Keep a Secret


 その殺気に最初に気づいたのはビクトールだった。
 2週間に及ぶ遠征から帰ってきたメンバーは、目の前に本拠地である城が見えると、一様に緊張感をなくした。
 戦いは快勝で誰一人として負傷したものはいなかった。あと少しで我が家だ、と思うと誰もがそわそわし始める。いつもならビクトールもそんな一人だった。しかし、何かがおかしいと思い辺りを見渡す。それに気づいたフリックも同様に視線を巡らせた。
 1人の少年が飛び出してきたのはその直後だった。
 手に握られた短剣は真っ直ぐにディランへと向かっていた。ビクトールとフリックが剣を抜きとる。距離からすれば十分避けれたはずなのに。
 ほんの一瞬。
 ディランの動きが鈍った。
「―――っ!!」
 次の瞬間、鮮血が辺りに飛び散った。
 フリックが少年の手から短剣を払い落とし、その身体を押さえ腕を捻り上げる。
「ディラン!!」
 ビクトールがその場にうずくまったディランに駆け寄った。
「っ…」
 左腕を押さえたディランの指の間からどくどくと血が流れ落ちる。
「ちくしょうっ…お前なんか死ねばよかったんだっ!お前のせいで…お前のせいで…」
 フリックに取り押さえられた少年は止めを刺せなかったことへの怒りで涙を流して喚き散らす。
 そんな少年をディランは醒めた目で見つめた。


「ディラン!!」
 ビクトールに背負われ、青い顔をしたディランに、ナナミが悲鳴をあげる。
 城に到着すると、一足先に知らせに戻ったスタリオンのおかげで、すでにホウアンたちが待機していた。すぐに医務室へと運ばれ、傷の手当てが始まる。
「いって…もうちょっと優しくしてよ…」
 ディランが思わず顔をしかめる。
 ホウアンが傷口を消毒する様子を心配そうにナナミが覗き込む。
「ディラン…」
「大丈夫だよ、ナナミ。心配しないで」
 ディランが痛みを堪えてナナミに微笑む。
「いったい何があった?」
 医務室の入口付近で腕を組んで、シュウがビクトールを見る。たった今起きた出来事をシュウに説明するとビクトールは小さくため息をついた。
「すまねぇ、俺たちがついてながら…」
「まったくだ。で、その少年は?」
「フリックがついてる。まだほんのガキだ。どうする?」
「……どこの者か、何の目的か、調べるのが先だな。フリックに伝えろ。身元が分かったら知らせに来い」
「分かった」
 ビクトールがうなづいて医務室を出て行く。シュウは治療中のホウアンとディランに近づいた。
「ホウアン、どんな具合だ?」
「思ったより傷は深いですね。少し縫いましょう、その方が治りが早い。トウタ、準備をして」
「はい、先生」
 慌しく人が動く。大丈夫だから外に出てるようにとシュウに言われ、涙目のままナナミが医務室を出た。シュウは振り返るとベッドに横たわるディランを見下ろす。
「ディラン殿」
「ん…?あのさ、一応ケガ人なんだから、そんな怖い顔しないでよ」
 見るからに不機嫌そうなシュウに、ディランが冗談めかして言ってみせる。どうせこのあと、嫌というほど嫌味を言われるのは目に見えている。せめて治療中くらいは黙っていてほしいものだ、と心の中でつぶやく。
 ホウアンは手早く傷口を縫い合わせると、薬を調合した。
「今は薬が効いていますが、切れるとかなりの痛みがあると思います。おそらく夜中に発熱するでしょうが…」
「仕方ないだろう。ディラン殿、一人で部屋まで歩けますか?」
「ああ、平気だよ」
 よろよろとベッドから起き上がり、ディランはトウタから熱さましの薬を受け取る。
 まったくついてない。
 シュウに腕をとられ、まるで連行されるかのようにして、自室へと向かう。途中、ディランがケガをしたということを聞いた仲間たちが次々に声をかけてくる。
「大丈夫だから…心配しなくていいって」
 ディランはみんなに微笑んでみせる。シュウは無言でディランとともに最上階へと向かった。部屋に入るなり、ディランはシュウの腕を払って、ベッドに倒れ込んだ。
「……っつ…」
 身体を丸めてずきずきと痛む傷口を押さえる。何が痛いって、傷口を縫合する時が一番痛かったのだ。ディランは何度か短い息を繰り返した。
