンフリーは仕方なく口を開け、シーナの指を銜えた。口の中に広がる甘い味。舌の先でクリームを舐めとり、指を軽く噛む。
「美味しい?」
「…ああ」
「イチゴ食べたい」
 食べたい、というのは食べさせろということで。
 ハンフリーはケーキの上のイチゴを指でつまむと、シーナに食べさせてやる。唇が開いた時に微かに見えた赤い舌がやけに扇情的で妙な気分になる。
「…ちょっと…すっぱいかな…」
 二、三度咀嚼すると、シーナが顔をしかめた。そして、ベッドの上で膝立ちになると、そのままハンフリーに襲いかかり、唇を重ねた。
 無理矢理にハンフリーの唇をこじ開け、口の中でつぶれたイチゴを押しつける。
 押し戻そうとするハンフリーの舌をからかうように押し返し、イチゴの果肉と共に奥深く舌を差し込む。ぴちゃりと音を立てて、ハンフリーはイチゴと共にシーナの舌を味わった。
「ん…っ…」
 より深く唇を重ねると、シーナは舌を器用に巻き取り、ハンフリーの口の中で溶けたイチゴを再び自分の口の中へと戻した。こくりと喉を流れ落ちる果肉。シーナは唇を離すとにっこりと笑った。
「……ふふ、甘くなった」
「仕方のないヤツだな…」
 口元を拭って、ハンフリーがため息をつく。
 不思議と汚いなんて思わなかった。ただ甘いだけ。
 シーナはあらためてハンフリーの膝の上に乗り上がると、手を伸ばしてイチゴを摘み上げた。そして、さっきと同じようにしてイチゴの味を二人で味わう。
 贅沢な食べ方だと思った。
 口移しでもっといろんなものが食べたいとも思った。
 そんなシーナの想いが伝わったのか…
 ハンフリーがシーナの着衣を脱がしていく。
 シーナがハンフリーの着衣を脱がしていく。
 シーナの柔らかな髪に口づけ、耳朶を舐め、首筋を舌で辿る。ハンフリーの大きな手が滑らかなシーナの肌を味わうようにして撫で上げた。
「ん…ふぅ…っ」
 シーナが体勢を変えようと足を伸ばした時、ぬるりとした感触がした。びっくりして顔を向けると、ベッドの上に置き去りになっていたケーキの中に膝を突っ込んでいた。
「あ〜あ…」
 ぐちゃりと形を変えてしまったケーキ。シーナの膝頭にはべったりと生クリームがついてしまっていた。さすがに足でつぶしてしまったケーキはもう食べられない。
「もったいないことしちゃったな…」
 つぶやくシーナの足首を掴んで、ハンフリーが強く引き寄せた。
「な…っ」
 驚いたシーナが目にしたものは、ハンフリーがシーナの膝に顔を寄せクリームの舐め取る姿だった。丹念に舌でクリームをすくい取っていく。くすぐったくて、シーナは思わずハンフリーの頭を手で押しやった。
「ばかっ…やめろってば…」
「じっとしてろ」
 綺麗になった膝から、内腿へとハンフリーの唇が移動する。シーナはぱたりとベッドに横になると、その愛撫に身を任せた。時折痛いくらいに吸いつかれ、身を震わせる。次にどこに触れられるかを想像するだけで身体が熱くなる。
 うっとりとハンフリーのなすがままになっていたシーナだが、ふと指先にあるケーキに気づき、悪戯心に火がついた。
 つぶれたケーキからクリームを手にとると、シーナの身体に圧し掛かろうとしていたハンフリーの胸元にべったりとなすりつける。
「………おい…」
「舐めてあげる。じっとしてて」
