FACE 「ヤム・クーさ〜ん」 大声で名前を呼ばれて振り返ると、パタパタと騒がしい足音をさせたナナミが、城への通路から駆け寄ってくるのが見えた。 その後ろにはナナミの弟で、城主のディランの姿も見える。 ヤム・クーは手にしていた釣り竿を桟橋にかけると手をかざして近づいてくる二人を眺めた。 どうやら今日は久しぶりの休日らしい。二人とも何だかとても楽しそうに笑い合っている。 「こんにちわ〜、釣りしたいんだけど、いいかな?」 最近ナナミは釣りがお気に入りのようで、しょっちゅう釣り場へ来ては、長靴だの、割れた茶碗だの、魚以外のものを大量に釣っていた。 どうやら大物を釣り上げるまでは通い続けるつもりらしく、ここー週間ほど、ナナミはせっせと100ポッチを握り締めてはこの桟橋にやってきているのだ。 釣りばかりは、釣れないからといって何とかしてやるわけにもいかず、ヤム・クーはいろいろとアドバイスをしてやるものの毎回がっかりと肩を落として帰るナナミを気の毒に思っていたのだ。 「今日は長靴じゃないといいんですね、ナナミさん」 笑いながら釣り竿を手渡すヤム・クーにナナミが頬を膨らます。 「失礼しちゃうわね、今日は協力な助っ人を連れてきたから大漁よっ!」 「ディランさんのことですかい?」 「そうみたいだね」 軽く肩をすくめて、ディランもヤム・クーから釣り竿を受け取ると、慣れた手つきで餌をつけ、ぽちゃんと湖に糸を垂らす。 ヤム・クーは腕組したまま、いつも仲のいい姉弟の姿に目を細めた。といっても、誰もヤム・クーのその表情を見ることはできない。鼻先まで長く伸びた前髪が、ヤム・クーの表情を隠しており、喜んでいるのか、怒っているのか、傍から見ただけでは全く分からないのだ。 「ね〜、エビが釣れたらお寿司にしてもらおうね」 「ナナミ、そういうことは釣れてから言った方がいいと思うよ」 「まったく」 くすくすと笑いを洩らして、ヤム・クーとディランが顔を見合わせる。 「まぁエビが釣れるかどうかは分かりませんが、今日はみんなけっこう釣っていってますからね、ナナミさんでも何か釣れるだろうとは思いますよ」 「私にでもってところが引っかかるなぁ」 ナナミは背後に立つヤム・クーを見上げた。 その時、ふわりと風が吹き、ヤム・クーの前髪を揺らした。 「あ……」 思わずナナミが目を大きく見開く。 はっとしたように、ヤム・クーが一歩退き、慌てて乱れた前髪を直す。 「ヤム・クーさんて……ヤム・クーさんて、すっごい綺麗なんだぁ……」 どうやら、隣に座っていたディランにも見られたようで、二人して、ぼーっとヤム・クーを眺めている。 ヤム・クーは思わずかっと顔が赤らむのが自分でも分かった。 おそらく、この城にいる者でヤム・クーの素顔を見たことがあるものはいないのではないだろうか。もし見た者がいたら、きっと噂になっているだろう。 ヤム・クーがとんでもなく美しい容姿をしていること、が。 ほんのちょっとだけ見えただけでも、息を飲まずにはいられないほどに整った顔。すっきりとした鼻筋。印象的なのはその目元だった。黒目がちな大きな瞳は長い睫で縁取られており、ちょっと淋しげに見えるのが人の目を魅きつける。 女性ぽいというわけではない。けれど、男にしておくには綺麗すぎる顔。 「何で〜!!何でそんなに綺麗な顔してるのに、隠してるのぉ!!!」 ナナミが目を輝かせてヤム・クーにいいよる。 「あ……っと…」 「いやだ〜、ヤム・クーさんがこんなにハンサムだったなんて、ね、ね、知ってた?ディラン」 「いや、初めて知った」 ぎゃあぎゃあ騒ぐナナミにヤム・クーは困ったように立ち尽くしている。 