誘 惑(2)


 その夜、酒場でたむろしていたのはビクトール、カミュー、ハンフリー、シーナという妙な組み合わせであった。フリックとマイクロトフはその日、戦闘から帰ってきたばかりで、早々に部屋に引き上げてしまっていたのだ。
 酒が進むに従って、だんだんと話は下の方へと移っていく。
 シーナは未成年といえど経験豊富だし、残りの3人もいい大人なわけで、多少羽目を外した話題でも慌てることなくお互いの話題を提供していた。
「そろそろ倦怠期にならないの?」
 シーナが薄い水割りを舐めながらビクトールに聞く。
「俺とフリックが?バカ言うなって、んなことあるわけねぇだろ」
「ええ〜だってさ、前の戦争の時からだろ?もうずいぶんな付き合いじゃんか」
 何年だ?とシーナが計算する。
「年数なんて関係ねぇんだよ。あいつはいつまでたっても初々しいしな。飽きるこたぁない」
 何を思い浮かべてか、ニヤニヤと笑いながらビクトールがグラスを空ける。
「初々しいたって。ねぇ、フリックさんて上手いの?」
 シーナの質問にげほっとビクトールが咽返る。
 ハンフリーがぽかりとシーナの頭をこづく。
「何でだよっ。別にいいじゃんか。ビクトールさんがそんなに惚れ込んでるくらいだから、よっぽど上手いのかなと思っただけだろ」
「それは私も興味がありますね」
 カミューまでもが同意する。
 まぁ二人とも半分はビクトールをからかいたかっただけなのだ。何しろこのままでは間違いなくフリックとの惚気話を聞かされるに違いないのだ。それならいっそ、こちらから聞きにくいことを聞いてやろう、と思っただけのことだった。別に本気でフリックが床上手かどうかなんて知りたいと思ったわけではない。
「下手じゃねぇだろ。何しろ、この俺さまが仕込んだんだから」
「え〜、しょってるっ!それって自慢なわけ?」
 シーナが眉を顰める。
「当たり前だろっ。何しろ、毎回毎回、嫌だ嫌だというあいつをその気にさせるんだからな」
 胸を張ってみせるビクトールにカミューが意地の悪い笑みを浮かべる。
「フリックさんが毎回嫌だと、ねぇ。それは、貴方が上手なんじゃなくて、ほんとに嫌なんじゃないんですか?それが証拠にフリックさんからあなたを誘惑することなんてないわけでしょう?」
「うっ…それは…」
 ビクトールは天井を見上げて思い返す。しかし、カミューの言うとおり、フリックから誘われたことなんて、覚えている限りないような気がする。
「それはだな、あいつが誘う前に、俺が誘うからだっ。そうだ、もし俺が誘わなければ、当然あいつから誘ってくる。決まってるだろぉが」
「へぇ。では賭けましょうか。本当にフリックさんの方からあなたに誘いをかけてくるかどうか」
 まぁ絶対無理でしょうけど。とカミューが笑みを零す。
 シーナもハンフリーまでもが、カミューに同意見らしく、うなづいている。
 そんな3人に、ビクトールがむっとして、ばんっとテーブルを叩く。
「ああいいだろう。賭けようぜ。フリックが俺を誘う方に1000ポッチだ」
「では、期限は2週間ということで。2週間の間にフリックさんからあなたに誘いをかけなければ私の勝ちです」
「2週間は長いんじゃないの?そんな長けりゃフリックさんだって我慢できないって」
 シーナが横からちゃちゃを入れる。
 しかしカミューは余裕の笑みでシーナを見返す。
「普通の人なら。でもあのフリックさんですよ。3日くらいじゃ賭けることなく、私の勝ちです」
「く〜〜〜っ」
 その意見にはさすがのビクトールも反論できない。
 そういうことで、フリックにしてみればとんでもなくはた迷惑な賭けが成立してしまったのである。


「…と、まぁそういうわけだ」
「そういうわけ、だぁ?」
 怒りを含んだフリックの声に気づかないのか、ビクトールはへらへらと笑いながらしゃべり続ける。
