One more kiss(ディラン×ジョウイ)


 部屋に戻ったとたん、待ちきれないとばかりにディランがジョウイの身体をかき抱いだ。
「ちょ…ディランっ…」
「ビクトールさんと何話してたの?」
「たいしたことじゃないよ。ただの世間話…ディラン…腕を緩めて…」
 ジョウイの言葉にディランはほんの少し力を緩め、その代りに強く腕を引いてベッドの上へと2人して倒れ込んだ。安物のベッドがぎしりと軋みを立てた。
「んっ…」
 いきなり唇を奪われ、ジョウイは息をつめる。
 最初は怯えていた口づけも、今ではその熱さを待ち望むことがある。
 ゆっくりとディランの舌先がジョウイの歯列を割り、口腔を犯す。喉の奥まで舐めあげ、ジョウイの舌を吸い出す。音を立てて絡まったその舌を軽く噛むと、ジョウイは小さく喘いだ。
「ディ…」
「黙って…声あげると聞こえちゃうよ」
 ジョウイはついさっきまで隣の部屋から漏れ聞こえていた微かな声を思い出して、思わずディランの胸を強く押し返した。
「なに?」
 いきなり引き離されて、ディランが不満そうに眉を顰める。
「だ、だって…向こうの声が聞こえてたってことは…当然、僕たちの声も…」
 ジョウイはしどろもどろに訴える。
 それはつい1時間ほど前のことである。


 夕食をすませ、風呂もすませ、部屋に戻ったディランとジョウイはその日は早くにベッドに入った。ディランは身体を繋げたがったが、明日は出かけなければいけないし、とても体力が持ちそうにない、と何とかディランを宥めて許してもらったのだ。
 その代りにさんざん身体中にキスマークをつけられ、おまけに『手か口か』と選択を迫られ、泣く泣く右手を貸したのだ。
 とりあえずそれで満足してくれたディランは、お気に入りの人形でも抱くかのように、ジョウイの身体に両腕を回したまま先に眠ってしまった。
 ジョウイも眠ろうとしたのだけれど、どうにも目が冴えて眠れなかった。
 そんなところへ隣の部屋から例の声が聞こえてきたのだ。
 最初はそれが何なのか分からなかった。
 けれど、すぐにそれがフリックの喘ぎ声だとわかった。
 隣の部屋にいるのはビクトールとフリックで、そのフリックがそんな声を上げているということは…
 そこまで考えるとジョウイは自分のことでもないのに猛烈に恥ずかしくなって身体を起こした。
「ん…?なに…?」
 ディランが気づいて目を覚ました。
「え、いや…何でも…ない…」
 何でもないって顔じゃないだろ、とディランが小さく欠伸をして起き上がる。
 その時、ひときわ大きな嬌声が聞こえた。
「………」
「………」
 真っ赤になって俯くジョウイに、やれやれとディランがため息をつく。
 ヤるなら静かにヤってくれ、というのがディランの思うところである。ビクトールとフリックがそういう仲だということは一目見て分かった。まぁお似合いのカップルだと思う。だけど、そんなことはディランにとっては、どうだっていいことなのだ。別にやりたい時にやってもらってけっこうなのだが、大切なジョウイを寝不足になんてしないで欲しい。
「ジョウイ、ほら、こっちおいで」
 ディランがジョウイの頭を胸に抱え込み、ぽんぽんと肩をたたく。
「気にしない気にしない。別に目の前でやってるわけじゃないんだし…」
「気になるよっ…」
「じゃ一声かけてこようか?うるさいよって」
「ばかっ、そんなこと…」
 別にやれって言われりゃやるけどね、とディランは笑う。
 切れ切れに聞こえてくる甘い声に、ぴくりとジョウイが身を震わせる。ディランはそんなジョウイの背中に手を回そうとしたが、ジョウイがそれを拒んだ。
「ジョウイ?」
「さ…わら…ないで…」
 泣きそうな顔でディランの肩を押し返す。不思議そうな顔で見返していたディランは、やがてその意味が分かった。
「なぁんだ、ジョウイてばフリックさんの声で感じちゃったの?」
「ち、ちがっ…」
「身体は正直なんだけどねぇ…」
 言うなりディランがジョウイの脚の間に手を差し入れる。
 慌ててジョウイが腰を引いたが、もちろんそんな反応はお見通しであるディランは、左手で逃げたジョウイの肩を抱き寄せ、右手できゅっとジョウイの昂ぶりに触れた。
「ディ、ランっ…!」
「なぁんだよ、楽にしてあげるから、力抜いて…」
「う……」
 ジョウイがディランの肩に頭をもたせかける。ディランの指はジョウイの下着をかいくぐり、直にその花芯を握り締めた。
「ひっ…」
 びくりとジョウイが身体を堅くする。それを宥めるようにディランが優しく背中を撫ででやる。
「大丈夫…さっき俺の、やってくれたじゃん…そのお返し」
 ジョウイは自分がディランに行った右手の行為を思い出して、真っ赤になった。
 そんなジョウイがたまらなく可愛く思えて、ディランは小さく笑う。ジョウイの下着を太腿あたりまで引きずりおろし、ゆっくりと指を動かし始めた。
「んっ…んぁ…っ…」
「自分でするよりずっと気持ちいいだろ?」
 ジョウイがディランの肩口に額をつけたまま、小さな喘ぎ声を上げた。吐息でディランのシャツがしっとりと湿る。ディランは首を曲げてジョウイのほっそりとした首筋に音を立ててキスをした。
「あっ…ああ…ん…っ」
 巧みなディランの手淫に瞬く間にジョウイの花芯が堅く勃ちあがり、その先端から透明な蜜が溢れだす。親指の腹でその先端をぐりっと撫でる。
「いっ…やぁ…ああッ…」
「しっ…隣に聞こえるだろ」
 分かっていても堪えられない。
 ジョウイは思わず目の前のディランのシャツを噛み締めた。
「もうぬるぬるになっちゃって…、ジョウイ…もしかして、さっきも我慢してた?」
「ちがっ…んっ…んん…」
「言ってくれれば、やってあげたのに。そしたら一緒にイけたのにさ」
「はっ…ああ…」
 濡れたディランの指が次第にスピードを上げてジョウイのものを扱き上げる。括れを擦り、先端をくすぐるようにして撫で回す。滴り落ちる蜜液が内腿を伝い、座り込んだシーツを濡らしていた。ディランは視線を落としてその様子を見ると、目に興奮の色を浮かべた。
 自分の手の中でジョウイが快楽を追いかけていく様に、何ともいえない震えが走る。
「口でしてあげよっか?ジョウイ?」
 ぺろりと舌で唇を舐めてディランが囁く。
「いやっ…」
「何で?もうイきそう?」
「んっ…ん…やだっ…」
 もう限界が近いのか、ジョウイは脚を強張らせ、その身を震わせる。ディランは最後の仕上げとばかりにさらに激しく上下に扱き上げた。くちゅくちゅと卑猥な濡れた音だけが部屋に響く。
「くっ……」
 びくんとジョウイが身を強張らせ、ディランの手の中の花芯から絶頂の蜜が吐き出された。ディランがなおも擦ると、ぱたぱたと白濁とした蜜を溢れさせる。ジョウイの身体の震えが収まるのを見届けて、ディランが濡れた手を持ち上げ、ぺろりと舐めた。
「…っう…」
「はい、おしまい。すっきりした?」
 ディランが妙に嬉しそうな顔でジョウイの顔を覗き込む。
「ひど…い…」
「なぁにが?こんなに優しくしてあげたのに、それはないんじゃない?」
 むっとしてディランが唇を尖らせる。
 だいたい、ほんとならこんな指での慰め合いではなく、ちゃんと身体を繋げたいのだ。けれど、ジョウイの願いを聞いて我慢しているというのに、ジョウイの言い草はあんまりだ。
 無理矢理やっちゃおっかな。
 どうせ、隣でもやってることだし。
 ディランがそう考えたとき、ジョウイが潤んだ目をしたまま、ベッドを降りた。
「どこ行くの?ジョウイ」
「……水飲んでくる」
「…早く帰ってくるように」
「う…」
 しれっと言うディランを恨めしげに見やって、ジョウイはよろよろと部屋を出た。
 それがつい1時間ほど前の出来事である。


