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〜目次〜
1.
2.
 試合後
3.
  試合後
  タイトルマッチ後
4.
 閑話
5.
6.
 閑話2
7.
8.※9/14更新


1.

「待たせたな、北条」
「いえ」
リング上。越後しのぶと北条沙希が、静かに向かい合う。
そして、決戦のゴングが鳴った。

「越後しのぶ 倒爆維新軍残留テストマッチ」
 北条沙希 vs 越後しのぶ


 お互いに持てる全てを出し尽くした一戦。決着後もしばし大の字で天井を見上げていた二人は、やがてゆっくりと立ち上がり、固い握手を交わす。
「ありがとう、北条」
「いえ。やはり維新軍の志は、貴方の中にこそあったようです」
 北条はマイクを取ると、静かに目を閉じ。そして目を開くと、ある決意を胸にした。
「今日、試合をしてわかりました。越後しのぶこそ、維新軍そのものなのだと。そして、私にとっては、越後しのぶもまた、伊達遥と共に乗り越えるべき存在なのだと。……私は今日で、倒爆維新軍を脱退します!」
 突然の発表にどよめく観衆。しかし越後は、この事態を予想していたのか、動揺した素振りはない。
「これから、どうするつもりだ?」
「……私は私のやり方で、伊達遥を超えてみせます」
「ふっ。あいつの首は、そう簡単には渡さないぞ」
 再び越後と伊達はがっちりと握手を交わす。そして北条は、毅然した態度でとリングを後にした。

 『北条沙希、倒爆維新軍を脱退』


〜第2部 Royal Revolution〜


「行くんでしょ。沙希の所に」
「光さん。やはり、聡明な貴方は感づいておられましたか」
 滝は芝居がかった仕草で、右手で額を押さえ悩める青年といったポーズを取る。その様子を苦笑しながら見ている沢崎。
「沙希は我が終生のライバル。しかしそれと共に、無二の親友でもあるのです。このまま彼女を一人にしておく事など、私には出来ない」
 沢崎はやれやれと肩を竦める。
「ま、わたしが同じ立場でも、そうするだろうしね。和美やみずきにはわたしから説明しておくから。……うるさそうだけどね」
「光さん。この恩義、いつか必ず」
「別に返さなくていいわよ。ただ、次からは敵同士って事は、覚悟しておいてね」
 滝は優雅に頭を垂れると、沢崎に背を向け、颯爽と去っていった。

  『滝翔子、正義軍を脱退』

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2.

 芝田はコーナーポストにもたれかかりながら、つまらなそうな表情を浮かべていた。試合はとっくに終了しているが、千歌とSA−KIはリングに横たわった相羽にストンピングを加え続けている。
(……これが、私が求めていたものですの?)
 自問する芝田。初めは新鮮だった、ヒールという立場の傍若無人な振る舞い。しかし、自身が掲げた『Noble』という精神は、いつしかそこには存在していなかった。
「ねえ美紀。アンタも一緒にあのブタを踏みつけようじゃないさ。楽しいわよぉ」
「……遠慮しておきますわ」
 SA−KIの誘いを、芝田はあっさりと断る。これに、SA−KIがキレた。
「いつまでもスカしてんじゃねーよ! ああ!?」
「……フン。下劣な」
 至近距離で睨み合う二人。そこに、セコンドについていた鏡が割って入る。
「お止めなさい、お二人共」
「明日香さん。貴方が最初に私に持ちかけたお話、覚えているかしら。こんな下劣なありふれたヒール集団だとわかっていれば、私、最初から入るつもりはありませんでしたわ」
「このアマァ!」
 芝田に掴みかかろうとするSA−KIを十六夜が羽交い絞めにする。
「……わかりましたわ。では、こうしましょう」
 鏡の提案は、レスラーならばリングの上で意見をぶつけろ、というおよそヒールとは思えない提案だった。疑いを抱きつつ、芝田はその提案を飲む事にした

 『芝田美紀・フレイア鏡 vs 十六夜美響・SA−KI組』

 NobleTemptation内で孤立した芝田。零やシンディーは芝田の姿勢にある程度の共感を抱いてはいたものの、それぞれ姉の手前もあり表だって協力できずにいた。
 そんな中、この日芝田のタッグパートナーを買って出たのは鏡だった。
「今、貴方に抜けられては困りますもの」
 そう言って微笑む鏡の笑顔の裏に潜む何かを芝田は直感的に感じ取ってはいたが、あえて問い詰めはしなかった。全ては今日のリング上で明確になるのだから。

「美紀さん」
 後はゴングを待つだけという時に、芝田はエプロンに控える鏡に声を掛けられた。
「何かし、んむっ!?」
 芝田が振り返った瞬間、彼女の発する言葉は遮られた。鏡の唇によって。
「んむ、むぅ〜〜〜っ!」
 観客たちは突然目の前で繰り広げられた美女同士の接吻に目を見開いていた。30秒ほどその奇妙な光景は続いたが、芝田が鏡をなんとか振り解き、ようやく難を逃れる。
「ウフフ。美紀さん。やはり貴方はこちら側には馴染めませんでしたわね」
 鏡はマイクを拾い上げると、唇の周りを舐めながら芝田に語りかける。
「残念ですわ。私は貴方の事を買っていたんですけれど。でも、仕方ありません。こうなったからには、貴方にはここで眠っていただきましょう。そう。永遠に」
 鏡は話し続けながらゆっくりと歩みを進め、そして青コーナーのコーナーポストにもたれかかる。
「……なるほど。そういう事でしたのね」
 一人赤コーナーに取り残された芝田。完全に1vs3の状況が出来上がっていた。
「そうそう。貴方が大事にしていらっしゃった『Noble』の看板。貴方にお返しいたしますわ。これから私達は……そうですわね。『Immoral Hazard』、とでも名乗りましょうか」
 鏡の顔に蛇の様な凄絶な笑みが浮かぶ。しかし芝田は気圧される事無く、鼻を鳴らした。
「フン。貴方がたにお似合いの、品のない名前ですわね。……良いでしょう。教えてあげますわ。『Noble』の本当の意味を」
 片側が圧倒的に不利な状況に陥ってしまった為、試合開始を躊躇っていたレフェリーだが、芝田に強い眼差しで見つめられ、ゴングを要請する。そして、孤独な戦いが始まった。