そんなに騒いだら魚が逃げるぞ、とディランは心の中で思ったが、ナナミは興奮してそれどころではないらしい。 「え〜何で〜。うわぁ、びっくりしちゃった!!あ、タイ・ホーさぁ〜ん」 小屋から出てきたタイ・ホーに、ナナミがぶんぶんと手を振る。 タイ・ホーはのんびりと欠伸なんぞしながら近づいてくる。 「何でぇ、うるせぇなと思ったら、やっぱりお嬢ちゃんか」 うるさくってゆっくり眠ってられやしねぇ、と苦笑しながら、ディランを見ると少し笑ってみせる。 大きく着物の胸元をはだけさせたまま、顎ひげをなぞりながら、何があった?とヤム・クーに声をかける。ヤム・クーは黙ったままうつむいている。 「ねぇねぇ、タイ・ホーさんっ!知ってた??」 「ん〜?何だい?」 「ヤム・クーさんがとっても綺麗な顔してるってこと!!」 「………ヤムがぁ?」 タイ・ホーはゆっくりとヤム・クーを振り返り、ニヤニヤと笑う。 その視線から逃げるように、ヤム・クーはそっぽを向いた。 「へぇ…ヤムがそんなに綺麗な顔してるなんて、知らなかったなぁ…そうなのか?ヤム」 「………」 何も言わないヤム・クーにタイ・ホーは低く笑う。そしてナナミへと向き直ると、いつもの陽気な口調で言った。 「まぁ、あれだな。お嬢ちゃんの見間違いってこともあるだろうから、あんまり人に言わねぇでくれるとありがたいがな」 釣り場が忙しくなっても困るしなぁ、と本気なのか冗談なのか分からない口調でタイ・ホーが笑う。その言葉にディランもつられてくすっと笑った。 「……ナナミ、他の人には内緒にしとけば?自分だけが知ってるっていう方が楽しいだろ?」 「え〜っ!!でもぉ…」 「それに、男が綺麗なんて言われても、嬉しくないし、ね、ヤム・クーさん」 ディランがにっこり笑ってヤム・クーを見る。 ヤム・クーは何も言わない。その前髪に隠れて、どんな表情をしているのかも分からない。 ぶつぶつと文句を言うナナミに苦笑しつつ、タイ・ホーがヤム・クーへと視線を泳がせる。 二人の間に妙な空気が流れた。 日が暮れ、夕焼けが湖を赤く染める頃、やっと釣り場から人がいなくなった。ヤム・クーは適当にその場を片付けると、住居となっている小屋へと戻った。 中には何もない。 もともと釣り小屋だった所を、何の気まぐれかタイ・ホーが寝床にすると決めたものだから、仕方なくヤム・クーも住んでいるのだ。煮炊きがちょっとできるほどの囲炉裏と、その奥に寝間。 その寝間のすぐ横で、タイ・ホーが胡座をかいて酒を飲んでいた。 「アニキ、まだ飲むには早いと思いますけど?」 「堅いこと言うなって。今日はここで飯を食おう」 どうやらレストランで買いこんで来たらしいものが床の上に置かれていた。どうせ言い出したらきかないのだ。仕方なく、ヤム・クーは汚れた手を洗いタイ・ホーの向かいに座った。 「………ヤム」 「え?」 「お前、お嬢ちゃんに見られたのか?」 「………」 黙りこむヤム・クーに、タイ・ホーが笑いを洩らす。 「あんだけ気ぃつけてても、見られる時は見られるもんだ。いい加減、その鬱陶しい前髪、切っちまったらどうだ?」 タイ・ホーはぐいっとコップの酒を飲み干した。 なおも黙りこむヤム・クーに、タイ・ホーは小さく舌打ちすると、空になったコップに酒を注いだ。 「そうすりゃよ、お前、モテてモテて仕方ねぇんじゃねぇか?こんな女っ気のない毎日にも、ちょっとは色がつくってもんだ。え?どうだ、何なら俺が切ってやろうか?」 「遠慮しときますよ……」 「ふぅん……しっかし、何だってそんな鬱陶しい髪してんだか、理解に苦しむな」 タイ・ホーが首を傾げる様子に、ヤム・クーは小さな声でつぶやいた。 「……アニキが……」 「うん?何だって?」 