「しかし良かったぜ、お前の方から夜這いに来てくれてよ。もう10日になるし、これはそろそろ負けかもしれねぇなと内心びくびくしてたんだぜ。だいたい、俺がどんだけ我慢してたと思う?2日目くらいから、こっちは悶々としてたっていうのに、お前は平気な顔してるしよぉ、下手にキスの一つでもしたら、絶対押さえがきかなくなるから、それもできねぇし。ほんと、地獄の日々とはこのことだな。しっかしお前、ほんとに性欲薄いよな。どうせ一人でヤってもいねぇだろ?ったく俺がどんだけ一人むなしく処理してたか分かるか?まぁ、それでも今夜こうしてお前の方から夜這いに来たってことは、お前もヤりたくなったってことだよな。ふっふっふ、カミューのヤツ、ざまぁみろって…あ…?」
 そこまでしゃべって、やっとビクトールはフリックの肩が震えてることに気づいた。
「どうした?フリック」
「どうした、だと?お前は〜俺の知らないところで、そんなつまんない賭けをしてたのかっ!!!!」
 顔を真っ赤にしてフリックがビクトールに怒鳴る。
「あ、あ〜、まぁその…酒の席でのことじゃねぇか…そんなに怒らなくても」
「怒るだろっ!!!普通は!!!俺が…いったいどんな気持ちで…」
 手元にあった枕をひっつかんで、ビクトールの顔面に投げつける。
「いてっ…おいおい、フリック、暴力は…」
 言いかけたビクトールはフリックがうつむいたまま小さく肩を震わせていることに気づいて黙った。
「フリック?」
「…くそっ、心配して損した。お前がどうかしちまったんじゃないかと思ったり、お前が…俺のこと、もう飽きたんじゃないか…って…バカみたいだ…」
「フリック…」
 思いもしなかったフリックの言葉に、ビクトールは自分が軽はずみにバカなことをしたということに、今さらながらに気づいた。
 ビクトールが手を伸ばしてフリックの肩に触れる。そしてそのまま強く抱き寄せた。俺に触るな、と言わんばかりに抵抗をするフリックをさらにぎゅっと抱きしめる。
「はっ…まったくバカだぜ…俺がお前に飽きるだと?何でそんなこと考えたんだ?そんなこと、あるわけねぇだろぉが。こんなに愛してんのによ」
 ちゅっとビクトールがフリックのこめかみにキスをする。
 フリックはほんとにほんとに自分が嫌になっていた。
 さんざん心配して、不安になって、怒り狂ったというのに、この男にこうして触れられて、軽くキスされただけで、もう許そうなんて気になってる自分は本当にバカだ。
 ほとほと自分に愛想が尽きる。
 フリックが何も言わないので、ビクトールは上機嫌でフリックの髪を撫でる。
「まぁお詫びにカミューからいただく1000ポッチで、何か美味いもんでも食いに行こうぜ。久々に街に繰り出してもいいしよ」
「ちょっと待て」
「あん?」
 フリックが顔を上げ、何かに気づいたように瞬きをする。
「カミューから金を貰うってことは…つまり…お前が勝ったって報告するわけだよな」
「当たり前だろ」
「つまり…それは…俺の方から誘いをかけたってことを…」
「当然だな、それが俺の勝ちの条件だからな」
 それがどうした?というビクトールにフリックは両手で頬を押さえる。
「嫌だっ!!!絶対、絶対、絶対に嫌だっ!!!そ、そんなこと、カミューに知られるくらいなら死んだ方がマシだっ!!嫌だ〜〜っ!!!」
「おいおい、夜中なんだから、でかい声出すなって…」
 子供みたいに喚き散らすフリックに苦笑しながら、ビクトールがよしよしとフリックの背中をたたく。
「だ、だいたい、誘ったわけじゃないだろっ!ちょっと様子を見に来ただけっていうか…別に、俺がお前のことを襲ったわけでもないし…ベッドに引きずり込んだのはお前の方だろっ!」
「往生際の悪いヤツだな。夜中に恋人の部屋に忍び込んでおいて、ヤル気はありませんでした、なんてことが通用するとでも思ってんのか?お前、ほんとにヤリたくなかったのかよ?」
