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半ば強引に奪ってきた感がある野球部編のバトンですけれどもw
いや、野球ネタは食いつきたいじゃないですか。

いっつもお題を都合のいいように並べ替えたりしている俺ですが、
今回は大きく改変させてもらいました。つーかもう別物だ。
でも、どうしてもやりたかったんだよう。
という事でかなりアレな事になった上に、ボリュームが膨らみすぎて前後編に分かれてしまいました。
とりあえず今回は前編・チーム紹介編です。それでは、どうぞ〜。

※12/13
どうにも読みにくいので、色分けと改行、あと何点か修正しました。

※12/19
お題8、序章・来島外伝追加。雑記追加。

※1/10
お題11、12更新。

※1/12
お題13〜15、更新。

『レッスル学園にようこそ!V《熱血野球部編♪》』

「目次」
 2.学園の名前と学園のある都道府県をお答え下さい
序章・来島外伝
 1.ある学園の女子野球部監督に貴方が就任しました。監督、貴方のお名前は?
 3.チームのキャプテンは誰?
 4.このチームのエースは誰ですか?
 5.頼れる主砲は誰?
10.特訓をするなら誰に何をしますか?
 9.このチームのコンセプトは何ですか?
 6.貴方の理想のスタメンを発表して下さい。
 7.控えとその背番号&ポジションを教えてください
 8.この野球部のマネージャーは?
11.勿論、貴方のチームを阻むライバルもいます。ライバルチームの名前は?
12.ライバルチームの注目選手は誰?

※1/12更新
最終戦・試合開始

13.試合中、ノーアウト満塁の大ピンチです。監督、貴方が取る行動は?

試合終盤

14.今度は逆にノーアウト満塁のチャンスです!監督、貴方の取る行動は?

15.遂に優勝した貴方のチーム‥選手に一言!

 〜

※1/10更新
 野球編 雑記

 …………

2.学園の名前と学園のある都道府県をお答え下さい

20XX年。
女子野球が世界的な盛り上がりを見せる昨今、
日本でもプロリーグが結成されるほどの熱狂が巻き起こっていた。
そしてそのプロチームの中に、異色のチームがあった。
通常は企業がメインスポンサーであったり地域密着型であったりするものだが、
そのチームは私立レッスル学園がメインスポンサーなのである。

教育の現場である学園がプロ野球チームを持つという事に
設立当初は世論の反発も大きかったが、
一定のチーム数を確保したい女子プロ野球機構と
大の野球ファンであり資産家である学園長の思惑の一致により、
なし崩し的に結成されたのが、東北フェアリーズであった。

そして数十年後。
学園が母体という事で派手な補強もできず、
ここ数年低迷状態にあったフェアリーズに、
新監督の就任が発表された。
その人物により、フェアリーズは大きな変化を遂げる事になる。


 序章 レッスル熱血野球編〜来島外伝〜


「メジャー?」
 それは、突然だった。
「そ。メジャー。行ってみよっかなって」
 一つの不安も持ち合わせていないような、希望に満ちた子供のような顔で。アイツはオレに満面の笑みを見せたんだ。

 レジェンズに入団して5年目の夏。今年のオフでFA権を取得し、オレも選手として一人前の立場になる。頭ではわかっていても、実感はまるでなかった。
 球団は十分な評価をしてくれているし、このチームも大好きだ。何より、アイツがいる。アイツの球を受けるのが、オレは楽しくてたまらない。だから、移籍なんて考えた事もなかった。アイツとずっとコンビを組んで、やっていくもんだと思っていたから。

「やっぱさ。一度はてっぺんで勝負したいじゃん。私がいない所で世界一を争ってるっていうのも、なんか面白くないし」
 そう言ってプゥッと頬を膨らませる俺の相方、新咲祐希子。丸っきりガキの発想だ。後先考えず、真っ直ぐ前しか見ちゃいない。
「それでさ。恵理も、一緒に行かない?」
「は?」
「だからさ。私としては、やっぱり恵理にボール受けて欲しいわけよ。だから、ね。一緒に行こっ」
 一泊旅行にでも誘うような軽さで、祐希子はとんでもない事を言い出した。
「そんな簡単にいくわけないだろ。だいたい、同じチームになるかどうかなんてわかりゃしねえよ」
「同じチームが良いって交渉で言えばいいじゃん」
「だから、そんな簡単じゃねえんだって。遠足の班分けじゃないんだぜ」
 さすが、毎年5分で契約交渉を終わらせるヤツは言う事が違う。ボール投げてさえいれば幸せなんだからなぁ。ま、オレも人の事は言えないけど。
「それに、オレは日本が好きなんだよ。何年もアメリカに住むなんてゴメンだぜ」
「え〜。つまんないの。仕方ないなあ。一人で行ってくるかぁ」
「市ヶ谷も今年でFAだろ。アイツも行くんじゃないか。目立ちたがり屋だし」
「ゲッ。やめてよ。なんでアメリカでまであの高飛車女と顔合わせなきゃいけないのよ」
 心底嫌そうな顔をするオレの相方。オレはその顔を見てひとしきり笑うと、空を見上げた。抜けるような青空だ。
「そっか。お前の球を受けるのも、今年で最後か」
「な〜に言ってんの。一生離れ離れって訳でもないのに。私、3年で世界一になって次のFAで帰ってくるから、そしたらもう一回バッテリー組もうよ」
「お前はまた、すぐそうやって思い付きを口にする」
「本当だってば〜」
 まだ行ってもいないメジャーに、もう成功して帰ってくる気でいる。図太いというか、何と言うか。けど、コイツが言うと、本当にそうなりそうな気がするから不思議だ。
「恵理はさ。私がいなくなったら、寂しい?」
「ん〜、まあな。お前の球を受けれなくなると、つまんねえよな」
「私も、恵理に受けてもらえなくなるのは残念だなぁ。でも、恵理は大丈夫だよ。あの子がいるもん」
「ん?」
 首を傾げる俺の前で、祐希子が向こうでストレッチをしている後輩に声を掛け手招きした。声を掛けられた後輩が、こちらに近づいてくる。オレは祐希子の言いたい事がなんとなくわかった。
「ね。私がいなくなっても、めぐみがいるからさ」
「……何の話ですか?」
 突然肩に手を置いてそういう祐希子に、近寄ってきた後輩・武藤めぐみがほんのりと頬を染めながらも訝しげな表情を浮かべる。
「私とめぐみが似てるって話」
「そ、そうですか。そんな事ないと思いますけど」
「も〜、なんでそ〜ゆ〜事言うかなぁ。かわいくないぞ。うりうりっ」
「や、やめてくださいってば」
 祐希子にほっぺたをグリグリされながらも、満更でもない表情の武藤。オレとはウマが合わないけど、祐希子には懐いているんだよな。
 性格はおよそ反対の二人だが、確かに祐希子の言う通り投球スタイルは似ている。右の本格派で、ノビのある速球とキレ味鋭いスライダーが武器。ボールを受けていて、時折武藤が祐希子にダブッて見える事もあった。まだ2年目だが、あと数年もしない間にウチのエースになるだろうな。
 程なくして、監督から集合の声が掛かる。FAの話はそこまでにして、オレ達は駆け出した。その時は、まだまだずっと先の話に思えていた。

 そしてこの年、レジェンズは優勝。祐希子は堂々とFA宣言し海を渡り、俺はそのままレジェンズ残留した。

 〜

「ボール!」
「げっ」
 思わず天を仰いでしまった。外角ギリギリに構えたオレのミットに、武藤のスライダーは寸分違わず収まった、はずだったんだが……。これで今日3つ目のフォアボール。マウンドの武藤は、明らかにカリカリしている。
 今日に限った事ではなく、今シーズンの武藤は四球が多い。別にアイツのコントロールが悪い訳じゃない。いや、むしろかなり高い精度でオレの構えたミットに放り込んでくる。が、なぜかコースギリギリの球がやたらとボールと判定されるのだ。
 オレは今度は内角いっぱいにミットを構え、しかし先程の球がボールと判定されたのが気になって、結局ミットをストライクゾーンへボール半個分動かした。そして武藤はまたも寸分違わずオレのミット目掛けてボールを投げ込む。
 次の瞬間、バットがボールを捕らえる甲高い音が響いた。

 結局、あの時のボール半個分甘かった為に打たれたタイムリーも含め、この日武藤は6回を4安打4四球3失点。味方が逆転した為黒星はつかなかったものの、ここ数試合は好投しながらも結果がついてこない状態が続いていた。
「ジャッジが厳しすぎたけど、お前のボール自体は冴えてたからさ。次、頑張ろうぜ」
 すでにお決まりとなった台詞を口にし、武藤の肩をポンと叩く。しかし武藤は、俯いたまま唇を噛み締めていた。

「あ、あの。来島さん」
 帰り際、結城に声を掛けられた。結城は武藤の同期で、俺の控え捕手だ。天才肌の武藤と違い努力型の結城だが、なぜかウマは合うようで、いつも二人一緒にいる。今はまだまだだけど、コイツはかなりの素質を秘めていると思う。もっとも、そう簡単にレギュラーを渡すつもりはないけれど。
「ん。どうした、結城」
「あ、えと……その……」
 結城が口ごもる。そんなに言いにくい事なんだろうか。
「なんだよ。遠慮しないで言ってみろ。聞いてやるぜ」
「あ、はい。その……私なんかがこんな事言って、生意気だと思われるかもしれませんけど」
 結城は意を決したのか、顔を上げて俺を真っ直ぐに見つめた。
「めぐみの事、ちゃんと見てあげてください。今はまだ祐希子さんにはかなわないかもしれないけど、でもあの子、頑張ってますから」
「なんだ、そんな事かよ。こう見えてもオレはアイツの事を認めてるんだぜ。とっつきにくいけど、腕は確かだってな」
「そ、そうですか。でも……」
 まだ何か言いたそうにしている結城の頭にポンと手を置いて、グリグリと撫でてやる。
「良いヤツだな、お前。悪いけど、今日は武藤の側に居てやってくれよ。オレじゃその辺のケアは出来そうにないからさ」
「あ、はいっ。それはもちろん、そのつもりです」
 結城はペコンと頭を下げると、俺に背を向けて駆けていった。二人の間柄がなぜかルーキーの頃の自分と祐希子の姿と重なって、懐かしく思えた。
 でもオレは、この時本当は結城が何を伝えたかったのかが、結局全くわかっちゃいなかった。