 シーナは舌を伸ばして、ハンフリーの胸を舐めた。引き締まった腹筋を辿り、胸の飾りを口に含む。舌を絡め、ぬるりとしたクリームをなすりつけるようにして何度も何度も立ち上がった乳首をくすぐった。
 ハンフリーはそんなシーナの首筋を優しく撫でる。
「感じない?」
 ぴくりともしないハンフリーに上目遣いで聞いてみる。
「……そこが感じるのはお前の方だろう?」
 微かに笑ったハンフリーはシーナの頭を押し返し、同じように生クリームを手に取ると、シーナの首から胸へと塗りたくった。そしてクリームまみれの胸の突起へと顔を伏せた。
「ひゃ…っ…」
 いきなり痛いくらいに吸われて、思わず身を捩ろうとする。けれどハンフリーにがっしりと掴まれそれも叶わない。舌と歯で執拗に責められ、シーナは甘い声を上げた。
「や…っだ…ハンフリー…あっ…」
 片方の胸を音を立ててしゃぶりながら、ハンフリーはもう片方の尖りを親指の腹で弄んだ。濡れた感触と痛いくらいの指の動き。痺れるようなその快感にシーナは大きく胸を喘がせた。
「は…ぁ…んん…やぁ…っ」
「甘いな…」
 唇についたクリームを舐めとり、ハンフリーがつぶやく。
「感じたか?」
「……っふ…分かってるくせに…」
 そんなこと聞くな、とシーナはハンフリーの肩をたたく。
 クリームのぬるりとした感触は、いつもとは違う快楽を呼び起こした。シーナは胸に残るクリームを自分の身体に擦りつけてみる。ぬるぬるとした感触が何とも気持ちいい。
「シーナ」
「な…に?」
「自分で塗ってみろ」
「え?」
 ハンフリーがぐいとシーナの脚を押し開く。顕になった脚の間では、すでに形を変えたシーナのモノが物欲しげに揺れている。ハンフリーが何を言っているのか分からず、シーナはきょとんとハンフリーを見返した。そんなシーナにハンフリーは低く笑う。
「舐めて欲しいところに自分で塗ってみろ」
「え?」
「自分でクリームを塗ってみせろ。…そこを舐めてやる」
「あ…あんたって…時々すげぇこと言い出すよな…」
 こんな倒錯的なセックスしたことないよ、とシーナはくすくす笑う。けれどやめようとは思わない。すっかりその気になった気持ちと身体を今さら放っておけるわけもない。
 シーナは手を伸ばすとケーキのクリームをすくった。
 舐めて欲しいところに塗れと言う。
 本当は分かっているくせに、わざと言っているのだ。シーナは一瞬、躊躇したあと、クリームのついた指をゆっくりと脚の間へと下ろしていった。
 自分で花芯に触れて慰めることなんて今まで何度もあったが、生クリームを塗るなんてことは初めてのことだった。ぬるりとした生温さが敏感な先端を包み込み、何ともいえない不思議な感触が腰のあたりを這い上がっていく。
「んっ…んぁ…っ…」
 指の滑りが良くて、思わず何度も上下させてしまう。自分の指でなければもっといい。そんなことを思いながら、シーナは次第にその動きを早くしていく。くちゅくちゅを音をさせる指の動きを見て、ハンフリーが低く囁いた。
「舐めなくていいのか?」
「やだっ…んぅ…舐めて…ハンフリー…っ」
 涙目で首を振るシーナの右足を片手で大きく上へと持ち上げると、ハンフリーはクリームで白くなった花芯に目を細め、指で持ち上げると、顔を近づけ舌でひとすくい舐めた。
「ひ…ぁ…ああ…っ…」


生クリームの味がするんでしょうか?


