キリ番(6666HIT)GETのみちるさまへの贈り物


SPECIAL (K)NIGHT


 ディランが企画した「大かくれんぼ大会」で見事に優勝したのは、元マチルダ騎士団団長のカミューであった。何しろ2時間にわたる大捜索の目をかいくぐり、見事に2時間隠れ通し、城中の人間が喉から手が出るほど欲しがっている特別室の鍵を手に入れたのである。

「汚ねぇんだよっ、てめぇのやり方はっ!!」
 だんっとビクトールがジョッキをテーブルに置く。
 いつもの時間、いつもの酒場である。
 1週間前に開催されたかくれんぼ大会は好評のうちにその幕を下した。
 カミューはディランから特別室の鍵を受け取ったが、まだその権利を行使してはいなかった。
「おや、私のやり方のどのあたりが汚いと?」
 心外だと言わんばかりにカミューがビクトールを睨む。
 テーブルについているのはビクトール、フリック、カミュー、マイクロトフの4人である。
 平然とした顔のカミューにビクトールが身を乗り出す。
「汚ねぇだろっ。フリックをだしに一人勝ちしやがって」
「おやおや、お忘れのようですが、あの時、馬鹿みたいな大きな声でフリックさんの怒りを買うような告白をしたのは私ではありませんよ?あなたがあんなことさえしなければ、フリックさんだって私と一緒に最後まで隠れていられたんですから。ね、フリックさん」
 ビクトールの隣で、ちびちびと強い酒を舐めていたフリックが軽く肩をすくめる。
 はっきり言って、もうあの時のことは思い出したくないのだ。
 城中の連中の面前で「愛してる」コールをしたビクトールを、まだ許してはいないフリックである。それなのに、ビクトールはまだ特別室の鍵にこだわっていて、ぐずぐずと文句を言っているのだ。
「くっそぉ〜俺の夢が〜」
 ビクトールがテーブルに顔を伏せ、しらじらしく泣くマネなんぞしてみせる。
「みっともないから、やめろ。負けは負けだろ。素直に認めろよ」
 フリックが手を伸ばして酒のつまみを手にする。
 そのツレナイ言葉にがばっとビクトールが顔を上げる。
「お前はっ!やりたくなかったのかっ!三日三晩の淫らな行為ってやつをだなぁ…」
「…お前、今日も部屋を追い出されたいみたいだな」
 頬を引きつらせ、静かに怒りを表すフリックにビクトールがなおもちょっかいを出す。
 いつもの見慣れた風景であった。
「ところでカミュー、お前いつ特別室を使うつもりなんだ?」
 すでに二人の世界へと入ってしまったビクトールたちを横目に、マイクロトフがカミューに尋ねる。
「期限はないそうだからね、何かの記念日までとっておいてもかまわないんだが…どうする?マイク」
 にっこりと微笑んでカミューがマイクロトフへと頬杖をつく。
「どうするって?お前が手に入れた鍵だからな、俺がどうこう言えるわけじゃないし」
「―――え?」
 カミューが思わず聞き返す。
 近くを通ったレオナに酒を追加注文して、マイクロトフがどうした?というようにカミューを見る。そして、子供をあやすかのようにカミューの髪をなでる。
「すごく欲しかったんだろう?特別室の鍵。ハイ・ヨーのルームサービス付だというしな。俺にかまわず、好きな時に使えばいい」
「ちょっと待て、マイク。お前…」
 信じられない。
 いったい何のために馬鹿みたいに2時間も地面に座り込んで、特別室の鍵を手に入れたと思っているのだろう?たった一人で特別室に泊まって、いったい何が楽しいというのだっ!!