 ……

「ボールッ!」
「なっ!?」
 2アウト1・2塁、フルカウント。武藤の渾身のスライダーが、外いっぱいに決まり、ピンチを切り抜けたはずだった。が、実際には、無常にもボールの判定。そりゃないぜ、と思った次の瞬間。
 バシィッ!
 マウンドの武藤が、グラブを思い切りマウンドに叩きつけていた。ヤバイ。アイツ、キレやがった。
 オレが振り向くと、明らかに審判の表情が厳しい。これはマズイ。そう判断したオレは、咄嗟に立ち上がり抗議した。
「なんで今のがボールなんだよっ!」
 最初は武藤をかばう為に抗議したオレだが、それまでのフラストレーションも溜まっていたのか、いつの間にかエキサイトしてしまい審判の胸を両手で押していた。宣告される、退場のコール。結局オレは、罰金と10日間の出場停止を食らう羽目になった。原因となった武藤は、オレの元に挨拶にも来なかった。そりゃ礼を言って欲しくてやった訳じゃないけど、なあ。

 オレが出場停止の間、スタメンマスクを被ったのは結城だった。3年目にしてようやく出場機会を得た結城は、それまで秘めていた才能が一気に開花した。その間のバッティングは打率3割5分、チーム防御率も3点台前半にまとめ上げ、特に武藤とバッテリーを組んだ2試合は、完封1回、2失点完投1回のほぼ完璧な内容だった。

 出場停止が解けた後、オレはスタメンに戻った。ただ一つ変わった事といえば、武藤登板時は結城がマスクを被るようになった事だ。昨年はフルイニング出場したオレが、先発投手によってスタメンを外されるというのは正直面白くはなかったが、実際武藤との相性は結城の方が抜群に上なのだから仕方がない。そう自分を納得させるしかなかった。

 ……

 6月末。結城とバッテリーを組んで波に乗る武藤は、この月4連勝。今日勝てば月間MVPは確実という状態だったが、結城が前日の練習で突き指してしまい、久々にオレが武藤の球を受ける事になった。
 さて、どれだけ成長したか確かめてやろう、のんきにそんな事を考えていたオレの耳に、ロッカールームから何事か言い争う声が聞こえてきた。普段なら聞き耳を立てるような下衆なマネはしないんだが、それが武藤の声だとわかった時、オレは無意識に扉に耳を押し当てていた。
「お願いします、理沙子さん。今日のキャッチャー、来島さん以外の人にしてもらうように、監督に話してくれませんか」
「馬鹿言わないの。そんな事出来る訳無いでしょう。恵理はウチの正捕手なのよ」
 どうやらオレを外せとチームのキャプテンであり不動のストッパー・佐久間理沙子さんに訴えているようだ。怒りもこみ上げてはいたが、それ以上に物悲しい気持ちになった。そこまでアイツに嫌われてるのか、オレ。
「千種が出られないんだから、仕方がないでしょう。それに、去年は貴方だって恵理のバッティングに随分助けられたでしょう」
「……確かに、来島さんのバッティング技術は私だって認めています。でも、ダメなんです。来島さんとじゃ、勝てないんですよっ!」
「めぐみ……」
 武藤の叫びは、単なる好き嫌いを超えた物が含まれているように思えた。オレは訳がわからなくなり、とにかくその場から離れたくて、メチャクチャに走り出した。

「……来島さん? どうしたんですか」
 廊下の壁にもたれて放心状態のオレに、結城が声を掛けてきた。
「結城か。ハハ……オレ、お前の相方に、完全に嫌われちまってるみたいだな」
「えっ。めぐみが、何か言ったんですか」
 結城の問いに答える事ができず、俯いて黙り込むオレ。すると結城が、意を決するように胸の前で拳を握り、真っ直ぐにオレを見つめた。
「あの、来島さん。生意気言ってごめんなさい。でも、このままだと二人にとっても良くないと思うから、言わせていただきます。……めぐみと祐希子さんを重ねるのは、止めてもらいたいんです」
 ……祐希子? なんでここで祐希子の名前が出るんだ。混乱するオレを前に、結城が溜息を吐く。
「やっぱり、気づいていなかったんですね。他の人はどうかわかりませんけど、私は気づいてました。来島さんのミットが、めぐみのボールが収まる直前に、微妙に動くのを」
 オレのミットが、動いてる?
「入団してからずっと、私は来島さんに憧れていましたし、目標にしていました。祐希子さんと来島さんの黄金バッテリーを間近で見て、私とめぐみもそうなれたらなって、ずっと思ってました。そうして、ずっと見ていたから、気づいたんです。めぐみのボールを受ける時、来島さんのミットが微妙にずれるのを。そしてその軌道は、祐希子さんの投げるボールの、最後の一ノビ分と重なるんです」
 オレが、武藤と祐希子を重ねている……。
「その微妙なズレが、コースギリギリのボールを、審判にボールと判定させてしまう原因になっていたんだと、私は思います。めぐみも多分、それに気づいてて。それでも、来島さんの要求通りに投げ続けて、でもその微妙な溝が、どうしても埋まらなくて」
 気づけば、結城は涙声になっていた。オレはと言えば、思っても見なかった言葉に、口を開く事も出来ずにいた。
「お願いです。今日は、武藤めぐみのボールを、受けてあげてください。……生意気言って、すみませんでした。失礼しますっ」
 ペコリと頭を下げて、オレに背を向けて去っていく結城。結城が去った後も、オレは呆然とその場に立ち尽くしていた。

 オレの精神状態はボロボロのまま、試合は始まった。武藤はオレと目を合わせようとしなかったが、それでもオレの要求通りに最高の球をミットに投げ込んできた。しかしオレの目には、そのたびに武藤に祐希子の姿が重なって。ミットから、何度もボールを零していた。
 2回を終えて2失点。四球3、パスボール2。最悪の立ち上がりから、迎えた3回。すでに武藤はオレを信頼しなくなっており、とにかくストライクゾーンに投げ込んでカウントを稼ごうとした。が、投球の幅が狭まれば当然相手に捕まりやすくなる。連続安打に四球でノーアウト満塁のピンチ。
 それでもなんとかフルカウントまでこぎつけると、オレは外角低めギリギリにミットを構える。意を決したのか、武藤は大きく頷くと、渾身のストレートを放つ。
 それは、最高の球だった。パァンと心地良い音を立て、ミットに収まるボール。ピンチを凌いだ武藤は、小さくガッツポーズ。オレも、ホッと胸を撫で下ろし、だが続くピンチを抑える為に、手綱を締め直す……はずだった。
 気づけばボールは、オレのミットを強烈に弾き、バックネット方向へ転がっていた。一瞬呆気に取られるオレの目の前で、ランナーがホームへ突っ込んでくる。慌ててボールを拾ったオレが振り返った時には、すでに2塁ランナーがホームに滑り込んだ後だった。
 結局武藤はここで降板。マウンドを去る時に俺に向けた、あの失望に満ちた冷たい目を、オレはずっと忘れられずにいる。動揺を引きずったままのオレは後続の投手の球もまともに受けられなくなり、試合はぶち壊し。3回を終えた時点でオレは交代させられた。

 翌日から、結城がスタメンマスクを被り、オレは代打に回される事になった。上昇カーブを描くチームとは真逆に、オレの調子は上がらない所か悪くなる一方で。ブルペンでもまともに捕球できなくなった上、自慢の打撃もすっかり狂ってしまい、7月半ばには2軍に落とされた。
 前半の不調が響き最終的に優勝をスプリングスにさらわれたチームは2位でシーズンを終えたが、2軍でも回復の兆候が見られなかったオレは、結局シーズン終了まで2軍で燻っていた。一気にブレイクした結城はレギュラーに定着、オレはチームの中で完全に居場所を失った。

 ……

「ちょっと恵理。どうしたのいったい。お腹でも壊した?」
 アメリカからの国際電話。シーズン終了間際になってオレの不調に気づいたようで、祐希子がわざわざ電話してきた。今頃かよ、という想いもあったが、アイツはアイツでメジャーの野球に夢中だったんだろう。しっかりローテを守り、二桁勝利を上げたという。来年はチームのエースに据えるという噂もある。
「ん、ああ。大した事ねえよ。ちょっとしたスランプってヤツだから」
「本当? もう、しっかりしてよね。それとも、恵理は私が側にいないとダメなのかな〜」
「……何言ってんだ、バーカ」
 どこに言っても相変わらずのん気な祐希子の声。
 ……ゴメンな、祐希子。お前との約束、果たせそうにないみたいだ。

 シーズン終了後、オレはトレードに出される事になった。1年前まで正捕手でクリーンアップを打っていたオレをシーズン後半の不調だけで見限るのはどうなのか、という意見もあったようだが、結城の成長もあり賛成意見の方が上回っていたようだ。
 オレを拾ってくれたのはフェアリーズだった。この年は最下位に沈んだものの、来期から主砲の伊集院光さんがプレイングマネージャーを務めると言う事で話題になっていた。その彼女がどうしてもオレを欲しいと、ローテ投手を交換に出してまでオレを獲得したらしい。
 この移籍が、暗闇から抜け出す為の一筋の光明となるのか、その時のオレにはわからなかった。

「ようこそいらっしゃいました。来島恵理さん」
「あ、ど、どもっす」
 練習グラウンドに着いたオレを、伊集院さん自らが出迎えてくれた。その上品な挨拶に、オレも慌てて頭を下げる。……正直、こういう雰囲気は苦手だ。
 伊集院さんに案内されながら、室内設備を見て回る。なんというか、思った以上に……。
「がっかりされましたか。設備の不十分さに」
「はあ。……あ、いや、そんな事ないっす」
「ホホ。隠さなくてもよろしいですわよ。恵理さんは練習の虫だと有名ですものね。この程度の設備では物足りないでしょう。けれど、メインスポンサーが学園という形式上、あまり派手に手を加えられないのが現状なのです」
「大変なんすね」
「その代わりと言ってはなんですけれど、我が社が経営しております駅前のスポーツジムのフリーパスをお渡ししますから。ご存分に利用なさってくださいな」
「あ、ありがとうございます」
 そういや伊集院さんって、どっかの財閥の令嬢だって話だっけ。スケールが大きいんだか小さいんだか。

