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ファイプロDEレッスル 第3部
 『スーパーインディー大戦・開戦前夜』

〜目次〜
1.
 タッグ戦後
 越後vs成瀬 後
 越後vsつばさ 後
2.
3.
 試合後
 リベンジマッチ後※10/26更新
4.※10/26更新


1.

 『スーパーインディー大戦』(以下SIW)。それは、一番星プロレス社長がブチ上げた一大イベントである。初めは越後しのぶら倒爆維新軍の決起による一団体内での戦いに過ぎなかったユニット間抗争であったが、多くのフリーランスの選手やフェアリーガーデン、GWAといった団体を巻き込み、今ではその規模は大きく膨れ上がっていた。
 そこで一番星社長は、このユニット抗争を単なる内輪の抗争ではなく、大きな一つの祭りとして押し出す事にしたのだ。フェアリーガーデン、GWAの全面バックアップも取り付け、SIWは近年類を見ない大掛かりなプロレスイベントへと発展した。
 一番星社長が打ち出した企画は以上である。
1.各ユニットリーダーによる8人バトルロイヤル
2.各ユニットから1名選出、ジュニアトーナメント
3.各ユニットから1チーム選出、タッグリーグ
4.各ユニットから1チーム選出、6人タッグリーグ
 そして、それぞれのイベント毎にポイントが与えられ、そのポイントの合計が最も高いユニットにはなんと、クリス・モーガンの持つIWWFヘビー級ベルトへの挑戦権が与えられる事となる。
 駄目元でIWWFへ交渉した一番星社長であったが、以外にも先方の返事は快いものであった。IWWFとしては盛り上がる日本インディーマット界に名前を売っておきたいという目論見と、エースであるクリスがインディー団体の選手に負けるはずが無いという自負もあったのだろう。
 一番星社長もIWWFの狙いを理解した上で、それでも広がり続けるユニット抗争のひとまずの終着点としてIWWFヘビーベルトを据える事としたのだった。
 そしてそれに伴い、一番星社長は各ユニットへインディーカーニバルへの参加条件を一つ提示した。それは、『一つのユニットは6名の選手で構成する事』という物であった。

 ちなみに、このイベントの突拍子もないネーミングは、一番星社長の「ロボットとか好きだからー!」の一言で決まってしまったらしい……。


「6人、か」
 道場で練習をしながら、越後しのぶはぼそりと呟いた。現在、維新軍のメンバーは5人。社長の提示した条件には一人足りない状態だ。そして現在、メンバー全員がヘビー級の選手である。いくら身軽だとは言え、170cmあるREKIをジュニアとして扱う訳にもいかないだろう。つまり、維新軍としてはジュニアの選手の加入がSIW参戦への絶対条件であった。
「なーに悩んでんスか。……あだだだっ! 先生、背骨、背骨折れるッスー!」
「そなたは本当に体が固いな」
 柳生にストレッチで仰け反らされ、真田が悲鳴を上げながら話し掛けてくる。
「そうよ。もう心に決めてるくせに悩む振りなんて、らしくないな」
 近藤がシャドーを繰り返しながら言う。
「わ、私はまだ何も決めてなんか」
 越後が二人に抗議しようと立ち上がったその時、越後の目の前に突然REKIがシュタッと現れ、跪き何かを差し出した。
「な、なんだREKI、驚かすな。……ん。これは」
 それは追加メンバーへのREKIの意見をまとめた書簡であった。そこには先程まで越後が思い浮かべていた人物と同じ名が書いてあった。
「我らはそなたの志の元に集った身。そなたが我らと行動を共にするに値すると認めた人物ならば、我らが否定する道理は無い」
 柳生の言葉に、皆が頷く。ただ一人、床でノビている真田を除いては。

