DELICIOUS 「ビクトール、今から出かけるから付き合ってくれないか?」 すでにベッドの中で、「あとはフリックが来るのを待つばかり」の状態でスタンバイOKになっていたビクトールは、顔にありありと「信じられない!」の表情を浮かべた。 「…フリック、お前が行きたいとこならどこへでも付き合ってやるがよ、こんな時間にいったいどこへ行きたいっていうんだ?だいたい何で、今、なんだよっ」 そういう雰囲気になって、めずらしくそれを嫌がらなかったフリックがシャワーを浴びに風呂へ行って、一足先に汗を流したビクトールが今か今かとフリックを待っていたのだ。そのフリックが部屋に戻ってくるなり開口一番さっきの台詞を言ったのだから、ビクトールとしては唖然としないわけがない。 「別に嫌なら無理にとは言わない。ハンフリーがこれからシーナを探しに行くんで、手伝ってやろうと思っただけだから」 フリックは淡々と言うと、服を着替え始める。ビクトールはやれやれとため息をつきながらベッドから這い出ると、自分も服を着始める。 「で、何でハンフリーがシーナを探しに行くんだ?」 「別に付き合ってくれなくていいんだぞ」 「拗ねるなよ、一緒に行くからよ。で、何があったんだ?」 「喧嘩したらしい」 「だから、よく分からないんだが、どうしてハンフリーとシーナなんだよ。あの二人、喧嘩するほど仲良かったか?」 ビクトールは本当にわけがわからず首をひねる。 フリックは着替えを済ませると、ビクトールが着替え終わるのを待った。 「俺もよく分からないんだが、どうやらあの二人、今すごく微妙な時期みたいで…つまり…」 「つまり?」 「だから…はっきりとは分からないんだが、シーナがハンフリーに好きだって告白したらしくて」 フリックの言葉にビクトールはたっぷり10秒はその動きを止めた。 「ええええ〜〜〜??」 「ばか、でかい声を出すな、外でハンフリーが待ってるんだっ」 「おいおい、冗談だろ?あのシーナが?あのハンフリーを?」 シーナは有名な女たらしだ。おまけに男とも簡単に関係を持ってる。尻が軽くて、頭が軽くて、いつも悩み事なんてないように明るくて、ビクトール自身は割と好きなタイプなのだが、正直いってハンフリーと似合うとは思えない。 「で、ハンフリーは?まさかあいつもシーナのことを好きだなんて言うんじゃないだろうな」 「さぁな。さ、用意できたんなら行くぞ」 フリックが部屋の扉を開けると、廊下にはハンフリーが立っていた。無表情なのはいつものことだが、どこか心ここにあらずという感じがする。 「よぉ旦那、ちゃんと納得いくまで説明してもらうからな、今夜ばかりは簡単に許してやるわけにはいかねぇからな」 笑いながらビクトールがハンフリーの肩をたたいた。 どうもハンフリーの話は要領を得ない。 自分の頭が悪いせいか?とビクトールは喉まで出かかっていた。しかし、それはビクトールが悪いのではなく、どうやらフリックも上手く理解できないらしく、ぼんやりと空を見たりなんぞしている。 「……ハンフリー、ちょっと確認したいんだが」 「何だ?」 「俺たちがこうしてシーナを探しているのは、いったい何のためだ?」 ビクトールがかなり控えめに尋ねてみる。ハンフリーもごく普通に答える。 「あいつのことだ、どうせどこかでバカなことをやらかすに違いない」 「はいはい、それは分かったから。だから、何でそれをお前が止めなきゃならねぇんだ?」 「よく分からん」 よく分からん、じゃねぇだろぉがよっ!とビクトールは怒鳴りたくなったが堪えた。フリックがビクトールの腕を掴んだからだ。 シーナがハンフリーに告白した。これは事実。どういうわけか二人は喧嘩した。これも事実。 で、ハンフリーがシーナを探そうとしている。これも事実。こんな夜遅く、それもフリックやビクトールを巻き込んでまで! これだけ明白な事実がそろっていて、よく分からない、はないだろぉが。 