You are mine  3


 普段火の入らない部屋は薄ら寒くて、さすがのフリックもシーナに部屋を譲ったことを、ちょっとばかり後悔していた。
「う〜寒い…。酔いもすっかり醒めちまったぜ」
 フリックがベッドの上で膝を抱えて思わずつぶやいた。
 そんなに寒いか?とビクトールは上半身裸のままで聞き返す。
「なぁ、何か酒ないか?このままじゃ眠れそうにない」
「酒ぇ?お前、まだ飲むつもりか?」
 フリックの言葉に呆れたようにビクトールが笑う。今日だってかなりのアルコールが入っているはずなのだ。アル中扱いをされたフリックはむっとしたように唇を尖らせた。
「だから全部醒めちまったんだって」
「はいはい。酒なぁ、この前あったのは、全部飲んじまったからな。どうしても飲みたいってんなら、買ってくるぜ?」
「そうしてくれ」
 フリックはほっとしたように、毛布を首元まで引き上げた。特に寒がりだとは思わないが、どうも今夜は冷える。一杯ひっかけないと眠れそうにない。ビクトールはそんなフリックににんまりと笑った。
「フリック、寒いんなら、酒なんかじゃなくて俺が……」
「さっさと行け」
 フリックがむっつりと言い捨てる。
 ビクトールはぶつぶつと文句を言いながらも、フリックを部屋に残して廊下に出た。仕方がない。愛するフリックのために、フリックの好きな種類の酒でも買ってやるか、と思いつつ歩き出すと、ちょうど前からやってきたハンフリーとぶつかった。
「ハンフリー、てめぇ、いい加減貸しが大きくなってきてるぜ」
 ビクトールが苦笑しつつハンフリーの肩を叩く。
「シーナのことか?」
「ったりめぇだ。お前のお姫さん、フリックの部屋にいるぜ」
 くいっと親指で目の前の扉を指さすビクトールに、ハンフリーは無言のままうなづいた。
「迷惑かけたな」
「まったくだ。さっさと仲直りしてフリックに暖かい部屋を返してやってくれ」
 笑いながらビクトールが歩き出す。だが、何かを思い出したかのように足を止め、振り返った。
「旦那、一晩部屋貸すくらいはいいけどよ、隣に俺たちがいるのを忘れんなよ、この城の壁はけっこう薄いぜ」
「…………」
 ニヤニヤと笑いながら、ビクトールは階段を下りていった。
 ハンフリーはどうしたものか、と考えた。
 ブライトの様子が落ち着くと、フッチは大丈夫だからと強く言い、半ば無理矢理部屋を追い出されたのだ。すでに深夜。さすがにシーナのことは気になっていたので、思いつく場所をそれとなく覗いたりしていたのだが、まさかフリックのところにいるとは思わなかった。
 居場所は分かった。
 目の前の扉を開ければ、そこにシーナはいる。
 そして話さなければいけないことがある。
 ハンフリーは小さく溜息をつき、扉に手を伸ばした。
 

 ベッドの上で丸くなってシーナは眠っていた。
 薄い毛布に包まり、あどけない顔ですやすやと眠っている姿に、ハンフリーは思わず微笑んだ。起こす必要もないかと思い、その身体に上掛けをかけてやろうとした時、唐突にシーナが目を開けた。ハンフリーは驚いて手を止めた。
「………起こしたか?」
「………なに…?」
 シーナは何故目の前にハンフリーがいるのか分からないらしく、ぼーっとしていた。小さな子供のようなその様子に、ハンフリーは苦笑した。
「寝ろ。起こして悪かった」
 ハンフリーがシーナの前髪をかきあげ、そして柔らかい頬を撫でる。
 すると、シーナは寝惚けているのか、右手を振り上げ、ぱふっとハンフリーの鳩尾のあたりを殴った。殴るというよりは叩くといった方が正しいか。何度か殴られ、ハンフリーがその細い手首を掴んだとたん、シーナはぼろぼろと涙を流した。