  「倒爆維新軍」 柳生美冬、REKI組
  vs
「フェアリーアンサンブル」 渡辺智美、アプリコットつばさ組


 試合終了後、維新軍のセコンドについていた越後がマイクを取ってリングに上がり、激戦を終えたばかりのつばさに声を掛けた。
「つばさ。今日の試合、見せてもらったぞ。良い試合だった。お前、フェアリーガーデンに遠征してから、本当に成長したな」
「しのぶ先輩……」
 コーナーに寄り掛かりながら、つばさは越後を見つめる。
「SIWの話はお前も聞いているだろう。知っての通り、私達は今5人。SIWに参戦するにはあと一人、ジュニアの選手が必要だ。……いや、それを抜きにしても、私にはお前しか思い浮かばなかった。……一緒に戦ってくれないか」
 越後がつばさに向かい、右手を差し出した。驚きでいっぱいだったつばさの顔が、次第に喜びに変わっていく。師匠である越後に、共に戦うに値するレスラーだと認められた。それは、つばさの目標の一つでもあった。つばさがその手を握り返そうと両手を差し出した、その時。
「コラコラコラッ。ちょっと待ちぃや」
 フェアリーのセコンドについていた成瀬がマイクを片手にリングに上がり、後ろからつばさを抱き締める。
「なに勝手な事言ってウチの子をナンパしてんねん。つばさはウチらの大事なメンバーや。そんな簡単に渡されへんで」
「ゆ、唯先輩」
 成瀬がつばさの頬をぷにぷにと突付きながら越後を挑発する。
「決めるのはつばさ自身だ」
「そや。決めるのはつばさ自身や。せやから、昔の師匠かなんか知らんけど、変なプレッシャー掛けてこの子を混乱させんといてや」
「私はプレッシャーなど」
「第一なんや、強なったから仲間になれて。弱かったらいらんのかいな。ウチらんとこにつばさを放り出しといてオイシイとこだけ頂こうなんて図々しいにも程があるで」
「放り出してなどいないっ」
「それに今更、昔の女が何の用やねん。ええか、つばさはウチとな、何回も一緒に寝てんねん。今更アンタの出る幕なんかないっちゅうねん。引っ込んどきっ」
「ちょ、ちょっとなに変なこと言ってるの唯先輩っ」
 一緒に寝たと言っても、ボロホテルに宿泊した際に物音が怖いといって成瀬の布団につばさが潜り込んだだけである。しかしすでに成瀬の口撃スキルは全開になってしまっていた。そしてそれをもろに食らった越後も、堪忍袋の尾が切れてしまった。
「貴様ぁっ!」
 越後が成瀬に突っ込んでいきラリアットを仕掛ける。
「ひょいっと」
 しかし成瀬はヒラリとかわすとすぐにその右腕に絡みつき、グラウンドに持ち込もうとした。
「フンッ」
 だが越後も、そうはさせじと右腕を勢い良く引き抜く。そして睨み合う二人。
「ちょ、ちょっと何やってるの二人共。やめてよーっ」
 なぜか自分の為に戦い始めた二人につばさは混乱、敬語もどこかに飛んでしまった。二人の間に割って入り、なんとか引き離す。成瀬はマイクを手に取ると、声高に言い放った。
「ええかっ。つばさが欲しかったらな。100万円持ってきぃっ」
 ……その瞬間、会場内の空気が凍りつく。
「唯せんぱ〜い。それはどうかと思うな〜」
 すでにリング下で成り行きを見守っていた渡辺が、ニコニコしながらツッコミを入れる。
「ん〜、ゴホン。今のはナシや。うん。……改めて。つばさが欲しかったらな、ウチに勝って力づくでモノにしてみっ」
「望む所だっ」
 売り言葉に買い言葉。成瀬の挑発に、越後も乗ってしまう。こうして、つばさを賭けて越後と成瀬のシングルマッチが決定した。
「な、なんでこうなるの〜」
 当事者を蚊帳の外に置いたまま。

