「さおりお姉ちゃん、すごくキレイ」
「ありがとう、真由ちゃん」
 真由が無邪気に褒めると、沙織は頬を赤らめた。沙織は真由の隣の家に住む3つ年上の少女である。今日は沙織の部屋で、彼女が4月から通う新しい学校の制服を着て見せてくれている。
 その制服は、独特のデザインであった。鮮やかなブルーのセーラー服に膝上のプリーツスカート。同じくブルーのラインが3本入った白いセーラーカラー。これだけなら、そこまで珍しいという訳でもないであろう。しかし、特徴はその袖にあった。
 冬服だというのに、肘上の半袖。そして、その剥き出しになった腕を覆うように、白い長手袋を填めているのである。そして足には、白いオーバーニーソックス。幼い真由には、そのサラサラと長い栗色のストレートヘアも相まって、沙織が青いドレスに身を包んだお姫様の様に思えた。
「いいな。わたしも着てみたいな」
 おかっぱ頭の少女は目をクリクリさせて、年上の幼馴染を羨望の眼差しで見つめる。
「ふふ。真由ちゃんももう少し大きくなったら、着られるかもしれないわね」
「じゃあわたし、早く大きくなるっ」
 そう明るく宣言する真由に、柔らかい視線を向ける沙織。ふと、その表情が曇る。沙織は小さく拳を握ると、真由に優しく語りかけた。
「あのね、真由ちゃん。お姉ちゃん、春から新しい学校に行くでしょう」
「うん」
「その学校はね。凄く遠い所にあるの。だから、今までみたいに一緒に手を繋いで歩いて学校まで行けないんだ」
「ええ〜。さおりお姉ちゃんの学校、どのくらい遠いの。一時間くらい?」
 残念そうな表情を浮かべて尋ねてくる真由に、沙織は首を横に振る。
「ううん。家からだと、バスや電車を乗り継いでも、もっともっと掛かるの。だからお姉ちゃん、これから学校の側に住むんだ」
「えっ。じゃあ、さおりお姉ちゃん、お引越ししちゃうの。いなくなっちゃうの?」
「行くのは私だけだよ。学校の寮に入る事になるんだ。だから、次に戻ってくるのは夏休みかな」
「ヤダッ」
 突然大声を上げた真由に、沙織は驚きの表情を浮かべた。
「さおりお姉ちゃん、いなくなっちゃヤダッ。まゆの側にいてくれなきゃやだぁっ。うっ、ひっくっ」
 真由の表情が見る見るうちに曇り、大きな瞳いっぱいに涙が溜まっていく。
「真由ちゃん……」
 沙織は膝をつくと、真由の小さな体をギュッと抱き締めた。
「ごめんね真由ちゃん」
「ヒック、グスッ」
「でもね。お姉ちゃん、この学校に行くの、ずっと夢だったの。この制服を着て学校生活を過ごすの、ずっと楽しみにしてたんだ。だから……行っちゃダメかな」
 沙織は真由の両肩に手を置くと、涙でいっぱいの瞳を覗き込んだ。
「さおりお姉ちゃん、まゆの事きらい?」
「そんな訳ないよ。真由ちゃんの側にずっといたい」
「じゃあ、まゆも。まゆもいっしょに行くっ」
「ありがとう、真由ちゃん。でも、真由ちゃんまだ小さいから」
「じゃあじゃあ、早く大きくなるっ。そしたらまゆも行っていい?」
「そうね。今の私と同じくらいになったら」
「うんっ。まゆ早くさおりお姉ちゃんと同じくらい、おっきくてキレイになるっ」
 涙の筋が通ったばかりの真由のふっくらした頬を、沙織の手が優しく撫でた。
「さおりお姉ちゃんの手、スベスベして気持ちいい……」
 真由は沙織の白手袋を填めた右手に両手を重ねるとうっとりと目を閉じ、その滑らかな感触を頬に、そして心にしっかりと刻み込んだのだった……。

「ここが白絹学園かぁ」
 鮮やかなブルーのセーラー服に身を包んだボブカットの少女は、切り揃えられたサイドの毛先をそっと撫でながら、目の前に広がる真っ白な建物を見てほうっと感嘆の息を吐いた。
 長野の山奥に明治時代から続く、伝統ある全寮制の女子校である白絹学園。もっと古ぼけた建物を想像していた真由だったが、何度も改修を重ねられているのか、想像よりずっと小奇麗な建物であった。