 触れられた瞬間、ぞくりとした快感がシーナの背筋を駆け上がった。
 焦らすように、口に含むことはせずに舌先だけでクリームと舐めとっていく。そのたびにシーナはびくびくと身を震わせた。中途半端な刺激は余計に辛いだけで。根元から先端へと何度か刺激されたあと、シーナは耐え切れずに叫んだ。
「やっ…もお…ちゃんと…」
 シーナが手を伸ばしてハンフリーの頭を抱えこむようにして腰を突き出した。
 やっと熱い口腔に含まれる。いつもとは違うぬめった感触。
「あ…はぁ…ん…っ…!」
 ハンフリーは何のためらいもなくシーナの花芯を咥え込み、幹の部分を唇と舌で愛撫した。次第に溢れてきた先走りの蜜が口の中でクリームと混ざったが、それも喉を鳴らして嚥下した。ごくりと喉が鳴るのを耳にし、シーナは羞恥で頬を染めた。
「…あ…ん、んっ…ああ…」
 生クリームの味はもうしない。あとはシーナ自身の味がするだけだった。ハンフリーは何度かきつく吸い上げ、放出を促す。震えるシーナの指がハンフリーの髪をかき乱した。次の瞬間、ハンフリーが口にしていたモノに歯を立てた。
「ひっ…あっ!!」
 シーナの背がベッドから浮き上がった。
 どくん、と先端から溢れ出した蜜はすべてハンフリーの口で受け止められる。
「う…ぁは……」
 ひくひくと痙攣を繰り返しながら若い精を迸らせ、シーナはあまりの快感に涙を零した。
 とろりと流れだし、脚の間へと流れた分まで丹念に舐め取ると、ハンフリーは顔を上げ、シーナの頬を流れる涙を指で拭った。
「シーナ…」
「……して…ちゃんと…」
 小さな声で囁き、すんなりとした白い脚をハンフリーの腰へとからめる。しかし、ハンフリーはその脚を再び左右へと開き、シーナの耳元で言った。
「まだだろう?……に自分で塗ってみろ…」
「…っ!も…やだ…ぁ…」
 シーナが口づけてくるハンフリーの腕を解こうともがく。
 今すぐにでも挿れて欲しいと思っているのに、ハンフリーは自分でそこを濡らせというのだ。それもクリームを使って。頼りなく視線を泳がせるシーナの首筋をきつく吸い、薄く色づいた跡をいくつか残していくハンフリー。まだ躊躇しているシーナの耳たぶを食むと息を吹きかける。
「早くしろ…」
「あんた…って、さいってー…」
 どんなに泣いたところで、自分で濡らさない限りハンフリーは許してくれないのだ。
 シーナはのろのろと片肘をついて身を起こすと、無残に形を変えたケーキからクリームを指に取った。ハンフリーが先を促すようにぐいとシーナの脚を胸につくほどに折り曲げた。
 シーナの指が奥の蕾を探り始めるのを凝視するハンフリー。
 その視線に耐え切れず、シーナは再び涙を零す。
「う…っ…」
 自分でこんなところを探るなんて、それをハンフリーに見られるなんて、今さらかもしれないが恥ずかしくて死んでしまいそうだった。シーナがおざなりに周辺だけにクリームを塗りこめていると、ハンフリーが追い討ちをかけた。
「ちゃんと中まで塗らないと辛いぞ…」
「っ!でき…なっ…」
 がくがくと首を振るシーナの指を取り、ハンフリーがその部分へと押し当てた。堅く閉ざされた蕾をこじ開けるようにして指を差し込んでいく。
「嘘っ…いやっ…!はっ…あ…ぅああ…」
 一度指先が潜り込むとあとはクリームの滑りが抜き差しを助けてくれる。ずるっと音をさせて何度も奥深くへとクリームを塗りこんでいく。中に入っているのは自分の指でも、抜き差ししているのはハンフリーで、自分の意志とはまったく異なる動きにシーナは怯えた。
「ひぁ…あーっ……うっ…んぅ…」