※上記発表カードより当日変更
「NobleTemptation」 芝田美紀
  vs
「インモラルハザード」 フレイア鏡、十六夜美響、SA−KI組


 驚異的な粘りを見せた芝田であったが、しかし多勢に無勢。とうとう敗北を喫した芝田に、しかし試合後も制裁は終わる事無く。地に倒れ伏した誇り高き女王に延々振り下ろされ続けるストンピングの嵐。
 リング上には旧ノーブルテンプテーション、いや、インモラルハザードのメンバー全員が集合していた。その内、積極的に制裁に加わっているのは、SA−KI、十六夜、ブリジットの3人。零、千歌、シンディーの3人は戸惑いの表情を浮かべながら遠巻きに見つめている。そして今回の首謀者である鏡は、屈辱に塗れる芝田のその様子をコーナーに寄り掛かりながら恍惚とした表情で見下ろしていた。
「オイ、芝田」
 SA−KIが足を止め、マイクを拾い上げる。芝田の腹をこづいて仰向けにすると、ニタニタと笑みを浮かべながら顔を近づけた。
「ノーブルも、もう、終わりだなぁ」
 そう言い捨てると、高笑いするSA−KI。耳障りな哄笑に、観客の多くが眉を顰めた。
「何とか言ってみなよ、なあ。アァン?」
 邪悪な笑みを浮かべながら芝田に鼻がくっつきそうなほど顔を近づけ、舌を出すSA−KI。その時、これまで微動だにしなかった芝田が急に頭を動かした。
「がっ!」
 その整ったおでこがSA−KIの鼻面を直撃。奇襲のヘッドバットに思わず仰け反ったSA−KI。その鼻からは鼻血が零れ出た。
「こ、このクソアマァ!」
 怒り心頭のSA−KIが、足を振り上げる。芝田の顔面目掛けて容赦なく振り下ろされるブーツの靴底。
  ドカァッ!
 しかし、SA−KIの足には芝田の顔面が潰れる感触は伝わってこなかった。
「……ねえ。何やってんのさ、零」
 SA−KIの足の下には、芝田を守るように覆い被さっている零の背中があった。零は返事もせず、ただ亀の様に丸くなりじっとしている。
「どきなよ。どけっつってんだろぉっ!」
 焦れたSA−KIがドカドカとその背にストンピングを振り下ろしても、零はその場を離れようとはしなかった。芝田を守る盾となり、じっと耐え続ける零。
「……ハッ!? ぜ、零っ。な、何をしているのっ」
 零の突然の行動にしばらく呆然とその光景を眺めていた千歌が、弾かれたように慌てて零の元に駆け寄った。
「零っ。貴方、何を」
「……ごめんなさい、お姉様。……でも……私……もう、見てられない……」
「零……」
 零が、自分の意思で、芝田を助けに飛び込んだ。千歌はその予想外の行動に、大きなショックを受けた。
「千歌さん。これはどういう事ですの」
「ヒッ! こ、これは……」
 鏡が凍りつくような声音で尋ねる。先程までの恍惚の表情はどこへやら。千歌を見下ろすその視線は、どこまでも冷たい。
「貴方達も、私達を裏切るおつもりですの」
「わ、私は、そんなつもりではっ」
 うろたえる千歌に、鏡が酷薄な笑みを浮かべる。
「なら、貴方のその足で、大切な妹を踏みつけなさい」
「なっ!?」
 鏡の言葉に、千歌は驚きに目を見開く。
「貴方が裏切っていないという証拠を見せていただきたいだけですわ。貴方自身の行動で、潔白を証明してくださらないかしら。それに、零にもオシオキが必要ですものね。さあ、早くおやりなさい」
 鏡の言葉に逡巡する千歌。
「お姉様……」
 零は芝田に覆い被さったまま目を閉じる。姉に足蹴にされる事には慣れていた。それで姉の疑いが晴れるなら。零は甘んじて受け入れるつもりだった。
「……零……」
 千歌はギュッと拳を握り締める。そして、SA−KIと零の間に立ちはだかると、SA−KIの顔面にナックルをブチ込んだ。
「がっ!」
 もんどりうって倒れるSA−KI。
「……零は……澪は、今の私の全てですっ。あの日、私は澪を守ると決めたのですっ。澪には指一本、触れさせませんっ!」
「……お姉様」
 両手を広げ、零を守る千歌。零は顔を上げ、呆然と姉の背中を見上げていた。
「わかりましたわ。では、貴方ごと消し去るまで。美響。お願いしますわ」
 無言で頷いた十六夜が一歩進み出る。その圧倒的な威圧感に、竦み上がる千歌。十六夜は両手のひらを組み合わせ拳の塊を作ると、大きくハンマーを振りかぶる。
「ひいぃっ」
 思わず頭を抱える千歌。しかし、その拳が千歌に打ち下ろされる事はなかった。
「まったく。見ていられませんね」
 突如千歌の目の前に現れた人影は、振り下ろされた十六夜の拳を両手でブロックすると、その首に素早く取り付きDDTを決める。
「ハッ!」
 そしてもう一つの影がリング下からエプロンにフワリと駆け上り、トップロープに飛び乗るとスワンダイブで飛翔、ブリジットの背中にミサイルキックを突き刺した。
「あぐっ」
「ね、姉様っ」
 突然の闖入者に散り散りになるIハザードの面々。
「くっ」
 さすがにこれは予想していなかったのか、鏡は素早くリング下に滑り出る。シンディーもブリジットを抱えてすぐにリングを転がり下りた。さらに二人の闖入者は十六夜とSA−KIもリング下に蹴り出す。鏡はリング上でライトに照らされ燦然と立つ美しき闖入者に鋭い視線を向けながら、マイクを手に取った。
「どういうおつもりかしら、北条さん。これは私達内部の問題です。部外者は引っ込んでいていただきたいですわ」
 乱入者の正体は、北条沙希と滝翔子であった。しかし北条は、毅然と言い放つ。
「そうはいきません。これ以上、私達の神聖なリングを穢す事はこの私が許しません!」
 客席から上がる黄色い歓声。鏡と北条の視線が交錯する。
「フン。まあいいでしょう。今日は女王様の屈辱に塗れる姿がたっぷりと堪能できました。貴方達の悲鳴を楽しませていただくのは、次の機会にいたしますわ。楽しみは多い方が良いですもの」
 鏡は肩を竦める。それでも北条は視線を緩める事無く、鏡を見据えている。
「それから、千歌さん。貴方達にも、その内に必ず代償を払っていただきます。楽しみにしていなさい」
 リングに背を向け、引き上げていく鏡達。北条はその背中を追いかける事はせずに目で追った。そしてその姿が完全に見えなくなると、ようやく半身を起こした芝田に北条が手を差し伸べる。
「芝田さん。貴方の戦い、そしてその中に秘められた高潔さ、確かに見せていただきました。いかがでしょう。共に、戦いませんか」
 芝田はしばし無言でその手を見つめていた。そして、その手に手を重ね、しかし握る事はなく、その手を下に押し下げた。
「……少し、考える時間をいただけるかしら」
「……わかりました。お待ちしています」
 芝田はよろよろと立ち上がると、しかし誰の手も借りず、一人でリングを後にした。
「なんという気高さ。あれこそまさに、NobleQueenと呼ぶにふさわしい姿」
 滝がその後姿を感心しながら見つめる。が、その時。
「芝田ぁ。あれで終わりだなんて思ってないよねぇ」
 入場門の前に、パイプ椅子を手にしたSA−KIが再び現れた。一瞬、歩みを止める芝田。
「くっ。なんというしつこさ。まるでヘビの様だ」
 慌てて芝田の下へ駆け寄ろうとした滝を、北条が押し止める。
「泣いて命乞いをするなら、考えてやってもいいんだよ。そうだねぇ、アタシのブーツの掃除係になったら許してあげるよ。もちろん、その舌を使ってねぇ。ヒャハハハッ」
 SA−KIの哄笑が響く。しかし、芝田はSA−KIの姿が目に入っていないのか、再びフラフラと歩みを進め始めた。
「ふぅん。良い態度じゃないか。……ふざけてんじゃねえぇぇっ!」
 その芝田の態度にブチ切れたSA−KIは、大きくパイプ椅子を振り上げた。芝田の頭部が今まさに打ち砕かれようとした、その瞬間。
「ふざけているのは貴方の方よ」
 小さな影が突然芝田の前に躍り出ると、椅子ごと掌底でSA−KIの顔面をブチ抜いた。
「グハッ!」
 もんどりうって倒れるSA−KI。芝田はその騒動に振り返る事もなく、そのまま入場門の奥へ消えた。
「アイヤー。もうSA−KI、何やってるアルか。あっ、ナツキ。なんでナツキがここにいるアル」
 カウンターの一撃に伸びてしまったSA−KIを迎えに来たシンディーが、今まさにSA−KIをKOした小さな姿を見て驚きの声を上げる。
「これ以上エレガントさの欠片も無いやりとりを見たくなかっただけよ。早くそれ、片付けてちょうだい」
 真壁那月はそう言い捨てると、リング上の北条達に合流する素振りも見せず、そのまま入場門へ歩みを進める。
「そうだわ。シンディー、貴方に一つ、聞きたいんだけど」
「何アル?」
 気を失っているSA−KIをおぶったシンディーに、背を向けたまま真壁が尋ねる。真壁のフェアリーガーデン参戦時にシンディーも姉の元を離れフリーとして参戦していた為、二人は顔見知りでありあちらのリングで対戦経験もあった。
「貴方が以前話していた『完全無欠』の勝利。そんな場所で、達成できるのかしら」
「なっ!?」
 真壁はシンディーの返事を待つでもなく、そのまま入場門の奥に消えた。そしてシンディーも、SA−KIをおぶったまま無言で奥へ消える。しかしその表情は、苦渋に満ちていた。
 静かになったリング下。北条は顎に手を当てて思案している。その背後で、零が千歌の肩を借りてゆっくりと立ち上がった。
「ごめんなさい、澪。美しさと強さを兼ね備えた軍団としてその名を轟かせれば、必ず市ヶ谷は食いついてくる。あの女のそんな言葉に、私がすっかり騙されてしまったばかりに」
「……ううん……いいんです、お姉様。……それより……私……嬉しかった……」
「澪……」
 手を取り合い、以前とは違う確かな絆を確かめあう姉妹。真壁の動きは気にはなったものの、今はそれは頭の隅に仕舞い。北条が寿姉妹に手を差し伸べる。
「千歌さん。私は貴方達を、誤解していたようです。どうでしょう。共に鏡達と、戦いませんか」
 千歌は零を振り返る。零はコクンと頷いた。
「わかりました。私の事はどうでもいいとして、零の為には貴方がたと行動を共にした方が良いようですしね。よろしくお願いします」
 千歌が零の手を取り、北条の手を握らせる。二人はしっかりと、握手を交わした。その手に滝も手を重ねる。