 あまりにも突然のことに、ハンフリーはぎょっとした。
「おい……前触れなく泣くな…驚くだろう」
 ハンフリーはぐいっとシーナの濡れた頬を拭うと、ベッドに腰かけた。
「何でここにいるの?」
「……俺はお前の恋人なんだろう?」
 うん、とシーナは寝ぼけたままうなづく。ごしごしと目元を擦って起き上がると、やっと我に返ったのか、シーナはむっとした顔でハンフリーを睨んだ。
「フッチは?ブライトはどうだったの?」
「ブライトはホウアンが診てくれた。もう大丈夫だろう」
「あ、よかった」
 その言葉には嘘はなく、シーナはほっとしたように微笑んだ。
 そして膝を抱えると、上目遣いにハンフリーを見た。
「………怒ってる?」
「………」
「もう、俺のこと嫌いになった?」
 ハンフリーは無言のまま手の甲でシーナの左頬を軽く撫でた。
「痛かったか?」
「当たり前だろ。自慢の顔が歪んだらどうしてくれんだよ」
 シーナは憮然とする。
 もっとも、ハンフリーが本気で殴ってないことは分かっていた。派手な音はしたが、たいして痛くもなかったからだ。だけど殴られるなんて思ってもみなかったので、ちょっとショックだったのだ。今までさんざん我儘を言ってきたけど、殴られたことなんてなかった。それなのに、フッチのことが絡むと手を上げるのか、と思うと無性に腹が立ったのだ。
「謝らないからな」
「………」
「あんたが俺のこと置き去りにして誰かのところに行くのを見るのは嫌だ。あんたが俺の知らないところで、誰かに優しくするのは絶対嫌だ。あんたに……俺よりも別格がいるのは一番嫌だ」
「別格?」
「あんたにとってフリックもフッチも別格だろ。すごく大切で、俺よりも優先させちゃうんだ。そんなのずるいよっ。俺のこと恋人だなんて言っておきながら、俺よりもそっちを大事にするのはずるいっ」
「………」
 黙って聞いているハンフリーにシーナは膝を崩して、身を乗り出した。
「ずるいよ……」
 また、ぱたっと一粒涙が零れた。
 あ〜あ、とシーナは内心溜息をつく。
 最近、涙腺が緩みっぱなしだ。つまらないことですぐに涙が出る。それは決まってハンフリーがらみの時だけだ。いったいどうなっちゃったんだろう。いったいどうなっちゃうんだろう?シーナはぐいぐいとシャツの袖口で頬を拭い、ずずっと鼻をすすった。
「お前……支離滅裂だな」
「分かってる。ちゃんと分かってる。あんなこと言うつもりじゃなかったんだ。フッチが困ってるのもちゃんと分かってたし、あんたの助けが必要だってことも分かってる。一緒についててやるのが正しいことも分かってる。でも……嫌なんだ」
「………シーナ、ちゃんと俺にも分かるように話してくれ」
 ハンフリーの言葉に、シーナは大声で怒鳴った。
「あんたこそっ!あんたの方こそ、俺にちゃんと話してよっ!俺が聞きたいのは誰もが納得するような、綺麗な言葉じゃないっ!正しいことが何なのかとか、今すべきことが何なのかなんて知りたいわけじゃないんだ。俺が知りたいのは、あんたの気持ちなんだよっ。あんたが俺のことどう思ってるのか、ちゃんと知りたい。それだけだ。俺、あんたみたいに大人じゃないから、ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよっ。あんたの口から、あんたの言葉で教えてよ。大人の理屈じゃなくて、俺にはちゃんと感情で話してよっ!」
 大きく肩で息をつき、シーナはハンフリーを見上げる。
 そんなシーナに目を細め、ハンフリーはゆっくりと言った。
「俺はお前を愛している」
「………」
 それは絶対にハンフリーの口からは出ないだろうと思っていた言葉だったので、シーナは咄嗟にその意味を理解することができなかった。