「倒爆維新軍」 越後しのぶ
  vs
「フェアリーアンサンブル」 成瀬唯


「どおだぁっ!」
 越後が両の拳を握り締める。タイムアップ寸前、越後は気合で成瀬をマットに捻じ伏せた。
「つ〜っ。あとちょっとやったんやけどなぁ」
 マットに仰向けに転がったまま成瀬が呟く。その顔は、清々しいまでにすっきりしていた。越後は成瀬に近づくと、右手を差し出す。
「正直、お前がここまでやるとは思ってなかったよ」
 差し出されたその手を、成瀬はしっかりと握り返した。
「アンタもようやくウチらのこと認める気になったみたいやな」
「ああ。つばさも成長するはずだ」
 越後は成瀬を引っ張り上げると、しっかりと握手を交わす。
「つばさの事、よろしく頼むで」
「ああ」
 越後は成瀬に力強く頷くと、マイクを手に取りニュートラルコーナーで試合を見つめていたつばさに呼び掛けた。
「つばさ。私達と一緒に、戦ってくれるな」
 これで大団円、と会場内の誰もが思ったのだが。
「いやっ!」
 つばさはきっぱりと否定した。越後も成瀬も、予想外の返答にポカンと口を開ける。
「もーっ、二人して勝手に話進めてーっ。あたしの事はあたしが決めるんだからーっ」
 つばさはリングに飛び乗ると、リング下に向かってゴングを鳴らすよう要請した。
「しのぶ先輩、勝負です。あたしが勝ったら、あたしの好きにさせてもらうんだからっ」
「お、おい、つばさっ」
 高らかに打ち鳴らされるゴング。突如決定した連戦に越後は動揺を隠せずにいた。

「倒爆維新軍」 越後しのぶ
  vs
「フェアリーアンサンブル」 アプリコットつばさ


「やったーっ!」
 つばさは喜びを爆発させて飛び跳ねた。相手は連戦とはいえ、シングルで、自身の力だけで越後から初めて3カウントを奪ったのだから。
「負けた……」
 越後は呆然と会場の天井を見上げていた。つばさはマイクを手に取ると、高らかに宣言する。
「これで、決めました。あたしは、倒爆維新軍に入りますっ」
 どよめく観客席。越後も目を丸くしてつばさを見つめていた。
「つばさ、お前……」
「あたしもう、子供じゃないんだから。人に決められるんじゃなくて、自分で決めるの。……しのぶ先輩、これからよろしくお願いしますっ」
 以前とは逆に、つばさから差し出された右手。
「……ああ。こちらこそ、よろしく頼む」
 小さいながらも頼もしくなったその手のひらを、越後はしっかりと握り返した。

『倒爆維新軍にアプリコットつばさ加入』


2.

「新メンバーについて相談があります」
 カンナ神威にそう言われて、内田は彼女の後をついていった。カンナの向かった先は、一件のバーであった。
「『Bar SubMission』……変わった名前ね。あら、準備中の札が出てるわよ」
「大丈夫です」
 構わずカンナが扉を開けると、店長と思しき若い女性が出迎えた。
「ごめんなさい。まだ準備中で……あら。カンナ」
「お邪魔します」
 その女性は内田にも見覚えがあった。ウィン・ミラー。EWA所属の選手である。確かなテクニックを持ってはいるが、いかんせんファイトスタイルが地味な為、さほど人気は高くない選手だ。
「こんな所でアルバイト?」
「ええ。雇われ店長ですけど」
 内田が尋ねると、ミラーはグラスを磨きながら答える。内田はカンナに耳打ちする。
「貴方が言っていた新メンバーって、彼女の事?」
「ええ。ぴったりのメンバーだと思います」
 頷くカンナ。確かにテクニックは認めるが、しかしなぜ彼女なのだろうか。
「気づきませんか?」
「何を?」
「彼女、一部では『関節技マスター』と呼ばれているそうです。でも、ハンや南ほどズバ抜けたテクニックを持っている訳ではない。それでも彼女がそう呼ばれる理由……フフッ」
 小さく笑い出したカンナ。内田の脳裏に、とても下らない正解がよぎる。
「まさか、マスターって……」
「ええ。そういう事です。……フフッ。クックックッ」
 呆れている内田を他所に、カンナはずっと笑いを噛み殺している。
「カンナったら。また何か面白い事でも見つけたの?」
「ええ。……フフッ。ちょっと。……クククッ」
「相変わらず笑い上戸なのね、アナタ」
 声を殺して笑い続けているカンナに、ミラーは肩を竦める。内田はカンナの意外な一面を知った気がした。

『IceLocks にウィン・ミラー加入』

「IceLocks」 ウィン・ミラー、カンナ神威組
  vs
「正義軍」 ミネルヴァ石川、スターライト相羽組


3.