「そ、そういうわけじゃ…ない…けど…いや、別に俺は…」
 パニックになったフリックがわけの分からないことを口にする。
 とりあえず、自分がこの部屋にやってきたことをカミューに知られるのは絶対に嫌だと主張する。
「お前、俺が負けてもいいのかよ」
「別にいいだろっ、そんなつまんない賭けに負けたからって、どうってことないじゃないかっ!」
「1000ポッチは?」
「俺が払うだろ、それくらいっ!」
 やれやれ、とビクトールはため息をつく。
 まったくこの恋人の我儘ぶりと、純情ぶりはどうしたことか。
 涙目で訴えられて、嫌だと言えるヤツがいたら顔を見てみたいものだ、と思う。
 しかし、カミューに、してやったり、とばかりに1000ポッチを奪われるのも癪に障る。
 その時、はた、とビクトールの脳裏に妙案が浮かんだ。
「フリック」
「何だよ」
「分かった。俺が我慢しきれずにお前を襲ったことにしてやるよ」
「ほ、本当か?」
「ああ。俺は名より実を取る男だからな」
 にっ、とビクトールが舌なめずりせんばかりにフリックに迫る。いやぁな予感に、思わずフリックが身を引く。
「俺としては、お前が本当に俺を誘ってくれれば、それでOKなわけだ。別にカミューに嘘ついたって、俺とお前の間で真実があればいいわけだ、な?」
「ど、どういう意味だよ…」
「俺がその気になるように、誘ってみな。うんといやらしくな。どうせ、そのつもりで来たんだろ?ちゃんと俺をその気にできたら、カミューには俺が襲ったってことにしておいてやるよ」
「い、…」
「嫌かぁ?別にかまわねぇぜ、俺は。カミューに事実を報告するまでだしよ」
 フリックは呆然とビクトールの言葉を聞いていた。
 誘うって?
 その気にさせろって、何もしなくたって、いつもその気になるくせに!
 この男はいったい自分に何をさせようというのだろうか。
「う……っ…」
「へへ…それくらいやってくれたっていいだろ。何事も経験だぜぇ、フリックよ」
 最低だっ!!!
 フリックはこの時ほどビクトールという男を好きになった自分を悔やんだことはなかった。


「ん〜もうちょっと足広げてみな」
 ベッドの端に座りこんだビクトールが無慈悲にも言い放つ。
 反対側のベッドの端のフリックはシャツ一枚にされ、ベッドヘッドにもたれた姿勢でぺたりと座り込んでいた。閉じた膝を広げると、何もつけていない下肢がビクトールの目にさらされることになる。
「ほら、さっさとやんな」
「うっ……」
 そろそろと膝を開けてみる。
 長めのシャツが邪魔して見えそうで見えない。
 ビクトールがニヤニヤと口元を緩め、さらに命令をする。
「んじゃ、そのまま膝立てな」
「そ、んな…」
「そのままじゃ見えねぇだろ。ほら、誘うんだろ、やれよ」
 フリックは唇をきつく噛み締めて目を閉じた。
 自分からこんなことするなんて。
「頼む、ゆ、許してくれ、ビクトール」
「ああ?まだ何もしてねぇだろぉが。ほら、やれって」
 何もしてないから恥ずかしいんだろっ!とフリックは心の中で叫ぶ。
 行為の最中であれば、自分も半分朦朧としてるから羞恥心も半減するのだが、今はまだ素面で、意識もはっきりしているのだ。恥ずかしさも半端じゃない。
 けれど、ビクトールが許してくれるはずがないのも分かっていた。
 フリックはくそっと毒づくと、ゆっくりと閉じ合わさった膝を左右に広げた。
 冷えた空気が下肢に触れる。
 ごくりとビクトールの喉が鳴った。
「もっとだ」
「う…」
 フリックは死んでしまいたいほどの羞恥に耐えつつ、さらに足を広げる。
 ふるっと花芯が震えた。痛いほどのビクトールの視線を感じて、思わず目に涙が浮かぶ。
「すっげ…。いい眺めだぜ、こりゃ」
「も…見るなっ…」