「へえ〜」
 初めてグラウンドに足を踏み入れた瞬間、思わず感嘆の声が漏れた。目に飛び込んでくる一面の緑。
「気持ち良いでしょう」
「確かに、こりゃすごいや」
「ここもスタジアムも、総天然芝ですから。それだけはどこの球団にも負けませんわ」
 芝の感触を足で楽しんでいると、向こうから名前を呼ぶ声がした。
「恵理センパ〜イ」
「ん? 渡辺じゃねえか」
 向こうで手を振っているのは、レジェンズ時代のチームメイトの渡辺智美だった。昨年後半の2軍暮らしで親しくなった後輩だ。元一軍の常連だったオレに対する遠慮に加え、オレ自身も当時は精神的に腐っていてトゲトゲしかった為、二軍でも浮いた存在になっていたが、コイツだけは人懐っこくオレに接してきた。
 そういやコイツ、1年で首切られて放り出されたんだっけ。今になって考えると、結構ドライだったんだな、あの球団は。
「彼女はトライアウトでこちらに入団したんですのよ。あの子は実戦で伸びるタイプだと思いますの。今年は上で経験を積んで貰うつもりですわ」
「へえ」
 意外な所で人って繋がってるものなんだな。
「あら、光さん」
 感慨に耽っていたオレに、というよりオレの横の伊集院さんに声が掛けられた。
「まあ、美姫さん。ごきげんよう。今日はもう上がりですの」
「ええ。こう寒くては練習になりませんわ。あら、その方」
「はい。今年からこちらに入団された」
「ども、来島恵理っす。よろしくお願いします。えっと、芝田さんと、中森さんっすよね」
 頭を下げつつ、目の前の二人を見る。フェアリーズのエース・芝田美紀さんと、正捕手の中森あずみさんだ。
 正直、敵だった時は良い印象がない。だって、ストレート投げてこないんだぜ。7割がスクリューじゃあ、嫌にもなるぜ。
「恵理さんね。貴方のバッティングには、期待していますわよ。私がいくら0点で抑えても、味方も0点じゃ勝てませんものね。それでは、ごきげんよう。オーッホッホッホッ」
 芝田さんは言いたい事だけ言って、高笑いしながら去っていった。昨年までのチームメートのアイツを思い出しちまうな。そんな事を思いながら芝田さんの後姿をぼんやり見つめていると、中森さんが声を掛けてきた。
「キャッチングは元に戻りましたか」
「へっ」
 なんでそれを、この人が知ってんだ?
「私が見た所では、精神的な物が原因だと思うんですが」
「あ、いや、えっと」
「あずみさん。私は、恵理さんにはファーストを守っていただくつもりでおりますの」
 光さんが割って入る。って、ちょっと待て。初めて聞いたぞ、そんな事。
「なるほど。コンバートですか。では、私の仕事はこれまで通りという事ですね」
「もちろんですわ。よろしくお願いしますわね、あずみさん」
「わかりました。来島さん。ファーストはファーストでキャッチングも当然重要です。何かあれば言ってください。話を聞くくらいはできますから」
「は、はあ。ども、ありがとうございます」
 ペコリと頭を下げて、去っていく中森さん。
「私が貴方をどう起用するつもりなのか、確認しておきたかったのでしょうね。お仕事熱心な方ですから」
「はあ。あ、それより、さっきの話なんですけど」
「コンバートのお話?」
「はい。いきなりだったんで、驚いちまって」
「本当は、後日改めてお話しするつもりだったのですけれど」
 伊集院さんがオレの方に向き直って、オレの両手を取って握り締めた。な、なんだ?
「恵理さん。ご存知の通り、我がフェアリーズは毎年貧打に喘いでいます。自分で言うのもおかしいのですけれど、私が4番を務めているようでは、優勝争いには絡めないと思うのです」
「そ、そんな事は……」
 ない、と、そう言いかけて、言葉が途切れてしまった。本来なら伊集院さんは中距離バッターなはずだ。広いフェアリーガーデンでは、年間20発を超えるのがやっとだろう。
「ホホ。正直な方ですわね」
「あっ、す、すんません」
「いえ。貴方が思った通りですもの。お気になさらないで下さいまし。そしてそれ故に、私共には真の主砲が必要ですの。こう言っては失礼ですが、昨年の貴方の不振は、私にとっては大きな幸運でした。それが今、こうして貴方が私のチームメイトとしてここにいらっしゃる事に繋がったのですから。大きな代償を払った甲斐があるというものですわ」
 そう言えば、オレと交換でレジェンズに行ったのは、フェアリーズのサウスポー二本柱の一人、葛城早苗だったっけ。胸元に食い込んでくるシュートにかなり手を焼かされたのを覚えてる。
「ですから、今年はチームの為に、打撃に専念していただけませんか」
 伊集院さんがオレの両手を握ったまま顔をグッと近づけてくる。
「い、いや、拾ってもらったのはオレの方っすから。言われた通りやりますよ。はい」
 それが当たり前だと、自分でもわかっている。我が侭を言える立場ではない。その打撃ですら、昨年の有り様では期待に応えられる保証はないのだから。ただ、そうは言っても、一抹の寂しさを感じたのも確かだが。
「それに、貴方は少し、キャッチャーというポジションから離れた方がよろしいと思うんですの。……あの子の残像を消す為にも」
「えっ」
 伊集院さんの呟きを聞き返そうとしたその時。
「あーっ、アカンッ、危なーいっ!」
 不意に大声を掛けられ、慌てて振り向くと、白球が顔面に迫っていた。
「うわっ!」
 思わず突き出した右手。パンッという音と共に、白球が手のひらに収まっていた。
「痛っつーっ」
「おおーっ。まさか素手でキャッチするなんて、ビックリや」
 痛みに右手をブンブン振っていると、さっきの声の主が感心したような顔でパチパチと拍手をしていた。ったく、見せ物じゃねえぞ。
「唯さん。気をつけていただかないと」
「すんません、光姉さん。トモが変なとこ投げるから」
「あーっ、唯センパイ、ずる〜いっ。唯センパイが弾くから変なとこ飛んでっちゃったんじゃん」
「何言うてんねん。今のを触れたの、ウチやからやで。あっ、そこの兄ちゃん、ボールよこしてくれへ〜ん」
 ……兄ちゃん?
「女だっつのっ!」
 オレは思いっきり、そいつの頭の1メートル上辺りにボールを投げつけてやった。
「うわっとっ」
 しかし、そいつはジャンプ一番、オレの投げた球をキャッチしてみせた。
「……マジかよ」
「そんな怒らんでもええやん。でも、なんや、女なんか。せっかくウチ好みのええ男が来た思たのに〜。ガッカリや」
「唯センパイってば〜。男の人がウチのチームに入れるわけないじゃん」
「あ、そりゃそうやな。アハハッ」
 再び渡辺とキャッチボールを始めたそいつを、オレは呆然と見ていた。
「なかなか面白い子でしょう」
 伊集院さんが話し掛けてくる。
「あいつ、誰なんすか」
「成瀬唯。今年で5年目の内野手ですわ。といっても、昨年までずっとファーム暮らしでしたけど」
「あの守備で?」
 と、言った後で、その理由がすぐにわかった。
「あ、手が滑ってもた」
「や〜ん、そんなの獲れる訳ないよ〜」
 そいつの投げたボールが渡辺の頭を飛び越して、遥か向こうに飛んでいった。
「素質はあるんですけれど、あの通りムラがある子ですから。前任の監督には好かれていませんでしたわね。でも、チームに勢いをつけるには、ああいう子も必要だと思いますの。今年は智美さんと二遊間を守っていただくつもりですわ」
 あいつがセカンドか。……ん? ちょっと待て。
「え〜いっ」
「わーっ、トモ、どこ投げてんねんっ」
「あっちゃー、ごめんなさ〜い」
 渡辺が投げたクソボールは成瀬の頭上3メートルを通過。さすがのハイジャンプも届かなかった。
「え……渡辺がショートで、あいつがセカンドだろ。で、ファーストがオレ?」
 だ、大丈夫なのか、このチームの内野。オレ、ファーストなんて未経験なんだぞ。猛烈な不安に駆られるオレの肩を、伊集院さんがポンと叩いた。
「大丈夫ですわ。私がサードですから」
 ……な、慰めにもならねえぞ。

  ……

 春季キャンプが始まると、キャッチャーへのこだわりを思い出す暇もないほど、オレは忙しさにまみれていた。バッティングの勘を取り戻す為に徹底的にバットを振り込み、コーチからはファーストの動きを叩き込まれる。新人時代に戻ったかのような練習量だったが、余計な事を考えなくて済む分、体はきつくとも気持ちは充実していた。

 そして迎えた開幕当日。オレは、いきなり4番ファーストを任される事になった。

「智美っ。もし今日も悪送球なさったら、お尻百叩きですわよ」
「そんな〜。美紀センパイひど〜い」
「アハハ、気張らんと大変やでトモ。そのデッカイお尻がもっとデカなってまうで」
「何を人事の様に言ってるんですの、唯。貴方が悪送球したら、私のヒールで百回踏んで差し上げますわよっ」
「げっ。美紀姉、勘弁してぇや〜」
 芝田さんの言う事もわかる。オープン戦でのあの二人は散々だった。捕球まではいい。だが送球がメチャクチャだ。何度オレの頭をボールが超えていった事か。……要求通りにボールが来るって、物凄く有難い事だったんだな。ファーストミットを見つめていると、ふとアイツの生意気な顔が浮かんできて、オレは思わず苦笑した。
「来島さん。どうかしたんですか」
 そんなオレを訝しげに見ながら、隣のロッカーの越後しのぶが話しかけてきた。コイツは2年前レジェンズの逆指名を蹴ってフェアリーズに入団した、ちょっと変わったヤツだ。その時口にした、「レジェンズは入るべきチームではなく、倒すべき相手です」って言葉は、一時期話題になったもんだ。
「ん? いや、なんでもねえよ」
「さすが、レジェンズでスタメンを張っていただけあって、余裕ですね」
「アイツらだって余裕しゃくしゃくだろ。見てみろよ」
「……アレは、何も考えていないだけです。今日は大一番だというのに」
 オレが成瀬達を指差すと、越後は溜息を吐いて肩を落とした。
「越後、お前気合入りすぎじゃないのか。今からそれじゃ、一年もたねえぞ」
「何を言ってるんですか。今日の相手は、昨年優勝したスプリングスですよ。出鼻を挫けば、一気に波に乗れるはず。今年こそ……」
「Aクラス?」
「優勝です」
 断言しやがった。正直、このチームにここまで言い切れるヤツはほとんどいないだろうな。ま、その反骨心が、1年目でスタメンを奪い、3年目の今年クリーンアップに抜擢された要因なんだろうな。
「言い切ったな」
「私は入団してからずっと、そのつもりでいます。……確かに昨年までは力負けしましたけど、今年は……き、来島さんもいますし」
 ……嬉しい事言ってくれるな。オレは越後の頭をグリグリと撫でてやった。
「ちょ、な、何ですかいきなりっ」
「勝とうぜ。今日は」
「は、はいっ!」