ヤム・クーは何でもない、というように首を振った。 夕食にと用意されたものを口にし始めたヤム・クーに、それ以上タイ・ホーは何も言わず、しらばく無言のまま時が流れた。 「アニキ……」 「ん?」 「俺は……女っ気が欲しいなんて思っちゃいない。そんなことくらい、アニキが一番知ってるくせに、何でそんなこと言うんです?」 「……何でってなぁ…お前もそろそろいい歳だしよ、いつまでも俺と一緒にいるわけにもいかねぇだろうがよ」 がたん、と音を立ててヤム・クーが立ち上がる。 「…………」 「どうした?座って飯食いな」 「本気で、そんなこと思ってるんですか?」 「ああ」 「どうしてそんなこと……」 「さぁてな」 素っ気無いその言い方に、ヤム・クーはタイ・ホーが怒っていることを知った。 怒っている。 何に対して? 途方に暮れて立ち尽くすヤム・クーに、タイ・ホーはどこか醒めた視線を投げかける。 ごとん、と酒瓶を脇へ除けると、タイ・ホーはこっちへ来いとばかりにヤム・クーを顎でしゃくった。何か嫌な雰囲気を感じているのか、ヤム・クーは動かない。 「こっち来な、ヤム」 「………嫌だ」 駄目押しのようにかけたタイ・ホーの言葉に、ヤム・クーは即座に首を振る。 「嫌だと?」 一段と低くなったタイ・ホーの声色に、ヤム・クーは一瞬身を引いた。素早く膝立ちになったタイ・ホーがヤム・クーの手首を掴み取り、そのまま強く引き倒すようにして、冷たい板の間にその身を押し倒した。ヤム・クーが慌てて起き上がろうと肘をつく。 「アニキっ!!」 「あぁ、うるせぇな。がたがた言わねぇで、大人しくしてろって。だいたい、……お前は俺がいればそれでいいんだろうが……?こうして…」 ざらりとしたタイ・ホーの手が、着物の裾を割って内腿に触れた。とたんに身をすくませたヤム・クーに、タイ・ホーが低く笑う。 「俺に触って欲しくてうずうずしてたか?あぁ?」 「ちがっ……あっ……」 思わず漏れた声に、ヤム・クーは唇を噛んだ。器用に片膝でヤム・クーの足を固定して、タイ・ホーは抵抗するヤム・クーの身体を押さえ込み、そろりとその花芯に指を這わせた。 「……そういや、久しぶりだなぁ……しばらく忙しくて相手してやれなかったからなぁ…」 「………ぅ…」 「ん?嫌か?」 きつく目を閉じ、顔を背けるヤム・クーに、タイ・ホーは薄く笑う。 二人がこうして肌を合わせるようになって、もうずいぶんたつというのに、今さら嫌だなんてことはねぇだろうが、とタイ・ホーはいつも笑う。 「好きだろ?こうして……俺に触られんのも……」 花芯を嬲る手はそのままに、もう一方の手でヤム・クーの肩から着物を引き下ろすと、露わになった白い肌に唇を寄せた。 「アニキっ!」 「何だよ、うるせぇやつだな」 「ま、まだ飯の途中……っ」 「お前を先に食ってからだ」 あっさりと言われ、ヤム・クーは抵抗をやめた。こうなってはタイ・ホーを止めることなどできやしないのだ。今までの経験からそれを嫌というほど思い知らされているヤム・クーは、無駄な抵抗などせずに素直に身体を開くことにした。 さっきタイ・ホーが言ったように、確かにこうして肌を重ねるのはずいぶんと久しぶりなのだ。決して淡白な性質ではないと思うが、触れ合う機会がなければないで、不満に思うこともない。けれど、いったん火がつくと、どうしようもなく欲しくなるのもまた事実だった。 「んっ……」 深く口づけられて、ヤム・クーは思わず息を飲んだ。すぐさま差し込まれた舌先が探るように口腔を舐っていく。拒むことなどせず、自らも舌を絡ませて溢れる蜜を貪ると、口づけはさらに深くなる。 顎の辺りに触れる髭の感触がくすぐったくて、ヤム・クーは思わず笑みを零した。