ジェラシー 「だから、俺にはどうしてもあんたが何を考えてるか分からないんだよな」 ビクトールがまじまじと目の前のハンフリーを眺める。 「何がだ?」 「だぁかぁらぁ、どうして、そんなに平気な面してられるのかってことだよ」 だん、とビールジョッキをテーブルに置く。 夜の10時を過ぎて、ますますレオナの営む酒場は盛り上がりを見せていた。そんな中で、店の隅の、このテーブルは、いつになく大人しく(?)盛り上がっていた。 メンバーはビクトール、フリック、ハンフリーという同盟軍の中核となるメンバーで、おまけにこの3人は3年前の解放戦争の時からの長い付き合いでもある。 「あんた、シーナのことを本気で好きなんだよな?」 「ビクトール、そういう言い方はハンフリーに失礼だろ」 フリックが眉をしかめて、ビクトールをたしなめる。そんなフリックにはおかまいなしに、なおもビクトールは首を捻って、ハンフリーに質問を続ける。 「だってよ、俺だったら絶対に我慢できないけどな。何だってそんな平気な顔できるんだよ」 「……お前と違って我慢強い方なのでな」 ち、っとビクトールが舌打ちをする。 話の発端はこうだ。ハンフリーとシーナが恋仲になって、もう3ヶ月がたつ。正直いって、周りの誰もが驚いた。城中がひっくり返るくらいに驚いたのだ。何しろ、シーナと言えば、どうしようもない遊び人で有名だったからだ。 女たらしで、女だけでは飽き足らず男とも平気で関係を持っていた。誰とも本気で付き合わないことを信条としていたし、誰もがそれももっともだと思っていた。 何しろシーナの浮気性は絶対に治らないだろうと誰もが思っていたのだ。 それなのに! あのハンフリーが!あのお堅いハンフリーがどうしてシーナを選んだのか。シーナにしても、いったい何が良くてハンフリーを選んだのかが誰にも理解できない。 まぁそれはいいとしよう。ビクトールが分からないといっているのはそれとはまた別のことなのだ。 ハンフリーという恋人ができたというのに、シーナの遊び癖はまだ治らない。しょっちゅう女の子に声をかけては浮名を流しているのだ。そしてハンフリーはそれについて何も言わない。言わないどころか、シーナのことを怒りもしない。ビクトールにはそれが信じられないのだ。 「お前、ほんとに平気なのか?シーナが誰かと、その…」 さすがのビクトールも口にするのが憚られたのか口ごもる。シーナは色っぽい。お子ちゃまにはぜんぜん興味のないビクトールでさえ、時々シーナの色香に迷いそうになる。そんなシーナを男どもが放っておくとは思えないのだ。 今だって、こうしてハンフリーを放ったらかして、遊びに出かけている。どこで誰と何してるかわかったもんじゃない。しかし、さすがにそれをハンフリーに言うのはまずいだろう。 「まぁ、お前の言いたいことも分かるが、あいつが俺の言うことを素直にきくタマだと思うか?」 グラスを持ち上げてハンフリーが小さく笑う。 「確かにな。あのじゃじゃ馬にゃあ何言ったって無駄だろうな」 ビクトールがやれやれと肩をすくめる。 「でもよ、あんまり甘えさせてると、あいつどんどんいい気になるぞ」 「ふふ、そうだな」 ビクトールの脅しにも、ハンフリーは動じない。 フリックはそんなハンフリーを不思議な思いで見つめていた。ハンフリーはもうずっと昔からの友人だ。いつも、どんな時でも彼は優しかった。恋人が死んだ時も、その苦しさから逃れたくて自暴自棄になった時も、そしてビクトールとのことで悩んだ時も、ハンフリーはいつでもフリックの味方でいてくれた。ハンフリーの強さも優しさも、自分が一番に知っているつもりだった。ハンフリーには幸せになって欲しかった。 ハンフリーがシーナを選んだことは、フリックにとっても青天の霹靂ではあったが、結果的には良かったのではないかと思っている。ビクトールが何と言おうと、二人はお似合いだと思っている。 