 カミューはがっくりと肩を落とした。
 鈍感すぎる。
 時々、自分の恋人ながらマイクロトフのことが分からなくなる。
 マイクロトフは周りが思っているよりずっと遊びなれている。真面目なのは仕事の時だけだ。プライベートではけっこう柔軟な考え方をしているし、付き合いだって悪くない。
 恋愛沙汰だって、歳相応に、いやそれ以上にこなしてきている方じゃないかと思う。
 それなのに、鈍いのだ。
 今までの恋愛だって、自分からではなく、言い寄ってきた女どもを来る者拒まずの精神で受け入れてきただけに過ぎない、とカミューは睨んでいるのだ。
 恋愛は駆け引きが重要である。
 そこがおもしろいところなのだ。
 しかし、マイクロトフ相手に微妙な駆け引きなんぞしていたら永遠に想いは伝わらないだろう。
 だいたい、カミューにしてみれば、今までの恋愛からは考えられないくらいストレートに気持ちを表に出していると思っているのだが、マイクロトフにはぜんぜん伝わっていないのだ。
 以前、そのことを訴えたら、
「カミューだって、相当鈍いと思うぞ」
 とマイクロトフに笑われたのだが、絶対にマイクロトフの方が鈍いと思う。
 いい加減それに気づいてほしい。
 そして、たまにはカミューが驚くくらいの気のきいたことをしてくれてもいいと思うのだ。
「特別室は一人では使いませんよ…」
 カミューの言葉に今まで言い争っていたビクトールとフリックも「おや?」と顔を向ける。
 カミューがにっこりと微笑む。
「どうせならみんなでパーティーをしましょう。ビクトールさんもフリックさんも来てください。豪華な部屋で豪華な食事、豪華なメンバーで一晩楽しむことにしましょう」
「お、おいおい…カミュー?」
 フリックがびっくりしてカミューをたしなめる。
「お前、やっと手にいれた鍵なのに、それに言ってたじゃないか、マイクロトフと…」
「ええ、もちろんマイクだって招待しますよ。み・ん・な・で楽しみましょう」
 マイクロトフがそのつもりなら、カミューだって負けてはいない。
 特別室で三日間、思う存分マイクロトフと楽しもうと思っていたのに、肝心のマイクロトフにその気がないのなら、いいだろう。特別室は自分ひとりで堪能してやろうではないか。
「いいのか?本当に?」
 深夜2時を過ぎ、最後の客となってしまった4人をレオナが酒場から追い出した。
 それぞれの部屋に戻る途中、フリックがカミューに尋ねた。
「何のことですか?」
「何って特別室のことさ。せっかく手にいれたのに、みんなで騒ごうだなんて」
「いいんですよ。鈍いマイクに特別室なんてもったないんですから」
 むきになるカミューにフリックが苦笑する。
「一緒に泊まりたいって、マイクロトフに言えばいいじゃないか」
「嫌ですよ。どうして私ばっかり」
「やれやれ。お前も案外と強情だな。だけど、そんなこと言ってたらマイクロトフはお前の気持ちに…」
「言わないでくださいよ、それ以上」
 落ち込んでしまうではないか。
 ビクトールと肩を並べて目の前を歩いているマイクロトフの背中を眺める。
 その広い背中が好きだった。
 気のきいたこと一つできない不器用なマイクロトフのことが好きだった。
 けれど、いつもいつもカミューばかりがマイクロトフのことを追いかけているような気がする。
 もちろんマイクロトフだってカミューのことを好きだと思ってくれているとは思う。だけどいつもカミューの方が求めて、それをマイクロトフが受け止めるという図式が出来上がっているような気がする。
 これはあまりにも理不尽だ。
 マイクロトフだってもっともっと自分のことを求めてくれてもいいはずだ。
 せっかく特別室の鍵が手に入ったというのに!
 甘い一夜を過ごそうという気はないのだろうか?