その気配に、タイ・ホーが音をさせて唇を離し、ヤム・クーの顔を覗き込む。 「あぁ?何笑ってんだ?」 「いえ……」 ふん、と鼻を鳴らして身体を起こすと、タイ・ホーはその勢いでヤム・クーの身体も引き起こし、大きくはだけた着物をさらに下へと引き下ろした。 脚の間にヤム・クーを挟み込んだ格好で、タイ・ホーはヤム・クーの背中から両腕を回し、その肩に顎を乗せた。 「ちょっ……と、何するんですかっ!」 「久しぶりだしよ、ゆっくり楽しませてもらおうかと思ってな……」 「何……っ」 「ほら、脚広げな」 言うなり、タイ・ホーはヤム・クーの両足を後ろから左右に広げた。捲くり上がった裾から見え隠れする白い脚に喉を鳴らして、タイ・ホーはヤム・クーの耳朶を食んだ。 「アニキっ……!」 タイ・ホーの右手がヤム・クーの胸を探る。引き締まった腹部を撫で擦り、胸の尖りを何度も引っ掻くようにしてくすぐる。すぐにぷつりと立ちあがったそれを指の腹で押しつぶすようにして刺激していくと、ヤム・クーはぎゅっとタイ・ホーの腕を掴んだ。 「逃げんじゃねぇよ……」 無意識のうちに前へ前へと屈んでいくヤム・クーの身体を、タイ・ホーの左手がしっかりと引き寄せる。ぺろりと耳元を舐められ、次に首筋を這う濡れた感触。 「んっ……」 肩先に歯を立てられ、思わず漏れた声に、タイ・ホーが楽しそうに笑う。 「感じてんのか?ここ……も好きだよなぁ……」 両手で胸の飾りを捏ね回し、硬く芯を持って立ち上がった突起を摘み上げる。 「ひっ……ぁあ……」 どうしてそんなところで感じるのか、と羞恥で震えるほどにヤム・クーは湧き上がる快感に唇を噛み締めた。タイ・ホーの手首を掴むものの、力を込めることはできず、それはまるで「もっと」とせがんでいるかのように見えた。 「ヤム……」 ぐいっと首を後ろへと向かされ、半ば強引に唇を塞がれる。それと同時に胸元を探っていた手が下肢へと伸ばされた。 「んんっ……う……っ」 すでに形を変えて熱を持ち始めていた花芯を、タイ・ホーの指がやんわりと握りこむと、くぐもった呻き声が重ねた唇の隙間から零れた。 ゆったりとその形を確かめるように、何度か輪郭をなぞったあと、先端の括れをくすぐるようにして擦ってみる。びくっとヤム・クーの肩が震え、再び自分の脚の間で蠢くタイ・ホーの手首を必死で掴む。 「……じっとしてな、暴れんじゃねぇ……」 「アニキっ!」 「ほら、見てみろ……もうすっかりその気じゃねぇか…」 タイ・ホーの言葉通り、ヤム・クーのそれはひくひくと震えながら勃ち上がっていた。 片手で双球を揉みしだき、もう片方の手で根元から先端へと少しきつめに扱き上げ、タイ・ホーは巧みな手淫でヤム・クーの快楽を追い上げていく。ぬるりとした蜜が溢れ出す頃には、ヤム・クーは薄く開いた唇から絶え間なく吐息を洩らすようになっていた。 「ふぅ……う……ああっ…」 「すげぇな……どんどん溢れてくる…よっぽど溜まってたんだなぁ」 「ちが……っ…」 「何が違うんだ?ほら、ちゃんと自分の目で見てみろ。べとべとだろうが……」 わざと見せつけるかのように、音をさせて上下させる指。タイ・ホーはヤム・クーの肩に顎を乗せて、その様子を覗き込んでは、今それがどうなっているのか逐一口にしてみせた。 「熱持って……どくどく脈打ってんなぁ……とろとろで……もうイっちまいそうか?あぁ?」 「………っ!」 ヤム・クーが緩く首を振ると、さらりとした髪がタイ・ホーの頬に触れる。ぴったりと触れ合った背中から感じるヤム・クーの体温がぐんぐん上がっていくのを感じて、タイ・ホーは指の動きを早めた。 