「なあ姉貴。例のアレ。6人いないとダメって話だったよな」
 ポッキーをかじりながら、千秋が呟いた。
「あ〜。そうだったか?」
 寝転がってテレビを見ながら、興味なさげに千春が答える。
「そうだよ。んで、ジュニアも一人いないといけないんだろ」
 千秋が話題にしているのはSIWの事であった。現在『BloodChain』のメンバーは5人。村上姉妹を除けば、いずれも大型選手だ。
「アタシらに合いそうなジュニアって言えば真鍋くらいだろうけど、アイツ、ハザードに入っちまったしなぁ」
 千秋がぼやく。
「増やすにしたって、別にジュニアじゃなくてもいいだろ」
「あっ。勝手に取るなよ」
 千春が千秋の持つポッキーの箱を取り上げながら言う。
「だから言ってんだろ。ジュニアが一人いなきゃいけないって。返せって、このっ」
 箱を取り返そうとする千秋の頭を右手で押し返しながら、千春がニヤリと笑う。
「だから、コイツは没収だ」
「はあ? ナニ言ってんだ」
 その時、朝比奈と上戸が並んで奥の部屋から出てきた。
「オイ朝比奈。お前らこれからジム行くんだろ。コイツも一緒に行きたいってよ。連れてってやってくれや」
「ハア!? なんでアタシがジムなんか行かなきゃなんねえんだ」
 突然妙な事を言い出した千春に千秋が詰め寄る。
「自分で言ったんだろ。ジュニアが一人必要だってよ」
「ちょっ、なんでアタシがジュニアで出なきゃいけねえんだよっ!」
 ごねる千秋の両腕を、朝比奈と上戸が左右からガッチリ掴む。
「いや〜。ようやくあんたもやる気になったか」
「楽しいぜ〜。脂肪が筋肉に変わってく瞬間はさ〜」
 朝比奈と上戸は満面の笑みを浮かべながら、千秋をズルズルと引きずっていく。
「オ、オイ、ふざけんなっ。アタシはオマエらみたいな筋肉バカじゃねえんだよっ。テメエ、クソ姉貴っ! 覚えてろよーっ!」
 結局千秋は二人に引きずられたまま部屋を出て行ってしまった。
「ま、言いだしっぺが責任取らねえとな。それに一応、リーダーは千秋って事になってるしよ。さて、コイツはアタイがいただいとくか」
 千春は千秋の残したポッキーをボリボリ食べながら、再び寝そべってテレビをボーッと見始めた。

 それからしばらくたったある日。千秋が鏡の前でポージングをしている。
「何やってんだオマエ」
 千春が寝転がりながら、呆れた顔で尋ねる。
「ヘヘ。なんかハマっちまってさ。どうよ姉貴、この体」
 千秋が千春の前でポーズを作る。確かに以前より筋肉がついたようだ。
「お蔭さんで、前よりスタイルも良くなったぜ。ま、姉貴もゴロゴロし過ぎてブタにならねえように気をつけろよ。ハッハー」
「んだとコラァッ!」
 姉の怒声もどこ吹く風、千秋は意気揚々と部屋を出て行ったのだった。