 しかし、その言葉の意味が分かったとたん、火がついたように顔が熱くなった。
「な、な、何だよっ、突然っ!!あんた、どうかしちゃったんじゃないのか?!」
 首から耳朶まで真っ赤にしたシーナが思わず後ずさりながら、しどろもどろに叫ぶ。
「何故そんなにうろたえる?」
「あ、当たり前だろ!!いきなりそんな……っ」
 絶対に、ハンフリーは常識的じゃない。
 いつもいつも自分のことを行動が突拍子もない、などと言うけれど、絶対にハンフリーの方が普通じゃない。シーナは両手で熱くなった頬を押さえた。
 ハンフリーはそんなシーナを不思議なものでも見るように見つめる。
「お前が「感情」で話せというから話しただけだ」
「……なに?」
 シーナが聞き返すと、ハンフリーは真顔で言った。
「『お前を愛している』それが俺の気持ちだ。行動とは別のところにある俺の真実だ。俺はお前のように、思っていることを口にするのは苦手だ。だが、何も考えていないわけじゃない」
「………」
 ハンフリーは不機嫌そうに小さく溜息をついた。
「分からないか?俺がお前のことをどう思っているか。毎日嫌というほど一緒にいて、それでもまだ感じないか?毎晩お前を抱いてもまだ足りないか?俺がお前以外の誰とも話さなければ、それで安心できるのか?どうしても言葉で確かめなければ、お前は不安なのか?」
「………」
「シーナ」
 ハンフリーの指がシーナの頬に触れる。包み込むように耳元をくすぐる。
「シーナ、言葉なんて欲しければいくらでもやれるが、気持ちは簡単にはやることはできないんだぞ。愛してるなんて、口にすればするほど薄っぺらいものになるような気がするのは俺だけか?」
 ゆるゆるとシーナは首を横に振る。
「一度しか言わないから、ちゃんと聞け。俺はお前のことを愛している。それだけだ」
「………っ」
 大きくしゃくり上げて、シーナは涙を溢れさせた。
 ハンフリーの胸に顔を押し付け、必死で声を殺す。
 薄い背中を、ハンフリーが抱きしめた。
 ハンフリーの言うように、言葉なんてたいして重要なものではないのかもしれない。思っていないことでもいくらでも言えるけど。それでも、ハンフリーの一言は、こんなにも心を満たしてくれる。
 それは、ハンフリーが口にすることは絶対に嘘じゃないからだ。
 嘘じゃない。
 嬉しくて涙が出るなんて初めてだった。
 こんな気持ちは、今まで誰もくれなかった。
 一度でいい。
 一度だけでよかった。
 それを今、ハンフリーがくれた。
「シーナ、まさかとは思うが、フッチにヤキモチを妬いていたのか?」
「妬いてたよ。当たり前だろ」
「馬鹿だな」
 ハンフリーの唇がシーナのこめかみをかすめた。顔を上げると、ハンフリーが小さく笑った。涙で濡れた頬を拭い、額に、瞼に、頬にくちづけを繰り返す。
 シーナが焦れたように、首を振った。
「嫌だ、ちゃんとキスして。唇に。仲直りのキス」
 顔を上向かせ、ハンフリーはシーナの希望通り唇を重ねた。軽く音を立て、より深くお互いの熱を交わせるように角度を変える。
 唇が離れると、シーナはもういつものシーナだった。
 いたずらっぽい瞳でハンフリーを見つめる。
「じゃ、ついでだから、仲直りのえっちもして」
「………そういうものは、ついででするものじゃない」
 ちゃんとしたいからするものだ。
 ハンフリーが憮然とつぶやくと、シーナはどこか照れたように微笑んだ。



 唇が痺れるくらい、深くて長いキスを交わした。
 注がれる唾液を何度も飲み込み、息をする暇もなく、もっと、と求めた。