「あんな中途半端に煽っておいて、何もさせないなんてひどいっ」
 ディランがベッドに組み敷いたジョウイに文句を言う。
 あんな色っぽい姿を見せるだけ見せておいて、何もさせないなんて。
「そ、そんなの…僕のせいじゃないだろっ」
「んじゃ、俺のせいだっていうの?それはないんじゃないのかなぁ」
 ジョウイは言葉に詰まった。
 確かに、フリックの声に反応してしまったのは自分だけれど。だけど、それはやり過ごせないほどの反応でもなかったのだ。それを、ディランが…
「う……っ…」
 はらり、とジョウイの瞳から涙が零れる。
「ちょ、ちょっと…何も泣かなくても…」
 ディランがびっくりしてジョウイを抱き起こす。
 まいった。
 どうやらイジメすぎてしまったらしい。
 半分冗談で言ってたのに、ジョウイはいつも真面目に受け止めて、こうして耐え切れなくなると涙を流すのだ。それがどんなにディランをうろたえさせるか知りもせず。
 いや、もしかしたら知っててやっているのかもしれない。
 だとしたら、ずいぶんな確信犯だ。
「ごめんごめん。冗談だって…泣くなよ」
「…どうしてディランは……」
「ん?」
「そういう…イジワルばっかりするんだよ…」
「イジワル?ご冗談を。それこそイジワルだね。俺がどれだけジョウイのこと愛してるか知ってて、そういうこと言うわけ?」
 それこそめちゃくちゃに苛めたいほどに愛してる。
 そんなこと言ったら、またきみは泣いてしまうのだろうか?
 ディランは薄く笑って、ジョウイに口づける。
「…声、聞かれたかな?」
 ジョウイが困ったようにつぶやいた。
「大丈夫、何か言ってきたら俺が逆襲してやるよ」
「それも…ちょっと困るかも…」
 何て我儘なお姫様。
 そして、どこまでもそれを許してしまう自分。
 まぁいいだろう。
 そんなことでさえも愛しく思えるほどに愛してるのだから。
 ディランはそっとため息をついた。
「怒った?」
 不安そうなジョウイの声。
 ディランはちゅっと口づけて声をひそめる。
「怒った。だから明日は絶対に許さない。覚悟しなよ」
 その言葉にジョウイは頬を染めた。
 ベッドに横になると、ジョウイはすぐに眠りについた。
 肘をついてその寝顔を見ていたディランは、再び聞こえてきた隣からの声に、完全にキレた。
 自分はこんなに我慢してるというのにっ!いったい何回やれば気が済むんだっ!!
「ビクトールさん…俺がフリックさんを泣かしちゃってもいいのかなぁ」
 それもなかなか楽しそうだ。
 ディランは柔らかな枕に顔を埋め、ジョウイを引き寄せた。
 明日、どうやってフリックに恥ずかしいことを言って困らせてやろうかと考えながら、規則正しいジョウイの寝息に引きこまれるように、ディランも眠りについた。

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