「見るためにやってんだろ。んじゃあ、触って、自分で可愛がってやんな。俺としたかったんだろ?もう我慢できないんじゃねぇのか?」
「できないっ!…も…いやだ…」
 目の前で自慰行為を見せろだなんて、いったい何を考えているのだろう。
 フリックははらはらと涙を流して、嗚咽をこらえる。
「泣いたって駄目だぜ。こんなチャンス二度とはねぇだろうからな。ほら、ちゃんと足は広げてろ。奥まで見えるように、ちゃんとな」
「最悪だっ…お前…」
「誉め言葉だな、そりゃ。自分でできないっていうんなら、俺にやって欲しいって言ってみな」
 ビクトールは真っ赤になって首を振るフリックがどうにも可愛くて仕方ない。
 羞恥で震える脚の奥。誘うように半分勃ち上がったフリックの花芯が見える。さらにその奥にある蕾のことを思うだけでビクトールの股間も痛いほど張り詰めてくる。
 とりあえずビクトールも限界なのだ。
 この10日間、フリックのことを思って一人で慰めていたが、やはり、そんなものでは満足できやしない。
「フリック、ほら、どうして欲しい?言えよ」
「……あ…さ、わって…くれ…」
 口にしたとたん、フリックはもうどうでもいいような気がして、大きくため息をつく。
「どこを?どんな風に?」
「……っ…を」
 聞き取れないくらいの小さな声に、ビクトールはベッドの上を移動してフリックに近づく。怯えたように顔を背けるフリックに、うっそりと笑うとぐいと膝頭に手をかけた。
 力を入れて閉じようとするフリックの脚を無慈悲にも左右に広げ、中を覗き込む。
「何だ…濡れてるじゃねぇか…先の方…。して欲しいか?」
「うっ…」
「想像しただけでこんなになっちまったのか?やっぱりお前も溜まってたんだろ?」
「うるさいっ!」
 フリックの膝がビクトールの肩を蹴り飛ばす。
「いって、お前!逆ギレすんなよっ!」
 ビクトールがベッドに倒れたまま恨めしげにフリックを見上げる。真っ赤になったフリックがそんなビクトールを睨む。
「お前は…何でそう…」
「10日もしてねぇんだ。溜まってんだよっ!思いっきりやらしいことさせてくれたっていいだろっ!」
 あまりにもストレートな言い分にフリックは眩暈がしそうだった。
 元はと言えば誰のせいなんだっ、とフリックは怒鳴りたくなったが、あまりに子供じみた喧嘩になりそうなのでやめた。そして、もうどうにでもなれ、という諦めモードで目を閉じた。
 ごくりと喉を鳴らして、唇を開く。
「ビクトール…し…て。お前の…口でして欲しい…」
 もつれた舌がやっとそれだけの言葉を紡いだ。
 そっと自分の指を下肢へと伸ばす。しかし触れることはできずに足の付け根で止まってしまう。
 そんなフリックに我慢しきれず、ビクトールはフリックの白い内腿に唇をつけると、強く吸い上げた。
「あっ…!い…った」
 ちゅっと音を立てて唇を離すと、そこには鬱血した痣が残る。それを舌で舐めて、ビクトールはフリックを見上げた。
「もっと言ってくれよ。どうして欲しい?」
「だから…早く…お、俺の…」
 ビクトールの熱い息がゆっくりと近づいてくる。
 フリックの指にビクトールの髪が触れたと思ったとたん、熱い口腔に包まれたのを感じた。
「ふっ…んっ…ああぁっ」
 いきなり強く吸われて、フリックはぎゅっと脚を強張らせた。含まれたとたん、痛いほどに勃ち上がってしまったことが恥ずかしくて、フリックは大きく息をつく。
 ビクトールは10日ぶりのフリックの蜜の味を味わうかのように、しつこいくらいに舐め上げてくる。
唇で上下に扱き上げ、裏側を舌で舐める。あっという間ににじみ出てきた先走りの蜜を音を立てて吸い上げる。
「ああっ…あうっ、あっ…やっ…」
 信じられないくらいの速度で駆け上がっていく快感についていけず、フリックはがくがくと脚を震わせた。ぴちゃぴちゃとわざと音を立て、ビクトールが上目遣いにフリックの様子を窺う。