 初回の攻撃。先発はエースの芝田さん。先頭を三振に打ち取り、2番の痛烈なライナーは成瀬が横っ飛びで捕球。ここまでオレの出番はない。始まっちまえば勢いに乗れるかと思ったのに、機会がないと段々落ち着きがなくなってくる。久々の公式戦。ポジションが違うとはいえ、オレはちゃんと捕球できるんだろうか。ミットを填めた手が、じっとりと汗ばんでいく。
 そして迎えた3番。芝田さんのキレ味のいいスクリューが完璧に相手をつまらせたが、変なバウンドでショートの手前に転がっていく。
「オッケーッ」
 飛び出す渡辺。難しいボールだが、きっちりと捕球してみせた。送球が、来るぞ。
「よいっ、しょーっ! って、うわっ」
 あんのバカッ! 高すぎるっつーのっ!
 きちんとキャッチングするとか、それ以前の問題だった。体制を崩した渡辺の投げたボールはオレの頭上目掛けて飛んでいく。手を伸ばしてもギリギリ届くかどうか。
「クソがっ! 入り、やがれっ!」
 ファーストに突っ込んでくるバッター。踵を浮かせ、爪先だけをベースに置いて、全身を目いっぱい伸ばす。ボールが、ミットの先に触れ……。
「……アウトーーーッ!」
 審判の力強い宣告。オレのファーストミットの先っぽには、確かにボールが、引っかかっていた。
「……やった。……捕った、捕れたぜ、オレ」
 オレは思わずボールを握り締める。チェンジのコールと共に、ベンチに戻ってくる選手達がオレに声を掛けてくる。
「恵理さん、助かりましたわ。まったく、あの子ときたら」
「すごいやんえりりん。そのガタイは飾りじゃないって事やな」
「ナイスキャッチでした。これで勢いに乗れます」
 皆がグラブでオレの尻をポンと叩いていく。
「あ〜ん、恵理センパイ、大好き〜。これで美紀センパイに百叩きされなくてすんだわ〜っ」
 そして、抱きついてくる渡辺。まったく、コイツは。
「お前、どこ投げてんだっつーのっ!」
「キャーッ、いたいいたい、許してーっ」
 オレは渡辺を捕まえてヘッドロックを極める。自分でもはっきりわかるくらい、顔が緩んでいた。
「素晴らしいプレイでしたわ。恵理さん」
「伊集院さん……」
 オレの前ににこやかに笑顔を浮かべた伊集院さんが立っていた。
「これで本当に、恵理さんは私達のチームの一員ですわね」
「……いや。まだっすよ」

 1回裏。スプリングスの開幕投手は若きエース・伊達遥。1、2番は抑えられたものの、 3番の越後が10球粘った末、なんとかライト前に落として出塁。そして。
「うおりゃああぁぁぁぁっ!!」
 久々の手応え。真っ向勝負に来た伊達の、浮き上がるようなストレートを思いっきりぶっ叩く。オレの移籍第1号が、広いフェアリーガーデンのライト最上段にドカンと突き刺さった。

 その後打線はもう1点を加え、芝田さんは1点失ったものの6回でお役御免。7回からは鉄壁中継ぎ陣のリレーで逃げ切り、フェアリーズは7年ぶりの開幕白星を手にした。  これで勢いに乗ったかに思えたが、物事はそう簡単にはいかず。最終的には、昨年より順位を一つ上げたものの、再びBクラスでシーズンを終えた。

「すいませんでしたっ」
 オレは伊集院さんに頭を下げた。
「どうして謝るのです。私は貴方に感謝こそすれ、謝られる様な事は何一つございませんのに」
 伊集院さんはあの時と同じ笑顔を浮かべている。
 フェアリーズへ移籍した2年目。シーズン終了間際に、伊集院さんが現役引退と監督退任を発表した。そして本拠地最後の試合を終えたその夜、オレは伊集院さんに誘われてホテルのレストランへ食事に来ていた。正直ガラじゃない店だが、そんな事よりオレは伊集院さんと話したい事が沢山あった。
「……今のオレがあるのは、伊集院さんのお陰です。あなたのお陰でオレは、フェアリーズで自分を取り戻す事が出来た。それなのに、オレは結局、何も恩返しできなかった……」
 この年、オレは35本のホームランを放ち、3年ぶりに30本超えを果たした。35本というのは、フェアリーズの日本人最多本塁打記録らしい。
 けれどチームは、昨年より一つ順位を上げたとはいえ、結局またBクラスを抜け出す事は出来なかった。
「貴方は今年、最高のシーズンを過ごしたじゃありませんか」
「それは……だけど……」
「貴方はこのチームの柱になってくれました。皆が貴方を頼りにし、後輩達は貴方の背中を目標として追いかけていますわ。それこそが、私が貴方に求めていた物。貴方は私の期待に、十二分に応えてくださいましたのよ」
「…………」
 だけど、オレは……この手で、あんたを胴上げしたかったのにっ……。
「それに、謝らなければいけないのは、本当は私の方ですもの。私のワガママで貴方をレジェンズから引き抜き、貴方のキャッチャーとしての夢を奪ってしまった。本当は、もう一度受けたかったんでしょう。世界一の投手となった、貴方のパートナーの最高のボールを」
「伊集院さん……」
「貴方は、強い方です。私が手を差し伸べなくとも、多少時間は掛かれど、自分を取り戻せたでしょう。私は結局、貴方を利用しただけで」
「そんな事ねえよっ!」
 思わずオレは立ち上がり、そう叫んでいた。目を丸くする伊集院さん。
「そんな事、言わないでくれよ……オレ、後悔してねえから。このチームに来れた事。みんなや、あんたとこうして野球やれた事」
「……ありがとう。恵理さん」
 知らず、涙が溢れていた。テーブル越しに伊集院さんが手を伸ばし、オレの手をぎゅっと握る。その温かさは、あの時のままだ。
「恵理さんがそこまで言ってくださるなら、私、もう少し甘えてしまおうかしら」
「な、なんすか。オレに出来る事なら、何でもやりますよ」
「ホホホ。頼もしいですわ。……私は今年で引退しますけれど、実は、私のプランは来年こそが勝負の年なんですの」
「へっ?」
 伊集院さんの目尻が、スゥッと鋭くなる。
「兼任監督を務めた2年間で、私は下地を作りました。そして私は、来年からフロントに入ります。今度はこの2年で痛感した、現場では用意できなかった優勝に足りない物を、必ず揃えてみせますわ。ですから、恵理さんは今年以上の成績を来年必ず弾き出してくださいな。それらが全て揃えば」
「優勝、っすね。わかりました。オレ、やってやりますよ。見ててくださいっ」
「本当に、頼もしいお方。よろしくお願い致しますわね」
 オレが力こぶを作ってみせると、伊集院さんはいつもの柔和な表情に戻り、コロコロと笑った。オレに課せられた高すぎるハードルは、この人の期待の大きさ故だ。ならばオレは、そいつを超えてみせるだけだ。

  ……

「オイ、祐希子っ。お前、大丈夫なのか?」
「恵理……アハハ、やっちゃった……」
 日本のレギュラーシーズンは終わったが、メジャーはまだ大詰め。エースとして優勝争い中のチームを引っ張っていた祐希子は、その責任感の強さ故に違和感を口に出せず。疲労と痛みを蓄積させて、とうとう左足をパンクさせてしまったらしい。
 ニュースを見て、慌てて国際電話を掛けた俺は、オペレーターの英語に四苦八苦しながらも、何とか祐希子に繋いでもらう事ができた。
「バカ野郎。無理しすぎなんだよ、お前」
「だって。投げれないなら、こっちに来た意味ないもん。それに、今年投げ切れば、もう一度FAだったし。……ゴメン、恵理。もう一年、戻れなくなっちゃった」
「そんな事言ってる場合かよ」
 平静を装ってはいるけど、かなりまいってるな、祐希子のヤツ。
「ねえ、恵理。私がいない間、寂しかった?」
「何言ってんだ、お前」
「ねえってば……やっぱり私が側に居ないと、ダメだよね」
 祐希子、お前……。
「……ああ、寂しかったよ」
「……そっか。そうだよね。じゃあ、私、」
「寂しくてしょうがねえよ。なんたって、日本一のピッチャーがいなくなっちまったんだから。オレが折角打撃に専念するようになったってのによ」
「恵理……」
「知ってんだろ? オレ今、フェアリーズの主砲なんだぜ。お前が日本に帰ってきたら、絶対このバットでボッコボコに打ち崩してやるつもりだったのに、拍子抜けだぜ」
「…………」
 悪いな、祐希子。でも、逃げ帰ってくるなんて、お前らしくねえから。
「さっさと直して、来年こそ世界一獲れよ。そんで胸張って帰ってこい。そしたら、勝負しようぜ。お前の球を受けるのは大好きだったけど、今はお前と勝負した方が楽しいと思うからさ」
「……うん。わかったっ。世界一のボール、見せてあげるから。楽しみにしててよねっ」
「おう。オレも来年は日本一のバッターになって、待っててやるからな」
「エヘヘ。勝負だよっ」
 ……うん。やっぱお前は、そうじゃなくちゃな。祐希子。

 そして、年が明け。
 フェアリーズに移籍して3年目。オレの勝負の年が始まる。


『レッスル学園にようこそ!V《熱血野球部編♪》』へ、続く。


1.ある学園の女子野球部監督に貴方が就任しました。監督、貴方のお名前は?

リポーター「皆さんこんばんわ。
 今日はここ、フェアリーズの本拠地であるフェアリーガーデンから、
 フェアリーズのスプリングキャンプの様子をお伝えしたいと思います。
 では早速、今年就任された新監督にお話を伺ってみましょう。
 フェアリーズのレイア・ホーク監督です。よろしくお願いします」
ホーク「ええ。よろしくお願いします」
リポーター「日本語がお上手ですね」
ホーク「学生時代は父の仕事の関係でずっと日本に住んでいましたから」
リポーター「ホーク監督はレッスル学園卒業後アメリカに渡り、
 メジャーで活躍するも足のケガが原因で若干27歳で惜しまれつつも引退。
 その後数年間は解説者をしてらっしゃった訳ですが、
 今回の監督就任要請を許諾したのは、やはり母校であるレッスル学園への想いからなのでしょうか?」
ホーク「それが無いと言ったら嘘になりますが、
 それ以上にこのチームへの興味と、現状に対する歯痒さがありましたので。
 レジェンズやスプリングスに勝るとも劣らない磨けば光る宝石が、
 原石のまま幾つも放置されているように感じられてならないんです。
 彼女達を磨き上げる事が、私の至上命題ですね」
リポーター「まずは若手の発掘を主題にという事ですね。
 しかしそれだけでなく、今年は即戦力としてメジャーから投打の軸となる選手が入団しました。
 当然ファンも今年の躍進を期待していると思いますが」
ホーク「ええ、彼女達の入団は私にとっても幸運でした。
 育てながら勝つ。難しいですが、やり遂げる自信はあります」
リポーター「自信の程が窺えるコメントですね。ありがとうございました。
 では、次は各選手にスポットを当ててみたいと思います」

3.チームのキャプテンは誰?

リポーター「次は、フェアリーズの選手会長を務めている
 越後しのぶ選手にお越しいただきました」
越後「どうも」
リポーター「監督が変わりまして、今年のチームの雰囲気はいかがでしょうか」
越後「大きな補強もありましたし、今年は皆の目の色が違うように思えます。
 もちろん私は毎年優勝する気ではいましたけど。
 ファンの皆さんには、今年は本当に期待していただいて結構です」
リポーター「越後選手らしい、自信に溢れたコメントでした。ありがとうございました。
 あ、ブルペンで投球練習が始まりました。行ってみましょう」

4.このチームのエースは誰ですか?