 熱い舌先が絡み合うと、それだけで身体の奥がじんわりと疼いてくるような気がして、シーナは投げ出した両手をハンフリーの背中へと回した。
「っ……」
 ハンフリーは片肘で身体を支えたまま、シーナのシャツの裾に手を差し入れ、胸の尖りを指先で探った。ぴくっと一瞬、シーナの身体が緊張したように跳ねた。けれど、すぐにハンフリーの愛撫に身を任せる。指の腹で押しつぶすようにして擦ると、焦れたようにシーナは小さく息を吐く。軽くつまみ上げると恨めしそうにハンフリーを見て、きゅっとシャツを掴んだ。
 肉の薄い、痩せた身体。
 少年でもなく、青年でもなく、シーナの身体はどこか中性的だ。何度抱いても、男でも女でもない、何か不思議なものを抱いているような気がする。
 ハンフリーは胸から腋、背中へと何度も手のひらで撫で上げた。
「んっ……」
 浮き上がった鎖骨のあたりから、首筋、耳の後ろへと唇を這わせると、次第に欲情していくシーナの身体から、何ともいえない甘い匂いが放たれた。それはいつもハンフリーの雄を駆り立てる。
 愛しくて、優しくしてやりたいという理性を簡単に捻じ伏せ、めちゃくちゃに乱れさせてみたいという欲望を暴き出す肌の香り。時として、それはシーナに涙を流させるほどの行為に及ばせることもある。それでも、シーナは一度としてハンフリーを拒絶したことはなかった。
 ハンフリーのすべてを暖かく包み込み、愉悦に身を任せる。
 それがなおさら愛しい。
「シーナ………」
 耳元で囁かれた低い呼びかけに、シーナは薄く目を開けると、微かに笑った。
 ハンフリーは少し乱暴にシーナの腰の下に腕を回すと、上着はそのままに下衣だけをすべて取り払った。膝頭に手をかけ、両脚を左右に押し開こうとする。
「やっ……」
「嫌か?」
「………だって」
 少しも乱れていないハンフリーの着衣。下肢を露わにしているのは自分だけで、それが妙に羞恥を煽った。けれど、逆に興奮している自分がいることも否定できない。
「じっとしてろ」
 ハンフリーが膝を押さえていた手を内腿から花芯へと滑らせた。無骨な手がやんわりとそれを握りこむと、シーナは小さく息を飲んで両腕で顔を覆った。
 ゆっくりと根元から先端へと指で扱くと、すぐに堅く勃ち上がり蜜が零れる。軽く指の先で円を描くように先端をくすぐると、シーナは弾かれたようにハンフリーの肩を押した。
「んっ…あぁ…や…ぁだ…」
 ハンフリーが空いた手でシーナの顎を掴み、拒絶の言葉を封じ込めるように唇を重ねた。
 抵抗できないように強引に舌を捻じ込み、口腔を思う存分に蹂躙していく。シーナの意識が与えられるキスに向かうと、それを引き戻すかのように指の動きを早めた。とたんに溢れ出した大量の蜜がハンフリーの動きを滑らかにし、その感触にシーナは何度も苦しげに胸を喘がせた。
 もっと……と自然に腰が揺れるのを止めることができない。
「あっ……んふっ…出る…っ…」
 ハンフリーの胸に顔を押し付ける。びくっと身を震わせた瞬間、とろりとしたシーナの蜜がハンフリーの手を濡らした。放たれた蜜が手の中でぐちゅっと濡れた音をさせた。
「はぁ……ぅん…」
 シーナはくったりと身体の力を抜いた。
 熱い息がハンフリーのシャツを湿らせる。
 ハンフリーに触れられるだけで、こんなにあっけなく感じてしまう自分に呆れてしまう。今まで誰にもこんな風に感じたことはない。ハンフリーだけだ。気持ちよくて、死んじゃいたいくらいに感じるのは。それが嬉しい。嬉しいと感じることができて良かったと思う。
 ハンフリーが脱力したシーナの片足を胸につくほどに折り曲げた。
 圧し掛かるハンフリーの身体をシーナがやんわりと押し返し、その目を覗き込む。
「痛いのはヤだ……」
「……いつも優しくしてるだろう」