 薄く頬を紅潮させ、薄く開いた唇からはひっきりなしに甘い吐息が漏らすフリックの何と可憐なことか。ビクトールと視線が合ったとたん、泣きそうな顔をしてみせる。
「はぁ…っん…もう…やだ…っ…ああっ!」
 絶頂が近いのか、フリックの花芯がびくびくと震え始める。
 指と唇と。
 脚の間で激しくビクトールの頭が上下に動く。
 フリックは厭々をするように首を振った。
「ひゃ…っ…あ、ああ、はっ…!」
 一瞬、頭の中が真っ白になったような気がして、フリックは息を詰めた。どくっと吐き出された蜜はすべてビクトールの舌の上で受け止められた。
 余すことなく飲み込んで、ビクトールは濡れた唇を手の甲で拭う。
「いや……ぁ…」
 それでもまだ足りないというようにフリックの花芯は勃ち上がったままで。
 一度火がついた身体は止め処なく求めてしまう。
 ビクトールは乱暴にフリックの身体を引き倒すと、まるで力の入っていないフリックの両足を胸につくまでに折り曲げ、腰を浮かせた。
「ちょ…っ…」
 何をするつもりだ、とフリックが言うよりも早く、ビクトールの舌先がフリックの最奥に触れた。
「あっ…!」
 思わず零れる掠れた声。
 ねっとりとビクトールの舌先がフリックの蕾を舐め上げた。
「やぁ…ああっ、ふ…うっ…」
 先ほど放ったフリックの蜜と自分の唾液を最奥へと塗り込めていく。何度も何度も。ぐちゅりと音を立て、柔らかくなるまで舌先で愛撫する。
「はぁ…あっ…ああ…!」
 たった今放ったばかりの花芯から再び蜜が滴り落ちる。フリックは震える指先で脚の間にあるビクトールの髪をつかんだ。
「やっ…もう…やだ…っ」
「我慢できねぇってか?」
「ちがっ…」
 ビクトールが濡れた蕾に熱い舌先を捻り込ませていく。くちゅっと音を立てて、出入りする舌の動きにフリックは小さく喘ぎ声を上げた。
 自分が今どんな格好で、何をされているか考えるのも嫌で、フリックは両手で顔を覆った。覆ったからといって逃げられるわけはないのに、そうしないわけにはいかなくて。
「フリック…気持ちいいか?」
「はっ…あ…」
 声も出せずに顔を振るだけのフリックを指で解しにかかる。たっぷりと濡らされたそこは拒むことなく、ビクトールの指を受け入れた。
「ああぅ…あっ…!」
「すげぇな、指一本くらいじゃ余裕だな」
「よせ…あっ…あああ」
 フリックが止める間もなく、二本、三本と増やされ、すぐにズクズクと抜き差しを始められてしまう。徐々に早くなる動きに、フリックがしなやかにその身を仰け反らせた。
「いやっ…も…ぅ…イく…」
「おいおい、まだだろ…」
 ビクトールがフリックの身体に圧し掛かり、耳元に熱い息を吹きかける。びくびくと震え、今にも熱い蜜を迸ってしまいそうな花芯をビクトールのイジワルな指がきゅっと掴んだ。
「ひっ…やぁ…!!」
「まだ、だろ?ほら、どうして欲しいか言えよ。ちゃんとこの口で俺のことを誘ってみな」
 薄く開いたフリックの唇をビクトールの舌がねっとりと這い回る。
 身体中があまりの快感の強さにバラバラになりそうな気がして、フリックは顔を覆っていた腕を、ビクトールの首へと巻きつける。早く満たして欲しかった。離れていた10日間を忘れるほどにしっかりと抱きしめて欲しいと、心から思った。
「フリック…」
「あ…ああ…ぅ…挿れ…て…早くぅ…」
 ビクトールの指が花芯から滑り落ち、そのまま滑らかな内腿を持ち上げた。
「ビクトール…はっ…ああ」
「いい子だな…ちゃんと言えたじゃねぇか」
「あああっ…っ!!」
 ずぷっと音を立てて、ビクトールの昂ぶりがフリックの中へと沈み込んでいく。さんざん嬲られた蕾は妖しく蠕動を繰り返し、ビクトールをきつく包み込む。
「くっ、そんな締め付けんな…持たねぇだろ…」