 シュウはクローゼットを開けると中から着替えを取り出し、ディランへと放り投げる。
「着替えろ。血の匂いがベッドにしみつく」
「……動けない」
「それくらいのケガで甘えたことを」
 シュウは人前ではディランのことをリーダーとして扱う。10歳近く年齢の離れたディランの意見を尊重し、その決定権を委ねている。しかし、仕事を離れ、プライベートで2人きりになると態度が一変する。同等に、というのは同じだが、もっとフランクで、容赦がなくなる。
 ディランは恨みがましい目でシュウを一瞥して、それでもさすがに血の匂いには耐えきれず服を脱ぐと新しいシャツに着替えた。その様子をイスに座ったシュウが見つめる。
「説教ならたくさんだよ」
 視線にうんざりしたようにディランが言う。
「したくもなる。いったいどういうつもりだ?」
「どういうつもりだって言われても、襲われたのは俺の方なんだけど」
「なぜ避けなかった?あなたなら十分避けれたはずだ」
 ビクトールの話では、少年が飛びだした瞬間、ディランは何かに目を奪われたかのように動きが鈍ったという。普通なら簡単に避けれる距離だったのだ。だからビクトールもフリックも安心してしまったのだ。ディランが自分で避けるだろう、と一瞬思った。そしてそれが仇になった。
「……少し寝るよ。話ならそのあとにして」
 ディランはシュウの質問には答えずベッドに横たわり目を閉じる。見ると額に脂汗が浮かんでいる。相当痛いのだろうと思い、シュウは立ち上がった。
「いいだろう。だが、納得できる理由を聞くまでは許さんからな」
 自分ひとりの身体ではない、ということをディラン自身が一番よく分かっているはずなのに。
 それなのにこんなに簡単にケガをしたことに、シュウは怒りを感じていた。
 同盟軍は志を同じにする者たちの集まりだ。
 けれど決して戦いのプロばかりではない。戦闘とは無縁の者たちが多い中、どうしてもリーダーとなる人間が必要なのだ。誰でもいいわけではない。そしてそれは強さや頭の良さで選ばれるものでもないのだ。
 ディランのその圧倒的なカリスマ性。
 誰もが認めないわけにはいかないその統率力。
 今ディランに死なれるわけにはいかないのだ。
「シュウさん」
「何だ?」
「ビクトールさんたちに言っておいて…俺は平気だから、気にするなって」
「………あとでまた来る」
 眠りに落ちたディランを見届けて、シュウは静かに部屋を出た。


 シュウのもとへビクトールとフリックがやってきたのは、ディランに対する憤りが落ち着いた頃だった。執務室のイスに腰掛けたシュウにフリックが口を開く。
「すまなかった。俺たちがついていながらディランにケガさせちまって。ディランの様子は?」
「大丈夫だ。で、犯人の事情聴取は終わったのか?」
「ああ…どうやら逆恨みってやつみたいだな」
 フリックは重くため息をつく。
 少年の兄は志願して同盟軍の兵士となっていた。その兄が少し前のサウスウィンドでの王国軍との戦いで戦死した。遺体も戻らなかったという。殺したのは王国軍だが、その恨みは兄を兵士として使った同盟軍へと向けられた。とくにそのリーダーであるディランに。
「ふざけたヤツだ。無理矢理に徴兵した覚えはない」
 シュウが吐き捨てる。
「分かってる。それはあの少年も分かってるんだが…それでも誰かに憎しみをぶつけなければやりきれなかったんだろう。家族は兄と2人きりだったらしいから」
 そんなことはディランを殺そうとする理由にはならない。
 ビクトールがどさりとソファに腰を降ろす。
「で、どうすんだ?無罪放免にするのか?それとも罰を?」
「……処分を決めるのはディラン殿だ」
「じゃ、それまでは見張りをつけとくか。まったく、やりきれねぇな、こんなことがあると」
 長引く戦いは人の心を弱くする。
 ビクトールは経験からそれを知っている。ディランを襲ったことは許されることではないが、そうせずにはいられなかった少年の気持ちも分かるのだ。
 ディランがどんな判断を下すか。
