愛する想い 愛される願い 10



<終章>


「良かったですね、元に戻って」
 カミューが目の前に座るフリックに微笑みかける。
 マイクロトフが元に戻った翌朝、同じように目が覚めたら元に戻っていたというフリックは、まだ納得できないというように首を傾げていた。
「だけど、本当に10歳も若返っていたのか?お前ら、みんなして俺のことを騙そうとしてるんじゃないだろうな」
 胡散臭そうに同じテーブルに座るビクトールとマイクロトフと見て、フリックはふんと鼻を鳴らす。
「いえ、俺もカミューから聞かされた時はすぐには信じられませんでしたが、フリックさんは本当に18歳でした。この目で見ましたので間違いありません」
 マイクロトフに断言されると、フリックは納得しないわけにはいかない。
 ビクトールやカミューはどうも信用しきれないところがあるのだが、マイクロトフは嘘はつかないだろうというのが、フリックの中の一般常識なのだ。
「ったくよ、お前らがヘマしたせいで、俺たちがどんなに苦労したと思ってんだ」
 なぁカミュー、とビクトールが同意を求め、恩着せがましくフリックの皿からソーセージを奪い取る。
「苦労だと?たまには苦労でもして、心労から少しは痩せやがれ、この筋肉デブ!」
「何だと〜」
 フリックの言葉にビクトールが眉をつり上げる。
「まぁまぁ、何はともあれ、二人とも無事元に戻ったんですから、いいじゃありませんか」
 見かねたカミューが仲裁に入る。
「……まぁな」
 ビクトールはイスの背にもたれかかり、やっと元に戻ったフリックを眺めた。
 そこにいるのは間違いなく28歳のフリックだった。
 元に戻るのを待ち焦がれていたというのに、実際に元に戻ってみると、あの18歳のフリックのことが思い出されて少し胸が痛む。
 無邪気な笑顔。
 28歳の自分のことを好きでいてほしいと言ったフリック。
 いったいどんな気持ちで、あの台詞を言ったのだろうか。
「何だよ」
 じっと見つめられて居心地が悪くなったフリックが、じろりとビクトールを睨む。
「いやぁ?18歳のお前はえらい可愛かったなぁと思ってよ」
「………っ!!」
 フリックは飲みかけていたコーヒーを吹き出した。
「汚ねぇな、何やってんだ」
「お前がおかしなことを言うからだろうっ!!くそっ」
「でも、本当に18歳のフリックさんは可愛らしかったですよ、な、マイク?」
「う、うむ……そうだな」
 思わず同意してしまったマイクロトフだが、フリックが殺気だっているのに気づいて口を閉ざした。
「ふん、そういうマイクロトフは16歳になってたんだろ?俺よりも可愛かったんじゃないのか?」
 逆襲とばかりに矛先を変えてきたフリックに、カミューは大きくうなづいた。
「ええ、そりゃあもう。あんまり可愛いので、思わずファーストキスをいただいてしまいました」
「えっ!!!!!!!」
 びっくりしたのはフリックではなくマイクロトフだった。
 そんなことは一言も聞いていない!とカミューに詰め寄る。
「キスといっても、ほんの少しだけだ。許せ」
「お前というやつは……」
「でも今考えると、どうせなら全部奪っておけばよかったな。こんなチャンスは二度とないんだし」
「馬鹿者っ!お前は何を考えているんだ!!」
 マイクロトフが生真面目にカミューを戒める。
 怒りの主旨は「未成年に手を出すような不道徳なことを考えるな」というものである。
 そんな二人の会話を聞いていたフリックは、ふと嫌な予感がしてビクトールを見た。
「何だよ?」
「お前……まさか18歳の俺に、おかしなことはしなかっただろうな?」
「ああ?何だよ、おかしなことってよ?」
「……………」
 ニヤニヤと笑うビクトールに、フリックは何も覚えていない自分を呪った。
「なぁ、何だよ、おかしなことって」
「うるさいっ!!!もうお前は黙ってろっ!」
 いつものフリックの怒鳴り声。
 ハイ・ヨーのレストランにいた連中は、みんなほっとしたように、以前と同じように賑やかにテーブルを囲む4人を見ていた。
 この城にいる誰もが、心配していたのだ。
 マイクロトフとフリックのことを。





「それにしても、これで一安心ですね」
 レストランを出たカミューが心底ほっとしたようにつぶやいた。ビクトールは先を行くマイクロトフとフリックを眺めながら、そうだなぁとうなづいた。
 マイクロトフもフリックも身体に異常はまったくなく、10歳若返る前と何も変わってはいなかった。
 二人とも若返っていた時の記憶はないようだが、なくなっていたからといって困ることもない。
「嵐のような日々でしたね」
「まったくだ」
「ですが……少し楽しかったですね」
「そうか?」
「16歳のマイクにはもう二度と会えないわけですし」
「ああ……そりゃまぁな」
「私は……16歳のマイクも、けっこう好きでしたよ」
 ビクトールは苦笑して目の前のフリックをぼんやりと見つめた。
 
(あんたが好きだよ)

 フリックの言葉が甦る。
 ビクトールは眩しいものでも見るかのように、目を細めた。
「俺は……やっぱり28歳のフリックの方が好きだな……」


 それは、18歳のフリックが望んでいた言葉。
 そして、そんな彼への別れの言葉。
 不思議そうな顔をするカミューの肩を叩いて、ビクトールは戻って来た相棒の元へと歩き出した。
 


終わりデスv 何とか無事終了。はー、いろいろと言い訳させていただきたいと!!(涙) こちらからどうぞ


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