「あっ…っ…、は……っ」 自然と閉じようとする膝を腕で押し返し、タイ・ホーは自分の手を濡らす蜜に白いものが混じり始めたのを見て、ヤム・クーの耳元で囁く。 「……イきてぇか?」 「……っ……はな、し……てっ……」 ヤム・クーの言葉を嘲笑うかのように、タイ・ホーは今にも弾けそうな根元をきゅっと戒め、ぐりっと丸く張り出した先端を抉るようになぞった。 どこか苦しげな、それでも感じ入ったような甘い響きを滲ませて、ヤム・クーが大きく胸を喘がせた。痛みすら伴う快楽に、我慢できないというように唇を噛み締め声を殺す。それでも、イかせて欲しいと口にはしないヤム・クーに、 「強情なヤツだなぁ……」 と呆れたようにつぶやき、タイ・ホーはきつく戒めていた根元を解き放った。途端、勢い良く溢れた蜜を、タイ・ホーは余すことなく手のひらで受け止めた。 はぁはぁと荒い息を繰り返すヤム・クーの目の前に、まるで見せつけるかのようにその手を近づける。 「びっしょりだ……」 「……っ、ふ……ぅ……」 力の抜けたヤム・クーの身体が、タイ・ホーへと凭れかかる。子供のようなその甘えた仕草に目を細め、タイ・ホーはその身体を抱きかかえたまま、ぐっと体重をかけてヤム・クーを床の上へとうつ伏せにして押し倒した。 「アニ……キ…っ…!」 起き上がれないように、背中を片手で押さえられているので、首だけを捻って背後のタイ・ホーを睨みつけるヤム・クー。くしゃりと丸まった着物の裾を腰の辺りまで捲り上げ、白い双丘を露わにすると、タイ・ホーは濡れた指先を奥まった蕾へと差し入れた。 「ひぁ……っ!」 「久しぶりだし、えらいきついなぁ……」 するりと円を描くようにして淡く色づいた淵をなぞり、つぷっと指先を突き入れた瞬間、押し殺した声がヤム・クーの口から零れ落ちた。頬と肩を床に押し付けたまま、ヤム・クーが震える指で口元を押さえる。 「痛いか?」 「………っ」 中を探るように何度か抜き差しを繰り返したあと、ひくつく入口から指を引き抜くと、タイ・ホーは指を二本そろえてヤム・クーの中へと埋め込んだ。 「んん……っ……あ、っう……」 突然の圧迫感にヤム・クーはぎゅっと握り締めた拳できつく口元を押さえた。狭い内壁が浸入してきた異物を拒むように収縮を繰り返す。タイ・ホーはその締め付けに目を細めながら、ぐいぐい指を押し入れ、根元まで押し込んだ指を中で広げた。 「ああっ……ふっ……う……」 「堅てぇな……こりゃ無理か……」 ぐちぐちと抽挿を繰り返していたが一向に緩くならない蕾に小さく舌打ちして、タイ・ホーがずるりと指を引き抜いた。 「んぅ……!」 引き連れるような痛みとともになくなった圧迫感に、ヤム・クーが溜息を洩らす。力の抜けそうな腰を再びタイ・ホーが高く掲げる。 「な……っにする…ん……」 「もうちょっと濡らした方が、おめぇも楽だろうが?」 「まっ……」 ヤム・クーが肩越しに振り返るのと、タイ・ホーがたった今嬲っていた部分に顔を寄せるのが同時だった。ぬるりとした舌が背後で蠢く。 「アニキっ、やめ……っ……」 両方の指で秘肉を割り、紅く充血した其処がひくつく様子を楽しげに見つめ、タイ・ホーは尖らせた舌先で周辺をひと舐めした。 「やっ……!」 ぴちゃっと上がった濡音と、生暖かい感触に、ヤム・クーはひっと息を吸い込んだ。指で広げられた隙間から唾液を注がれるたび、ぐちゅぐちゅと湿った音が耳に届く。堅く閉ざされていた肉壁が柔らかく蕩け出すと、タイ・ホーは奥へと舌を差し入れてみた。きゅっと痙攣する肉襞。それでもやわやわと舐め解されているうちに、そこはふっくらと熱を帯びて口を広げ始める。 