 ビクトールはフリックを促し、執務室を出ようとした。
「ああ、ビクトール」
「あん?」
 呼び止められ、ビクトールがシュウへと顔を向ける。
「ディラン殿からの伝言だ。平気だから気にするな、と」
 シュウの言葉にビクトールとフリックが困ったような顔をする。
「……あいつらしいな」
 フリックが小さく笑う。
 いつでも、ディランはそう言うのだ。
 平気だから、と。
 ビクトールが軽く手を上げて、扉を閉めた。


 突き上げる痛みにディランは目を覚ました。
 びっしょりと汗をかいていることに気づいて、額をぬぐう。どうやら薬が切れてきたらしい。
 緩慢な動作で起き上がると、サイドテーブルに置かれた水を口に含んだ。
「まいった…これはちょっと…」
 痛みには強い方なのだが、それでも身体が悲鳴をあげているのが分かる。
 2週間の遠征でかなり疲れていたところへ、このケガだ。
 こんなことなら、あの時、さっさと避けていれば良かった。
 ディランは目を閉じ、斬りつけられた瞬間のことを思い出していた。
 茂みから飛び出してきた少年に目を奪われたために、一瞬身体が動かなかったのだ。
 ジョウイに似てたから。
 今思えば、そんなに似ていたとも思えない。
 けれど、同じ目と髪の色をしていた。
 たったそれだけなのに、目を奪われた。我ながら愚かしいと思う。けれど、そんなことを思うよりも早く心が動いた。ジョウイの面影を見つけ、無意識のうちに求めてしまった。
「けっこう健気だよな、俺も…」
 ディランは笑って再び身体を横たえる。
 おかげで会いたいという気持ちに拍車がかかってしまった。
 会いたい。
 今すぐ会いたい。
 気が狂うほどの欲望が胸をしめつける。
 ジョウイ…
 そこへ一番見たくない人物がやってきた。ディランは露骨に嫌そうな顔をしてみせた。
「シュウさん、自分は部屋に入る時はノックしろっていつも言ってるくせに」
「起きてたのか。眠っていると思ったのでな」
 シュウは後ろ手に扉を閉め、ディランが横になるベッドへと近づいた。
 手には見るからに病人食といった感じの夕食がある。ディランはちぇっと舌打ちする。
「腕をケガしただけなのに、何でこんな食事なんだよ」
「文句を言うな。ハイ・ヨーが心配してたぞ。特別料理だそうだ」
 ふうん、とディランは素直にスプーンを手にする。シュウはベッドの近くにイスを引き寄せると、食事を口にするディランの様子を見守った。
「痛むか?」
「そういう当たり前のこと聞かないでよ。言いたいことがあるならさっさと言ったら?ああ、やっぱり食べ終わってからにしよう。せっかくの食事が不味くなる」
 ニヤリと笑うディランに、シュウは肩をすくめる。
 そしてディランの望み通り食事が終わるのを待った。最上階にあるディランの部屋は殺風景だ。他の連中の部屋はそれなりに生活感というものが出てきているにも関わらず、いつまでたってもどこか寒々しい感じがする。
 それはディランの心がここにはないからなのだろうか?
 もっともシュウの部屋も決して暖かい雰囲気だとは言いがたいのだが。
「ごちそうさま。美味しかった。さすがはハイ・ヨー」
 ディランがナプキンで口元を拭う。膝の上に置いていたトレイをシュウに手渡し、枕を背に壁にもたれかかった。
「さ、報告とやらを聞こうじゃないか。何かわかったの?」
 シュウはビクトールとフリックからの報告をそのままディランに伝えた。彼が今は大人しく処罰を受ける覚悟をしているということも。
 ディランはふうん、とうなづく。
「処分はどのように?」
「首でも刎ねちゃえば?」
 あっさりと言い放つディランに、シュウは眉をしかめる。そんなシュウを見て、ディランはくすくすと笑った。
「何か言いたそうだね?」
「同盟軍のリーダーともあろう人が、個人的な感情で処分を言い渡すのはどうかと思うが?」
 冷静な意見を述べるシュウを、ディランがきつい瞳で睨みつける。
「個人的な感情で俺を殺そうとした相手に、個人的な感情で処分を言い渡すことを非難するんだ?」
「あなたが下す判断は、個人的な感情だから、では済まされない」