「えっと、で、肝心のシーナは今どこにいるんだ?」 フリックがハンフリーに聞く。 「さあな。クスクスか、ラダトか…、そのあたりだろう」 「それはあんまり冷たいんじゃないのか?」 フリックがつぶやく。 「ん?」 「だってさ、俺だったら、そんな風に突き放されたら、ちょっと傷つくかもしれないなと思って…」 ビクトールとハンフリーが無言でフリックを見る。その視線に気づいて、フリックははっと我に返った。 「ち、違うからな。別に俺は…」 「はいはい、心配しなくても、俺はお前を突き放したりしねぇから安心しな」 ビクトールがにやにやと笑ってフリックの肩を抱く。 「だからっ、違うって言ってるだろ!!」 真っ赤になって叫ぶフリックがよけいに可愛く見えて、ビクトールはフリックを強く抱き寄せ、その頬にキスをした。 「〜〜〜!!!!」 フリックがオデッサに手をかけたその時、 「ハンフリー見っけ!!」 突如後ろから甘えた声がして、その場にいた全員が振り返った。今まで噂をしていたシーナ本人が立っていた。ハンフリーの後ろから、首に両手を回して抱きしめている。幸せこの上ない笑顔。少し酒が入っているのだろう、上気した頬は薔薇色で、赤い唇がどうにも色っぽい。 「ったく、いつもいつも女っ気のない連中だよなぁ、情けないったらありゃしない」 シーナの台詞にビクトールがむっとしたように眉を吊り上げる。 「おいおい、俺だってその気になれば…」 「その気になれば何なんだ?」 フリックの冷たい声に、ビクトールは、いや、と口をつぐむ。 「どうした、ずいぶん早い帰りじゃないか」 ハンフリーがシーナの腕をほどいて、隣に座らせる。 「う〜ん、だってさ可愛い子いなかったしさ。クスクスの酒場で声かけてきた男におごらせるだけおごらせて帰ってきた」 「うわ、鬼畜」 ビクトールがうんざりとつぶやく。相手はさぞかし、下心があったことだろう。よくまぁ無事で帰ってこれたことだと感心する。もっとも、こう見えてシーナはなかなか腕がたつのだが。 「疲れたから部屋に戻る。ハンフリーは?」 「ああ、じゃあな、フリック。明日は戦闘だろ?遅くならないうちに寝ろよ」 「分かってる。おやすみ。シーナも、おやすみ」 「うん。じゃあ」 シーナはひらひらと手を振って席をたつ。ハンフリーがそのあとを追うようにして立ち上がった。 酒場を出て行った二人を見送って、ビクトールは大きくため息をつく。 「しっかし、恋は盲目とはよく言ったもんだ。あのハンフリーがシーナの言いなりだもんな」 「言いなりじゃあないだろ」 「あん?」 「ハンフリーは振り回されてるわけじゃない。やらせたいようにさせてるだけさ。言いなりじゃなくて、手のひらで遊ばせてるんじゃないかな。あいつはそれができるやつだから」 「―――――」 「何だ?」 「お前、ハンフリーのことはほんとよく分かってるようだな」 ビクトールが不機嫌そのもの、といった顔でフリックを睨む。それがおかしくて、フリックは吹き出した。 「なに言ってんだ。さ、もう帰ろうぜ。お前も明日早いだろ」 「言っておくけど、お前は俺のもんだからな」 フリックは困ったように小さく笑った。 部屋までの帰り道、シーナはハンフリーの腕をつかんで、ゆっくりゆっくり歩いた。城はすでに眠りについていて、酒場から遠ざかると辺りは本当に物音一つしなかった。 「なぁ、ちょっとだけ散歩しよう」 シーナが蕩けそうな笑顔でハンフリーを見上げる。誰もがこの笑顔には目を奪われる。ハンフリーだとて、それは例外ではなかった。シーナのおねだりを拒むと、あとあとが面倒だという思いもあるし、シーナのおねだりなら何でも叶えてやろうという気もする。 「こんな夜にどこに行くというんだ?」 「ちょっとだけ外を歩こう。星がすっごく綺麗だったから。一緒に見よ」 シーナが早く早くとハンフリーを引っ張って表へと出た。外は涼しくて、ハンフリーの酔いは一気に醒めた。