![]() ![]() イラストは青鷺聖司さま(青蓮華) |
「じゃがいもばっかり剥いてる傭兵ってのもどうなんだよ」 ビクトールがぼそりとつぶやく。 これでいったいいくつになるのか。せっせせっせと剥いてはいるものの、一向に無くなる気配がない。 砦に居を構えるようになって初めての秋だった。 豊作なのはありがたいが、レオナ一人では捌ききれないと、暇そうにしていると目をつけられたビクトールとフリックに、じゃがいも剥きの仕事が与えられたのだ。 たかがじゃいも剥きといっても、砦に集う傭兵たちはみな大食漢ばかりである。かなりの量を剥かなければ腹を満たすことはできないのだ。 「でもレオナ一人じゃ大変だしな」 のんびりとフリックが言うと、ビクトールはふんと鼻を鳴らした。 「平和なのはいいことだが、剣の代わりに料理ナイフを持つようじゃ、せっかくの腕が泣くぜ」 「そのうち嫌でもそういう日がくる。予行演習だと思えばいい」 「ずいぶんと物分りがいいじゃねぇか」 ビクトールが揶揄すると、フリックは軽く肩をすくめた。 別段、料理が好きなわけではないが、こんな風に静かに過ごすこと自体は嫌いじゃない。それだけだ。 窓の外は秋晴れで、洗濯物が風に揺れている。静かで穏やかな秋の休日だ。いずれこれが日常になる。 そのために、今自分たちは戦っているのだから。 だから予行演習というのはあながち嘘でもない。 「……お前より俺の方が上手だな」 カゴの中、剥いたばかりのじゃがいもを見比べてビクトールがどこか得意げに言うと、フリックはむっとしたように唇を尖らせた。 「俺はお前の倍は剥いてる」 「でも下手だ」 「どうせ腹に入れちまうんだ。形なんてどうでもいい」 意外と大雑把な性格だと知れるフリックの一言に、ビクトールは思わず笑いを洩らした。 「なぁ、剣の腕は立つ、畑仕事だってできる、こうしてじゃがいもを剥くのも上手で、おまけにオトコマエだ。どうだ、俺を旦那にすりゃ一生幸せでいられるぜ」 「最後のオトコマエってのが余計だな」 フリックがぷっと吹き出す。 「けどまぁ、悪くはない」 椅子に座ったフリックの表情はどこまでも穏やかで、ビクトールは少し嬉しくなった。 じゃがいも剥きが終わったら、ジャムにするための林檎の皮剥きが待っている。 どうやら今日は朝から晩まで皮剥きからは逃れられそうにない。 けれど幸せだと感じるのは、やっぱり二人でいられるからなのだろうか? たぶん、きっと、そうなのだろう。 |