リポーター「フェアリーズのエースと言えば、やはり芝田美紀投手です。
 左腕から繰り出されるキレのある直球とスクリューボールを武器に
 毎年二桁勝利を上げていますが、
 貧打に泣かされそれ以上に黒星が先行してしまい
 悲運のエースと呼ばれています。
 しかし今年はFAでクリーンアップを打てる大打者が補強された為、
 安心して投げる事が出来そうですね」
芝田「ちょっと貴方!」
リポーター「あ、芝田投手がこちらにいらっしゃいました」
芝田「ごきげんよう。テレビの前の私のファンの皆さん。
 それより、さっきのコメントはなんですの。
 どうして私があの女に頼らなければならないのかしら」
リポーター「ええっ、わ、私そんなつもりじゃ」
芝田「いいこと。
 私はあんな成金女に頼らなくても、このチームを優勝に導いてみせますわ。
 おわかり? オーッホッホッホッ」
リポーター「は、はあ。そ、そういえば、
 今年は、メジャーから新戦力のローズ・ヒューイット投手も入団しましたが、
 エース争いの自信の程は……」
芝田「あなたっ!
 私があの女にエースの座を奪われるとでもおっしゃりたいの?」
リポーター「い、いえ、そんな事は」
ローズ「オホホ。その子の反応は至極当然ですわ。
 このワタクシがこんな島国の弱小球団の、
 お山の大将に負けるだなんてありえませんもの」
リポーター「ひいっ。ロ、ローズ選手っ」
ローズ「まったく。レイアの頼みでなければ、
 ワタクシもこんな島国まで来る事はありませんでしたのに」
芝田「ちょっと貴方。誰がお山の大将ですって?」
ローズ「あら、聞こえませんでしたかしら。
 アナタの事ですわよ。負け越しエースさん」
芝田「よ、よくも言いましたわねっ」
リポーター「あ、あわわわ……」

??「いい加減にしなっ!」

リポーター「や、八島選手っ」
八島「まったく。その子が困ってるだろ。
 美紀。アンタはエースなんだから、ドーンと構えときゃいいんだよ」
芝田「静香さん……」
八島「名前で呼ぶんじゃないよ。
 それからローズも、余計な挑発するんじゃないよ」
ローズ「あら。ワタクシは本当の事を言ったまでですわ」
八島「口では何とでも言えるさ。デカイ口叩くのは、結果を出してからにしな。
 アンタはまだ日本では何の実績もないんだからさ」
ローズ「フンッ。開幕が楽しみですわね」

リポーター「あ、ありがとうございました。八島選手」
八島「すまなかったね。どうしてこう我の強いヤツばっかりなんだか」
リポーター「あはは……。
 でも、クローザーの八島選手としては、
 ローズ投手の加入は実際かなり心強いのでは?」
八島「まあ、ね。
 ああは言ったけど、実際ローズはかなりやるんじゃないかとは思ってるよ。
 前がしっかり繋いでくれるなら、後はアタシがキッチリシメるだけさ」

5.頼れる主砲は誰?

リポーター「ん、コホン。では、気を取り直して。
 え〜、こちらでは、主力打撃陣のバッティング練習が行われています。
 フェアリーズの主砲といえばもちろん、
 2年前にレジェンズから移籍しキャッチャーからファーストにコンバート。
 スラッガーとして一皮剥けたご存知来島選手です。
 しかし、今年は何と言っても、
 3年前にFAでメジャーへ移籍した市ヶ谷選手が2度目のFAで日本に帰って来る際に、
 古巣レジェンズではなくここフェアリーズを選んだ事が大きな話題を呼びました。
 二人のバッティング練習を見ていると、まるでボールがピンポン玉のようです。
 例年貧打に悩んでいたフェアリーズですが、今年はかなりの得点力アップが期待できそうですね」
市ヶ谷「そこの小娘!
 このワタクシとそこの筋肉女を同列で語らないでいただけませんこと?」
レポーター「キャッ。い、市ヶ谷選手」
市ヶ谷「けれどまあ、そこの筋肉女の事はともかく、
 なかなか良い事をおっしゃっていましたわね、小娘。
 ええ、確かにこのワタクシがいれば、昨年の倍、
 いや3倍は点を取って差し上げますわよ。オーッホッホッホッ」
来島「メチャクチャ言ってんなあ、相変わらず」
レポーター「あっ、来島選手。今年の調子はいかがでしょう。
 市ヶ谷選手との4番争いの自信の程は」
市ヶ谷「どうしてワタクシが4番を争わなくてはいけませんのっ。
 4番は初めからワタクシで決まりですわ!」
来島「あ〜も〜、うるさいヤツだなあ。
 まあでも実際、コイツの言う通りだからさ。
 監督とも話したけど、4番はコイツに任せて、オレは3番に専念する事になってんだ。
 口は悪いけど腕は確かだってのは認めない訳にはいかないからな。
 それに、後ろがコイツなら相手のピッチャーもオレから逃げられないだろ。
 好きなだけ勝負が出来るってもんだ」
市ヶ谷「あら。アナタ、ただの筋肉オバカではなかったんですのね。
 見直しましたわ」
レポーター「それにしても市ヶ谷選手。
 いまだ明らかにされていないフェアリーズへの移籍の真相なんですが、
 メジャーや国内他球団を蹴って
 おそらくは一番オファーの条件が低かったフェアリーズを選択したのは、
 どういった理由からなのでしょう。
 新監督のホーク監督就任も理由の一つでしょうか」
市ヶ谷「そうですわねぇ。このかわいそうな弱小チームを、
 ワタクシの力で世界一にして差し上げようという、
 天使のような広〜い心ゆえかしら」
来島「な〜に言ってんだ。
 どうせ祐希子がケガで来年一年棒に振るっていうから、つまらなくなって帰ってきただけだろ。
 3年前だって祐希子がメジャーに行くって噂が出てから、強引にメジャー移籍決めやがって。
 結局祐希子より先にメジャー会見してやがんの。本当に負けず嫌いなヤツだぜ」
市ヶ谷「なっ!
 あ、あんなズン胴田舎娘の事など、ワタクシにはどうでも良い事ですわっ。
 アナタこそ、祐希子がメジャーに移籍してから成績が振るわず、
 キャッチャーとしてお払い箱になってトレードで出されたんでしょう。
 ちゃんと知っていますわよ」
来島「う、うるせえや。
 オレは元々バッティングの方が好きだから専念したかったんだよっ」
レポーター「……え〜。
 昨年大怪我を負い現在リハビリ中の新咲祐希子投手。
 改めてシーズン後にFA権を行使し日本へ戻ってくるという噂もありますが、
 ここフェアリーズではすでに迎撃態勢は万全といった模様です」
市ヶ谷「ちょっと小娘っ! 何なんですの、そのまとめ方はっ!」

10.特訓をするなら誰に何をしますか?(複数回答可)

レポーター「あ、あちらでは守備練習が行われています。
 あれはセカンドの成瀬選手と、ショートの渡辺選手ですね。
 監督自らノックを行っているようです」

成瀬「あ、アカンわ監督、もう休ませてえ」
ホーク「何言ってるの、まだまだこれからよ」
成瀬「そんな殺生な〜。もう足が動かへんねん」
ホーク「貴方は技術はあるけど、無駄な動きが多すぎるのよ。
 だから疲れてくると腰が高くなって、エラーが多くなる。
 極限の状態でもしっかり捕球動作が出来るよう、体に覚えこませないといけないわ。
 こら、智美。ボケッとしない。貴方も同じよ」
渡辺「だって〜。あたし、守備練習好きじゃないんだもん。地味だし〜」
ホーク「バカね。貴方、目立ちたくてショートになったんでしょう」
渡辺「うんっ。ピッチャーは目立つけど、週一回しか投げられないし。
 野手で一番目立つのはショートだもんね」
ホーク「だけど今のままじゃ、悪い意味で目立つだけよ。エラーの女王としてね」
渡辺「む〜」
ホーク「練習で目立ったって仕方ないでしょう。試合で目立つ為に、今練習するの。
 想像して御覧なさい。超満員のレジェンズ戦で、大活躍する貴方の姿を」
渡辺「ん〜…………えへへ〜……」
ホーク「浮かんできたでしょう。貴方の華麗な守備で、チームが勝利するの。
 当然ヒーローインタビューも貴方。
 超満員のお立ち台の上で、好きなだけ躍っていいわよ」
渡辺「ホントッ」
ホーク「ええ、もちろん。それに貴方なら、日本代表のショートも夢じゃないわ。
 世界中の注目を浴びるお立ち台に、立ってみたいと思わない?」
渡辺「うわ〜、みたいみたい〜」
ホーク「その為には、今しっかりやらないとね」
渡辺「よ〜し、がんばっちゃうよ〜っ」
ホーク「ようやくやる気が出たわね。それじゃ、行くわよ」
渡辺「どんとこ〜いっ」
成瀬「まったく、単純やなあトモは」
渡辺「唯センパイ、一緒にやろ〜。
 あたし、唯センパイじゃないとタイミング合わないんだもん」
ホーク「ほら、唯。パートナーがご指名よ」
成瀬「へいへい。ほな、相方の為にもうちょっと頑張ってみよか」

レポーター「昨年はリーグ1の失策率を誇ってしまった成瀬・渡辺のニ遊間コンビですが、
 今年はホーク監督が自ら徹底的に鍛え上げていくとの事です。
 主砲とローテーションを守れる投手の加入、そして若手の底上げ。
 上手く機能すれば、今年のフェアリーズは楽しみなチームになりそうですね。
 それでは、スタジオにお返ししま〜す」

9.このチームのコンセプトは何ですか?