シーナの言う通り夜空には星がこぼれそうなほど瞬いていた。シーナに手を引かれて、庭にある池のほとりに腰をおろす。 ほぉっと息を吐いて、シーナが夜空を見上げる。 「な、すごいだろ。クスクスからの帰り道、ずっと上見てた」 「あんまり遅くまで出歩くな。最近はこのあたりにもけっこう強いモンスターが出る」 「大丈夫大丈夫。俺、こう見えてもけっこう強いじゃん」 あっけらかんとしたシーナの言い分に、ハンフリーは黙り込む。本当はモンスターよりも、よからぬ妄想を抱いた強姦魔が出るのが一番不安なのだ。とは口が裂けても言えないハンフリーである。 しばらく二人で夜空を見上げていたが、急にシーナがきゅっとハンフリーの肩先を掴むと、腰を浮かして唇を寄せた。軽く触れるだけのキスをしてにっこりと笑う。 「俺がクスクスからの帰り道、何考えてたか分かる?」 「いや」 「あんたに早く会いたいなって。早く会ってキスをして、抱いて欲しいなって」 その言葉が終わらないうちに、ハンフリーはきつくシーナを抱き寄せ、唇を奪った。濡れた音をたてて舌がからまる。 もどかしそうにシーナがハンフリーの首に腕をまわす。 「ん…」 なおも追ってくるハンフリーを制してシーナが立ち上がる。 「部屋に戻ろう。うんとイヤらしいことしよう」 にっこりと笑ったその顔だけで、ハンフリーを狂わせるには十分だった。 部屋中が甘い吐息で充満していた。 「んっ…ん…」 ベッドの上に上半身を起こして身を横たえたハンフリーの足の間にシーナが顔を埋めている。 部屋に入ったとたん、シーナはシャツを脱ぎ捨て、ハンフリーをベッドへと押し倒した。ひとしきりの激しいキスのあと、ハンフリーのズボンのチャックをおろし、何のためらいもなく、その昂ぶりに舌を這わせた。 ほんの少し舐めあげただけで、ハンフリーのものは堅く勃ちあがった。まるで大事な宝物を愛しむかのように、シーナは指を使い、舌を絡める。 「ふ…」 ハンフリーはシーナの髪に指をからませる。そして強く腰を突き上げた。 「んぐっ…!」 「ほら、もっと舌を使え」 喉の奥まで突き入れられ、あまりの息苦しさにシーナは涙ぐんだ。ずんずんと突き上げられ、それでも必死で舌を動かす。含みきれない唾液と、ハンフリーの先走りの液がシーナの口の端から零れ落ちる。ぴちゃぴちゃと淫猥な音が耳について、シーナは知らないうちに腰を揺らし始めていた。 そんなシーナの姿にハンフリーは下半身をさらに熱くさせた。上下するシーナの頭を両手でつかむと足の間から無理矢理離した。 「な、に?」 シーナは頬を上気させ、目を潤ませてハンフリーを見つめる。濡れた赤い唇をペロリと舌で舐める。 「横になれ」 言うよりも早く、ハンフリーはシーナをベッドに倒し、その濡れた唇を塞いだ。右手をシーナの足の間に差し入れ、震えるシーナのそれにからめた。 「何だ、もうこんなに濡らしてるのか?」 ゆっくりと上下に指を動かす。 ハンフリーの首筋に顔を埋めて声を殺そうとするシーナの熱い吐息が、ハンフリーの指の動きを激しくさせる。 「ん…っ…ああっ…や、め…」 びくびくとシーナが身体を震わせる。もうすでにシーナのそこは痛いくらいに反り返っていて、ハンフリーから与えられる刺激にしとどに濡れていた。ぬるぬると先から零れ続ける液体にハンフリーは指をからめ、足の狭間からそっと後ろの蕾へと滑らせる。 「あっ…うぅ…」 ゆっくりとハンフリーの指がシーナの中へと埋め込まれていく。その充足感にシーナは身を捩った。ゆるゆると抜き差しが繰り返され、やがて指は二本に増やされた。 「待っ…って、や…」 「どうした?」 ハンフリーはシーナの唇を塞ぎ、きつく舌をからませた。その間にもハンフリーは指でシーナの最奥を探る。 「も、イきたい。一回イかせて…」 焦らされるように花芯をいじられ、そのあと後ろに指を入れられ、それでもイかせてもらえず、シーナはもう我慢できなくなっていた。