 この日、大きく変動した各ユニットの勢力図。しかしそれはまだ、激動の序章にしかすぎないのであった。

『NobleTemptation、崩壊』
『芝田美紀、寿零、寿千歌を除くメンバーにより、ImmoralHazard結成』

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3.

「ローズ・ヒューイットッ! 貴方に、決闘を申し込むわっ!」
 6人タッグの試合後、突如マイクを握ったファントムローズ2号が、ローズを指差し突如マイクを握った。そしてタイツの中をまさぐると紫色の布地を取り出し、ローズに投げつけた。
「あ、あれはっ」
 その瞬間、1号は思わず頭を抱えた。それはローズの替えの手袋であった。わざわざこの時の為に、拝借していたらしい。
「……そう。ワタクシに歯向かうと、そうおっしゃるのね」
 いつもの歌うような響きではなく、静かな、しかしどこまでも冷ややかな口調でローズが尋ねる。それがローズの本気を示す口調だと、長年仕えていた1号には骨身に染みてわかっている。思わず背筋にゾゾッと悪寒が走る。それは2号も同じのようで、腰が引けながらも、それでも懸命にローズに向かって挑発的な言葉を続ける。
「そ、そうよっ。でも、シングルじゃなく、タッグで勝負よ。私の相方は彼女、ジョーカー・レディよ」
 エプロンサイドにいたジョーカーがリングインし、慇懃に頭を下げるとニヤリと笑って見せた。1号は仮面の下で渋面を作る。やはり2号はジョーカーに乗せられてしまったようだ。
「貴方は1号でもソフィアでも、好きな方とタッグを組めば良い。私が勝ったら、これからは私がリーダー。『ローズ軍団』じゃなく『2号軍団』と名乗らせてもらうわっ」
 こんな唐突な要求、当然突っぱねる事も出来たはずのローズ。しかし、プライドの塊である彼女が、メイドの反乱を許しておくはずもなく。
「……いいでしょう。アナタが勝ったら、お好きになさい。けれど、アナタが負けたら……わかっていますわよね?」
「ひ、ひいぃっ」
 凄みを利かせたローズの声音に、思わず悲鳴を上げる2号。こうして、2号の下剋上大作戦が始まった。