「俺には個人的な感情は持つなってこと?」
「持つなというよりは、持てないという方が正しい。そんなことくらい、同盟軍のリーダーになった時に分かっていたはずだろう?何を今さら」
 シュウが冷たい視線でディランを見返す。
 今やディランの意思はディランのものであってディランのものではない。
 その言葉一つで大勢の人間の命が奪われることもあるのだから。
 やがてディランは小さくため息をつく。
「……冗談だよ。反省してるなら解放すればいい。もし本気で兄の仇とやらを取りたいのなら、同盟軍に入ってルカ・ブライトの首を取ることだって言いくるめてもいい。兵士は一人でも欲しいところだから。できるだろ、シュウさんなら」
 模範的なリーダーとしての言葉。
 それを言わせたのは自分だ。シュウはいつになく苦々しい思いに駆られた。めずらしくディランが反抗的な言葉を口にしたからだろうか?ディランの言葉に正当性を感じながらも、リーダーとしての責任を押しつけてしまったせいだろうか?どちらにしろ、気分が悪かった。
「どうして避けなかった?」
「ん?どうしてだろうね」
「ふざけずに、ちゃんと答えてもらおう。あなたがそんなことでは周りへの示しがつかない」
「聞いたらもっと示しがつかないと思うけど?」
「……」
「はいはい、言いますよ。実はさ、似てたんだよねぇ、ジョウイにさ」
 思いがけないディランの言葉にシュウは冗談だろう、という表情を見せる。いつも冷静なシュウを驚かせることができたことにディランはちょっと満足する。
「それで一瞬油断した。そしたらこのありさまってわけで…」
「ふざけてるのか?」
「いや、ほんとに」
 悪びれずにディランが微笑む。
 そんなくだらないことで?シュウは信じられない思いで目の前のディランを見る。下手すると命を落としていたのかもしれないというのに?
「愚か過ぎる」
「かもね。まぁジョウイに殺されるならまだしも、ただ似てるっていうだけの赤の他人に殺されるのはぞっとしないよな」
 ふむふむ、とディランがうなづいてみせる。
 ジョウイ・アトレイド。
 その名前はシュウもよく知っていた。
 ディランの幼馴染で、ミューズ市市長のアナベルを殺害し、ハイランドへ寝返った少年だ。若いながらもかなりの切れ者だという噂を耳にしている。いずれはルカ・ブライドの片腕になるだろうとも。
 けれど、シュウが気になるのは、ディランのジョウイに対する執着心だった。
「恋人だったのか?」
 ただの幼馴染にしては深すぎるその想いを説明するには、それくらいしか思い当たらない。以前からそうではないか、と思っていたのだが、あまりに俗っぽい話だと思い聞いてみたことはなかったのだ。
 こんな風に真正面から質問をするのは初めてだった。シュウの言葉にディランはしばらくじっと考え込んでいたけれど、やがてうっとりとした口調で言った。
「恋人…愛人、情人?いいね、どれも素敵だ」
 やはりそうか、とシュウはやっと納得できた。
 これでディランの行動も理解できる。多少行き過ぎているとは思うが、それはまだ歳が若いせいだからということで説明がつく。
 だが、そうするともっと不可解なことがある。
「分からないな」
「何が?」
「なぜジョウイがハイランドへ寝返るのを止めなかった?ちょっと似ている少年に目を奪われてケガを負わされるほどに想っている相手なら、なぜ離れていくことを許した」
 ディランが困ったように微笑む。
「ああ見えてジョウイもけっこう頑固なんだよね。一度決めたことはいくら俺が言ったってやめやしないよ」
「だが、敵側につくことになるんだぞ?好きな相手と戦うことになっても平気だったのか?」
 いつか必ずその日が来る。
 愛する人と命をかけた戦いをする日が。それは決して避けては通れない道だ。
「…なぜこの戦いに身を投じた?争いのない世界で、2人で幸せになるためか?そのために、ヤツはハイランドへ寝返り戦っているのか?お互いに求めているものが同じならどうして一緒に戦わなかった?」
 シュウには分からなかった。
 少なくともディランはそう思っているのだろう。しかしジョウイは?