 指の動きが速くなる。ねっとりとまとわりつくクリームが熱で溶けだして溢れ出す。くちゃくちゃと聞くに耐えない音が響きだす頃には、先ほど放ったばかりのシーナの花芯も再びその頭を擡げ始め、蜜を流し始めた。
「んっ…ん、あっ…やぁ…」
「痛いか?」
「ちがっ…も…おかしくなるっ…!もぅ…や…あっ!」
 ハンフリーがシーナの指を引き抜き、代わりに濡れた舌先を差し込んだ。突然のその感触にシーナは喉をひくつかせ、背を浮かした。
「ふ…ああっ…あ、ん…」
 蕩けた蕾は幾度となく収縮を繰り返し、誘い込むように蠕動した。奥深くへとぴちゃぴちゃと音をさせながら、堅く尖らせた舌を押し込み、たっぷりと唾液を流し込んでいく。
 充分に解れて、開ききったのを確認すると、震える先端から流れ落ちて来た白い蜜を追いかけるようにして、ハンフリーの舌が花芯へと移っていき、裏側を丹念に舐め上げた。
 シーナは両手で口元を覆い、ともすれば叫び出してしまいそうな快感に耐えていた。
 声を出してもいい、と分かっていても一度叫んでしまえば際限なく叫んでしまいそうで。どれくらいそうしてハンフリーの愛撫に耐えていたか、気がつくと、ハンフリーがシーナの両足をその肘にかけて身を乗り上げてきていた。
 涙で潤む視界に愛しい男の顔がある。
「シーナ…」
「んっ…は…やく…して…っ…早く…!」
 挿れて…と声にならない声でねだる。
 もう限界だった。シーナもハンフリーも。
 クリームとハンフリーの唾液でしとどに濡らされた蕾にハンフリーの欲望が押し当てられた。力を入れると、蕩けきったそこは何の抵抗もなくハンフリーを飲み込んでいく。
「あ、あ…!入ってる…ああっ…」
「くっ…」
 低く呻き、ハンフリーが腰を進める。
 クリームのせいか、いつもよりもスムーズに全長が収まっていく。引き攣れるような痛みはなく、頭の芯が痺れるような快楽だけがあった。シーナの脚をさらに押し上げ、その部分が見えるように身体を曲げる。
「はっ…ああ…いたッ…」
「見えるか…?お前の中に入っているのが…」
「うぁ…っ…太い…いやっ…あっ!」
 ハンフリーのものが自分の中に入っていく様子が目の前で繰り広げられる。信じられないくらいに膨れ上がった欲望を易々と飲み込んでしまう自分があまりにも淫らに感じられて、シーナは思わず目を閉じた。目を閉じると残るのは身体で感じる快感だけで、余計に押し込められる様子をまざまざと感じてしまう。
 自分の中にハンフリーがいる。
「あ、あうっ…ん」
 根元まで押し込んでしまうと、ハンフリーは淫らに震えるシーナの花芯に指をからませた。ぱたぱたと透明な蜜を溢れさせていたそれは、ハンフリーが二三度扱くとあっけなく達した。痩せたシーナの下腹部が自分の蜜で濡れる様子を見ていたハンフリーはゆっくりと腰を引いた。
「!!やぁ…だっ…抜かな…いで…ッ…ん、うぅ…」
 悲鳴のようなシーナの声に再びハンフリーがその欲望を埋めていく。シーナの中は信じられないくらいに熱くて、絡みつくようにねっとりとハンフリー自身を包み込む。
 どうにかなりそうだ。
 あまりの愛しさに。あまりの快楽に。
 ハンフリーはゆるゆると腰を上下させると、シーナが一番感じるところを探り当てようと、左右にぐるりと回してみる。
「あ…あんっ…い…いいっ…そこ…」
 だんだんと激しくなる揺さぶりにシーナは嗚咽を漏らす。何度か奥を突かれると、それに連動したかのように、先端から蜜が零れた。辛いのか、シーナの頬は涙でぐっしょりと濡れていた。
 もうこれ以上は耐えられなかった。
「も…イかせて…あっ…ああ…おねが…っ」
「シーナ…」