「ローズ軍団」 ローズ・ヒューイット、ファントムローズ1号組
  vs
「2号軍団」 ファントムローズ2号、ジョーカーレディ組


「1号、アナタッ」
 ローズが驚愕の表情を浮かべている。もしや負けるとは欠片も思っていなかったのだろう。1号自身も、手を抜いたつもりは無い。しかし、ここで2号が負けてしまえば彼女とは2度と一緒にいられなくなるかもしれない、その想いが少なからず1号の動きに影響を及ぼしたのかもしれなかった。
「やった、やったわっ! これからは私の時代よっ」
 2号は感激し、天を見上げている。絶対的存在であったローズに初めて勝利した。その喜びはいかばかりか。
「ジョーカー、貴方のおかげよ。本当にありがとう」
 2号は共に喜びを分かち合おうとジョーカーに駆け寄った。しかし、彼女を抱き締めようとした2号の腕の間から、ジョーカーはスルリと抜け出した。
「ジョーカー?」
「フフ。2号、君の野心の顛末を見るのは、とても楽しかったよ。これから先も君と共に歩みたかった所だが、実は私はカガミにIハザード入りを誘われていてね。私は共に行けないが、なぁに、君なら一人でも大丈夫さ」
 ポンポンと2号の肩を叩くジョーカー。2号はポカンと口を開けている。
「それじゃ、君の幸運を祈っているよ」
 ジョーカーはクルリと2号に背を向ける。
「ちょ、ちょっと待ってっ。冗談でしょう?」
 慌てふためく2号に、ジョーカーは顔だけ振り返る。その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。
「2号。ジョーカーを本気で信じてしまえる君の素直さ、好意に値するよ。だけど、それでは天下は獲れないよ。そちらのお嬢さんのような思慮深さを持ち合わせることも必要なのさ」
 ジョーカーの視線が、いまだリングに横たわっている1号の顔をチラリと捉える。
「それじゃ、私はこれで失礼するよ。アディオス!」
「ええっ、ちょっと待っ」
 ジョーカーは一瞬にしてリングから消え去った。彼女のいた場所を、呆然と見つめる2号。ふと、その背中に冷たいモノが走る。
「2号……」
「ヒ、ヒイィッ」
 ローズの押し殺した声が2号の背中を襲う。2号は反射的に縮み上がってしまう。
「ヒューイット家の当主たるこのワタクシ、約束は守ります。今日はワタクシの負け、ですわ。『2号軍団』、よろしいでしょう。アナタがリーダーとなりなさい」
「ロ、ローズお嬢様……」
 まさかローズがすんなり受け入れるとは思っていなかった2号は、自分が要求した事にも拘らずそのローズの言葉に戸惑っている。それは1号も同じで、呆然とローズの背中を見つめる。しかし、
「そして、2号軍団のリーダーであるアナタに、ワタクシから挑戦状をお送りしますわ」
 ローズ・ヒューイットはやはり、ローズ・ヒューイットであった。彼女はおもむろに手袋を外すと、2号の胸に投げつけた。
「次のGWAの大会のメイン、ワタクシとアナタで、ワタクシの持つGWAヘビーのベルトを賭けてシングルで戦いましょう。そこでワタクシに勝てたなら、名実共にアナタがGWAのトップであると万民が認めるでしょう」
「ええっ!? ほ、本当ですかっ」
 GWAのマットで、シングルでメインイベンターを務める。しかも、タイトルマッチである。いつもローズのオマケ扱いであった2号にとっては、初の快挙であった。そして、そこで勝利すれば、チャンピオンとして完全に今のローズのポジションへ成り上がれる。彼女がずっと夢想していた物語が今、現実の物となるのだ。
「……ただし。もしアナタがワタクシに敗れるようなら、1号と同じメイド長からは格下げ。給仕係からやり直して頂く事になります。よろしいですわね」
 ローズはそう言うと、チラリと背後の1号を振り返った。
「や、やりますっ。私、絶対お嬢様に勝ってみせるわっ」
 すでに勝利後の事しか考えられなくなっているのか、2号はローズの条件がわかっているのかいないのか簡単に同意した。
 1号は怒りと屈辱を押し殺しているローズの背中を見つめながら、どうか2号が無事にリングを下りられますように、と祈るしかなかった。しかし、リング上で2号がどうなってしまうのかはともかく、2号のこれだけの暴挙を前にしても試合後は格下げで済まそうというローズの寛大な心に、1号はこの方にお仕えしていて良かった、と思わずにはいられないのであった。

『ジョーカー・レディ、ローズ軍団を脱退し、インモラルハザードに加入』

 〜〜〜

『GWAヘビー級タイトルマッチ』
 ローズ・ヒューイット vs ファントムローズ2号


 観客の誰もが目を見張った事だろう。GWAにおいて絶対の存在であったローズ・ヒューイットに、ファントムローズ2号がここまで堂々と渡り合ったのだから。激闘を終えた両者に、惜しみない拍手が送られる。
「くうっ」
 1号に介抱されながら、2号は眩いライトから顔を隠すように手のひらで仮面を覆った。確かに大健闘ではあった。しかし、それではダメなのだ。事を起こした以上、結果を残す必要があった。2号の新必殺技、サイバーボム・R2は返された。しかしローズの必殺技であるバスターローズを抜かせる事は出来なかった。それが、全てであった。
「2号」
 ローズが2号の元へ歩み寄る。2号はビクンと体を震わせた。
「アナタがここまでやるとは、正直思っていませんでしたわ。……強く、そして美しくなりましたわね」
「お、お嬢様……」
 ローズが右手を差し出し、ニコリと微笑む。2号は思わず目頭が熱くなり、両手でその右手を握り返した。その光景を1号が優しく見守っている。
「……それはそれとして」
 ローズの右手に、突如物凄い力が込められる。
「メイドが主に背く。それがどれだけ重罪か。……長年メイドとしてワタクシに仕えてきたアナタなら、わかっていますわね」
 ローズの笑顔は薔薇のように艶やかで。そして彼女の纏うオーラは、茨の様に危険であった。
「お、お嬢様っ、私っ」
「オシオキの時間です。……尻を出しなさい」
「は、はひぃっ」
 その冷たい声音に、2号は言い訳する事も出来ず四つん這いになり尻を上げる。1号が自身の仮面の目元を押さえて顔を背けた。
「お、お嬢様、優しくおね……アッーーー!?」