「ねぇシュウさん」
 ディランが片膝を立てて、肘をつく。
「ジョウイはさ、すごく優しいから、世界の平和なんてものも考えてるのかもしれない。この戦いを終わらせて、誰もが幸せに暮らせるようにってさ。でもね、俺はそんなことはどぉだっていいんだよ」
「……まさか、ジョウイのために、わざと負けるなんてことを考えてるわけじゃないだろうな」
「まさか!王国軍は潰すよ。徹底的にね。ハイランドがどうなろうと知ったことじゃない」
「ジョウイを殺すことになっても?」
「俺がジョウイを殺すわけないだろ」
 バカにしたようにディランが笑う。
 そんなことしたら、この戦い自体の意味がなくなってしまうではないか。
「では…何のために戦っている?あなたの望みは一体何なのだ?」
 知りたい、とシュウは思った。
 目の前のこの少年が命をかけてまで戦いに身を投じ、それでも手にしたいと思っていることが何なのか。
 恋人と戦ってまで欲しいものは?
 シュウの疑問が不思議なのか、ディランは呆れたような顔を見せる。
「そんなの決まってるじゃん、ジョウイだよ。俺が欲しいのはジョウイだけ」
「そのジョウイと戦っているのは分かってるか?」
「ん〜、ちょっと違うんだよな、それって。言い方がまずかったかな。つまりね、俺は完全にジョウイを手に入れたいんだよ、これ以上ないってくらい完全にね。それがどういうことか分かる?」
「……」
 黙り込むシュウに、ディランは身を乗り出し、笑みを浮かべる。
「王国軍を潰せば、もうジョウイに行くところはないんだよ。アナベルさんを殺しちゃった時点で、もう同盟軍へは戻れない。今回のことで親からは勘当されちゃってるし、負け将軍としておめおめハイランドにもいられない。もうどこへも行くところはない。ジョウイの居場所はね、どこにもない。俺のところへ戻ってくるしかないんだよ」
「……」
「そうなるように、徹底的に潰すよ。すべてを奪ってやる。ジョウイの居場所なんてどこにもなくなるように、嫌でも俺のところへ戻ってくるように、ひとつ残らずね。そのことでジョウイが傷つくのは仕方ないことだよ。それくらいはね、俺の元から一時でも離れた彼への罰だ。俺にとって、世界の平和なんて、そのおまけみたいなものなんだ」
 何の罪悪感も持たずに、当然のことのように言い切るディラン。
 すべてはジョウイのために。
 ディランを動かすことができるのは、ただそれだけなのだ。
「あなたは…」
「別にいいだろ。利害関係が一致してるんだから。俺は必ず同盟軍を勝利へ導くよ。その目的がみんなとはちょっと違うだけだ。何の問題もないはずだよ。違う?」
 どさりとシュウは背もたれに沈み込む。
 何の問題もない?本当にそうなのだろうか?
 ディランの想いはあまりにも深すぎる。そしてあまりにも一途だ。
 狂気にも似たその想いは、本当に正しいことなのだろうか?
 ジョウイはその想いをちゃんと受け止められるのだろうか?
 今のシュウには分からなかった。
「シュウさん?」
「…なぜそこまで一人の人間に執着できる?あなたにとって彼はいったい何なのだ?」
 シュウのつぶやきにディランは一瞬悲しげな表情を見せた。
 それは理解されないことへの悲しみなのか、それとも自分への哀れみなのか。
「ジョウイが俺にとって何なのか、それは、どんなに言葉を尽くしても、きっと正確には伝わらないよ。俺にも分からない。それが何なのか分かるのはジョウイ唯一人だ」
 至上の恋。
 見つけてしまったのは幸せなのだろうか?不幸なのだろうか?
 シュウは見てみたいと思った。
 このディランにここまで言わせることのできるジョウイがどんな人物なのか。
 ディランが本当にジョウイを手に入れることができるのか、この目で見届けてみたいとも。
 そのためにはこの戦いに勝つしかないのだ。
 ディランならやり遂げるだろう。たとえ幾千の人の血が流れようとも、ジョウイを取り戻すまでは平気な顔をして戦いを続けるに違いない。
「このことは…他の連中には言わない方がいいな」
「言うつもりはないよ。シュウさんだから言ったんだ。秘密は守ってくれるだろうから」
 守ってくれるよね?とあどけない笑顔を見せるディラン。
 秘密。
 一切は秘密。
 ディランの想いも、それを知ってしまったシュウがすでに共犯者となってしまったことも、誰も知るべきことではない。
 それもいいだろう、とシュウは苦笑する。
 どのみち、自分はもうディランからは逃れられないのだ。
 自分よりもずっと年下のこの少年に、嫌というほど魅せられている。
 そのことはシュウ自身が一番よく分かっていた。
 それも秘密。
 永遠の…。


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