 階段を上りきったところでビクトールが立ち止まる。
「じゃあな、お疲れさん」
 そして当然のことのようにフリックを促す。
 目の前はフリックの部屋だ。何の了承も得ずにさっさと扉を開けるビクトールに、フリックは特に何も言わず、軽くカミューの肩をたたいた。
「おやすみ」
 パタンと閉まる扉。
 カミューは小さく息をついた。
 ビクトールとフリックを見ていると、とてもよくバランスが取れていると思うのだ。
 どちらかが一方的に想いを寄せているのではなく、お互いが同じ強さでお互いを求めている。一見したところは、ビクトールの方がフリックにベタ惚れという感じだが、実際はそうではないことはカミューにはよく分かるのだ。
「カミュー?」
 動かないカミューにマイクロトフが振り返り声をかける。
 踊り場の小窓から差し込む月明かりがマイクロトフの横顔を照らす。ほんの少し微笑んだその顔に、どうにもたまらない想いが湧き上がり、カミューは駆け寄ってマイクロトフに抱きついた。
 マイクロトフが慌てることなく、カミューを抱きとめる。
「どうしたんだ?急に?」
 ぽんぽんとカミューの背中をたたいて、マイクロトフが尋ねる。
「私に何か言うことがあるだろう、マイク」
「何か、って?」
「何もないのか?」
「……」
 考え込むマイクロトフにカミューの怒りが増す。
 特別室でパーティーをしようと言ったことを何故怒らないのだろう?
 二人で過ごそう、と強引に言ってくれればいいのに。
 どうして自分の気持ちをわかってくれないのだろう。
「もういい。お前の気持ちはよぉ〜く分かった」
「カミュー?」
 すたすたと自室へ歩き出すカミューをマイクロトフが慌てて追いかける
 引きとめられた腕を払って、カミューは部屋に入り、内側からしっかりと鍵をかける。
 片時も離れていたくないと思っているのに。
 うまく伝わらない想いに、そのもどかしさに悲しくなる。
 こんなに好きなのに。
 こんなに。


 3日後、約束通り特別室ではパーティーが開かれた。
 パーティーと言っても、ごくごく内輪で(でなければ収拾がつかないであろう)開かれた。料理はカミューの奢りでハイ・ヨーが腕によりをかけて作ってくれた。
 呼ばれたメンバーはビクトール、フリックをはじめ、ディランとナナミも。いつも戦闘で一緒のハンフリーとそれにくっついてきたシーナもいた。
「すっごぉい。見て見てディラン、このベッドふかふかよっ」
 ナナミが寝室を覗いて興奮した様子でディランを呼ぶ。
「ナナミ、寝室のぞくなんて、はしたないよ」
「何言ってんのよっ!んもぉ、どうしてこんな素敵な部屋、お姉ちゃんに貸してくれないのよっ」
「そういうの職権乱用っていうんじゃないの?」
「ああ、やっぱりかくれんぼでもっとがんばるんだったぁ〜、ね、ビクトールさん」
 ナナミの言葉にビクトールの頬が引きつる。
「さ、食事にしましょう」
 カミューが声をかけ、賑やかに食事が始まった。
 ハイ・ヨーの作ってくれた食事はどれも絶品で、みんなお腹が膨らむまで黙々と食べつづけた。一息ついたところで、やっと和やかに会話が始まった。
「それにしても、一部屋にこんなに金をかけて、何考えてるんだ?」
 フリックが豪華な部屋を見渡してあきれ返る。
「別に俺が頼んで作ったわけじゃないんですからね。そんな目で見ないでくださいよ」
 ディランがワイングラス片手に肩をすくめる。
 この城も仲間が増えるうちに、改装に改装を重ね、だんだんと大きくなってきたのだが、この部屋は改装を請け負った大工たちがおもしろ半分で作ったというのだ。しかし、内装に金をかけたのは大工たちではないだろう。
「ま、いざとなった時に、ここにある家具や備品を売り払えば、そこそこのお金になるかなと思って。金庫代わりて感じかな」
「いざという時、ねぇ」
 いったいどういう時なんだろう、とフリックが思いを巡らせる。