 〜〜〜

「ウフ、ウフフフフ……」
 数日後、真っ白に燃え尽きた2号が、ヒューイット家の玄関を掃き掃除していた。
「これで少しは懲りてくれるといいんだけど」
 1号は窓を拭きながら、そんな2号を見て溜息を吐く。ローズなりに2号を認めた為か、格下げは1つで済んだ。すなわち、1号がメイド長として直接2号を指導する事となったのだ。ある意味、これは1号に対する罰でもあった。彼女がまた事を起こせば、今度は1号の責任となるからだ。
「ハイ、2号。久しぶりネ……どうしたの。だいじょブ?」
 そこに、お客様が一人尋ねてきた。2号が使い物にならないので、1号が応対に出る。
「いらっしゃいジョディ。待ってたわ」
「オウ、1号。久しぶりネ。……2号、どうしたの?」
「気にしなくていいわ」
「OK。……でもいいのかな、ミーで。ミーにジョーカーの代わり、出来るかな?」
 そう。ジョーカー・レディがフレイア鏡の誘いに乗りローズ軍団を抜けインモラルハザード入りした為、信頼の置ける者という事でGWA所属のジョディ・ビートンがローズ軍団の新たなメンバーとして招集されたのである。
「大丈夫よ。貴方ならできるわ。お嬢様直々の指名ですもの」
「リアリー? OK。ミー、ガンバルよっ。目指せアメリカンドリームッ」
 健気なジョディを見ていると、心が温かくなる1号。しかし。
「……アメリカンドリーム……成り上がり……下剋上……ウフ……ウフフフフ……」
 2号が懲りもせずその言葉に反応を示した事に、1号は再び大きな溜息を吐くのであった。

『ジョディ・ビートン、ローズ軍団に加入』

※オマケ

「ねえ1号」
 豪奢な椅子に長い脚を組みゆったりと腰掛けているローズが、彼女に扇子で風を送っている傍らの1号に呟く。
「なんでしょう。お嬢様」
「ワタクシのユニットの名前ですけれど。ジャパンではそのまま『ローズ軍団』と呼ばれていますわね」
「はい。その通りです、お嬢様」
「……美しくありませんわ」
「はっ?」
 あまりに唐突だった為、1号は素っ頓狂な声を上げた。
「軍団だなんて。そんな無骨な響き、このワタクシのユニットにはふさわしくない。そう思うでしょう?」
「は、はい……」
 どう答えて良いものか、1号は戸惑ってしまう。
「そこでワタクシ、考えたのです。これからはワタクシのユニットを、『ローズガーデン』と呼ばせましょう」
「えっ。あの、それは」
 慌てて止めようとした1号であったが。
「ワタクシという美しき存在の元に集う、艶やかな花たち。もちろん、アナタもその一つでしてよ、1号」
「あ、ありがとうございます、お嬢様……」
 ローズに顎をしゃくられ見つめられて、1号はポーッとなってしまい言葉を飲み込んでしまった。
(言えない。日本のインディー団体とかぶってる、なんて……)

 こうしてローズ・ヒューイット率いるユニットは、以後「ローズガーデン」と呼称される事になった。今のところ1号の心配は杞憂に終わっているが、さて……。

『ローズ軍団、「ローズガーデン」に改名』

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4.

「あ〜、社長? ウチや。うん。元気でやっとるよ。あんな、今日は相談があって電話したんやけど」
 この一ヶ月、成瀬達フェアリーガーデンからの遠征組は、一番星プロレスの全興行に参加した。さすがに東北にあるフェアリーガーデンの寮から関東へ通うのは厳しい為、会社で用意した安ホテルに泊まり、練習は星プロの道場を借りて行っている。
「せやねん。那月が美紀姉さんにくっついて行く事になってな。せやからもう何人かこっちに回してくれへん? あ、なんや、星プロの社長からも話いってるんや。えっ、ウチのリングにも星プロのメンバー上げるん? そんならウチらもこっち来っぱなしやのうなるんか。良かったわ。やっぱずっとホテルやとなんか落ち着かんねん。ボロい言うても寮の布団の方が落ち着くわ。ナハハッ、せやってボロイいのはホンマやんか」
 電話を通して盛り上がる成瀬とフェアリー社長。話好きの成瀬の為、話が脱線しているが、彼女の口からはいくつか重要な内容が零れていた。

 〜

「なっちゃん。芝田さんに誘われたって本当?」
「……ええ」
 NobleTemptationをインモラルハザードに乗っ取られた芝田は、いまだどの軍団にも属さず孤独な戦いに身を置いている。その芝田から、真壁はある日の試合後、声を掛けられた。『真の高貴さとは何か、知りたくはありません?』と。
「どうするの」
「…………」
 真壁は悩んでいた。フェアリーガーデンの一員としてこの軍団抗争に参加しているという手前もある。それに仮に移るなら、先輩として慕う近藤のいる維新軍しかないという思いもあった。
「やってみたらいいんじゃない。芝田さんと一緒に」
「つばさ……」
 あまりにあっさり薦められ、真壁は驚いてつばさを見つめた。
「あたしから見ても、芝田さんってすごく綺麗で大人で、上品だもん。なっちゃんがいつも言ってるエレガントって、あんな感じでしょ。憧れるのもわかるよ」
「わ、私は別にっ」
 心の内を見透かされ、真壁は顔が赤くなる。
「つばさは、しのぶ先輩の所に行かないの」
 照れ隠しに、真壁はつばさに尋ねてみた。
「今のあたしじゃまだ、しのぶ先輩の助けにはならないと思うし、唯先輩たちと一緒にもっと戦ってみたいんだ。それで、いつかしのぶ先輩の方から、一緒に戦おうって誘ってくれないかな、な〜んて」
 えへへ、と照れ笑いを浮かべるつばさ。その言葉に、真壁の決心も固まる。
(私も、真琴先輩の方から誘ってくれるようなレスラーになる為には、芝田さんの下でもっと自分を磨く必要があるんだわ。……それをつばさに教えられたっていうのが、ちょっと悔しいわね)