キャスター「はい。こちらスタジオです。
 さて。本日はゲストに野球解説者で元三冠王の井上霧子さんをお招きしています。
 よろしくお願いします」
霧子「はい、よろしくお願いします」
キャスター「霧子さんは今年のフェアリーズをどう見ますか」
霧子「そうですね。個性の強い選手が集まっただけに、
 上手く機能すればペナントレースの台風の目となりそうですね。
 いかにチームを空中分解させずにまとめ上げるかが、
 ホーク監督の腕の見せ所ではないでしょうか」
キャスター「ホーク監督の目指すチーム像とは、どういった形なのでしょうか」
霧子「メジャーでも足と守備でスタメンをもぎ取った方だけに、
 フェアリーズもそこに重点を置くでしょうね。
 安定した守備で失点を最小限に押さえ、スランプが無いと言われる走力でかき回し、
 中軸が確実に点を取る。という所ではないでしょうか」

6.貴方の理想のスタメンを発表して下さい。背番号&ポジションも一緒にお願いします
 &
7.控えとその背番号&ポジションを教えてください(9人まで複数回答可)

キャスター「それでは、霧子さんに予想していただきましたフェアリーズの開幕オーダーを
 こちらのフリップにまとめましたのでご覧下さい」

1.野村つばさ    (左)
2.成瀬唯      (ニ)
3.来島恵理     (一)
4.市ヶ谷麗華    (三)
5.越後しのぶ    (中)
6.シンディー・ウォン(右)
7.渡辺智美     (遊)
8.中森あずみ    (捕)
9.芝田美紀     (投)

ベンチ
RIKKA      (外)
ファントムローズ1号 (捕)
ファントムローズ2号 (外)

(先)ローズ・ヒューイット
(先)沢崎光
(先)真田美幸
(先)真壁那月
(中)中江里奈
(中)秋山美紀
(中)村上千秋
(抑)八島静香

キャスター「やはり今年の注目は、4番の市ヶ谷選手でしょうか」
霧子「はい。メジャーでもカオスやモーガンとホームラン王を争っていた程ですから、
 頼もしい存在となる事は間違いないでしょうね。
 本来4番タイプではない来島選手も、3番を打つ事で長打に専念できるでしょうし、
 シンディー選手もクリーンアップから外れて重圧が軽減されるのではないでしょうか。
 市ヶ谷選手の後ろに置く事で、越後選手の得点圏打率の高さも活かされるでしょう」
キャスター「そして1・2番ですが、思い切って入れ替えましたね。
 昨年は俊足のRIKKA選手と小技も出来る中森選手で1・2番を務めていた訳ですが、
 ルーキーの野村選手を1番に抜擢ですか」
霧子「RIKKA選手は昨年後半に足のケガがありましたから、
 若手を育てるという意味でも足のある野村選手の1番はありえるかと。
 もちろん1年を通してというと難しい部分もあるので、
 RIKKA選手、それに長打も足もある2号選手の存在も大きいでしょう」
キャスター「そして昨年は下位を打っていた成瀬選手を2番に上げ、
 中森選手を下位に置いた、この辺りはいかがでしょう」
霧子「まずは成瀬選手についてですが、
 昨年は成瀬、渡辺の7・8番でしたが、
 どちらもむらがあるタイプなだけに打線としては下位が機能しませんでした。
 先程特守の映像がありましたが、
 他にも成瀬選手には徹底したバント練習が課せられているという情報もあります。
 元々技術には定評がある成瀬選手が、バントや右打ちの確実性を高め、
 2番打者として一人立ちできれば、クリーンアップの破壊力がより脅威を増すでしょうね」
キャスター「今期の成瀬選手に課せられる役割は非常に大きいという事ですね。
 それにしても、3割を打てるチームでも指折りの巧打者・中森選手を8番に置くと言うのは、
 私などは少しもったいない感じがしてしまうんですが」
霧子「昨年までは少ない得点チャンスを物にする為に、
 小技も出来て出塁率の高い中森選手をクリーンアップの前に置かざるをえませんでしたが、
 本来は捕手としてリードに専念させる為にも下位に置くのが理想と言えます。
 幸いにも今年は上位打線の破壊力は増しましたからね。
 ならば下位打線で、長打が期待できるシンディー選手、
 そして意外性のある打撃の渡辺選手の後に堅実な中森選手を置く事で、
 投手に回る前の塁の掃除、もしくは再び上位に繋がる流れを作ってほしい所ですね」

キャスター「なるほど。今年の打線は期待できそうですね。
 では投手陣ですが、こちらはいかがでしょうか」
霧子「やはりメジャーでも実績のあるローズ選手の加入は大きいでしょうね。
 エースの芝田選手への刺激はもちろん、
 若手ながら昨年ローテを守った沢崎・真田両投手も、
 昨年は他球団のエース級との投げ合いで試合終盤に力尽きる事が多くありましたが、
 今年は余裕を持って投げられるのではないでしょうか。
 ルーキーの真壁選手にしても、スタミナに多少の不安はありますが、
 5回まで投げきれば鉄壁のリリーフ陣が後ろに控えている訳ですから、
 ローテ投手として十分計算が立つでしょうね」
キャスター「その鉄壁のリリーフ陣ですが、顔ぶれは昨年と変わっていませんが、
 今年も期待できそうでしょうか」
霧子「昨年も結果を残していますからね。
 タフネスが売りの中江選手は今年も健在ですし、
 左のワンポイントには村上千秋選手。
 セットアッパー秋山選手からクローザー八島選手へのリレーは、
 なかなか打ち崩すのは難しいでしょう」
キャスター「守備の面ではいかがでしょう」
霧子「元々センターの越後選手はゴールデングラブの常連ですし、
 キャッチャーの中森選手も堅実なリードで評価は高いですから、
 後はやはりホーク監督も掲げていた、成瀬・渡辺のニ遊間が鍵でしょうか。
 血の気の多い投手が多いだけに、昨年はエラーからガタガタと崩れるシーンが多かったですからね。
 センターラインがしっかりすれば、かなり失点は抑えられると思います。
 それにおそらくローズ選手の登板日には1号選手が捕手を務める事になるでしょうから、
 中森選手を休ませながら使っていけることも大きいでしょうね」

キャスター「それでは霧子さん。今年の鍵となる選手は、誰になると思いますか」
霧子「そうですね……すでに何度か名前が上がっていますが、成瀬選手ではないでしょうか」
キャスター「新加入の市ヶ谷選手やローズ選手ではなく、ですか」
霧子「ええ。
 その二人は私が言うまでもなくかなりの数字を残すでしょうが、
 チームとしての勝利には、攻撃と守備、
 いずれも楔の位置にいる成瀬選手の働きが鍵になると思います」
キャスター「なるほど。成瀬選手、これから目が離せませんね。
 それでは霧子さん、今日はありがとうございました」
霧子「ありがとうございました」
キャスター「では、また来週この時間にお会いしましょう。さようなら」

8.この野球部のマネージャーは?

 シャワー室。一日の練習を終えたレイアは、頭からシャワーを浴びていた。長い金の髪を、滑らかな白い肌を滴る熱い雫。レイアはほぅと吐息を一つ漏らす。
 ニ遊間の二人を相手に、徹底的に打ち込んだノック。他にも走塁や守備など指導すべき事は山ほどあり、レイアは一日中精力的にグラウンドを動き回った。練習中は野球に接しているという心の充実感からすっかり感じなくなっているものの、実際にはレイアの体にはかなりの疲労が蓄積している。
 それらをすっきりと洗い流し、明日を迎える為の大事な一時。レイアは瞳を閉じ、美しい面差しで熱い奔流を受け止める。たっぷり数分間、そうして身を清めると、レイアは蛇口をひねりシャワー室を後にする。
「お疲れ様です」
 扉を開けると、予想外の人物がレイアを出迎えた。
「あら、オーナー。いらしてたんですか」
 豊満な肢体を隠す事もなく、レイアは目の前に人物に微笑みかける。上品な微笑を浮かべたその女性もレイアの奔放な姿に怯む事もなく、両手に持ったバスタオルをレイアに差し出した。
「いやですわ、オーナーだなんて。いつものように呼んでくださいな」
「ここはまだ、私の仕事場ですから。公私の区別はつけないと」
 バスタオルで髪の水滴を拭いながら、レイアはいたずらっぽくウィンクする。
「では、この後お時間いただけるかしら」
「オーナーのお誘いとあらば、喜んで」
「残念ながら、オーナーとしてのお誘いではありませんわ。学生時代の友人として、プライベートで貴方をお誘いしたいの。いけませんか」
 レイアが首を振ると、長い髪がふわりとなびき水滴がキラキラと宙を舞う。
「まさか。親友の誘いを断る訳ないじゃない。ねえ、光」
 レイアはにっこりと微笑んだ。

 フェアリーガーデンのあるA市の駅近く。とあるホテルの25階にあるスカイラウンジで、レイアは赤ワインの注がれたグラスを傾けていた。差し向かいに座るのは、先程シャワールームの前でレイアを出迎えた女性。ウェーブのかかったロングヘアをヘアバンドでまとめ、シックなブルーのスーツに身を包んで柔和に微笑むその姿には、大人の魅力が漂っている。
「こうして二人で会うのは監督就任の要請を受けて以来かしら」
「そうですわね。せっかく貴方が日本にいらっしゃるのに、私もなかなか時間が取れなくて、ゆっくりお話する機会もありませんでしたもの。寂しかったですわ」
「フフ。プレイングマネージャーを引退しても、相変わらず忙しいのね」
「ええ。家の仕事もございますし。これなら昨年までの方が、まだ楽だったかもしれませんわね」
 そう言って女性は肩を竦めた。彼女の名は伊集院光。兵庫は芦屋に居を構える、伊集院財閥の跡取り娘であり、レッスル学園の現学園長の孫娘。そして、昨年までフェアリーズの主砲兼監督を務めていた女性であった。
「いかがです。私達のチームは」
「なかなか面白いわよ。荒削りな子も多いけど、磨けば必ず光ると思うわ。期待していてちょうだい」
「ホホ、頼もしいですわね。さすがレイアさんですわ」
 光はグラスを傾け、口の中でワインを転がし、味わう。
「でも、良かったの。今年のメンバーなら、貴方が監督に専念したとしても十分結果を出せたでしょうに。貴方の監督としての評価を覆すチャンスだったじゃない」
 光はレイアが就任する前に2年間プレイングマネージャーを務めていたが、チームは下位に低迷、自身の打撃成績もその2年で降下し、世間的には失敗例と言われていた。その汚名返上の機会を自らが奪ってしまった事に、レイアは多少の罪悪感を感じてもいた。しかし光は、笑みを浮かべたまま首を横に振る。
「私の名誉など、どうでも良いのです。今年こそは、フェアリーズが大きく生まれ変わる絶好の機会。その為に私は出来る限りの手を尽くしました。その一つが、貴方ですわ」
「そう言ってもらえると、光栄ね」
 二人は再びグラスを合わせ、喉を潤す。流れ落ちる赤い液体に、喉がクビリと上下する。
「それに、私がチームに残った所で、あの方達が私の指示に従っていただけると思いまして」
「……それもそうね」
 自嘲気味に笑う光に、レイアも首を竦めて見せた。財閥令嬢とはプライドが高いもの。芝田一人を御するのも手一杯だった光が、今年加わった市ヶ谷とローズも纏めて手綱を握る事ができるとは、レイアもさすがに思えない。
「それにしても、まさか光が麗華を招き入れるなんてね」
「言いましたでしょう。出来る限りの手は尽くした、と。色々と思う所はありますけれど、あの方の実力は認めざるを得ませんから」
「プライドを捨てても、か」
「ええ。それだけの価値があると、信じていますから。そして、その価値を最も引き出す事が出来るのは貴方だとも。私の期待に、応えて下さいましね」
 その細い目をさらにスーッと細めて、光がレイアの顔を真っ直ぐに見つめる。
「フフ。これは責任重大ね」
「呆れられてしまいましたかしら。親友にこんな重責を押し付けてしまうなんて」
「まさか。むしろ感謝しているくらいよ。こんなにやりがいのある仕事、他ではお目にかかれないもの」
 レイアが光を見つめ返す。その瞳には、炎が宿っていた。
「貴方なら、そう言って下さると思っていましたわ」
 二人は再びグラスを傾ける。まだまだ宵の口。親友との久方振りの語らいは、まだまだ話題に事欠かなかった。

11.勿論、貴方のチームを阻むライバルもいます。ライバルチームの名前は?