「旦那、シーナのことをどう思ってんだよ。はっきりと言え。好きか嫌いか」 「………分からない」 「だぁ〜!!いらいらするなぁ、もう!!」 ビクトールが、がしがしと頭をかきむしる。見かねたフリックがぼそりと口を開く。 「ハンフリー、シーナのことが心配か?」 「ああ」 「もしあいつが他の誰かと一緒にいるとしたら、頭に来るか?」 「そうだな」 「じゃあ、あいつがいないと寂しいって思うか?」 フリックの問いかけにハンフリーはまじまじとフリックを見た。そして、しばらく考えたあとに言った。 「そうだな。そうかもしれないな。いつも、うるさいくらいに俺のそばにいたから、いないと寂しいな」 ハンフリーの言葉にフリックは眉をひそめた。 「ハンフリー、そういう言い方はずるい。そんな中途半端な気持ちなら会わない方がいい。あいつのことを何とも思っていないなら、放っておく方があいつのためだ」 「フリック?」 「あいつはちゃんと言ったのだろう?お前のことを好きだって。それなのに、お前は分からないだなんて逃げている。お前も、ちゃんと自分の気持ちに気づくべきだ。本当は分かっているんだろう?」 ハンフリーはフリックの言葉に思わず微笑んだ。 「何だよ?」 「いや。どこかで聞いた台詞だな、と思ってな」 言われてフリックは思わず赤くなった。ビクトールが目ざとくそれを気づいて、問い詰めようと口を開きかけた時、ハンフリーが馬を止めた。 「二手に分かれよう。俺はクスクスの街へ行くから、悪いがお前たちはサウスウィンドゥへ行ってくれないか?もしいなかったら合流することにしよう」 「ハンフリー」 「分かってる。心配かけて悪かった。あいつのことはちゃんとするから」 そういい捨てるとハンフリーは馬を走らせた。 結局シーナはサウスウィンドゥの街で見つかった。 見つけたのはフリックで、シーナは見るも無残な姿になっていたが、何とか無事だった。遅れてやってきたハンフリーにシーナを預けて、フリックとビクトールは帰路についた。 「何だかな。あんなに素直なシーナを見たのは初めてだぜ」 ビクトールが柄にもなく照れたようにつぶやく。 フリックもそうだな、と笑う。 「それだけハンフリーのことを本気で好きなんだろ」 「で、ハンフリーの旦那もシーナのことを好きだってか?あ〜あ、やってらんねぇな」 一体どこでどうなって、こんなことになったんだろう?あのハンフリーが?あのシーナを?ビクトールは飽きもせず、ぶつぶつとつぶやいている。 「ビクトール、夜遅く誘ったりして悪かったな」 フリックが穏やかな笑顔でビクトールに礼を言う。ビクトールがにやりと笑った。 「何だ、えらく可愛いこと言うじゃねぇか」 「ハンフリーの代わりだ。どうせしばらくはあいつはシーナのことで手がいっぱいだろからな」 「ふうん。お前はハンフリーのことになると、ずいぶん態度が変わるよな」 「何だよ、それ」 「べっつに。さぁてと、早く帰って寝ようぜ」 ビクトールは掛け声をかけると、馬を走らせた。フリックもその後を追いかけるようにして馬を走らせた。 城に着いてからも、ビクトールは一言も口をきかない。 困ったな、とフリックは内心思っていた。どうやら何かビクトールの気に障ることを言ってしまったらしい。けれど、いったい自分が何を言ってビクトールを怒らせたのか分からない。 いつもくだらない話は嫌というほどするくせに、肝心なことになると、ビクトールは寡黙になる。 「じゃあな、お疲れさん」 ビクトールが自分の部屋の扉をあけ、フリックに背を向けたまま片手を上げる。声をかけようとしたフリックを無視して扉を閉める。廊下に残されたフリックは、一人取り残されたまま、その場に立ち尽くした。 別に帰ったら何をしようと話していたわけじゃない。 