「それにしてもカミューてば太っ腹だなぁ。てっきり自分たちだけで、この部屋でのセッ……」
 クス、とシーナが言いかけて、ナナミの存在に気づいて、小さく咳をする。
「あ〜二人だけで堪能するのかと思ったら、俺たちまで招待してくれちゃって」
「言っておきますが、泊まるのはあくまで私一人ですからね。みなさんは食事が終わったら速やかにお引取りください。ベッドまで貸すつもりはありませんからね」
「ちぇ〜一人であのベッド使って何が楽しいんだよ?ね、マイクロトフさん」
 マイクロトフは分かってるのか分かってないのか曖昧に微笑むだけだ。
 楽しくなくても、一人で眠ってやる。
 カミューはそう心に決めていた。
 マイクロトフなんて知るものか。
 人の気持ちも知らないで、あんなこと言うなんて。
 結局その食事中、カミューは一度もマイクロトフの方を見なかった。
 見ると、泣いてしまいそうだったから。


「じゃあおやすみなさい、カミューさん」
「ごちそうさん」
「また明日」
 パーティーが終わると、みんな満足した顔で特別室をあとにした。
 マイクロトフは部屋の入口で佇むカミューを振り返った。
「カミュー」
「おやすみ、マイク」
「………ああ、おやすみ」
 有無を言わさないカミューの態度に、マイクロトフは何も言わずに背を向けた。
 カミューはマイクロトフの姿が消えるのを見届けると、一人特別室の扉を閉めた。
 今まで賑やかだった部屋にただ一人でいると、妙に淋しい気がした。
 本当なら、マイクロトフと二人でとびきりの夜を過ごすはずだったのに、いったい何がどうなって、一人きりになってしまったのだろう。
 カミューは大きくため息をつくと、さっさと眠ってしまおうと思い、シャワーを浴び早々にベッドに潜り込んだ。ふかふかのベッドは暖かく、確かに素晴らしいものだったが一人で眠るには広すぎた。
 どうにも眠れず、何度か寝返りを打った。
 考えるのはマイクロトフのこと。
 疑うつもりはこれっぽっちもない。
 だけど時々、そう時々思ってしまうのだ。
 マイクロトフは自分のことをどう思っているのだろうか、と。
 できれば同じように、同じ強さで、同じ言葉で、気持ちを伝え合いたいと思うのだ。それは我儘なことなのだろうか?
 いつもいつも相手のすべてが欲しいと思っているのは自分だけなのだろうか?
 それをマイクロトフに求めることは、やはり子供じみた独占欲なのだろうか?
 つらつらとそんなことを考えているうちに、カミューは深い眠りに落ちた。
 微かにした物音にさえ気づかないくらいに。
 ぎしっとベッドが軋んだ。
 普通なら、そんなことがあればすぐに目を覚ますカミューだったが、その日はパーティーのホスト役として気を使っていたせいか、本当にぐっすりと眠っていたのだ。
「……」
 足元から薄手のブランケットがめくり上げられる。ひんやりとした空気が、カミューの素足に忍び寄る。その冷たさに、やっとカミューが小さく身じろいだ。
「ん…?」
 はっと気づいた時には遅かった。
 しまった…っ!
 声を上げようとしたカミューの口を大きな手が塞ぐ。
「ううぅ…っ…!」
 何者かがカミューの身体を押さえ込んだ。
 暗闇の中で、しばらく無言の攻防が続く。カミューの口元を塞いでいた侵入者は空いた手でカミューの身体を弄り始めた。
――― 冗談じゃないっ
 カミューは力いっぱい身を捩ると、自由になった右足で相手の鳩尾に鋭い蹴りを入れた。
「ぐっ……!」
 見事に決まったその蹴りに、侵入者が小さく喘いでカミューを押さえ込んでいた力を緩める。カミューは素早い動作で飛び起きると、枕もとのランプに火をつけた。
 薄明かりに浮かび上がるその顔。
「マ、マイクっ?!!」
 ベッドの上で苦しげに身体を丸めいたのはマイクロトフだった。
 カミューは咄嗟に手を伸ばしてつかんでいた剣を下して、呆然とマイクロトフを眺めた。
 何だってマイクロトフがここにいるのだろうか?