『マーメイド千秋、ジュニアヘビー転向。それに伴いムーブも大幅変更』

「BloodChain」 マーメイド千秋
  vs
「NobleKnights」 滝翔子


 試合に敗れた千秋だが、納得がいかなかったのかマイクを握る。
「オイ滝! テメーこれで勝ったと思ってんじゃねえぞコラ。今日はアタシも飛べるってトコをボンクラどもに見せてやっただけなんだよ」
 観客席からブーイングが起こるが、むしろ千秋はそれを楽しそうに受け止める。
「負け犬の遠吠えとは……美しくない」
 滝が額を押さえながら首を横に振る。
「んだとコラァ!」
「ならば、もう一度やりましょう。それで貴方の気が済むのならば」
 観客席から拍手が起きる。一部熱烈な滝ファンの中には、ヒールの千秋と絡む事に眉を顰める者もいたが。
「なら、次のホール! アタシの新技でテメーの気取ったツラぶっ潰してやるから、覚悟しとけっ。ちゃんとカード組んどけよ社長っ」
 千秋はマイクを投げ捨てると、さっさとリングを下りていく。一人残った滝は、リングサイドの社長に向かい千秋の対戦要求に同意を示す頷き見せると、リング中央で四方に優雅に礼をしてからリングを下りたのだった。

 リベンジマッチ
「BloodChain」 マーメイド千秋
  vs
「NobleKnights」 滝翔子


 結果的には2連勝。しかし、滝は驚いていた。vs北条用の秘密兵器であった滝の隠し技「エッフェル・ド・パラシュート」を千秋相手に2度も放つ事になった事に。それだけ千秋の攻めは厳しいものであり、それだけに滝も己の全てを出し尽くし、勝利にこだわったのだった。
「クソがぁっ!」
 試合後、千秋は荒れた。持てる得意技を全てぶつけて、それでも敗れてしまったという事実。是が非でも勝ちたかったこの試合。やり場の無い怒りを自分の中に溜め込むという事を知らない千秋にとって、その矛先がこの試合を裁いたレフェリーに向かったのは、仕方の無い事だったのかもしれない。
「テメェ、コラ、このヘボレフェリーが!」
 千秋は滝の握手を拒否すると、傍らにいたレフェリーに詰め寄り、胸倉を掴んで睨みつけた。
「テメーいっつもカウントが遅せーんだよっ! テメーがもたもたしてっからあんな訳わかんねえ技で負けちまったんだろうが。テメーなんかやめちまえ、このクソレフェリーがっ!」
 詰め寄られたレフェリーは、しかし、いつもの様ににっこりと柔和な笑みを絶やす事はなかった。打っても響かない鐘に、千秋のイライラは頂点に達する。
「なんとか言えやコラァー!」
 千秋は転がっていた竹刀を拾い上げ、レフェリーに向かって思い切り振り下ろした。しかし、当たる寸前でレフェリーの体がスッと横に流れる。
「なっ!?」
 空振りした事に驚く千秋を、レフェリーがスッと抱き締める。その行為に毒気を抜かれてしまった千秋は、次の瞬間には頭を掴んで担ぎ上げられていた。
 ドゴォッ!
 レフェリーは、千秋をブレーンバスターの体勢から、真ッ逆さまにマットに突き刺した。その技は彼女が現役時代でも滅多に使う事のなかった隠し技、SDH(スクリュ−ドライバー・ヒカル)であった。
「……千秋さん。どうしても勝ちたいのでしたら、このくらいの落とし方はなさらないと。まだまだ、甘いですわよ。ホホホ……」
 白目を剥いて倒れている千秋の耳元にそっと囁くと、レフェリーはコロコロと笑いながら、シンと静まり返った会場内を優雅に引き上げていくのだった。


4.