「嘘ばっかり……」
 くすっと笑ったシーナを懲らしめるかのように、ハンフリーが最奥へと、たった今放たれた蜜で濡れた指を潜り込ませた。
「んっ……ぁあ…!」
 ゆっくりと、けれど確実に奥へと進んでは引き戻す。数回繰り返して、ハンフリーは指を増やした。痛いほどに締め付けていた蕾は、慣れたその感触を簡単に飲み込み、やがて蕩けていく。
 熱い内壁の奥にある一点を刺激すると、シーナはひくりと喉を鳴らして、きつく目を瞑った。
 指を折り曲げ、何度かきつく擦り上げると、耐えられないとばかりに声を上げる。
 シーナの身体の何もかもを知り尽くしているハンフリーは、止むことなく弱いところを攻めたてる。
 いつもよりも敏感な身体。
 思い切り泣かせてみたいと、何故かそんな気になった。
「っあ……うっ…や…ぁ…」
 くちゅっと音を立てて、ハンフリーが抜き差しを早くする。無意識のうちに閉じようとするシーナの膝を手のひらで押し返し、目の前の白い腿の内側に唇を近づけ、噛み付くようにして吸い上げた。
「ひゃ……ぁ…!!」
 びくん、とシーナがつま先を硬直させ、ハンフリーのシャツをぎゅっと握り締めた。
 唇から零れ落ちる吐息は快楽で染まり、白い肌が薄っすらと汗で濡れていく。過ぎる快感にシーナは意識が朦朧としていく気がして、何度も短い息を繰り返した。
 どれくらい指での愛撫に耐えていたか。ほろりと頬を涙が伝う頃になってやっと、シーナはハンフリーが下衣をくつろげる気配を感じた。
「……はや…っく…もぅ……」
 満たして欲しい。
 うんと奥まで。
 シーナはガマンしきれず、ハンフリーの身体を引き寄せた。
 十分に解れた蕾に、ひたりと熱い昂ぶりを感じた次の瞬間、シーナは押し入ってきたハンフリーの熱に大きく身を仰け反らせた。
「はあっ…ああぁ…っ!!んっ…っ……」
「シーナ……力を抜け…」
「ぁは……っ…く…」
 無意識のうちにずり上がろうとするシーナの肩を両手で押さえ込み、ハンフリーは数回突き上げると、そのすべてを飲み込ませた。ねっとりと暖かな内部の締め付けに、すぐにでも動き出したいのを堪え、ハンフリーはシーナの唇に軽くキスをした。
「シーナ…」
「んぅ…きつ…い…ああっ……」
「シーナ……締めつけてみろ…」
「な、に…?」
 シーナが涙で潤んだ目を大きく見開く。
「できるだろう……に力を入れて…締めつけてみろ」
「嫌……っ…」
「やってみろ……」
 ハンフリーがシーナの柔らかな耳朶を舐め上げる。根元まで埋め込んだまま、少しも動こうとしないハンフリーにシーナが切ない吐息をついた。
 意地の悪いハンフリーの言葉。行為自体が嫌なわけじゃない。ただもうガマンできないだけだ。身の内で脈打つ昂ぶりをもっと感じたいだけなのに…。
 シーナは諦めて下腹部に力を入れた。息を止めて、ハンフリーを飲み込んだ部分をきつく締め上げてみる。力を入れた分、ありありとその大きさを感じて、シーナは今さらながらに羞恥に頬を染め、唇を噛んだ。
 ハンフリーは痛いほどに自身にまとわりつくシーナの熱に眉をしかめ、耳元でさらに囁いた。
「緩めろ……」
「ぅん……はぁ……」
 弛緩する身体。
「もう一度だ……」
 促されるままに、シーナは収縮を繰り返した。その度に、くちゅっと粘着質な音がして、ハンフリーの先走りが中から溢れ出す。緩く、きつく、数回締めつけると、どくっとハンフリーの雄が一段と大きくなり、シーナの中でその存在を誇示するのが分かった。
「シーナ……もう一度だ…」
「もう…無理…っ…動い、て…お願い……っ」
 叫び声と共にシーナはきつくハンフリーを締めつけた。
「くっ……」
