甘い時間


 レストランの片隅で、プリンの試作品が配られていた。
 ユヅの牧場でとれる美味しい牛乳。それを使ってハイ・ヨーが特製のプリンを作ったのだ。
 訪れる子供たちが列をつくってプリンを受け取る。
 とりあえず子供から先にもらえるというのは当然のこと。
 
 いいなぁ…
 
 レストランの片隅で、テーブルに頬杖をついたカミューがその様子を眺めていた。
 プリンが大好物だなんて、いい大人がみっともなくて口にはできない。
 だけど、あのプリンはぜひともに味見してみたい。
 ユヅが世話をする牛から取れる牛乳は、それだけでも絶品なのに、それをふんだんに使ったプリンとなれば、美味しくないはずがない。
 しばらくすれば、レストランの正式メニューとして並ぶことであろう。
 しかし、並んだからといって、堂々とプリンだけを注文するのも気がひける。さらに悔しいことに、夕食の定食にもなかなかプリンはデザートとしてはつかないのだ。子供向けのメニューには定番のデザートだというのに!
 カミューがぼんやりと賑わう様子を眺めていると、どこからかシーナがやってきて、めざとくプリンを見つけた。
「俺も俺も!!俺も食べたいっ!」
 小さな子供に混ざってハイ・ヨーに手を上げるシーナ。
「大人はだめアルよー」
「俺子供だもん!20歳未満はまだ子供っ!」
 堂々と、都合のいいことを言うシーナにハイ・ヨーは苦笑して、それでも、しぶしぶながらガラスの器に入ったプリンをシーナに手渡した。

 羨ましい!

 美味そうにプリンを頬張るシーナに、軽いジェラシーなんぞを感じてしまうカミューである。
 むぅっと唇を尖らせたカミューに、隣で本を読んでいたマイクロトフが軽く溜息を洩らす。
 そして、何も言わずに立ち上がると、ハイ・ヨーの元へと足を向けた。
「ハイ・ヨー殿、大変申し訳ありませんが、プリンを一つわけてはいただけませんか?」
「えっ、マイクロトフさん、プリン好きアルか?!」
 ハイ・ヨーが心底びっくりしたように目の前の馬鹿でかい男を見上げる。
 周りの子供たちもジロジロと、真面目な顔をした元青騎士団長を見つめる。
「ええ、ハイ・ヨー殿の作られるものはどれも美味です。ぜひとも、その新作のプリンも味わってみたいのですが、子供でなくてはだめでしょうか?」
「いやいや、嬉しいアルよー。マイクロトフさんは肉だけが好物かと思ってたからねー。さ、食べてみてちょうだい。これは本当に自信作よー」
「ありがとうございます」
 大きな手の中に、小さなガラスの器。
 あっけに取られてそのやり取りを見ていたカミューの元に、マイクロトフが戻ってくる。
 カミューの目の前に、とんっと器が置かれた。
「さ、好きなだけ食べろ」
 無表情なまま、マイクロトフが言う。
「……分かったのか」
 と頬を染めるカミューに
「長い付き合いだからな」
 と答えて、マイクロトフは読みかけのページへと視線を落とした。
 待ち望んでいたプリンをスプーンで掬うカミュー。
 濃厚な味わいに、思わず笑みがこぼれる。
「ひとくち食べるか?」
「遠慮しておく」
 即答するマイクロトフの口元に、カミューがスプーンを運ぶ。
 しぶしぶ、マイクロトフが口を開く。




「恥ずかしくないのかね」
 そんな二人のやりとりを見ていたフリックが、うんざりしたようにつぶやいた。
「今さらだろ」
 お前もプリンが欲しいか?と相棒がからかう。
 貰うなら、二つ貰ってきてくれと答えるフリックに、ビクトールはちぇっと舌打ちした。
 どうやら愛する恋人に食べさせてもらえるなんてことは、夢のまた夢らしい。
 ほんの少し、マイクロトフが羨ましいと阿呆なことを考えるビクトールだった。
 


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