 おまけに、こんな暴漢のような真似をして。あと少し遅かったら、剣で斬りつけているところだ。
「マイク?」
「くそっ…思い切り蹴り上げたな…げほっ…っつぅ」
 苦しそうにマイクロトフが腹部を擦りながら身を起こす。
 そりゃあ思い切り蹴り上げるだろう、とカミューはむっとした。
 いきなり襲い掛かられて、強姦されそうになったら誰でも抵抗するだろう。
「お前、いったいどこから…」
 鍵はしっかりと閉めたはずだ。
 マイクロトフは痛みに顔をしかめながらも、右手の窓を指さした。大きなテラスへと続く床までの大きな窓。それは開け放されて、カーテンが揺れていた。
「窓から?お前、それは不法侵入だぞ…いや…そんなことより最上階のこの部屋にどうやって…」
 驚きを隠せないカミューに満足したのかマイクロトフが小さく笑う。
「隣の部屋からテラス伝いにな。かなり狭い上に灯りがなかったから、少し危なかったが…」
「少しって…落ちたらお前…」
 恐らく怪我くらいではすまないだろう。
 下手すると命を落としてしまうかもしれないのだ。
 カミューはむっとしたままマイクロトフにいい寄る。
「いったい…どうしたんだ…こんな夜中にそんなところからやってきて、私を襲おうとするなんて」
「お前が俺を締め出したりするからだろう」
 マイクロトフがカミューに手を伸ばし、くしゃりと髪を撫でる。
「何を怒っているのか知らないが、特別室でパーティーなんて開いて、おまけに一人で寝ると言うし。俺は何か悪いことでもしたか?」
 マイクロトフの言葉にカミューがマイクロトフに掴みかかる。
「何かしたかだって?私と一緒に、この特別室で寝たくはなかったのだろう?お前、そう言ったではないか。だから私は…」
「俺はそんなことは言ってない。いつ鍵を使うか、と聞かれたから、いつ使うかはお前の自由だと言っただけだ。あの言葉にはそれ以上の意味は何もない。お前が勝手に早とちりしたのだろう?」
「……え?」
 きょとんとするカミューにマイクロトフがやれやれというように肩をすくめる。
「相変わらずだな、カミュー。俺は使う時期はお前の自由だと言っただけで、一人で使えとは言った覚えはない」
 そんな!
 カミューは先日の酒場でのやりとりをぐるぐると思い巡らせてみる。
 確かに、一人で使えとは言われていない…ような気もする。
 だが、あれどう考えても「お前一人で部屋を使え」としか受け取れない言葉ではないかっ。
「カミュー」
「………」
「カミュー?」
「私は鈍感ではないからな」
「え?」
 カミューがマイクロトフを睨みつける。
「言っておくが、お前の方が絶対に鈍感だからなっ。あんな言い方すれば、誤解するだろうことも気づかないくらいに鈍感だ。私が何に怒っているか気づかなかったくせに。やりたくもないパーティーを開いたことにも気づいていない。一緒にいようと、一言も言ってくれないくせに、私を鈍感呼ばわりするのは許さないからな、絶対に!」
 誰もカミューを鈍感呼ばわりしてはいないのだが。
 子供のように叫ぶカミューにマイクロトフは思わず吹き出す。
「な、何がおかしいっ」
「いや、すまない。では、そういうことにしておこう。だが、カミュー、俺がどんなにこの部屋に来たいと思っていたか気づいてはいなかっただろう?」
 言外に「やっぱりお前の方が鈍感だ」と言われているような気がして、カミューはさらに反論しようとしたが、開きかけた唇はマイクロトフのそれに塞がれた。
 しっかりと背中に腕をまわされ、身動き一つできないほどに抱きしめられる。