 低く唸ると、ハンフリーは深く繋がったまま、乱暴にシーナの身体をうつ伏せにした。
 細い腰を両手で掴み、猛った自身で激しく奥を穿ち始める。今まで堪えていた分押さえがきかず、いつもよりも性急に抜き差しを繰り返す。
「ひぁ…っ…いた…っ…ああっ…!」
 枕に押し付けたシーナの唇から零れる悲鳴は、次第に艶を帯びてハンフリーの耳に届く。肌のぶつかる音が響く中で、シーナは与えられる快楽に身を震わせた。
「う……ううっ…んっ…んぅ…」
 するりとシーナの花芯をハンフリーの指が擦り上げた。触れられただけで、シーナのそれはぱたぱたと蜜を放ち、白いシーツに染みを作った。
「シーナ……」
「あっ……ん、ん、ああっ…!!やめ……」
 ぎりぎりまで引き抜き、一息に突き入れる。シーナの首筋に顔を埋め、ハンフリーは一層の激しく腰を打ちつけ始めた。
「いや……」
 シーナの細い叫びにハンフリーは我を忘れた。
 
 

 もぞもぞとハンフリーの胸に顔を埋めていたシーナは、器用に両腕をハンフリーの身体に回して、ぎゅっと抱きついた。叫びすぎて喉がからからだった。いったい、あれから何度身体を重ねたか。
 窓の外はすでに白み始めていた。身体中がきしきしと痛んだけれど、シーナはハンフリーの傍らで大きく深呼吸すると、うっとりと目を閉じた。
 情事のあとのハンフリーの匂いが好きだ。
 最中の、少し怯むくらいに欲情した雄の匂いもたまらなくシーナを煽るけれど、終わったあとの、満たされた男の柔らかな匂いはもっと好きだった。
 それはどちらもシーナのことを求めている印だから。
 しっとりと汗で濡れたシーナの背中を、ハンフリーの指先が優しく撫でた。
「あんた、今日は、すっげぇイヂワルだったな」
「そうか?」
「白々しい…くそっ……腰が痛くて起きられない…」
 シーナの悪態に、ハンフリーは低く笑うとシーナを両腕で包み込んだ。
「ハンフリー……」
「ん?」
「俺、大人になるから」
 シーナがふいにつぶやいた。
「俺、うんと大人になるから。ハンフリーに嫌われたりしないように、早く大人になるから。だから、それまで待ってて。俺のこと、見捨てたりしないで、待ってて……」
「………」
「だめ?」
「………」
「何とか言えよっ」
 黙り込むハンフリーにシーナが辛抱できずに聞き返すと、ハンフリーは憮然とシーナを見つめ返し、そして低い声でつぶやく。
「お前が素直だと気味が悪いな」
「ええっ!!!」
 むっとしたシーナが片肘をついて身を起こし、ハンフリーに怒鳴る。
「ちょっと!あんまりじゃないか。人がせっかく殊勝になって、心を入れ替えようと思ったっていうのに、何だよその言い草はっ!」
「できもしないことを口にするなということだ」
「できるよっ」
「無理だな」
「何でっ?!」
「お前のことなら何でも分かる。それに、そんなことはしなくていい」
 ハンフリーが体勢を変えて、シーナの体を抱き込んだ。圧し掛かるようにして、シーナの柔らかい髪に鼻先を埋める。
「く、苦しいよっ」
 シーナがハンフリーの腕の中から逃げようともがく。けれど、もがけばもがくほど、なおさらきつく、ハンフリーはシーナを抱きかかえた。
「言っただろう。お前の我儘は嫌いじゃないと。だいたい、お前から我儘をとったら、何も残らないだろう?」
「な、何も〜???くっそ、ムカつく〜」
 暴れるシーナの柔らかな身体を背中から抱き寄せながら、ハンフリーはほっそりとしたうなじに舌を這わせた。甘い匂い。先ほどの情事の余韻が残る身体はひどく敏感で、文句を言いながらも、シーナは小さく身を震わせてハンフリーの愛撫に目を閉じた。
「シーナ……」
「う〜ん?」
「……もう一度してもいいか?」
「えっ??」
