行こうぜ


長く続いた戦いは、同盟軍の勝利という形で幕を下ろした。


「終わったなぁ」
どこかしみじみとした口調で、ビクトールがつぶやく。
勝利の余韻はそこかしこに残っていた。けれど傷ついた兵も多く、ホウアンたちは今まで以上に忙しく動き回っていた。ビクトールたちもそれなりに怪我をしたが、幸いにも大事には至らず、フリックと二人、諸々の後片付けに奔走していた。
決着がついたといっても「じゃあお疲れさん」と解散になるわけではなく、むしろこれからの方が大変なのだと、今さらながらに実感している二人だった。
「もっと、こう…気が抜けるもんかと思ったが、案外とそうでもないな」
手にした酒を一口飲んで、フリックもまたしみじみという。
「まぁこの後始末が終われば、やることもなくなって、本当に気が抜けるかもしれねぇがな」
「後始末!まったくシュウのやつ、いつまで俺たちをこき使うつもりなんだろうな!」
「まったくだ、だがシュウのヤツがいねぇといろんなことが回らないのも事実だしな、何しろディランがいねぇ」
「ああ……」
同盟軍をここまで引っ張ってきた盟主のディランは、今はここにはいない。
どうしてもジョウイと会わなければならないと言って、彼は一人旅立ってしまった。敵として離れていた友と会って、彼がどうするのかは誰にも分からなかった。
「たぶん、ヤツは戻らねぇだろうな、ジョウイがいてもいなくても、あいつはここには戻らねぇよ」
「そう、かもな」
何も分からないながらも、必死に皆と戦っていたディランの心はいつも幼馴染みであるジョウイのところにあった。友情なのか愛情なのか、どちらにしても、彼は最後までジョウイのことを求めていた。
彼はきっともう戻らない。
「何だかなぁ、せっかくこうして縁があって集まった仲間なのに、また離れちまうのは寂しいよな」
フリックが大きく伸びをして嘆いた。そんなフリックにビクトールは薄く笑った。
フリックはもともとそんなことを口にするような男ではない。優しげな見掛けによらず、一人でも平気な男だし、こういう感傷的なことを言う男でもない。それでも思わず口にしてしまうのは、やはり同盟軍という場所の居心地のよさと、仲間たちとの親密さのせいだろうか。
今まで傭兵として生きてきたから、ひと所に留まり続けることなどできないことは十分わかっているのに、それでもできることならずっとここにいたいと思わせる何かが、ここにはある。
「で、どうするんだ?」
「何が?」
フリックがきょとんとビクトールを見る。
「何がってよ、戦いも終わったことだし、俺たちだっていつまでもここにいるわけにもいかねぇだろ」
いや、正確にはそうじゃない。
もし自分たちがここに留まりたいと言えば、恐らく皆暖かく迎え入れてくれるだろう。やっと闘いが終わったばかりで、これから国を治めていくということが始まる。そこにはこれまで以上の苦難もある。自分たちが力になれることもまだあるだろう。けれど……。
「これから必要とされるのは、武力じゃないからな、俺たちの役目も終わりだろ」
フリックがさらりと言う。
これからは剣の力ではなく、人と人の繋がりで、国を治めていくのだ。
フリックは頬杖をついたまま、ぼんやりとこれからのことを思った。
けれど何も浮かばない。今はただ、一つのことをやり遂げたという充実感しかない。ただ言えるのは、解放戦争が終わった時、今とはまったく違うということだ。あの時は、勝利したという充実感よりもオデッサを亡くしたという後悔の方が重く心に圧し掛かっていた。今は違う。もちろんすべてが上手くいったわけではないけれど、それでも不思議と心は穏やかだ。
「フリック」
「うん?」
「お前、ここに残るか?」
「はぁ?お前、今言ったばかりじゃねぇか、いつまでもここにいるわけにはいかないって」
「じゃあ戻るか?戦士の村に」
「あー。そうだなぁ……」
面倒だなぁとありありとその顔に浮かべてフリックは溜息をつく。
「まぁ一度くらい戻ってもいいけど、一度戻ると出られなくなりそうだしなぁ、てか、戻っても何もすることないしなぁ」
「成人式だろうが」
「成人の儀式だ!」
どっちでも同じじゃねえか、とビクトールがからからと笑う。そんなビクトールに舌を鳴らして、フリックは酒を煽った。
「ま、どうせすることがねぇんなら一緒に行こうぜ」
ちょっとそこまで買物にでも、というようなあっさりとした口振りに、フリックは一瞬瞠目して、そして苦笑した。
「何だよ、何がおかしいんだよ」
「いや、そんなこと、今さら改まって言うことじゃないだろ」
「そうか?」
「ああ」
一緒に行こうだなんて、そんなこと当たり前すぎて口にすることじゃない。そう言うフリックに、ビクトールは嬉しそうに目を細める。ああ、もう離れることはないんだなと思えることが嬉しかった。一緒にいることが当たり前のことだと思うフリックが嬉しかった。
「で、どこへ行くんだよ?」
フリックの質問にビクトールは肩をすくめた。
「いやそれはまだ決めてない」
「お前は!ぜんぜん計画性ってもんがねぇなっ!」
「お前こそたまには考えてみたらどうだっ」
どこへでも行ける。
どこへとか、いつまでとか、そんなことは決める必要はなくて。
一緒ならきっとどこででも生きていける。
そう思える幸せがここにある。



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