 ドルフィン早瀬、シンディー・ウォンと新たなメンバーを加えたものの、アプリコットつばさの離脱により再び5人となってしまったフェアリーアンサンブル。この日、フェアリーガーデンの主催興行で、追加メンバーを発表するとのアナウンスがあった。
 リング上で待つ5人の前に、勇猛なテーマ曲と共に現れたのは、現WFGヘビーチャンピオンの中江里奈であった。現王者の投入に、フェアリーガーデンのSIWへの全面バックアップ表明が真実であったのだと観客席も大いに沸く。
「よろしゅうな、中江ちゃん」
 成瀬が中江に右手を差し出す。中江はニッと笑うと、
「ぐげっ」
 成瀬の喉元にいきなり豪腕を叩き込んだ。
「ゲホッエホッ。な、なにすんねんっ」
 目尻に涙を浮かべながら抗議する成瀬。すると突然、会場内にBloodChainのテーマが鳴り響く。花道から現れるブラッドのメンバー達。中江は彼女達に近づくと、朝比奈と肩を組み、手渡されたマイクを握ると高らかに宣言した。
「今からボクはブラッドの一員だよっ。だいたい、ボクがフェアリーなんて柄じゃないってみんな思ってるんでしょ。ならボクだって、好きなように暴れさせてもらうからっ」
 中江がマイクを投げ捨てると、ブラッドのメンバーがフェアリーのメンバーへそれぞれ襲い掛かる。人数的には6vs5。結果、成瀬は中江と朝比奈に二人掛かりで攻められ、奇襲のダメージもありろくな反撃も出来ずにやられっぱなしとなっていた。
「あだだだっ。ウチ太鼓とちゃうでっ」
 二人にボコボコと背中を叩かれ悲鳴を上げる成瀬。と、その時。何かが朝比奈の肩に飛び乗った。
「なんだぁ?」
 振り払おうとした朝比奈だが、しかしそれは肩の上に乗ったまま器用に避けると、足で朝比奈の首を掴むと勢い良く投げ飛ばした。
「二人掛かりはズルイと思うにゃん」
 それは見かねて飛び出したテディキャット堀だった。
「てめえっ」
「わわっ。危ないにゃん」
 立ち上がった朝比奈が向かっていくが、スルスルとかわしていく堀。成瀬も中江一人が相手となったので、なんとか凌ぎきる。しばらく小競り合いが続いた後、両者は一旦距離を置く。中江はマイクを拾うと成瀬に言い放った。
「唯っ。言っておくけど、フェアリーのチャンピオンはこのボクだからね。つまり、ボクが居る所がフェアリーの本隊なんだ。あんた達なんかぶっ潰してやるから、覚悟しておきなよっ」
 言いたい事を言うと、マイクを投げ捨ててブラッドのメンバー共々引き上げてしまった。
「ハッ。アンタこそ、首洗って待っときやっ」
 中江の背中に言葉をぶつけてから、成瀬は堀に向き直る。
「助かったわ、堀ちゃん。ありがとうな」
「ううん。でもビックリしちゃった。里奈がヒール軍入りなんて」
「ホンマやわ。まったく、ヒドイ目に会うたで。ほんで堀ちゃん、アンタは……」
 成瀬が全てを尋ねるより早く、堀は満面の笑顔で頷く。
「私で良ければ、一緒に戦うにゃん」
「ホンマ? そっか、ありがと〜、堀ちゃん」
 成瀬と堀が握手を交わす横で、渡辺が胸を撫で下ろしていた。
「良かった〜」
「どうかしたの、智美ちゃん」
 その渡辺の反応を不思議に思い、早瀬が渡辺に尋ねる。
「だって唯センパイ、あたしにジュニアに挑戦できるように体重絞れって言うんですよ〜。無理に減らしたらスタイル悪くなっちゃう。でも、咲センパイが入ってくれるなら、ジュニアは咲センパイで決まりだから、あたしは今まで通りでいいな〜って」
 にこにこと笑みを浮かべる渡辺と、成瀬に抱きついている堀を見てから、早瀬は自分の体を見下ろし、胸を手で押さえてみる。そして小さく溜息を吐いた。
「ジュニアの資格って、なんなんだろうなぁ」

『BloodChain に中江里奈 加入』
『フェアリーアンサンブル にテディキャット堀 加入』

 そしてこの興行のメインで急遽、それぞれに新規メンバーを加えた二つのユニットのタッグマッチが組まれる事になったのだった。

「BloodChain」 中江里奈、オーガ朝比奈組
  vs
「フェアリーアンサンブル」 テディキャット堀、成瀬唯組


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