 押し殺した声と共に、ハンフリーが一層抜き差しを激しくした。ぱんぱんと肌の触れ合う音が響き、ハンフリーを飲み込んだ蕾からは溶けたクリームが溢れた。
 次の瞬間、ぎゅっと痙攣にも似た締め付けが起こり、ハンフリーのものに絡みついた。
「……っ…!」
「いやぁ…あ、あ、イくぅ…っ!」
 シーナが何度目かの蜜を放ったのと同時に、ハンフリーもシーナの中に快楽の証を注ぎ込んだ。どくっどくっと灼熱の粘液が注がれる感触に、シーナはぶるっと身を震わせた。
「ぁあ…っん、ん…」
 手を伸ばしてハンフリーを求めた。
 絡んだ指が強くシーナの手を引き寄せ、その手首にキスをする。
 軽い突き上げに、シーナは大きく息を吐いた。
 身体中から力が抜けていくようで、強張った脚はハンフリーの腕によってシーツの上に投げ出された。
 達したあとも、ハンフリーは自身を引き抜くことはせず、中を抉るようにして緩く腰を動かし続けた。ほんの少し動かしただけでも、中から白い蜜が溢れシーナの太腿を伝いシーツの上に染みを作った。生ぬるいその感触に、シーナは眉をひそめる。
「んぅ…動かすなって…あ、んっ…」
「クリームか俺が放ったものか…分からないな…」
 ついっと太腿を濡らすものを指で掬い取り、シーナの口元へと運ぶ。
「どっちでもいいだろっ…も…やだっ…抜いて…」
 限界まで広げられたそこがじんじんと痛みを持って疼いている。中にいるハンフリーは全く萎えていないようで、びくびくと解放を待ちわびて震えている。
「抜くなと言ったり、抜けと言ったり…わがままなヤツだな…」
 微かな笑いが、振動となってシーナを刺激する。
「ん、んぅ…」
 必死でハンフリーを身の内から追い出そうとすればするほど、それは妖しい締めつけとなってハンフリーをいっそう昂ぶらせてしまうようで、シーナはとうとう泣きを入れた。
「……お願い…あと1回だけ…にして…」
 過ぎる快感は辛いだけで。
 優しく降ってくる口づけに応えながらもシーナはもう限界だと思っていた。精力的な恋人は大歓迎だが、自分との体力の差も考慮して欲しい。
 ハンフリーはそんなシーナに喉の奥で笑った。
「……まだクリームは半分以上残ってるぞ」
 つぶやいて、シーナの目の前でクリームをすくってみせる。
「!!も、やだっ!!」
 大好きだった生クリームが嫌いになりそうだ、と遠くなる意識の端でシーナは思った。



 次の日、当然のごとくハンフリーとシーナはシュウに呼び出しをくらった。
 会議を中断させたシーナに延々と説教をし、次に、そのシーナをほいほい追いかけていったハンフリーにも容赦なく嫌味を言う。
 全面的に非のある二人が反論もせず、神妙な態度を見せたため、シュウの説教は思いのほか短くて済んだ。
「で?大切な誕生日に、お前はいったい何を貰ったんだ?」
 シュウの問いかけに、ハンフリーが口を開く。
「ケーキを」
「ケーキだ?ふん、来年はもっとちゃんとしたプレゼントをしてやれ」
 シーナに向かって最後の嫌味を言ったシュウに、ハンフリーが笑う。
「いや、来年もケーキでいい。かなり美味かったからな」
「………っ!」
 その言葉にシーナは盛大に赤くなった。
 シーナが赤くなるところを初めて見た、とシュウはあとでディランに洩らした。
 それを聞いたディランは少し考えたあと、
「すごく楽しいことしたんじゃないの?」とつまらなさそうに言った。

 

このSSは広石さんのサイト1周年記念に押しつけました。何とかエロマスターの広石さんの検定にも合格しました♪これで私もちょっと大人になれたかなぁという感じです!


 BACK