 キスなんかで誤魔化されてはたまらない。
 きっちりと話をつけなければ、と思うカミューだが、絡んでくる熱い舌先に思考が止まってしまう。
 やがて、カミューはゆっくりとマイクロトフの首に腕を巻きつけた。
 鈍感な恋人。
 それなのに、時々こうして思いもしないような行動をしてカミューを喜ばせるのだ。
 いきなり窓からやってきて襲いかかるなんて、なかなか洒落たアプローチの仕方ではないか?もっとも、一つ間違えば地面へ落ちているか、カミューの手にかかって命を落としていたかもしれないが。
 唇が離れると、カミューは少し拗ねたように唇を尖らす。
「マイク。お前のために手にいれた鍵なのだからな。私の苦労をムダにするなよ」
「分かった」
 マイクロトフはどさりとカミューの身体をベッドに押し倒した。
 

 特別室のベッドは他の部屋よりも広く、貴族ちっくに天蓋なんぞもついていた。
 十分な広さのあるそのベッドは男二人の体重に軋んだ音を立てた。
 「んっ…う…」
 唇を重ね、差し出された熱い舌を軽く噛んでみる。
 余裕がないのはお互いさまで、もつれるように沈み込んだベッドの中で身につけた服を脱がしあう。
 マイクロトフが露わになったカミューの白い肌に唇を這わせた。
 ゆっくりと身体をずらして胸の尖りを口に含み、舌先で転がすようにして愛撫を始めると、カミューが小さく身じろいだ。
 カミューがマイクロトフの肩を掴むと、マイクロトフはその細い手首の内側にキスをした。
 色の白い肌に薄く所有の証を残しながら、柔らかい肘のあたりから腕へと舌を這わせる。
 そんな焦れったい愛撫にカミューは我慢しきれず、自らマイクロトフの頬を両手で包んでキスをねだる。
「マイク…」
 軽く触れた唇をこじ開け、甘い咥内を味わうようにしてマイクロトフの舌が差し込まれる。何度も角度を変え戯れるようにしてお互いの舌を絡み合わせ、誘いをかける。
 流し込まれる唾液を何度も嚥下して、カミューは空気を求めて唇を離した。その唇をマイクロトフがなおも塞ぐ。
「…ま…って…」
「待てない」
 その言葉に身体の奥が熱くなる。
 待てないのはカミューも同じだ。
 濡れた音を響かせながら、カミューがマイクロトフの身体をシーツの上に押し倒した。
 引き締まったその身体に跨がり、存分にマイクロトフとのキスを楽しむ。
「ふぅ…んっ…ん…」
 何だかキスだけでイってしまいそうな気がして、カミューは慌てて唇を離した。
 どちらのものとも分からない唾液で濡れた口元を手の甲で拭って、息をつく。
「カミュー?」
「どうしよう…」
「何が?」
 困ったように視線をそらすカミューにマイクロトフが薄っすらと微笑む。
「三日三晩の淫らな行為か…ビクトール殿が固執する気持ちも分かるな」
 マイクロトフが手を伸ばして勃ち上がりかけたカミューの花芯に触れた。
 カミューが息を飲んで白い喉を仰け反らせた。ゆっくりとマイクロトフの指が動き始める。親指で先端を丸くなぞり、残りの指で上下に擦り上げる。溢れ出してきた蜜のすべりを借りて、次第に動きが速くなる。
「んっ…ああ…っ…」
 カミューはマイクロトフの胸に手をつき、与えられる快感に耐えていた。
 堅く勃ち上がった先端からは、いつしか透明な蜜がしとどに溢れ出し、マイクロトフの手を濡らした。
「あ、ああ…や…っ…!」
 ふるっと全身を震わせ、カミューが大きくため息を漏らした。
 生ぬるい悦楽の印がマクロトフの手の中で放たれた。引き締まったマイクロトフの腹部にまで飛び散ったそれを見て、カミューはかっと頬を染めた。
