1.告白 | |
「実はな…」という台詞から始まる告白にろくなものはない。 フリックはじろりとビクトールを睨んだ。 |
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2.嘘 | |
嫌いだと言っても目が笑っている。だからそれは嘘なのだと分かる程度には、 ヤツとはいい仲になっている。3年かかった。 |
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3.卒業 | |
彼女の名前を聞いても、引き裂かれるような胸の痛みはなくなった。 時の薬というのは確かに存在する。好むと好まざると。 |
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4.旅 | |
どこへ続くとも分からない道を歩く二人は無言だった。気まずいわけではなく、 むしろすべてを分かりあえた静けさが、そこにはあった。 |
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5.学ぶ | |
怒鳴られても全く悪びれた様子のない男に、傭兵連中が苦笑を洩らす。 見慣れた風景だが、そろそろ学んだらどうだろうと、誰もが思っていた。 |
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6.電車 | |
一昔前では考えられなかった快適な旅に、何だかずるいことをしているような気がして ならない。そう思いながら、二人は慣れない揺れに身を任せていた。 |
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7.ペット | |
したたかに酔っ払ったビクトールはくったりと全身の力を抜いて横たわっていた。 大きな熊のぬいぐるみのようで、見ている分には害はない。 |
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8.癖 | |
彼がその瞬間どんな表情をしているのかを知りたくて、つい目を開けてしまう。 悪い癖だと悪態をつかれても、やはりやめられそうもない。 |
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9.おとな | |
成人の儀式を終えてないくらいで子供だと言われるのは不本意だと、ヤツは唇を 尖らせる。そういうところがまだ子供だとは気づいていない。 |
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10.食事 | |
がつがつと無言で食べるビクトールを、その向かい側でぼんやりと見ているフリック。 夕食時のレストランではよく見かける光景だった |
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11.本 | |
いつもふざけている男が真面目な顔をして本を読んでいた。まるで別人のような気が して、いつものように声をかけることができなかった。 |
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12.夢 | |
「夢を見ていた」とフリックが幸せそうに薄く笑う。何の夢を見ていたのやら、と ビクトールは軽く肩をすくめた。 |
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13.女と女 | |
ナナミとニナが一緒にいるのを見かけると、とたん条件反射で回れ右をしてしまうのが、 どうにも情けないと分かってはいるのだが。 |
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14.手紙 | |
古い友人から届いた手紙に、フリックの表情が和らぐ。共に闘った騎士の二人とは、 あの戦い以来会っていない。 |
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15.信仰 | |
戦いに出る前には必ず相棒と拳を合わせる。互いに同じことを思い、 そして祈りながら。それが神の代わりに彼らが信じているもの。 |
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16.遊び | |
仕事も遊びも本気でするのが俺のポリシーだ、と嘯いて子供たちとじゃれあう。 そういう所が好きだとは、彼は多分一生口には出さないだろう。 |
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17.初体験 | |
そんな昔のことは忘れたなぁとたいていの男は口にするし、自分もそうだが、 フリックとの時のことは、たぶんいつになっても忘れない。 |
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18.仕事 | |
「仕事だ」と、鬼軍師は涼しい顔で無理難題を突きつけてきた。お前たちなら できるだろう、という一言が救いといえば救いである。 |
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19.化粧 | |
初めての化粧に、少女の顔は女性のそれに変わっていた。嬉しそうなナナミの姿に、 傭兵二人は何ともいえない表情を浮かべた。 |
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20.怒り | |
彼が本気で怒ると、全身から立ち昇る青い炎が見えるかのようだ。普段穏やかだから 忘れている。大声で叫ぶより、無言の怒りは周りの者を圧倒するものだということを。 |
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21.神秘 | |
するりとシャツに腕を通す動作とか、バンダナを結ぶ指先とか。何故そんな何でもない ことに刺激されてしまうか、長い間分からずにいた。 |
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22.噂 | |
顔を寄せてくすくすと笑いあう少女たち。何の噂話をしているのかは分からなかったが、 よく飽きないものだなぁと傭兵達は感心するしかない。 |
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23.彼と彼女 | |
彼を見つめる彼女の目は優しかった。大勢の中では決して見せようとはしなかったが、 ふとした拍子に見せるそれは、妬きたくなるほどだった。 |
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24.悲しみ | |
霧のような雨が降っていた。いつでも人を明るい気持ちにさせた彼女の笑い声は もう聞けないのだという事実に、誰もが打ちのめされていた。 |
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25.生 | |
耳元の聞きなれた男の声に小さくうなづく。抱き締められて、その温もりに、 やっと自分が生きて戻ってこれたことを実感することができた。 |
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26.死 | |
細い彼女の身体はずっしりと重たかった。視界が歪み、溢れた涙が彼女の頬を 濡らす。後悔はこんな形で訪れるのだと、知る時にはもう遅い。 |
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27.芝居 | |
深夜に戻ってきた男からは妙に甘ったるい匂いがした。何もなかったような下手な 芝居をするから、気づいていないような下手な芝居をした。 |
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28.体 | |
自分と同じ体だと分かっていたのに、触れた瞬間、それまで感じたことのない興奮を 味わった。やっぱり恋だったと今さらながらに思い知った。 |
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29.感謝 | |
燃え盛る炎の中、彼を助け出した。投げやりな瞳の色に怒りが込み上がる。 けれど生きることを選んだのだろう。腕を掴む指に力が入った。 |
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30.イベント | |
何が楽しくて、と悪態をつく男と、暑さなどまったく気にした様子もない男が開店前の 列に並んでいた。あと5分。今が一番楽しい時だった。 |
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31.やわらかさ | |
男の身体だから、やわらかさなんて欠片も無い。けれど抱き締めるとそれを 感じることができた。身体ではなく、気持ちの問題なのである。 |
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32.痛み | |
傭兵なんてやってると嫌でも痛みに強くなるらしい。平気な顔をして切り裂かれた傷を 縛りあげる彼らに、周囲の者の方が痛そうな顔をした。 |
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33.好き | |
絶対に口にするまいという決心を崩すのに、どんな理由をつけようかと考えているのが よく分かる。たった一言が彼には重大な問題らしい。 |
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34.今昔(いまむかし) | |
昔は、おい、なんて呼ぼうものなら返事もしてもらえなかった。今は当たり前のような 顔をして振り返る。本人はその変化には気づいていない。 |
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35.渇き | |
ヤツに会わないでいると感じてしまう渇きは、三日目にはやってきた。 紛らわすためについ酒を飲む。同じようにヤツも飲んでるのだろうか。 |
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36.浪漫 | |
右か左かと尋ねると、少し考えたあとに右だと言った。風が吹いた方向へ行くと 決めているだけだ。そんな風にもう何年も二人で旅をしている。 |
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37.季節 | |
この季節がやってくると、ヤツはいつもより無口になる。同じ気温、同じ風、 そんなものが同じ記憶を呼び覚まし、彼女のことを思うのだろう。 |
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38.別れ | |
また会おうと言って笑顔で握手を交わす。何人、何十人と。そうしている内に、 本当に戦いは終ったのだなと思えてきて、胸が熱くなった。 |
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39.欲 | |
金銭欲も、出世欲も、名誉欲も、彼らはまったく何も持っていないようで、ならば何を 返せるのかと少年は考える。別れの時は近づいていた。 |
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40.贈り物 | |
欲しい物は何もなかった。一生遊べる金とか、人が羨む名誉とか。ただ最後に彼が 笑ってありがとうと言ってくれたことが最高の贈り物だった。 |