けれど、すっかり冷えてしまった身体を温めるために、一緒に酒の一杯でも飲みたかったのだ。 無理矢理ハンフリーにつき合わせてしまったのは自分の方だ。そのことでビクトールが怒ってしまっても仕方はない。別に行きたかったわけでもないだろうし、それなのにビクトールは付き合ってくれたのだ。 これ以上睡眠時間を削らせる権利はフリックにはない。 小さくため息をついて自分の部屋に戻ろうとしたとき、再びばたんと扉が開いた。振り返るとビクトールが怒ったような顔でフリックを見ている。 「……なに?」 「なに、だと?さっさと中に入りやがれ。まさかそのまま帰るつもりじゃねぇだろぉな」 言うなり、ビクトールはフリックの手をひいて、部屋の中へと連れ込んだ。 フリックはわけが分からず、部屋に入ってからも何も言えずに立ち尽くしていた。ビクトールが怒っているらしいことは分かるが、どうしたらいいか分からないのだ。何に対して怒っているか分かれば対処のしようもあるのだが。 「ビクトール…」 「酒でも飲むか?何だか身体が冷えちまったぜ」 「ビクトール」 テーブルに酒瓶とグラスを二つ並べると、ビクトールは困ったようにフリックを見た。 「八つ当たりして悪かったよ。だから、そんな泣きそうな顔で俺を見るなって」 「俺…何か気に障ること言ったか?」 さぁてな、とビクトールはどかっとイスに腰をおろす。酒瓶を掴んでグラスに注ぐと、そのひとつをフリックに渡す。フリックはイスに座ると目の前の男を見た。 「前々から聞きたかったんだがよ」 「何だ?」 「お前とハンフリーのことだ」 「俺と、ハンフリー?」 フリックは想像もしなかった言葉がビクトールの口から出たので、心底驚いた。いったいこの男は何を言い出すのだろうか? 「俺と出会うよりも前からの付き合いだからよ、仲がいいのは分かってる。だが、どうにも我慢できない時もある」 「だから、何のことなんだ?はっきり言ってくれないと分からないだろ」 フリックはグラスを空けると自分で酒瓶を手にして二杯目を注いだ。 「じゃあはっきり聞くが、お前、ハンフリーのことどう思ってんだ?」 「は?」 ビクトールはいたく真剣な顔をしているが、フリックはあまりのばかばかしい質問に頭が痛くなりそうだった。 「ビクトール、それは、どういう意味なんだ?」 「だから、お前がハンフリーのことをどう思ってんのかが知りたいんだ」 「……いくら俺でも、いい加減怒るぞ」 フリックはビクトールを睨んだ。 だいたい今まで何のために奔走していたと思っているのだろう。ハンフリーとシーナのために、夜更けにサウスウィンドゥまで出向いていたというのに、それなのにまだこの男は、自分とハンフリーの仲を疑うのだろうか?だとしたら、ずいぶんとバカにされたものだ。そんなフリックの思いには気づかずビクトールがなおも続ける。 「別にお前たちが出来てるなんて思っちゃいねぇがよ」 当たり前だ。 「けど、ハンフリーの旦那はお前のことに関してはずいぶんよく気がつくし、お前はお前で旦那のこととなると、やけに親切だしな。お前は旦那の言うことだけは素直に聞くだろう。疑いたくもなるってもんだぜ」 ばかばかしい。フリックは反論する気にもなれず、ぐいぐいと酒を煽った。 確かにビクトールの言う通り、ハンフリーとはどういうわけか性が合う。ハンフリーは決して必要以上にフリックの中へ踏み込んできたりはしない。そのくせフリックのことをよく分かっていて、迷った時にはいつも本当にフリック自身が望むことを引き出してくれる。 そう、あの時もそうだった。 「そうだな。どうしてハンフリーのことを好きにならなかったんだろうな」 フリックが半分やけになって言った。 「お前と違って分別はあるし、羞恥心も持ってるし、うるさくないし、綺麗好きだし、ばかほど酒を飲むことはないし、金もないのに周りの連中に奢るなんてこともしないし、いつも穏やかで、俺のことはよく分かってくれるし。