『真壁那月、フェアリー遠征軍を脱退』

 〜

「ほんで、追加やけど。早瀬ちゃんとかいいんちゃう? 星プロってたまに全国放送もやるから、ちーちゃんにええとこ見せられる言うたら喜ぶやろ、あの子も。ギャラもええし。別にウチのギャラが安いなんて言うてへんやん。なにヘソ曲げてんねん、もう。
 ああ、それとな。ウチらもキチンとユニット名決めた方がええと思うねん。ほら、ローズお嬢んとこのユニット名、『ローズガーデン』やっけ、ウチとかぶってもうたやろ。え、ウチらが先? そらわかってるけど、ウチとお嬢んとこの規模比べたら、なあ。
 ……あ。今度は落ち込んでもうた。あ〜もう、めんどくさいなぁ。そんで、話し戻すけど。ウチ、考えたんやけどな。『フェアリーアンサンブル』とかどうやろ。妖精達の重奏、っ意味や。勝ち負けだけやなくて、ウチらが試合を奏でたるってな。えっ、ウチが考えたとは思えない? ちょお、それどういう意味やねん社長っ」

 〜

 数日後。東京に向かう夜行バスの車中に、ドルフィン早瀬の姿があった。
「東京かあ。頑張るぞ〜」
 小さく気合を入れていると、足元の大きな鞄がもぞもぞと動く。そして、
「ぷはっ。あ〜んもう、狭いよ〜」
 中から少女が現れた。
「ええっ、つかさちゃん? 何してるのっ!?」
「何って、あたしも東京に行くんですよ〜」
「社長は知ってるの?」
「あはは、だいじょうぶだいじょ〜ぶ〜」
 何が大丈夫なのかは説明せぬまま、真鍋はちょこんと早瀬の隣の席に座った。
「でも、なんで新幹線じゃないんですか〜。狭いし時間掛かるし〜」
「だってその方が安いんだもん」
「も〜。あおいせんぱいってばツルセコなんだから。ぶ〜ぶ〜」
「ツ、ツルセコ……」
 思わぬ旅の同伴者の出現に、早瀬はガックリと肩を落とした。

『フェアリー遠征軍、名称を「フェアリーアンサンブル」に正式決定』
『フェアリーアンサンブルに、ドルフィン早瀬、真鍋つかさ加入』

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〜閑話〜

千歌「澪」
零「はい、お姉様」
千歌「私、思うのです。貴方と共に歩む為には、私も強くあらねばならないと。その為に、私は旅に出ることにしました」
零「えっ……そんな、お姉様……」
千歌「止めないで、澪。私は決めたのですから。でも、いつの日か。必ず今より一回り大きくなって、貴方の元に戻ってくると約束しましょう」
零「……はい。……お姉様、いってらっしゃい」

 こうしてアメリカ遠征に向かった千歌。
 彼女が再び零の前に現れるのは、2週間後の事であった。

成瀬「はやっ!」
北条「どこから出てきたんですか、貴方は」
成瀬「いや、アンタらんとこツッコミ役おらへんやろ。出張サービスや」
滝「フフ。的確なツッコミもまた、美しい……」
北条「……そうだろうか?」

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5.

 静寂に包まれた室内。芝田は一人椅子に腰掛け、目を瞑り思案していた。先日まで東洋女子プロレスに参戦していたWARSのサンダー龍子がユニットを解散、再びフリーとして動き出したという。そして彼女の標的の一人として上げられたのが、芝田美紀であった。
「まったく。私はどうしてこう野蛮な方々に絡まれてしまうのかしら」
 そう言いつつも、どこか楽しげな芝田。しかし、今の彼女はどこのユニットにも所属していない状態である。いきなり龍子とシングルで戦ってハイおしまい、では先が無い。WARSと抗争をする為には彼女と共に戦う、背中を預けられるパートナーが必要であった。
「あの子達と共に戦うというのも、悪くはありませんけれど」
 先日Iハザードから芝田を救った北条と滝。なるほど彼女達ならば、戦いにおいても美しさを忘れない、芝田の掲げる理想に近い存在だろう。だが、助けてもらったので仲間になる、では彼女のプライドが許さない。共に戦うのならば、対等の間柄でなければならない。それにはまず、借りをキチンと返す事。そして、手土産の一つも持参する事が必要だと芝田は考える。
「さて。あの子が私の想像通りの娘であれば良いのですが」
 と、その時。ドアをノックする音が、室内の静寂を破る。
「どなたですの?」
 ドア越しに芝田が尋ねると、
「……私です」
 遠慮がちな声が返ってくる。その声に、芝田は微笑むと椅子から立ち上がり、ドアノブを回してその人物を出迎えた。
「いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思っていましたわ」

  「無所属」 芝田美紀、真壁那月組
  vs
「ローズガーデン」 ジョディ・ビートン、ソフィア・リチャーズ組

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6.