 沙織が白絹学園に入学してから3年。真由もまた、彼女の後を追うようにあの時の沙織と同じ年でこの学園へ入学した。生徒によっては幼稚舎から大学まで、多感な少女時代の全てをここで過ごす少女もいるが、真由は沙織と同じく中途編入という事になる。
 季節ごとに帰郷する沙織が、その度に美しく気品溢れた姿へと成長しているのを目の当たりにし、真由もまた沙織の通う学園への憧れを募らせていった。真由を溺愛していた両親は真由と離れて暮らす事に最後まで難色を示していたが、それでも最後には真由の願いを聞き入れて入学を許可してくれたのである。
 真由はそっと目を閉じ、自分の頬に触れてみる。滑らかな感触。3年前のあの日、沙織に頬を撫でてもらった感触が甦る。なぜなら真由の両腕も、あの時の沙織と同じく白い長手袋に優しく包まれていたから。
「よし、行こう」
 真由は目を開き、一歩を踏み出す。これが、真由の白絹学園における学園生活の始まりであった。

「小川真由さんね。私は4月から貴方の担任になる、進藤清香(シンドウセイカ)。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」
 職員室。真由は目の前で長い脚を組んで座っている美女に圧倒されていた。
 ヘアスタイルは両サイドが真由よりは長めなボブカット。切れ長の瞳に眼鏡を掛け、セクシーな肉厚の唇の口元にはほくろがある。同じような髪型でこうも色気に違いが出るのかと、真由は少し悲しくなった。
 グラマラスな肢体を真っ赤なスーツに包み、タイトなスカートから覗く長い脚は黒いストッキングに包まれ、足先には赤いピンヒール。そして、教鞭を握る両手は、白い手袋に包まれていた。
 真由は一通りの説明を受けると、清香に連れられて中等部の校舎を見学して回った。春休み中なので数はそれほどでもなかったが、それでも何人かの生徒や教師とすれ違う。そこで真由は、ある事に気づいた。
「あ、あの、進藤先生」
「清香でいいわよ、真由さん。この学園では、下の名前で呼び合うのが通常なの。それが教師と生徒でもね。それで、何かしら」
 名前で呼ばれて少しドキドキしながら、真由は気づいた事を尋ねてみた。
「は、はい、清香先生。その、別に大した事じゃないんですけど。制服だから、生徒は当たり前ですけど……先生方も、みんな手袋をしてるんですね」
 そう。これまですれ違った女性教師は皆、色や長さは違えど全員が手袋を填めていたのだった。さらに言えば、皆20〜30代の美しい女性ばかりであったが、そこは主観が絡むので口にするのは止めておいた。
「ああ、その事ね。おかしいかしら」
 立ち止まった清香に正面から見つめられて、真由は思わずドギマギした。
「い、いえ、そんな事ないですっ。みんな、すごく似合ってて、ドキドキします」
 言葉にしてから、真由は自分は何を言っているんだろうと後悔し、俯いた。
「フフ。真由さんは素質がありそうね」
 清香はそう小さく呟くと、真由の頬に手を伸ばしてそっと撫でる。
「っ!? あ、あのっ」
「教師は生徒の規範となるべき存在。生徒が校則により手袋の着用を義務付けられているのだから、教師もまた規範として同じように振舞うべき。そうは思わない?」
「そ、そう、ですねっ」
 清香の長い指が頬をツツツと這う感触に口から心臓が飛び出しそうになるほど早鐘を打たせながら、真由はブンブンと首を縦に振る。
「フフ。本当はね、ここの教師は皆、この学園の卒業生なのよ。だから、手袋を身につけるのは、もう習慣なの。特別な事ではないのよ」
「そ、そうなんですか」
 真由は自然と笑顔になっていた。ここでは手袋を身につける事が自然であり、好奇の目で見られる事はないのだ。それは真由にとってはとても幸せな環境であった。
「では、行きましょうか」