そうだよな、ハンフリーのことを好きになれば良かったんだろうな」 「………」 フリックはイスの背もたれに肘をつき、何の反論もしないビクトールを眺めた。フリックの言葉に、何を感じているのだろうか。黙ったままのビクトールに、フリックはやれやれとため息をついた。 「だけど仕方ないだろ。お前のことを選んでしまったんだから」 「……」 なおも黙り込むビクトールにフリックは急に腹が立った。思わず身を乗り出してビクトールに問い掛ける。 「それとも、俺の中に誰かがいたら、お前はもう愛してくれないのか?その誰かを消してくれるくらいに、愛してくれるんじゃなかったのか?あの時、お前が俺に言った言葉は嘘なのか?」 ビクトールの大きな手がふいにフリックの頬を包みこんだ。 「悪かった。俺が悪かったから、だから泣くな」 「誰が泣いてるんだよっ!」 「ああ、泣いてない」 だけど傷つけた。 ビクトールは嫌がるフリックの肩をつかんで、唇を合わせようとする。その冷たい唇に胸が痛くなった。 本当はハンフリーとの仲なんて本気では疑ってはいないのだ。ビクトールと出会う前からの付き合いのフリックとハンフリーが親しいのは当然のことで、嫉妬なんてする必要はないと頭では分かっている。 だけど、時々どうしてもたまらなく嫉妬してしまうことがある。 自分だけのフリックだ。自分だけの。 誰も間に入ることは許せない。そんな独占欲が胸の中でドロドロとした醜い渦を作ってしまう。 「フリック…」 「くそっ…いつもいつもこんな手で誤魔化されてたまるもんかっ」 フリックがビクトールの顔を押し返す。 立ち上がったビクトールは、笑ってフリックを抱きしめた。誰にも渡さない。 「く、るしいだろ…離せよっ」 腕の中で暴れるフリックをなおきつく抱きしめる。 「なぁ、旦那たちに邪魔される前の続きをやろうぜ」 せっかくの甘い雰囲気だったのを邪魔された。ビクトールがハンフリーに対して腹を立てたとしても仕方がないだろう。フリックが文句を言わずにビクトールの誘いを受けることなんて、滅多にないのだから。 「なぁ、いいだろ?」 子犬が甘えるようにフリックの首筋に顔を埋める。 「…嫌だって言ったってやるんだろ?」 「まぁな」 フリックは呆れたように小さく笑うと、ビクトールの背に腕を回した。 濡れた吐息。 掠めとるようなキスの甘さに、フリックはうっとりと目を閉じた。 お互いの肌の温もりで、さっきまでの冷えた気持ちはすっかりなくなっていた。 「ふ…」 触れては離れ、ビクトールはフリックの顔中にキスの雨を降らせる。耳元で小さく囁いた言葉にフリックは小さく笑う。ビクトールがペロリと耳を嘗め、そのまま首筋へと舌を這わせた。フリックが軽く身をよじる。 「くすぐったい…」 「お前ここも弱いもんな」 首筋から鎖骨へ、そして胸の尖りへと舌を這わせていく。立ち上がったそれを軽く噛むと、フリックは息を飲んだ。 すっかりはだけられたシャツをもどかしげに剥ぎ取ると、ビクトールは再びフリックの唇を塞いだ。さっきまでの優しいキスではなく、貪るように激しく吸い尽くそうとするキス。フリックは震える指で、そんなビクトールの髪をかき回した。 どんなに求めても足りないような気がする。 どんなに舌を絡めて、お互いの唾液を味わっても、ぜんぜん足りない。 「ん…ぅ…」 息が上がりそうになって、フリックは思わず逃げようとした。 「おいおい、これくらいで息切らしててどぉすんだ?」 意地悪くビクトールがフリックの両手をシーツの上へと縫いとめる。 「…離せよ…逃げやしないから…」 「嫌だね。一秒だって離れていたくねぇんだ」 そう言うとビクトールはフリックのズボンの前を寛げ、何の遠慮もなく指を忍び込ませた。 「う…」 触れられた瞬間、フリックはビクトールの視界から逃げるように、顔を背けてしまう。