<猫とわたし>
その日、深夜になって同盟軍の本拠地に戻ってきたマイクロトフは、冷えた身体を暖めようと、自室に戻るよりも先に大浴場へと向かった。
共に魔物狩に出ていた傭兵たちと他愛無い話に花を咲かせ、ほかほかになってカミューが待つであろう部屋へと戻る。
ひたひたと石造りの廊下を進み、そっと部屋の扉を開けてみる。
彼はもう眠っているはずだった。
今日はいつ戻れるか分からないから待っていなくてもいいと、朝、出かける前に告げたのだ。カミューは、分かったと言った。
朝には滅法弱いカミューは、夜は呆れるほどに強くて、放っておけばいつまでも起きている。外から戻った時に、愛しい人が迎えてくれるということは、とても嬉しいことではあるが、互いに日中は激務に追われている身なので、少しでも早く休んでほしいと願うこともまた事実だった。
マイクロトフは暗い部屋に身体を滑り込ませると、後ろ手に扉を閉めた。
しんと静まり返った室内。
ベッドに横たわるカミューの姿に、思わず笑みが零れる。安らかな寝息を立てるカミューを起こさぬよう、細心の注意を払って上掛けを捲った。
自分もまた早く眠りにつきたかったのだ。強行軍だった今回の魔物狩は、体力自慢のマイクロトフにもきついものだった。とりあえず眠ろう。そう思ったのだ。
「おやすみ、カミュー」
つぶやいてベッドに横たわろうとしたその瞬間、生暖かい何かがごそりと動いた。
「なっ!!!!!!」
思わず声を上げたマイクロトフは、がばっとその身を起こした。反動でぎしりとベッドが軋む。マイクロトフの気配にはどこまでも無防備でいられるカミューも、さすがにそれには気づいたようでのろのろと目を開けた。
「あ…帰ったのか……おかえり……」
「か、か…」
「起こしてくれれば良かったのに」
「カミュー!こ、こ、これは……」
「うん??ああ、何だ、お前ネコは嫌いだったか?」
「いや、猫は嫌いじゃない……って、そういうことじゃなくて!」
マイクロトフは思わず怒鳴って、ベッドの中にいる小さなネコを指差した。カミューだけだと思っていたベッドには、丸々と太ったネコが丸くなって眠っていたのだ。驚かずにいられるはずがない。
「いったい、どうしてベッドの中に猫がいるんだ!」
「うるさいなぁ」
カミューは寝起きの不機嫌さ丸出しのまま、眠るネコを引き寄せる。
「だってさ、お前がいないから寒くてさ……」
「………」
「このネコがまた暖かくてね。ほんとに…気持ち……いい」
「カミュー!寒いのは分かるが、ネコをベッドに入れるなど……」
「いいじゃないか、ネコと私は友達だ」
(嘘をつけ!!!)
思わずマイクロトフは心の中で突っ込んでしまった。
決して仲が悪いわけではないが、カミューとネコの間にはいつも不思議な緊張感がある。それは「気まぐれ」という共通点を互いに持つがゆえの緊張感なのか、とにかくマイクロトフの目からして、カミューとネコが仲がいいとは思えなかったのだ。
(こういう時ばかり仲がいいなどと……)
マイクロトフはすやすやとネコと眠るカミューに肩を落とす。
ネコは嫌いじゃない。嫌いではないが、一緒に眠る趣味もない。
「カミュー」
「うん?」
「俺が戻ってきたのだから、もうネコに用はないだろう?」
寒いのなら暖めてやるから、とつぶやいて、マイクロトフがネコを抱き上げる。
「すまないな、ここは俺の場所なんだ」
不機嫌そうに唸るネコを床に下ろし、マイクロトフがカミューの隣に横になる。
腕を伸ばして、カミューを抱き寄せると、彼は小さく唸ってマイクロトフの胸の中で小さく丸まった。
それはまるで小さな猫のような仕草で、マイクロトフは思わず笑ってしまった。