 清香は真由の頬を撫でていた手を放すと、真由の手を取ってキュッと握り、歩き出した。
「あっ……」
 真由は清香の後を歩きながら、その手をしっかりと握り返した。

 学園内を案内し終えた清香は、真由を連れて学園寮へと向かった。中等部の学園寮は、白とピンクで構成されたかわいらしい建物であった。
 清香は玄関を通ると、すぐ隣にある扉をノックする。すると扉の向こうからポニーテールの女性が首だけをニュッと覗かせた。
「おっ。清香じゃん。どしたの?」
「……なつみ。園内では清香先生と呼びなさいといつも言っているでしょう。生徒の目もあるのよ」
「アハッ、ごめんごめん。それで、どうしたの?」
 向日葵の様に明るく笑いながら、なつみと呼ばれた女性は扉の外へ出てきた。
「新入生を連れてきたわ。小川真由さんよ」
「よ、よろしくお願いしますっ」
「ああ、あなたが新入生ね。待ってたわ。私はここで寮母をしている、明石なつみ。なつみでいいよ。あ、それと先生って呼ばないでね。くすぐったいから」
「は、はい。えと、なつみ、さん」
「よろしい」
 なつみはニッと笑うと、真由の頭をグリグリと撫でた。
 Tシャツにジーンズというラフな格好に、デフォルメされたトラがプリントされたエプロンを身につけている彼女。解けば肩くらいまではあるであろう髪をオレンジ色のリボンでポニーテールに縛っている。健康的や爽やかという単語がピッタリの彼女であるが、Tシャツを盛り上げる豊かな乳房に、引き締まった長い脚にキュッと上がったヒップと、爽やかさの中にしっかりと女性らしい魅力も兼ね備えていた。
 そして手には、やはり手首までの白手袋。真由が思っていたよりずっと、この学園では手袋の着用が浸透しているようだった。
「寮内の案内は任せるわね」
「了解っ。それじゃ行こっか、真由ちゃん」
「は、はい。よろしくお願いします」
 清香と玄関で別れ、今度はなつみに連れられて、真由は寮内を一周した。晴天の日の日中であるせいか、ほとんど寮内で生徒とすれ違う事はなかった。
「だいたいわかった?」
「はい。ありがとうございます」
「よろしい。じゃ、ここが真由ちゃんの部屋ね。と言っても二人部屋だけどね」
 なつみがドアノブを回し、扉を開ける。扉の中は、昼間とは思えないほど薄暗かった。
「ま〜たあの子ってばカーテン締め切っちゃって。仕方ないなあ」
 なつみは部屋の奥へズンズン進むと、窓際の黒い遮光カーテンをバッと開ける。途端に陽光が射し込んできて、真由は思わず目を細めた。
 そこは、先住者がいる割には、殺風景な部屋だった。それぞれベッドと学習机、クローゼットが2組ずつあるだけ。学習机の棚に教科書や本が並んでいるのと、ベッドに30cmほどのウサギのぬいぐるみが置いてあるのを見て、ルームメイトは左の壁に面している家具を使用しているようだ。
「宅急便で届いた荷物は運び込んであるから。右側のベッドやクローゼットを使ってね」
「はい」
 実家から送ってもらった旅行カバンが右側の机の横に置いてある。
「今日は疲れたでしょ。後は荷解きでもしながら、のんびりしてていいわよ。夕食の時に呼びに来るから、その時みんなに紹介するわね。あの子は……多分夕方まで帰ってこないだろうし」
「わかりました」
 なつみが部屋を出て行った後、真由は旅行カバンの一つを開き衣類をクローゼットに整理してしまいこむ。
「さて、と。……ふああ〜ぁ。……やだ、私ったら」
 二つ目に取り掛かろうとしたところで、真由ははしたなくも大あくびをしてしまった。実は昨晩は興奮のあまりほとんど眠れず、今になって睡魔が襲ってきたようだ。真由は荷物整理を諦めると、皺にならないように制服を脱ぎ、パジャマに着替えた。
「ちょっとだけ、寝ちゃおうっと」