いったい何回抱けば慣れてくれるのだろうか、とビクトールはフリックの初々しい仕草に心の中で笑みを浮かべる。 堅くなり始めたそれに指を絡めると、フリックはきつく唇を噛んで声を殺す。それでも徐々に耐え切れないように息が漏れる。 「う…ん…っ」 「ぬるぬるだぜ、気持ちいいか?」 「だからっ、そういうこと聞くなって…いって…」 フリックが真っ赤になってビクトールを睨む。だいたいこういう行為自体、フリックにとっては恥ずかしくてたまらないことなのに、ビクトールは少しもそういう配慮はしてくれず、いつもいつも言葉でフリックを苛めるのだ。 「ああ…ぅふ…もや…だ」 自ら零した蜜でビクトールの指が濡れる。くちゅくちゅと音を立てながら擦り上げられると、もう何も考えられなくなってしまう。ビクトールがきゅっとその先端を指でふさぐ。 「なっ…」 「そうそう簡単にイかせてたまるか。ほら、後ろ向きな」 ビクトールはフリックの身体を反転させると、片手で大きく足を割り広げた。 「嫌だっ…」 シーツに顔を押し付け、腰だけを高く掲げられる。ビクトールは背中からのしかかるようにして、片手でフリックのモノを握りながら、背中へ舌を這わせる。 「い…やっ…」 「でも気持ちいいだろ?ん?」 ビクトールは巧みな指を動きでフリックを翻弄しながら、自分もその欲望を強くフリック押し付ける。 「ああっ…」 身体中がひどく感じやすくなっていて、ビクトールが背中に舌を口づけるたびに、そこから溶けていきそうになる。フリックは柔らかい枕に顔を押し付けて、声を殺そうとするが、くぐもった喘ぎ声が漏れてしまう。その声にビクトールが感じ入ったように目を細め、ペロリと唇を嘗める。 すらりとした綺麗な背筋。腰のラインも何もかもが妖しくビクトールのことを誘っているように見えた。 「フリック…気持ちいいか?」 「う…っく…ああ…」 激しくなる指の動きにフリックは厭々するように首を振る。完全に勃ちあがったソレからは、ぱたぱたと蜜が零れ、シーツに濡れた染みを作っていく。 「どうなんだよ、ちゃんと言ってみろ」 「い…いいからっ…頼むから、もうイかせ…て」 フリックが叫ぶと、ビクトールはあっさりと先端を解放した。 「……!」 白濁の液がビクトールの手を濡らす。フリックは大きく息を吐くと、自分の背中にはりついているビクトールを肩越しに見た。ビクトールはそんなフリックの瞼を塞ぐようにしてキスをする。 「目ぇ瞑ってな。ただ感じてりゃいい」 「……」 ビクトールはたった今フリックが放った蜜で濡れた右手を後ろへ回し、双丘を割り開いて蕾を探る。 「う…」 「いつまでたっても狭いな、お前ん中は」 指一本だけでもぎっちりと締め付けてくる。ゆっくりと抜き差しを始めると、フリックは耐え切れないように嬌声を上げた。 こんな風にビクトールの前に全てをさらけ出して、腰を抱え上げられて、ぐちゅぐちゅと指で掻き回されて、それでもいいと思えてしまうなんて。恥ずかしくて死にたいくらいなのに、それでもこうして肌を触れ合わせていたいと思うなんて。 どうかしてる。 「あっ…んんっ…」 痛みだけではない何かが背筋を駆け上がっていく。 濡れ始めた粘膜をさらに広げようと、ビクトールは指を増やす。根元まで押し込み、ゆるゆると注挿を繰り返す。フリックは大きく背中を弓なりに反らした。 「や…あぁ…も…やだ…」 「欲しいか?」 耳元で囁かれる。 「言ってみな、欲しいって」 どうしてそんなことばかり言わせるのだろう。フリックはきつく唇を噛むと、首を振る。ビクトールはそんなフリックのように、指をゆっくりと抜き始める。 「ひぁ…」 思わず追いかけるかのように腰をおろす。低く笑ったビクトールに、フリックは泣きたくなる。 「ほら、欲しいんだろ?」 再びゆっくりとビクトールが指を埋めていく。 「くっ…」 「このまま抜いちまっていいのかよ」 ずくずくとした疼きが腰の辺りで燻っている。