<早朝訓練>
マイクロトフは青騎士団の中では誰よりも早く起きて、早朝訓練に参加するのを日課にしていた。前の夜、どれほど酒を飲んで遅くに眠っても、不思議なもので、毎朝同じ時間にちゃんと目が覚める。
その朝も、マイクロトフは時間になると自然に目が覚めた。
「……朝か……」
頬に触れる空気は冷たい。
マチルダの冬は雪深く、朝の冷え込みも半端じゃない。しかし、マイクロトフは生まれも育ちもマチルダで、幼い頃からこの寒さには慣れている。冷たい空気は身も心もしゃきっとしてくれる気がして、マイクロトフは嫌いではない。
勢いよく上体を起こし、ベッドから抜け出そうとしたマイクロトフは、ふいに引きとめられたような気がして振り返った。
「………カミュー」
未だベッドの中、暖かな毛布に鼻先までくるまっているカミューが、マイクロトフのシャツの端を握ったまま眠っていた。
昨夜、さんざんじゃれあって、そのままカミューはマイクロトフのベッドで眠りについた。翌日は休みなどではなかったが、深夜になって自室へ戻り、冷たいベッドで寝るのは嫌だとカミューが言い張ったのだ。
幸いなことに団長職についてからは大人二人が十分眠れるほどの広いベッドを与えられていたので、それは少しも苦にはならない。もっとも、狭いベッドであったとしても、マイクロトフには苦になろうはずもないのだが。
「カミュー、すまんな……」
幼子のようにぎゅっとシャツを握り締めているカミューを愛しいと思うものの、このままではベッドから抜け出すことができない。
マイクロトフは彼を起こさないように注意を払いながら、白い指先を一本ずつ外そうと試みた。
「ん……」
眠りの深いカミューは、何やらむずがるように唸るものの起きる気配は見せない。おまけに固く握り締めた指も離れそうにない。
「弱った……」
しばらく孤軍奮闘していたマイクロトフは、やがてがっくりと項垂れた。
「あれ……?」
執務に間に合うぎりぎりの時間に目覚めたカミューは、傍らに恋人の姿があることに気づいて、心底驚いた。枕元の時計を見て、次に彼の顔を見る。
「マイクロトフ……どうしたんだ……早朝訓練は?」
「………行けなかった」
むすっと答えるマイクロトフは、シャツの裾を持ち上げた。カミューがまだ握り締めたままのシャツ。
「お前が離してくれなかったからな」
「…………」
カミューは何度か瞬きを繰り返したあと、ぷっと吹き出した。
「あはは、お前ってやつはおかしいな」
「な、何を笑っているんだ!お前のおかげで俺は理由もなく訓練を休むことになってしまったんだぞ!」
「私を怒るのはお門違いだよ。だって、お前の手を握りしめていたわけでもあるまいし、さっさとシャツを脱げばいいだけのことだろう?」
「……っ!!!!!」
その事実にマイクロトフは開いた口が塞がらなかった。そうだった。シャツなど脱ぎ捨ててしまえばよかったのだ。
「マイクロトフ、お前ってやつは……」
「……うるさい!」
真っ赤になって怒鳴るものの、迫力などあろうはずもなく、カミューはしばらく笑いを止めることはできなかった。
早朝訓練を無断欠勤した青騎士団長が、その日一日不機嫌だった理由を知るものは、カミュー以外にはいない。