 誰も見ているはずがないのに、真由はキョロキョロと左右を見回すと、パジャマとお揃いの淡いピンクのショートグローブを手に取り、そっと手に填めた。
「えへへ……」
 真由は頬を緩ませながら、真新しいシーツに包まれたベッドの中に潜り込む。
「私、とうとう入学したんだ。沙織お姉ちゃんと同じ学校に」
 ベッドの中で、真由は手袋を填めた手で自身の体をそっと撫でまわす。そのスベスベした感触が心地良い。
 そう。あの日沙織に頬を撫でられてから、真由は手袋へのフェティッシュな想いに目覚めてしまったのだ。
 とはいえ、性的な意識は薄い。今はまだ、その視覚的な美しさに憧れ、柔らかく滑らかな感触を楽しむ程度である。しかしこの学園への入学を決めるのに、その嗜好がかなりのウェイトを占めていたのも確かであった。
「清香先生、とっても美人だったなぁ……なつみさんも、明るくて綺麗で……手、握ってもらっちゃった……えへへっ」
 清香となつみに手袋越しに手を握られた感触、頬や頭を撫でられた感触を思い出しながら、真由はベッドの中でとろけそうな顔をして身悶える。手袋を填めた両手を擦り合わせ、頬を撫で、あの感触を再現してみる。
「生徒も先生も、みんなかわいくて綺麗で……みんな手袋してるんだよね……えへへ、夢みたい」
 およそ常人には理解されないであろう幸福を胸いっぱいに感じながら、真由はこれからの生活に想いを馳せる。
「ルームメイトって、どんな子かな……そうだ、沙織お姉ちゃんにも挨拶に行かなくっちゃ……あふ……むにゅ……」
 いつの間にか真由は、眠りに落ちていた。明日からの素敵な学園生活を夢に描きながら……。

 頬を心地良い感触が撫でてゆく。何度も、何度も。思わず声を漏らしそうになるほど、くすぐったさと隣り合わせの心地良さ。真由はまどろみながら、ゆっくりと瞳を開く。
「…………わわっ!?」
 そして、心臓が飛び出るかというほど驚いた。真由のすぐ目の前で、一人の少女が真由と同じベッドの中に潜り込んで横になり、真由の顔をじっと見つめていたのだ。カーテンを再び閉め切ったのか部屋の中は真っ暗で、少女の水晶の様な瞳だけが真由の視界の中にはっきり浮かび上がっている。
「…………」
 少女は無言で、真由の頬に手を当てさわさわと撫で回している。
「ふぁ……」
 その心地良さに思わず声が漏れる。
「……誰?」
 少女がポツリと言葉を漏らす。先に尋ねるべきであった言葉を逆に投げかけられ、真由は言葉に詰まる。
「あ、えっと……私、小川真由、です。今日からこの部屋に住む事になったの」
「まゆ……」
 少女は真由の名をポツリと繰り返した。
「そ、それで……あなたの、名前は?」
「…………」
 ようやく暗闇にも目が慣れてきた真由は、そう尋ねると少女を改めて眺める。長い黒髪に真っ白な肌。頭に乗っているヘッドドレスと掛け布団から出た衣服の肩から上を見るに、ゴシックロリータファッションで身を包んでいるようだ。先ほどから真由の頬を撫でている彼女の手にも、黒い手袋が填められている。全てが黒と白で構成されている、幻想的な美少女であった。
「……りる」
「りる、ちゃん?」
「…………」
 りると名乗った少女は、コクンと頷いた。
「えっと、りるちゃんは、私のルームメイトなんだよね?」
「…………」
 りるはまた、コクンと頷いた。りるはほとんど口を開かず、ただ真由の顔を見つめながら頬を撫で回している。
「あ、あの……」
 ただ真由の頬を撫で続けるりるに、会話が続かずどうしたものかと真由が思案していると。
「……まゆ……気持ちいい」
 りるはそう言って、微かに微笑んだ。
「あ……うん。……ありがとう」
 そのあまりにも儚げな微笑に胸を鷲掴みにされた真由は、思わず間の抜けた返事を返してしまう。
「……まゆも……触って」
「えっ」
 りるは真由の手を取ると、彼女の頬に触れさせ、その手に手を重ねた。
「あっ……」