シーナの指が自分の花芯へと伸びる。これ以上焦らされてはどうにかなりそうだ。これ以上ハンフリーがぐずぐずと悪戯に快楽を先延ばしするのなら、自分でさっさと一度達してしまおうと思った。しかし、ハンフリーはそれを許すつもりはなかった。すばやくシーナの手をつかみあげる。 「ひど…っ…」 「自分だけ先にイクつもりか?」 グチュと淫らな音を立てて、ハンフリーが指を抜いた。 シーナの膝の裏に腕をかけ、ぐいと大きく広げる。圧し掛かる重みと、これから訪れるであろう圧迫感にシーナは身を震わせた。 猛ったハンフリーのものが一息にシーナの蕾を貫く。 「−−−!!はぁ…あっ…!」 あまりの衝撃にシーナは思わず両手を伸ばしてハンフリーの背中をきつく掴んだ。ず、ず、とハンフリーが抜き差しを始める。初めは緩やかに、そしてだんだん早く、シーナの中を犯していく。 「ん…んあ…あぁ…っああ…」 目の前の快楽を見逃すつもりなどまるでないシーナはあっさりとその精を放った。白濁とした液がハンフリーの下腹に飛び散る。 「ったく、こらえ性のない…」 ハンフリーは舌打ちすると、脱力したシーナの身体をさらに抱えあげ激しく突き上げを開始した。繋がった部分がびくびくと収縮を繰り返す。シーナは再び身体の奥から耐えがたい快感が湧きあがるのを感じた。こうして何度ハンフリーと肌を重ねても、決して飽きることがない。もっと、もっと、と先をねだってしまう。そしてそれはハンフリーも同じことだった。何度シーナを抱いても、捕まえられないような気がしてしまう。 「いや…あっ…ん…」 噛み付くようなキスと、狂ったように打ち付けてくるハンフリーの突き上げに、シーナの目から涙が零れる。自らも腰を揺らし、ハンフリー自身の解放へ向けてリズムを合わせる。 「あ、あ、いい…、ハンフ…」 濡れたシーナの喘ぎ声に限界が訪れた。 どくんとシーナの最奥でハンフリーが熱い迸りを放つ。二、三度軽く突き上げ、残り全てをシーナの中に吐き出し、ハンフリーはゆっくりと己の猛りを引き抜き、汗ばんた体をシーナの上に横たえた。 「ふ…」 シーナはそっとハンフリーの体を抱きしめる。離したくない。このぬくもりを離したくない。シーナは引き込まれていく眠気の中で、そう思った。 冷たい空気に、シーナはふと目を開けた。 「起こしたか?」 窓の外から入ってきた夜の空気が先ほどまでの情事のあとを綺麗に流してくれたようだった。 ぱたんと音をたてて、ハンフリーが窓を閉めた。ベッドに戻ってシーナの横に座る。 「なぁ、俺が外で遊ぶの、気になる?」 「何だ、突然に」 ハンフリーが小さく笑いシーナの髪を撫でる。やわらかい髪に指をからめる。 城中の連中がシーナの遊び癖をよく思っていないのは分かっている。特にハンフリーとの仲を知っている者はなおさらシーナの行動を責める。 けれど、ハンフリーは何も言わない。それが優しさからなのか、それともシーナのことをそこまで好きじゃないからなのか、シーナには分からない。それを聞くのがずっと怖かったのだ。 「なぁ、俺、外で浮気なんてしてないから…」 「どうした?寝ぼけてるのか?」 「うん…、眠たい…」 ハンフリーがそっとシーナの閉じかけた瞼にキスをする。 「ちゃんと…分かってる?…」 シーナが不満そうにつぶやく。しかし、すぐに睡魔に襲われ再び眠りに落ちていく。 ハンフリーはそんなシーナに小さく笑った。 「ちゃんと分かってるから、何も心配しなくていい」 どうして平気な顔をしてられるのか、とビクトールは言った。 別に平気なわけじゃない。シーナが誰かといるだけで不機嫌になってしまう自分がいることに気づいている。けれど、そんな自分の醜いジェラシーでシーナを縛り付けたくはないのだ。 気まぐれで、自由にしたいことをしているシーナのことが好きだから。 ただそれだけだ。 「愛してるから」 ハンフリーの囁きはシーナには届かない。 |