 この日行われた、『BloodChain』八島・朝比奈組 vs 無所属の北条、滝組のタッグマッチ。
試合序盤から凶器で流血させられた滝の動きが鈍る中、北条は二人のパワーレスラーに加えさらにセコンドについた村上姉妹も相手にせねばならず、多勢に無勢、劣勢をしいられていた。
「ぐっ!」
 八島の膝をどてっ腹に叩き込まれ、悶絶する北条。千春が首を掻っ切るポーズを見せ、ゆっくりと後ろに下がる。パイプ椅子を手にした千秋が北条の顔の前に椅子を固定する。千春がロープの反動をつけて椅子ごと北条の顔をケンカキックでブチ抜こうとした、その時。
「オーッホッホッホ!」
 突如響き渡る高笑い。次の瞬間、何者かが花道を駆け抜ける。その影はトップロープにノータッチで飛び乗ると、そのままスワンダイブで華麗に宙を舞い、千春の顔面に膝を叩き込んだ。
「グハッ!」
 たまらずリング下に転げ落ちる千春。さらにもう一つ、小さな竜巻がリング上を襲うと千秋に裏拳を叩き込み、これまたリング下に叩き落とす。呆気に取られた朝比奈を北条が一瞬の隙を突き、完璧首固めで丸め込む。カットに入ろうとした八島の足を滝が払い、その間にレフェリーの手がマットを3度叩く。
「これで借りは返しましたわよ」
 ウェーブの掛かった長く美しい髪をかき上げる、千春に膝を叩き込んだ女性。
「芝田さん……」
 北条が呟く。そう。北条と滝の救援に入ったのは、芝田美紀と真壁那月であった。
「テメエ芝田、なんのつもりだぁっ!」
 恥を掻かされた千春が、放送席からマイクを奪い芝田に向かい吼える。
「あまりにリングの上が美しくなかったので、掃除をしたまでですわ」
「ぁんだとぉっ!」
 ブチ切れる寸前の千春からマイクを奪い、千秋が芝田を挑発する。
「よう。魔女に騙され全てを失った女王様。今更何のようだよ。アン?」
 意地の悪い笑みを浮かべながら千秋が続ける。
「プライドだけ高くて何も出来ねえヒールのなり損ないの半端ヤローが、しゃしゃり出てくんじゃねえよっ!」
 しかし芝田は全く怯む事無く、胸を張る。
「フン。これだから世界の見えない野良犬は嫌なのです」
「アァン!?」
「良いですか。ベビーだヒールだなどと、そんな尺度でこのワタクシを測る事は不可能! このワタクシはそんな枠組みを越えた、唯一無二の存在なのですわっ!!」
 ふんぞり返って宣言する芝田。その訳の分からない迫力に、さしもの千秋も気圧される。
「……チッ。付き合ってられねえぜ。次はまとめてブッ潰してやるから、覚悟しとけっ」
 結局、これ以上絡んでも無駄と判断したのか、BloodChainのメンバーは引き上げていった。
 4人が残されたリング上。芝田は北条に手を差し出す。差し出された手は甲が上に向けられていた。それを見て、握手の為ではないと判断した北条はその手を取ると甲に軽く口づける。そして北条は立ち上がると、マイクを手に取り凛とした声で声高に宣言した。
「私はここに、我らのリングの誇りを守る為の騎士団、『Noble Knights』を設立する事を宣言する!」

『「Noble Knights」結成。
 参加メンバー:北条沙希、滝翔子、芝田美紀、真壁那月、寿零、寿千歌』

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〜閑話・2〜

 2週間のアメリカ遠征を終えた千歌が帰国する予定のその日、空港では妹の零と、なぜか付き合わされた真壁がゲートの前で待っていた。
「まったく。どうして私があの高慢ちきな女の出迎えをしないといけないのかしら」
 真壁がぶつぶつ呟いていると、
「…………」
 零がキュッと真壁の手を握った。
「わ、わかってるわよ。別に貴方を置いて先に帰ったりしないわ」
 そうこうしている内に、毛皮のコートを着てサングラスをかけた千歌がゲートから現れた。その後ろには寿家の老執事が控えている。
「……お姉様」
「ああ、澪っ。来てくれたのですね」
 千歌に思い切りハグされ、零は頬を赤らめた。
「……ところで、報道陣はどこです? スーパースターの帰国だと言うのに」
「来てる訳ないじゃない。勝手に2週間海外に行ってきただけなのに」
 キョロキョロと辺りを見回している千歌を見て、肩を竦める真壁。
「なんです、この小さいのは」
「だ、誰が『小さいの』よっ」
 気色ばむ真壁の手を、零がキュッと握る。
「…………トモダチ」
「と、友達って……せめて仲間とかにしてよね」
 そう姉に紹介する零に、ボヤキつつも真壁は毒気を抜かれてしまった。
「あら、そうでしたの。それでは、貴方にはこのスーパースターの日本でのファン第1号として、良い物を差し上げましょう」
「なんで私がアナタのファンなのよ」
 千歌がパチンと指を鳴らすと、老執事がDVDのケースを取り出し千歌に手渡した。千歌はサラサラとサインをすると、真壁に押し付ける。
「考えてみれば、私の飛行機待ちをするほどの熱心なファンですものね。一生の家宝にしなさい」
「だからファンじゃないわよっ」
「さあ澪、久しぶりに会えたのです。一緒にディナーにしましょう」
「人の話を聞きなさいよねっ」
 零の手を引いて歩き出す千歌。その後ろを追いかける真壁は、ふと手の中のDVDケースに視線を落とす。そこには、『The Senka』というタイトルが書かれており、セカンドロープに上り客席に向かって右拳を掲げるリングコスチューム姿の千歌が映っていた。

「それで、この中に千歌さんの遠征の内容が記録されている訳ですか」
 北条がDVDケースを見ながら呟く。ホテルの一室、寿姉妹を除くノーブルナイツのメンバーが集まっている。
「那月。そのDVDをセットしてちょうだい」
「はい。……お、お姉さま」
 芝田とコンビを組む事になり、なぜか真壁は芝田を「お姉さま」と呼ぶ事になった。普段から気品を漂わせる話し方を学びなさい、との芝田の言い付けだが、それと「お姉さま」と呼ぶ事と何の関係があるのかはよくわからない。
「フフ。ミス千歌がどのように生まれ変わったのか、楽しみだよ」
 滝が、手にした一輪の薔薇の香りを嗅ぎながら優雅に呟いた。

  「Senka in USA」
 寿千歌 vs ダイナマイト・リン


 DVDを見終わった後。しばらく室内を沈黙が包む。最初に沈黙を破ったのは、滝だった。
「……フッ。彼女は自分の生き様を見つけたようだね」
「そうだな。ようやくプロとしてスタートに立ったという所か」
「ええっ!?」
 滝と北条の反応に、真壁は驚きの声を上げた。
「あのまま柔道ベースで戦っていても、あの高飛車娘を超える事は出来なかったでしょう。なら、彼女の見つけた道の方が可能性があるという事ですわ」
「は、はぁ……」
 頷いてはみたものの、今一つ納得しきれない真壁であった。