 ゆっくりと突き上げを開始したビクトールがフリックの首筋に吸い付く。軽く歯を立てて、所有の印を散らしていく。
「あぅ…ん、ん、んっ…やぁ…そんな奥まで、いれ…ないで…」
 フリックがぱたぱたと涙を零す。
 ビクトールの前後の激しい突き上げに、もうどうにかなってしまいそうだった。知らず知らずにずり上がる肩をビクトールの手が掴んで引き戻す。
「ああっ…ふぁ…あ!」
 耐え切れず、フリックが先に昂ぶりを解放した。溢れた快楽の蜜は触れ合ったビクトールとフリックの腹の間をしとどに濡らした。
「なに先にイってんだ…くそっ…」
 ビクトールが低く悪態をついて、フリックの腰を引き寄せる。
 そして我慢していた欲望をすべて叩きつけるかのように、激しく抜き差しを繰り返す。
「も…やめ…」
 フリックがびくびくとその身を震わせる。苦しげに開けた唇をビクトールが塞いだ。
 身体の奥深くで打ち震える熱い昂ぶりがフリックを狂わせる。
「フリック…」
 薄れていく意識の中で、フリックはビクトールの声を聞いたような気がした。
 愛しげに呼ぶ恋人のその声を。


「で?結局、あなたからフリックさんを襲ったと?」
 カミューがいつもの読めない笑顔で繰り返す。
 朝のレストランでする会話じゃない、とフリックはうなだれる。
 朝といってももう10時である。結局あのあと、10日間の欲求不満を晴らそうとするビクトールによって、明け方までフリックは眠らせてもらえなかった。
 こんなことになるなら、毎日やってた方がましだと思うほどに、昨夜のビクトールは容赦がなくて、フリックはまだ身体のあちこちが痛くて仕方がないのだ。
 そして、嫌がるフリックを引き連れて、ハイ・ヨーのレストランのテラスで優雅に紅茶を飲んでいたカミューの席にそろって座り、ビクトールが開口一番言ったのだ。
「やっと禁欲生活から解放されたぜ」
 と。
 並んで座るフリックは顔を上げることもできずに、赤い顔をしてうつむくばかりである。
 どうして、こんな恥ずかしい報告をカミューにしなくてはいけないのだ。
 昨夜しっかりいたしました、と告白してるようなものではないか。
「ま、そういうことだ。やっぱりお前の言う通り、我慢できなくってよぉ」
「なるほど」
「10日は長かったしな。まぁ昨夜は目一杯楽しんだがな。もうこんな賭けはやらねぇぜ、1000ポッチがもったいないからな」
 へらへら笑いながら自分が負けたなんて言うな!とフリックは内心怒鳴っていた。負けたのだからもっと口惜しそうな顔をしないと疑われるではないか。
 カミューはそんなフリックを見て、くすりと笑い、ビクトールに向きなおす。
「残念でしたね。でもまぁ、禁欲生活から解放されて良かったじゃないですか。で、昨夜のフリックさんのどこが良かったんですか?」
「そりゃあもう、自分から俺のことを誘ってくれたところなんて…」
 ビクトールの一言に、がたんっと音を立ててフリックが立ち上がる。
「あ…」
 ビクトールは不穏な空気に固まった。
 ふるふるとフリックの拳が震えているのが視界に入る。
「どうやら、賭けは私の負けのようですね。では、1000ポッチをどうぞ。フリックさんがどうやって誘ったのか、今度ぜひ教えてくださいね」
 カミューは余計なとばっちりはごめんだとばかりに席を去る。
 残されたビクトールとフリックはしばらく無言だった。
「………」
「……フリック?」
 おそるおそるビクトールが声をかける。
「…いだ…」
「え?」
「お前なんて嫌いだっ!!!二度と俺に近づくな〜〜〜っっ!!!」
 フリックが泣き喚く様は、レストランにいた数人の人間がしっかりと目撃してしまった。
 そして、しばらくの間、その話題で城中は持ちきりだったとか。

 


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