 『必中!フェアリーズ党 〜優勝直前スペシャル〜』

はい、本日も始まりました、必中!フェアリーズ党。
本日は優勝直前スペシャルと題しまして、いつもの倍!2時間番組でお送りしたいと思います。
ゲストはもちろんこの方。元三冠王にして史上唯一のトリプル4達成者。
その打球スピードと走る姿はまさにイカズチ。
ライトニングエッヂこと、井上霧子さんですっ。

霧子?「だから開幕前から言ってただろ、言ってたんだよ。
 今年はフェアリーズがガーッと行くってよ。ワハハ!」

霧子さん霧子さん、もう本番始まってますから。

霧子?「おう、竹ちゃんお疲れさん、お疲れさん。まあ飲め。そら、グイッと」

いやだから、本番中……。

霧子?「なんだ、俺の酒が飲めないって言うのか。んな訳ないよな、ないだろ。
 さあ飲め、一気に。グイッと。格好良い所見せてくれたら、
 手でくらいならしてやるかもしれねえぞ。ワハハ!」

ちょっ、本番中ですからそういう発言は、うぐっ。

霧子?「おっ、イケル口だな。よし、この調子でどんどん行くぞ、行くんだよ」

 〜しばらくお待ち下さい〜

霧子「え〜。司会の竹林健治アナが体調不良で席を外している為、
 しばらくは私が代理を務めさせていただきます。ご了承下さい。
 では、まずは今年一年のフェアリーズの軌跡をVTRにまとめましたので、ご覧下さい」

  ……

 20XX年。
長きに渡る低迷から脱出する為、精力的に補強に動いたフェアリーズ。
しかし多くのファンやマスコミは、優勝を目標に掲げるホーク監督やフロントの言葉を懐疑的に捉えていた。

 そんな彼らの認識をいきなり覆したのが、開幕戦のフィッシャーズ戦。
メジャー帰りの新4番、市ヶ谷がいきなり大爆発!
1試合3ホーマーを放つと、打線も勢いに乗り、開幕戦を13−2で勝利。
 球団史上初の開幕戦二桁得点で2年ぶりの開幕勝利を飾ると、
第2戦に登板した新外国人ローズが見事な完封で来日初勝利。
この連勝で完全に波に乗ったフェアリーズ、4月を首位で終えるという球団史上初の快挙を達成。
 そのままの勢いで5月も首位で乗り切り、初優勝も夢ではないと皆が思い始めたその時。
好事魔多し。最悪のアクシデントがフェアリーズに降りかかる。

 死球による市ヶ谷の戦線離脱。

 雨の季節の到来と共に、最大のポイントゲッターを失ったフェアリーズはシーズン最多の7連敗。
今シーズン初めて首位をレジェンズに明け渡し、追走するスプリングスにも追い抜かれて3位へ後退。
そのまま定位置のBクラスへ転落かと思われたが、ここで踏ん張ったのが救援陣。
 中江、秋山の10連投など獅子奮迅の働きで転落を食い止めると、
入団以来初めて4番に座った越後が覚醒。
持ち前の責任感の強さから、得点圏打率がさらに高まり、
越後が挙げた得点をチーム一丸で守りきる、新たなスタイルを確立。
なんとかAクラスギリギリで踏み止まり、機を伺うフェアリーズ。

 そして迎えた夏。
投手陣に酷使による疲れが見え始めた頃、最良のタイミングで市ヶ谷が戦列復帰。
時を同じくして、夏女・来島もようやく本領発揮。
来島、市ヶ谷、越後の3者連続HRなど、再び打線が噛み合いチームは上昇気流へ。

 優勝争いは混沌としたまま、いよいよシーズンも大詰め。
初の優勝争いへのプレッシャー、Aクラスで1シーズンを戦い抜いた緊張などにより、
各選手の疲労もピークを迎えていたが、それでも優勝へ向かい死力を振り絞り、
最後の3連戦でスプリングスに3タテ、優勝への切符に手をかけた。

そして明日、レジェンズとの今シーズン最終戦。
0.5ゲーム差でレジェンズを追いかけるフェアリーズの、最後の戦いが今、幕を開ける……。

  ……

はい。VTRをご覧頂きました。
ではここからは、明日の決戦へ向けて、対戦相手であるレジェンズというチームを
分析して行きたいと思います。

霧子「あら。竹林さん。お早いお戻りで」

いやもう、慣れてますから。
では霧子さんに、明日のレジェンズのスタメンを予想していただきましょう。

1.菊池(左)
2.小川(遊)
3.南 (ニ)
4.龍子(三)
5.上原(中)
6.永原(一)
7.金森(右)
8.結城(捕)
9.武藤(投)

霧子「まあ私が予想するまでもなく、ほぼ打順は固定されていたレジェンズですから、
 明日も当然この形になるでしょうね」

霧子さんから見たレジェンズ打線の印象というのは、いかがでしょうか。

霧子「一言で言えば、穴がないですね。どこからでも得点を狙えるチームと言えるでしょう。
 菊池が出て小川が進め、今期も首位打者を争った南がチャンスを広げ、主砲龍子が決める。
 残ったランナーは上原が返し、一発狙いの永原、今年売出し中の金森と来て、
 すっかり打者としても成長した結城が8番に座る。
 結城を8番に置ける層の厚さが、レジェンズの強さと言っても良いのではないでしょうか」

こう見ますと、金森の台頭はかなり大きかったようですね。

霧子「そうですね。シーズン当初は外国人のUSAがライトを守っていましたが、
 永原・USAと一発狙いの二人を並べるよりも、
 シュアなバッティングの金森を7番に置いた事で結城へ打線が繋がるようになりました。
 そして何より金森がライトを守る事で守備範囲が大きく広がりましたから、
 ディフェンス面でのプラスも大きかったですね」

この打線で尚且つ守備も堅いというのが、他チームの頭の痛いところですね。
南・小川のニ遊間は今年も間違いなくゴールデングラブの最有力でしょうし、
菊池・上原・金森という走れる外野陣の守備範囲の広さはまさに驚異。
今年も、中森の右中間への一打を何度上原に阻まれた事か。くうっ。

霧子「スタメンだけでなく、小縞や富沢など控えにも面白い選手がいますからね、レジェンズは。
 と言っても、明日はまず彼女達の出番はなさそうですが」

と、言いますと?

12.ライバルチームの注目選手は誰?

霧子「明日の先発はレジェンズのエース・武藤めぐみ投手でしょうから、
 彼女達が代打で出る事もほぼないでしょうしね」

やはり明日の先発は、武藤でしょうか。

霧子「ええ。100%と断言しても良いですよ」

これは霧子さんらしからぬ強気の発言。
しかし、私もそれには同意せざるを得ません。
今年は武藤の年と言っても過言ではない大活躍でした。

 武藤めぐみ
 19勝2敗 防御率1.87
 最多勝・最優秀防御率・最多奪三振・最多投球回数・最多完投、etc...

もちろん明日の結果にもよりますが、ほぼ上記タイトルは手中に収めたと言ってよいでしょう。
新咲祐希子以来、3年ぶりの20勝投手誕生にも王手を掛けています。
噂によると、憧れの祐希子選手に習い20勝を手土産に来期はメジャーへ殴りこみという話もありますが。
かくいうフェアリーズも、今年は、いや今年もでした、よくやられました……。

霧子「フェアリーズだけに限った事ではありませんけれどね」

ええ。それはそうなんですけれど。
とはいえ、来島や成瀬、渡辺のバットがクルクル回るのを、何度見せられたことか。くーっ!

霧子?「竹ちゃん、私情入りすぎだろ、入りすぎだよ」

これは失礼。とはいえ、フェアリーズ打線が武藤を打てていないのも事実なんですよ。
こちらをご覧下さい。クリーンアップの来島が、今期の対武藤、1安打では……(涙目)
期待できるといえば市ヶ谷と、後は越後、中森くらいでしょうか。

霧子「そういえば、武藤の2敗の内の一つは、市ヶ谷の大爆発でつけた物でしたね」

いずれにしろ、明日はこの武藤を打ち崩さないと、フェアリーズの優勝は見えてこないわけです。
キビシーッ!

霧子「仮に武藤を打ち崩したとしても、不動のストッパー佐久間理沙子を始めレジェンズは抑えも充実していますからね。
 明日は間違いなく、スコアボードにたこ焼きが並ぶでしょう。
 いずれにしろ、フェアリーズには厳しい戦いになるでしょうね」

これは厳しいお言葉。
しかし、今のフェアリーズには勢いがあります!
後がない状態でスプリングスを3タテし優勝に望みを繋いだ、今年の力は間違いなく本物。
明日、我々は奇跡と歓喜を目の当たりにする事でしょう。
実況は私、女子野球バカ一代・竹林健治。解説は雷の三冠王・井上霧子さんでお送りします。
明日6時のプレイボールを、お見逃しなく!

霧子?「おいおい竹ちゃん。それじゃ番組が終わるだろ、終わっちまうよ」

はっ!
すみません。また熱くなってしまいました。
え〜、では次のコーナー、「今週のフェアリーズ」に参りましょう。
まずは記憶に新しい、稀に見る死闘となったスプリングスとの3連戦のVTRです。 どうぞっ。

…………。

 〜20XX年 9月
  「フェアリーズ vs レジェンズ 最終戦」(フェアリーガーデン)〜

さあ、いよいよ試合開始は目前。
フェアリーズの今季最終戦は、初優勝を賭けた大一番!
ここフェアリーズの本拠地・フェアリーガーデンから
実況は私・竹林健治、解説は雷の三冠王・井上霧子さんでお送りします。

霧子「よろしくお願いします」

まずは両チームのスターティングメンバーの紹介です。

先攻・レジェンズ
1.菊池(左)
2.小川(遊)
3.南 (ニ)
4.龍子(三)
5.上原(中)
6.永原(一)
7.金森(右)
8.結城(捕)
9.武藤(投)

後攻・フェアリーズ
1.野村   (左)
2.成瀬   (ニ)
3.来島   (一)
4.市ヶ谷  (三)
5.越後   (中)
6.シンディー(右)
7.渡辺   (遊)
8.中森   (捕)
9.芝田   (投)

両チーム共ベストメンバー、先発もそれぞれエースを立ててきました。
がっぷり4つという形ですね、霧子さん。

霧子「はい。しかしフェアリーズとレジェンズでは台所事情が違います」

と、言いますと?