『寿千歌がスキル:スーパースターを身につけた』

 〜

「ジョディ。貴方に手紙が来てるわよ」
 1号が手紙を手渡すと、メイド服姿のジョディは嬉しそうに受け取った。
「リアリー? カントリーのダディかな」
 ここは日本のヒューイット家の別荘。しばらく日本での継続参戦となる為、ローズと十数人の使用人がここに滞在している。そしてジョディも、日本での住居提供の代わりとしてこの別荘のメイドとして働いている。
「それにしても、ジョディはメイド服が似合うわね」
「オウ。恥ずかしいヨ、1号。でも、ステイツではずっとウェイトレスのアルバイトをしてたから、家事は慣れてるヨ」
 1号の褒め言葉に素直に照れるジョディ。彼女を見ていると、1号はいつも温かな気持ちになる。それに比べて、
「もうっ。なんでこのアタシがメイドなんてしなきゃいけないのよっ。パパに言いつけてやるんだから」
「うう。メイド長だった私が、どうしてトイレ掃除なんか……」
 ぼやきながら働くソフィアと2号を見て、がっくりと肩を落とす1号だった。
「ワオ。リンからだ」
 手紙の封を切り中を確認したジョディが喜びの声を上げる。
「リンって、ダイナマイト・リンの事?」
「イエス。リンはカントリーから出てきてロンリーだったミーを面倒見てくれた、ミーのシスターなの」
 田舎町からアメリカンドリームを目指して上京したジョディに、リンはカナダからレスラーの頂点を目指してアメリカへやってきた自身を重ねていたのだろうか。
「ねえ、1号。リンが、ジャパンへ来たいって」
「えっ?」
 ジョディの言葉に、1号は目が点になった。
 なんでも、日本からやってきた千歌に勝ち逃げされたのが許せないので、リベンジの機会を得る為にジョディのいるローズガーデンに加えて欲しい、とのことだった。
「1号。ダメ?」
 ジョディが瞳をウルウルさせて尋ねてくる。
「え、ええと……わかったわ。ローズお嬢様にお願いしてみましょう」
「イエイッ! 1号、アイラービューッ」
 ジョディに抱きつかれ、1号は思わずドキッとする。ジョディの願いなら、なるべく叶えてあげたいと思う。しかし、
「……新メンバー……ウフフ……ウフフフフ……」
 2号がまた何かを企み始めたような気がして、1号は背筋をブルッと震わせるのだった。

『ローズガーデンにダイナマイト・リンが加入』

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7.

 フェアリーガーデンの遠征組がフェアリーアンサンブル(以下フェアリー)と名乗るようになって初の興行。この日フェアリーは、新たなメンバーであるドルフィン早瀬、真鍋つかさを加え、インモラルハザード(以下ハザード)との6人タッグマッチを行う予定であった。しかし、ハザードのメンバーは、『フレイア鏡、ジョーカー・レディ、X組』と発表されており、そのXは間もなく試合開始であるというのにいまだ伏せられたままだった。
「よーし、ここでの初試合、頑張るぞーっ」
 気合を入れている早瀬。間もなく試合開始のゴングが鳴るという所で、真鍋がフラフラと成瀬に近づいた。
「ね〜、唯先輩」
「ん? なんや、つかさ」
「ごめんねーっ」
 ズブッ!
「あがっ!?」
 いきなり真鍋にカンチョーされ、悶絶する成瀬。
「ゆ、唯ちゃんっ? ちょっとつかさちゃん、何するのよっ」
「アハハ、ごめんね〜」
 早瀬の抗議に真鍋は悪びれた様子もなく、ハザード側の赤コーナーに近づくと、鏡に抱きついた。
「こういう事なんだよね〜」
「え、ええっ!?」
 突然の状況に目を白黒させる早瀬。
「あら。4vs2になってしまいましたわね。ウフフ」
 鏡が妖艶に微笑む。Xとはフェアリーから引き抜いた真鍋の事だったのだ。
「ど、どうしてなの、つかさちゃんっ」
「だって〜。こっちの方が自由にやれて楽しそうだし〜」
「そんなのっ」
 食い下がろうとする早瀬を、成瀬が右手で制する。
「アイタタァ……。まったく、やってくれるで、つかさ。……せやけどな、鏡さん。なんも、策士はアンタだけっちゅうわけやないんやで。ええかっ。アンタらの中に一人、裏切り者がおるっ!」
 言うと、成瀬がサッと右手を上げる。次の瞬間、赤コーナーのセコンドの一人がリングに飛び上がり、真鍋にジョン・ウーを叩き込んだ。
「ぎゃうっ!」
 ニュートラルコーナーまで吹っ飛ばされ、したたかに背中を打ちつけた真鍋が呻く。
「シンディー、貴方っ!?」
 ブリジットが驚きの声を上げる。
「姉様。ワタシ、姉様はともかく、この人達のやり方にはついていけないアル。こんな汚いプロレスに、ワタシの4千年は使えないヨ。ワタシはユイ達と一緒に、楽しくカッコイイプロレスを目指すアル。許してほしいネ」
 ブリジットに向かってペコリと頭を下げるシンディー。それは決別の挨拶であった。だがブリジットは、妹の旅立ちを笑顔で見送るようなタマではなかった。
「シィンディィィーーーーーッッッ!!」
「ヒャアァーーーッ!?」
 地の底から響くようなブリジットの怒声に、シンディーが震え上がる。まさに怒髪天を突くといった形相のブリジット。しかし今日は試合の権利が無い為、十六夜がなんとか背後から羽交い絞めにして押さえ込む。
「アハハハハッ。これは楽しくなってきたよ。さあ、それじゃ試合を始めようじゃないかっ」
 ジョーカーが高笑いをしながらゴングを促す。そして、会場内に甲高い音が打ち鳴らされた。

  「インモラルハザード」 フレイア鏡、ジョーカー・レディ、真鍋つかさ組
  vs
「フェアリーアンサンブル」 成瀬唯、ドルフィン早瀬、シンディー・ウォン組

 試合後。ブリジットに絶縁宣言され、涙目になっているシンディーを、成瀬と早瀬が慰めながら引き上げていく。
「あの姉ちゃんもその内わかってくれるて」
「ウッ、ウッ……本当アルか?」
「そうですよ。だって、姉妹なんですから」

『インモラルハザードに真鍋つかさ加入』
『フェアリーアンサンブルにシンディー・ウォン加入』

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8.

 各ユニットの陣容が固まり、軍団抗争がさらに激しさを増した頃。一番星プロレス社長が、重大発表があるとマスコミ各社に記者会見を行う旨のFAXを送った。何が起きるのかと期待して集まった報道陣。会見場の一番星社長の隣には、フェアリーガーデンの社長、そしてGWA代表としてローズ・ヒューイットも同席していた。ざわめきの中、一番星社長がおもむろにマイクを握る。

「私はここに、『スーパーインディー大戦』の開戦を宣言するっ!」

 そして、時代は動き出す。

 〜第3部へ続く〜



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