タイ・ホーが頃合を見計らって押し広げていた指を挿入してみると、それは先ほどとは比べ物にならないくらいすんなりと奥へと飲み込まれた。溶けるほどに熱くからみつく内壁に、下半身がずくっと疼いて、タイ・ホーは身体を起こした。 眼下で床に這いつくばるようにしてタイ・ホーからの愛撫に耐えていたヤム・クーは、耳元から首筋まで薄く朱に染めていた。 今さら恥ずかしがるような行為でもねぇだろうが、とタイ・ホーは思う。そういう仕草は無意識だろうが、男の欲を煽るには十分だとヤム・クーは気づいているのか。 「んっ……」 タイ・ホーが慌しく着物の裾を広げ、今にも弾けそうなほどに反り返った己の欲望を引き出した。先ほどからヤム・クーの媚態を目の当たりにして、そこは重く熱を溜めていたのだ。先端から溢れ出した先走りを擦りつけるようにして、ヤム・クーの蕾に押し付けてみる。 「ぬるぬるだなぁ……ほら、もっと腰上げな……」 左手で振るえる腰を支え、右手は逆に身体が浮き上がらないようにと背中を強く押さえつける。 「……っあぁ……んっ…はや……く……」 焦らすように入口を突つかれ、ヤム・クーは思わず声を上げた。 その声に触発されたかのように、タイ・ホーが切っ先を蕩けた其処に突き立てた。ずぷ、と一息に半分ほどを押し込められ、ヤム・クーは大きく嬌声を上げた。 「あ、ああっ……く……っはぁ……っ…!」 「くそ……きついな……」 ぎちっと締め付ける内部に、タイ・ホーはが眉をしかめた。ほんの少し腰を引いただけで、離すまいと絡み付いてくる熱い肉。小刻みに腰を揺らしながら、徐々に押し進めていくと、ぎゅうっと収縮をしながらも奥へ奥へと招きいれてくる感覚に、眩暈がしそうなほどの快楽を感じた。 こうして交わるのは久しぶりだが、さんざん慣らされたヤム・クーの身体はすぐにその行為を思い出したかのように、柔軟にタイ・ホーの熱を飲み込んでいく。 「あ、あぁ……ア…ニキ……っ」 「どんな感じだ?言ってみろ」 ぐっと力を込めて、びくびくと脈打つそれを根元まで突き入れる。目一杯開いた蕾がタイ・ホー自身を咥え込んでいる淫らな光景に、さらにどくんと堅く欲望が膨れ上がる。 ![]() 「ええ、ヤム……俺がお前ン中に入ってるのは……どんな感じだ?」 軽く前後に揺すると、耐えられないというように、ヤム・クーが首を振る。 「言ってみな……」 「……悪趣味……です、よ……」 大きく足を開かされ、背後から淫らな姿をすべて見られて、その上まだ自分の感じている状況を口にしろというなんて。ヤム・クーはタイ・ホーの意地の悪さに舌打ちしたい気になる。それでも、何もしないままで許してもらえないことも、よく分かっていた。 仕方なく、ヤム・クーは大きく胸を喘がせて、切れ切れに言葉を紡いだ。 「……きつ…い…」 「で?」 ゆっくりと始まる抽挿に、無意識のうちに逃げようとする腰を、タイ・ホーが引き寄せる。 「……あ、つくて……あっ…どんどん…大きく、なって……る……んっ…」 その言葉に嘘はなく、内部を押し広げるにして、タイ・ホーの雄は勢いを増していく。ぐちゅっと音をさせて浅いところまで一旦引き抜き、また最奥まで突き入れられる。徐々にそのスピードが上がると、ヤム・クーはそれに刺激されて勃ち上がった自分の花芯に指をからめた。 「んぅ……う、ん……っ…」 濡れた音をさせて、芯を持ったそれを必死で上下に扱いた。タイ・ホーが両手で腰を抱えなおし、本格的に抽挿を始めた。引いては突き入れ、ヤム・クーの一番感じる場所を見つけだすと、しつこいくらいに何度もそこを抉った。 「あっ…ツ…んん……あ、あ…や、……あああっ…」 頭の中が白く濁っていくような気がした。 