「す、すまない…」
「何が?おかしなことで謝るんだな」
 マイクロトフが小さく笑ってカミューを引き寄せ、唇を奪う。激しく舌をからめあう間にも、カミューの下肢を開き、濡れた指を堅く閉ざされた蕾へと這わせる。
「んっ…んん…」
 周りをなぞられ、カミューが思わずからめていた舌を引っ込める。それを追いかけてくるマイクロトフの熱い舌先。身体を反転させ、マイクロトフはカミューの膝裏に腕をかけると大きく脚を開かせた。
 きゅっとカミューの腕がマイクロトフの首に巻きつく。
「マイク…欲しい…早く…っ」
「まだだ」
 ぽろぽろと涙を流すカミューを宥めるようにあやしながら、マイクロトフはぐっと指を中へ突き入れた。
「はっ…!!ああ…ぁ」
 カミューが大きく仰け反る。
 先ほどカミューが放った蜜でたっぷりと濡れた指はすんなりと奥まで入り込んだ。ゆっくりと引きだすと、内壁がからみつく。何度かそうして抜き差しを繰り返したあと、指の数を増やしてみる。その圧迫感にカミューは喉を鳴らした。
「痛いか?」
「……っ…」
 ゆるゆるとカミューが首を横に振る。その仕草にマイクロトフが微笑んだ。
 マイクロトフはさらにそこを解すかのように、指を広げてみた。ぐちゅっと音を立てて、マイクロトフの指を飲み込んだ蕾が収縮を繰り返す。敏感な内部は些細な刺激にも反応してしまう。
「ふぁ…あっ…アアッ…」
 早くなる抽送に、カミューはがくがくと身を震わせる。さらに激しくなる指の抜き差しに、もう耐えられないとばかりにカミューが悲鳴をあげた。
「マイクっ…やっ…はや、くぅ…ああっ」
 マイクロトフは自らの下衣をくつろげると、唐突に指を引きぬき、ぴたりとそこに押し当てた。
「カミュー…愛してる…」
 切なげに開いた唇を塞いで、マイクロトフは一息に奥まで昂ぶりを突き入れた。
「ああっ…!!アッ…んぅ…」
 十分に緩められていたにも関わらず、あまりにも大きなその質量に、カミューは悲鳴を漏らした。ぐいぐいと奥まで突き入れ、ぴったりと収まってしまうとマイクロトフも小さく息を漏らす。
 きついくらいの締めつけを味わいながら、マイクロトフは身体の下のカミューに微笑む。
「カミュー?大丈夫か?」
「ん…あっ…動くな…もう少しこのままで…」
 痛いくらに広げられた部分がじんじんと熱を持って、甘い痺れを感じさせる。マイクロトフが与える甘い口づけにカミューはうっとりとその広い背に腕を回した。
「ふぅ…うっ…ん」
 緩く腰を回したマイクロトフに、カミューは厭々をするように首を振る。
 徐々に早くなる不規則な動きに、カミューは必死でついていこうと腰を揺らした。堅い雄が出入りするにつれ、カミューの花芯も再び勃ちあがり始める。マクロトフがふいにその昂ぶりに触れ、激しく扱き上げた。
「あっ…ああ…いやっ…マイク…っ」
 ぱたぱたと新しい涙が頬を伝う。
 マイクロトフは凄絶なまでの色香を放つカミューに目を細め、猛った自らの欲望を激しく突き入れては、引き出す。ずり上がるカミューの肩を押さえ、マイクロトフは短く息を吐きながら、律動を繰り返す。
「んっ…ん、んぁ…ああっ!!」
 カミューが助けを求めるかのようにマイクロトフに縋りつく。
 がくがくと身体を揺すぶられ、何も考えられなくなる。結合部から耳を塞ぎたくなるような淫らな音が聞こえ、たまらない快感が背筋を駆け上がる。
「マイク…マイクっ…あっ…ああ…」
 カミューがマイクロトフの名前を何度も呼ぶ。その声を聞きながら、マイクロトフは熱く滾った欲望をひときわ強く最奥へと叩きつけた。