こんな状態のままで放り出されたらどうにかなってしまう。フリックは半分泣きそうになりながら声を出す。 「…ビクトール…いやだ…」 「で?」 「……欲しい…お願い…挿れて」 聞き取れないくらいの掠れたフリックの声に、ビクトールは満足したようで、ずるりと指を引き抜くと、さらに大きく両足を広げさせ、後ろからのしかかると膨れ上がった自分の欲望に指を添え、フリックの蕾へとあてがった。 「ひ…やあぁ…」 ずぶずぶと埋め込まれていくビクトールの熱い肉棒。ぴったりと背中から抱きしめられて、首筋に口づけられる。 「ん…んぁ…くるし…」 「まだ入るぜ…もっと緩めな」 「無理…も、入らない…」 ビクトールが両手をフリックの胸へと回し、固く立ち上がった胸の尖りをくすぐる。 「は…っ…ああ」 息を吐いた瞬間、ビクトールが腰を進めた。最奥まで広げられ、フリックは声も出せず、震える手でシーツを掴んだ。 ゆっくりとビクトールが抜き差しを始める。内臓を引きずり出されるような感覚に、フリックは思わず逃げるように身体を捩る。けれど蕩けきった蕾は誘い込むようにしてビクトール自身を飲み込んでいく。 「すげ…」 高く掲げ上げられたフリックの双丘の中に、自分の欲望が引き出されては、飲み込まれていく様がはっきりと見える。ビクトールは我慢できずに、フリックの腰を掴むと、激しく注挿を開始した。 「はぁ…ああ…んぁ…」 「フリック…」 ビクトールの声も上ずっている。限界まで張り詰めた欲望を大きく回転させて、自分自身とフリックを追い上げていく。 「ふ…うぅ…」 離したくない。 自分だけのフリックだ。 「いやぁあ…」 フリックが二度目の精を吐き出した。ビクトールもひときわ深くフリックの奥へ埋め込むと、欲望を放つ。すべてを放ったあとも、ビクトールはフリックの締め付けを楽しむかのように、再びフリックの身体を後ろから抱きしめた。 「聞きたいことがあんだけどよ」 ひとしきり愛し合ったあと、ベッドの中でビクトールがフリックの背中に問い掛ける。 さんざん恥ずかしい目にあったフリックは壁際に向いたまま、ビクトールの方を見ようとはしない。 「ハンフリーのヤツが言ってただろ」 「お前はっ、まだ言うつもりかっ」 思わずフリックが振り返って怒鳴る。 「いや、さすがに俺ももう疑ってねぇんだけどよ」 当然だ、これだけ好き勝手に抱いておいて、まだ疑うというなら本気で神経を疑ってしまう。 「言ってただろ、『どこかで聞いた台詞だな』って。ありゃ、どういう意味だ?」 何のことを言われているのか分からず、フリックはまじまじとビクトールを見つめた。そして、それがフリックがハンフリーに言った台詞のことだと気づいた。 『あいつはちゃんと言ったのだろう?お前のことを好きだって。それなのに、お前は分からないだなんて逃げている。お前も、ちゃんと自分の気持ちに気づくべきだ。本当は分かっているんだろう?』 遠い昔。その台詞はそのままフリックがハンフリーに言われた台詞だ。 「よぉ、何のことなんだよ」 「うるさい。お前とこんなことしてることから、ちょっとは察しろ!」 フリックは再びビクトールに背を向け、それ以上はビクトールにかまうことはしなかった。 本当のことを言えば、つけあがるに違いない。 「どういうことだよ、ぜんぜん分からねぇぜ」 「いいから、さっさと寝ろ」 知らなくていい。 特別言う必要もない。 言葉の代わりはいくらでもあるのだから。 ビクトールが背中から抱きしめてくれる。腕の中に潜り込むようにしてフリックはその温もりに目を閉じた。 この温もりだけで十分。 2人でいることがすべての答え。 これ以上ないほど安心できる場所で、フリックは睡魔に襲われる。 ビクトールが耳元で何か囁いた。 フリックを幸せに導くその言葉は、眠りの中へと溶けた。 |