 今からしたら、寝る時間なくなるけどな〜などと色気のないことが頭をよぎったが、シーナは笑ってハンフリーの頭を抱きかかえた。
「仕方ないな……ハンフリーの我儘は俺が全部聞いてやるよ」
 だって、あんたは俺のものだから。
 そして、俺はあんたのもの。
 だから我儘を言うのはお互いにだけ。そういうのってちょっといい。
 ハンフリーがシーナの身体をうつぶせると、綺麗な背中にキスを落とした。
 



 少しだけでもいいから眠ろう、とお互いくたくたの身体をベッドに横たえたのがほんの数刻前。
 どんどんっと扉を叩く音がして、ハンフリーは目を覚ました。傍らに眠るシーナも目が覚めたようで、うるさそうに身体を丸める。しかし繰り返されるノックの音に一向に反応しようとはしない。そんなシーナを軽くこづいて、ハンフリーは脱ぎ捨ててあったシャツを羽織ると、扉を開けた。
「よぉ、朝早くから悪いな」
 立っていたのは部屋の主の相棒のビクトール。部屋の中を覗きこみ、ベッドの中のシーナの姿を確認するとにんまりとハンフリーの胸を叩いた。
「旦那、昨夜はずいぶんお楽しみだったな。着替えを取りに来た。邪魔して悪いが入らせてもらうぜ」
「ああ……」
 ビクトールはすたすたと中に入ると、ベッドの中で惰眠を貪るシーナの頭を軽く叩いた。
「いったいな!何すんだよ!!」
 シーナがくしゃくしゃの髪でビクトールを睨む。ビクトールは仁王立ちになったまま、シーナへと文句を言い始めた。
「お前な、声がでかいんだよ。可愛そうに、おかげで、うちのフリックは完全に寝不足だ。するな、とは言わねぇが、もうちょっと隣近所のことを考えろ」
「何だとぉ〜」
 がばっと身を起こし反論しかけたシーナを制して、ハンフリーがビクトールに向き直る。
「ビクトール、シーナを責めるな。責任は俺にある。フリックにはあとで俺から謝っておこう」
「え?」
 冗談ではないらしいハンフリーの表情に、ビクトールはひくっと頬を引きつらせた。
 そうかい、そうかい。シーナがさんざん泣いていたのは、お前のせいか。そりゃ仲のいいことで、羨ましいこった。ビクトールは思わずそんな嫌味を言いそうになったが、やめた。
 馬鹿ップルに何を言っても通用しないであろう。
 それにしても、ハンフリーはこんなことを平気で言うような男だっただろうか?
 真面目でお堅いだけの男だと思っていたが、どうやらシーナの影響というのは相当なものらしい。
 ビクトールはひらひらと手を振った。
「あ〜、それは遠慮しておくぜ。常識人仲間だと思ってるお前にそんなこと言われちゃ、今度こそフリックは立ち直れねぇだろうからな」
「そうか」
「ま、仲直りしたようでほっとしたぜ。これで今夜は暖かい部屋で眠れそうだからな。ああ、そうだ。シーナ、さっさと起きてシーツ洗っておけよ」
「!!」
 げらげらと笑いながら着替えを手に部屋を出ていくビクトールに、シーナは手近にあった枕を投げつけた。
「俺は絶対洗わないからなっ!」
 ビクトールにからかわれたことに顔を真っ赤にして怒るシーナが、ハンフリーを睨む。
「責任はあんたにあるんだっ、あんたが洗えっ!」
「―――」
 我儘生活、再び始まる、か……とハンフリーは苦笑する。
 こんなことなら、さっさと大人になってもらった方が良かったか?
 ハンフリーはシーツの端を掴むと勢いよく引っ張った。
 つられてシーナが床の上に転がり落ちる。
「何するんだよっ!!」
 うるさく喚き散らすシーナ。
 軽くあしらうハンフリー。

 いつもの日常が戻る。


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