「くっ…!」
 ぴたりとマイクロトフが動きを止める。
 熱い迸りが身体の奥で弾けたのを感じ、カミューも二度目の精を放った。
 マイクロトフは緩く腰を前後させ、残りの欲望もすべてカミューの中へと解き放った。
「カミュー…」
 ぐったりと目を閉じるカミューの首筋に顔を埋め、熱い吐息を漏らす。
 カミューの中にはまだマイクロトフが入り込んだままで、たった今放ったばかりだというのに、まだ十分な硬度を保っている。
「マイク…まだ…」
 欲しいと囁くカミューの声にマイクロトフは低く笑いを漏らす。
 びくびくと震える身体を片手で抱いたまま、マイクロトフはカミューの背後へと動く。中に入ったまま、体位を変えられ、カミューは小さく呻いた。
 ぴたりを背中から抱きしめられ、汗で濡れた首筋をきつく吸い上げられる。
「んぅ…うっ…やだ…マイク…」
「カミュー…腰を上げてくれ」
 囁かれ、肩と膝で体重を支えながらカミューはその細い腰を高く掲げた。マイクロトフが昂ぶりを引き出すと、中から白い粘液がとろりと流れ出す。その様子を見ながら、マイクロトフが再び、ゆっくりとそのぬかるみの中へと自身を沈みこませた。
「うっ…」
 生々しいその感触にカミューが眉を顰める。
 マイクロトフが身を屈めカミューの白い背に唇をつけた。しっとりとした肌に何度も口づけを繰り返す。
「マイク…やっ…中が…熱くて…」
 どうにかなりそうだ。
 身体の奥深くでどくどくと脈打つマイクロトフの熱くて堅いものがカミューを狂わせる。
 マイクロトフの微かな動きにさえ、叫び出したいほどの衝撃が背筋を駆け上がる。
 ずっずっとマイクロトフが抽送を開始した。
「あっ、あっ、あっ、ああ…っ…!」
 突き上げられるたびにカミューの唇から尖った吐息が漏れる。震える指できつくシーツを握り締め、カミューは恍惚と目を閉じる。
「マイク…あっ…んぅ…イイ…ああ…」
「カミュー…」
 がっしりと腰をつかんで、マイクロトフの腰使いも激しくなる。ぱんぱんと肉のぶつかり合う音とカミューの喘ぎ声だけが部屋の中に響く。
「ああっ…もうっ…い…く…っ、ああっ!」
 感極まった叫びを上げ、カミューが絶頂に達する。痛いくらいに張り詰めた花芯からぱたぱたと蜜が溢れ、シーツに染みをつくる。
「うっ…!」
 遅れてマイクロトフも低く呻いて精を弾けさせた。
 荒い息をつきながら、ずるりと己を引きだす。逆流してきた蜜がカミューの蕾から溢れ出した。
「カミュー…」
 ぐったりとその身を弛緩させるカミューを背中から抱きしめて、マイクロトフが低く笑いを漏らす。
「三日三晩なんて…耐えられるか?」
「……お、前が…手加減すれば、だろ?」
 こんな調子じゃ一晩だって持ちやしない。
 カミューは上気した頬のまま、身体を反転させマイクロトフへと腕を伸ばす。
 欲しかった特別室の夜。
「マイク、私のことを愛してるか?」
「当たり前だろ。どうしてそんなことをわざわざ聞くんだ?」
 どこかむっとしたようにマイクロトフが答える。
 カミューは満足そうにマイクロトフに小さくキスをする。
 こういう時だけはちゃんと気のきいた答えのできる、この鈍感な恋人のことがやっぱり大好きなのだ。たとえ同じ強さで、同じ言葉で想いを伝えあうことがないとしても。
 

 結局、あのパーティーを最後に、三日三晩マイクロトフとカミューは姿を見せることはなかった。




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