後ろから与えられる刺激に連動するかのように、花芯はひくひくと震え、タイ・ホーがぐいときつく突き入れた瞬間に、ヤム・クーは二度目の白濁を解き放った。大量の蜜は床にぱたぱたと零れ、染みをつくる。白い腿が痙攣して、がくりと崩れ落ちるのを、タイ・ホーが支える。 「おいおい、こっちはまだ達ってねぇんだぜ……」 言うなり、タイ・ホーは再び淫猥な音をさせて激しく抽挿を開始した。円を描くように腰を回して、さらに奥へと自身を埋め込む。 「ん、んっ……ん……うぅ……」 感じる部分を怒張で抉られ、ヤム・クーが嗚咽を洩らした。タイ・ホーの指が先ほど放ったばかりの花芯に絡まった瞬間、ぎゅうっと其処が収縮した。 「くっ……」 あまりの締め付けに、タイ・ホーが大きく息を吐いて、ヤム・クーの中に己を解放した。 逆流しそうな勢いで吐き出された白濁は、ずるりと音を立てて引き抜かれた時に、ヤム・クーの内腿を伝い落ちた。 「ふ……ぅ……はぁ……はぁ……」 支えをなくし、その場に崩れ落ちたヤム・クーの肩をつかんで、タイ・ホーが仰向けにさせる。 「も……無理ですぜ……あんた…今日はちょっとおかしい……」 いつになく乱暴にコトを進めたタイ・ホーに、ヤム・クーが抗議の声を上げる。 ふっと笑って、タイ・ホーが汗ばんだヤム・クーの髪をかき上げる。 美しいその顔を見せまいと、ヤム・クーが腕を上げようとするのを阻止して、身体の上に乗り上げてきたタイ・ホーがまじまじと普段見ることのないその表情を眺める。 「………な、んですかっ……」 「いやぁ?なるほど、お嬢ちゃんが騒ぐ程度にはきれぇな顔だと思ってよ」 「………」 誉めてるのかけなしてるのか判断できず、ヤム・クーは圧し掛かる男が与える口づけに、目を閉じて応えた。 ずるい人だ ヤム・クーは自分の隣でぐっすりと眠るタイ・ホーを見下ろして、そう思った。 さんざん好き勝手に快楽を貪ったあと、タイ・ホーはヤム・クーを残してさっさと眠ってしまった。一方のヤム・クーは久しぶりの情交に身体中が痛くて、眠れそうになかった。 どうして前髪を切らないでいるのか、その理由さえ忘れているくせに。 それなのに、切ったらどうだ、なんて簡単に言うタイ・ホーに、怒りをぶつけたのはこっちの方だとヤム・クーは思うのだ。 「あんたが言ったんだ…………」 もう思い出せないほどの昔。 まだ肌を重ねて数度目の時。タイ・ホーが言った言葉。 誰にも見せたくねぇな…… この顔は自分だけのものにしておきたい、と。タイ・ホーがそう言ったのだ。 美しく整った顔のせいで、男からも女からもちょっかいを出されることは多々あったが、ヤム・クー自身はどうとも思っていなかったのだ。 それを嫌がったのはタイ・ホーの方だ。 幼かったヤム・クーは、素直にその願いを受け入れた。 それなのに、忘れてしまっているなんて。 「切っちまってもいいんですけどね……」 薄闇の中、ぽつりとつぶやいてみる。 しかしヤム・クーは気づいていない。 タイ・ホーが何故、ナナミに素顔を見られたヤム・クーに対して不機嫌になったのか。 それに気づけば、昔に告げた言葉は忘れていても、思っていることは変わっていないのだとすぐに分かるのに。 些細なすれ違いは心に重く影を落とす。 けれど、その影は、次の日、「じゃあ切ってくださいよ」と告げたヤム・クーに、タイ・ホーがさらに不機嫌になったことで、嫌でもその真意が判明する。 そんなタイ・ホーに、「いろいろと難しい人だ」とヤム・クーは改めて深く溜息をついたのだ。 そして、こんなややこしい人を相手にできるのは、やっぱり自分しかいない、とも。 離れることなどできやしないのだ。 それが義兄弟としての絆でも、愛情でも、理由はどちらでもいいのだけれど。 |