 布地越しに伝わってくる、りるの頬の柔らかさ。あまり体温が高くないのだろうか、どこかひんやりとしている。
「…………」
 りるは真由の手に手を重ねたまま、黙って真由を見つめている。真由はコクンと小さく唾液を飲み込むと、壊れないように優しく優しく、りるの頬を撫でた。
「柔らかい……」
「ん……」
 りるは目を閉じ、真由の指先の動きをうっとりと堪能している。真由は事態を飲み込めないながらも、りるの頬を撫でる欲求に抗う事も出来ず、手のひらに伝わる柔らかな感触を求め続けた。
「まゆも……きもちいい……?」
「うん……りるちゃんの頬……スベスベして柔らかくて、すごくきもちいいよ」
「……うれしい」
 りるは再び微笑むと、真由の手に重ねていた手を放して、両手で真由の頬に触れる。
「……まゆ……好き……」
「あ……」
 りるは瞳を閉じ、ゆっくりと顔を寄せ唇を近づけてくる。それはまるでコマ送りの様に真由にはひどくゆっくりとした動作に感じられたが、しかし真由は何も反応できず。やがて、りるの唇は真由の唇に、ぴったりと重なった。
(……あ……私、キス、しちゃった……)
 それは真由にとって初めてのキスであった。りるの唇は肌と同じく少しひんやりしていて、強く吸えば壊れてしまいそうなほど柔らかい。戸惑いよりもそのキスを味わっていたいという思いが上回っていた真由は、瞳を閉じ、りるの背中にそっと腕を回して優しく抱きしめた。

 どれほどの時間そうしていたのであろうか。瞳を閉じ、唇を重ね合わせ続けている二人の美少女。その夢のような一時は、唐突に終わりを告げた。
「りるー。真由ちゃーん。ご飯の時間よー」
 ノックもそこそこに、部屋の扉がガチャリと開かれた。
「ひゃあっ!?」
 真由は慌てて跳ね起き、扉を見る。
「あら。なあに、二人一緒に寝てるの。もう仲良くなったんだ」
 そう言ってドアから顔を覗き込ませてニコッと微笑んだのは、なつみであった。
「あ、あの、そのっ」
 突然の出来事にしどろもどろになる真由。
「晩御飯の時間だから、着替えたら食堂に下りてらっしゃい。それじゃ」
 なつみはそれだけ言うと、返事もまたず扉を閉めて行ってしまった。
「…………」
 呆然とする真由。りるはもそもそとベッドから這い出て、洋服を脱ぎ始めた。
「あ……りるちゃん……その……えと」
 何かを言わなければいけないと思いつつも何を口にして良いかわからず混乱している真由に対し、りるは何事もなかったかのように落ち着いた様子で言った。
「……ごはん」
「あっ、そ、そうだね。ご飯だね。わ、私も着替えようっと」
 真由もベッドを出て、パジャマを脱いで制服を身につけていく。
(……りるちゃん……なんとも思ってないのかな)
 突然の同性とのキスに混乱している真由に対し、りるは微塵も動揺した素振りが見られない。無表情のりるをチラチラ見ながら着替え終えた真由は、オーバーニーソックスを履くと、最後に白いロンググローブをスルスルと填める。その感触にほぅっと思わず溜息を吐くと、不意にその腕にか細い腕が絡まってきた。
「まゆ……」
 真由と同じブルーの制服に黒のロンググローブを填めたりるが、まゆの腕に腕を絡め、指と指を絡ませる。
「食堂、行こっか」
「うん……」
 隣に立つ事で初めてわかる。りるの体が、平均的な身長である真由より頭一つ小さく、そして簡単に折れてしまいそうなほどにか細いという事。りるがコテンと真由の腕に頭を預けてくる。一時の気の迷いという訳ではなく、彼女は彼女なりに真由の事を気に入ってくれているようだ。
(突然あんな事になっちゃったけど……仲良くしていけるといいな)
 真由は、隣でうっすらと頬を染めて微笑んでいるりるを見て、柔らかく微笑んだ。


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