霧子「レジェンズは完投型の絶対的エース武藤が休養十分での登板ですが、
 フェアリーズの芝田は中4日、それも8月から続いていますから。
 元々中5日あるいは6日で調整するタイプの投手だけに、やはりスタミナに不安は残りますね」

確かに。8月中旬に真田が右肩を故障してから、先発陣はずっとスクランブルですからね。
もっとも、優勝戦線に踏み止まれたのも、その真田が熱い季節を投げ抜いたからなのですが。
しかし層の厚いレジェンズと違い、元来がコマ不足のフェアリーズ、その代償は大きかった。
総動員でここまでこぎつけましたが、全選手がすでに疲労困憊でしょう。

霧子「フェアリーズとしては早めに先取点を挙げて得意の継投に持ち込みたいところですが、
 相手が武藤なだけに、それも容易ではありませんしね」

霧子さんの分析では、劣勢のフェアリーズ。
しかし今年のフェアリーズには、この優勝決定戦まで辿り着いた勢いがある!
今宵も我々にミラクルを見せてくれるでしょうか。
では、まもなく試合開始です!

 ……

初回は両チーム共に三者凡退と、静かな立ち上がり。
フェアリーズの先発・芝田は、ヒットは打たれながらも要所を締め、序盤を無失点で切り抜ける。
対する武藤は圧巻のピッチング。3回までをパーフェクト、6三振を奪う好投を見せ、こちらも無失点。

試合が動いたのは4回。
この回先頭の南が、10球粘った上でライト前にポトリと落とす技ありの一打。
この南の粘りが芝田のコントロールをわずかに狂わせ、
次打者・主砲の龍子にわずかに甘く入った外角スクリューを叩かれ、先制2ラン。
しかしきちんと後続は切り、5回もランナーを出しながらも凌ぐ。

対する武藤は4・5回もパーフェクト。
特に5回は1、2、3番の上位を3者三振に切って取る快刀を見せ、付け入る隙を与えない。

そして6回表。フェアリーズは最大のピンチを迎える。

 〜〜

13.試合中、ノーアウト満塁の大ピンチです。監督、貴方が取る行動は?

「ボール、フォア!」
その判定に、芝田は思わず美しい面差しを歪めた。

 6回表。先頭の龍子に左中間を割られ、無死2塁。
 続く上原に一ニ塁間を破られたものの、シンディーの矢のような送球でランナーは3塁ストップ。
 そして迎えた6番永原。一発を警戒しコースギリギリをついたが、フルカウントから外角低めギリギリに投じた一球をボールと判定され、これでノーアウト満塁。
 相手投手の出来も考えると、絶体絶命のピンチと言えるだろう。

 内野の守備陣がマウンドに集まってくる。
「美紀センパイ、大丈夫?」
 ショートの智美が心配そうに尋ねてくる。
「私を誰だと思っていますの。このくらい、何でもありません。ちょっと手元が狂っただけですわ」
「な〜んだ。良かった〜、いつもの美紀センパイだ」
 言葉通りに受け取り、ホッとした表情を浮かべる智美。しかし他の4人はそう単純ではない。それでも口を挟まないのは、芝田のエースとしてのプライドと強い責任感をよくわかっているからだった。今の芝田をマウンドから下ろせるとすれば、監督のレイアだけ。彼女に命じられれば、芝田も素直に従うしかない。
 芝田は誰にも気づかれぬ様に、ベンチへ視線を送った。そこには腕組みをしながら仁王立ちしているレイアの姿があった。つまり、今芝田をマウンドから下ろすつもりは、レイアには全くないという事だ。
「芝田さん。お願いします」
 キャッチャーの中森が芝田の顔を真っ直ぐ見つめながら、グラブにボールを置く。芝田は覚悟を決め、力強く頷いた。
「ご不安でしたら、わたくしの所へ打たせなさいな。特別に、どんな球でも捌いて差し上げますわよ。オーッホッホッホ」
 サードの市ヶ谷が高笑いをしながらはちきれんばかりの胸を反らす。
「フン。大きなお世話ですわ。貴方は私の華麗なピッチングを黙って見ていらっしゃればよろしいのです」
「あら。言いますのね。では、無様なピッチングを見なくて済むよう祈っていますわよ。オーッホッホ」
 高笑いしながら悠然とサードへ戻る市ヶ谷。あれがあの高飛車女の精一杯の表現方法なのだとよくわかっていたから、芝田は何も言わずにその背中を見送った。
「よし。そんじゃ頼むぜ、エース様っ」
「よっしゃ、ウチも気合入れるでーっ」
 ファーストの来島がポンと芝田の尻をグラブで叩き、セカンドの成瀬がグッと拳を握る。それぞれ持ち場に戻ろうとしたその時、中森が成瀬を呼び止めた。
「成瀬。ちょっといいか」
「えっ。なんや、あずみ姉」
「今日の武藤の出来を考えても、ここは1点もやりたくない。次の打者は金森。芝田さんが自分の構えた所へ投げてくれれば」
「ウチとこに飛んでくる、っちゅう事やな。……うん。任しといてや。絶対仕留めてみせるで」
 頷き合う二人。それぞれ決意を胸に、守備位置へ戻る。

「ここで、決める。それで私も、本当のレジェンズの一員になるんだから」
 次打者の金森もまた、この一瞬に全てを賭けていた。

 そして、プレイ再開。
 気持ちを入れ直した芝田のボールが、再び走り始める。外角スライダーで空振りを取り、カウント2−1。ここで中森が構えたのは、内角低めのボールゾーン。打ち気にはやる金森にストライクからボールになるスクリューに手を出させ、ボテボテの内野ゴロに打ち取ろうという算段だ。
 芝田は頷き、投球モーションに入る。しかし極度の緊張か、或いはこれまでの疲労の蓄積か。その手元が、ほんのわずかに狂いが生じた。
「くっ!」
 ボールは中森のミットよりわずかに内側、ストライクゾーンいっぱいに飛び込んでいく。金森は腕を折り畳み、これを綺麗に捌く。
「もらったっ」
 金森の放った鋭いライナーが、成瀬の頭上を越えようとした、まさにその瞬間。
「やらせへんわっ!」
 成瀬が力の限りに飛び上がり、左手を限界まで伸ばす。そのグラブのギリギリ先端に、バスッと小気味良い音を立ててボールが収まり、勢いを止めた。完璧な当たりを捕球され、思わず天を仰ぐ金森。しかしこのプレーは、それで終わりではなかった。
「トモッ!」
 成瀬は叫ぶと、空中で体を捻りながらボールを握り、セカンドベースへ向けて投げつける。
「おっけーっ」
 そこにドンピシャのタイミングで走りこんでくる渡辺。捕球すると同時にセカンドベースを踏むと、帰塁する上原のスライディングをかわしてジャンプ。
「恵理せんぱいっ」
 そして態勢を崩しながらも一塁へ送球。大きな体を限界まで伸ばし送球を待つ来島。あまりの良い当たりに思わず飛び出していた一塁走者の永原も、懸命にヘッドスライディングで帰塁する。ファーストミットに寸分の狂いなくボールが収まるのと、永原がファーストベースに触れるのはほぼ同時だった。
 球場全体が、固唾を飲んで見守る中、ジャッジは。
「…………アウトーッ!」
 真上に振り上げられた。
「よっしゃあーっ!」
 来島の雄叫びと同時に、球場全体に地響きが起こる。意気消沈していた一塁側スタンドが、今日初めてにして最高の盛り上がりを見せた。
『なぁんとーっ! 絶体絶命のピンチに飛び出した、とんでもないビッグプレーイッ! 成瀬のファインキャッチから、あっという間にトリプルプレイが完成っ! フェアリーズ、最大のピンチを最高の形で防いでみせたーっ!』
 実況アナウンサーが声を枯らして叫ぶ。球場はまるでお祭り騒ぎ。大歓声の中、満面の笑顔でベンチへ戻るフェアリーズナイン。
「んだよ渡辺、お前やればできるじゃねえか。ドンピシャの送球だったぜっ」
「エヘヘ〜。今のあたし、チョー目立っちゃってるかなっ」
「まあどっちか言うたらウチのスーパーキャッチの方が目立ってたけどな。アハハッ」
 ハイタッチしながらはしゃぐビッグプレイを完成させた3人とは対称的に、芝田は安堵の表情を浮かべていた。
「お疲れ様でした。芝田さん」
「私とした事が、あの子達に助けられてしまいましたわね」
 声を掛けてきた中森に、芝田は自嘲気味に笑って見せた。
「いえ。十分計算内のコースでした。あのコースなら打たれても、成瀬の守備範囲に飛ぶと予測はできていましたから。芝田さんはきちんと仕事を果たされましたよ。……もっとも、トリプルプレイは出来過ぎですけどね」
「ウフ。ありがとう、あずみさん」
 ベンチに戻った芝田は、監督のレイアの前に立った。
「お疲れ様、ミキ。よく踏ん張ってくれたわ。本当なら……」
 レイアは芝田の左肩にそっと触れ、呟いた。最後の言葉は空気に溶けたが、彼女の言いかけた言葉は芝田には確かに伝わっていた。
「いえ。伊達にエースの看板を背負っている訳ではありませんもの。お気遣い無用ですわ。私より、あの子達を褒めてあげてくださいな」
「ええ。そうね。……ありがとう、ミキ」
 レイアの言葉に、微笑みで返す芝田。
「まったく。エースなら、もっとすっきり抑えてほしいものですけれど。オーッホッホ」
 ベンチ大きく腰掛けてふんぞり返りながら、憎まれ口を叩く市ヶ谷。
「アナタも人の事言えないわよ、レイカ。4番の仕事はいつになったらしてくれるのかしら?」
 片目を瞑り、いたずらっぽく言うレイア。この日、市ヶ谷は武藤の前に2三振。
「こ、これからする所ですわっ。あまり早く決着をつけては、わたくしの活躍を見にこんな田舎町までいらした全国600億人のファンの方々に失礼ですもの。オーッホッホッホッ」
「ほんとっ。じゃ、麗華センパイ、早く試合決めちゃってくださ〜い。あたし、今日はお立ち台で600億人の前で思いっきり踊っちゃうんだからっ」
「ちょっと、わたくしが試合を決めるのに、アナタがお立ち台に上るはずがありませんでしょう。上るのは当然この」
「ウチやなっ。トリプルプレーなんて、年末の好プレー大賞で全国放送確実やでっ。ナハハッ」
「違うと言っているでしょうにっ。もう、この小娘共はっ」
 ドッとベンチに弾ける笑い。ビッグプレーも飛び出し、ムードは最高潮。
(本当の勝負は、ここからね)
 確かな手応えを胸に、レイアは向かい側のレジェンズベンチを見つめた。

「めぐ先輩、ごめんなさいっ」
 三塁側ベンチでは、金森が武藤に頭を下げていた。
「麗子のバッティングは良かったよ。あれは相手の守備が凄かっただけだから、気にしないで」
 間に入った結城千種が、金森を慰める。
「でも、あたし……」
 金森は頭を上げられない。試合を決める絶好の機会を、一瞬にして不意にしてしまったのだから。
「謝ってもらったって、何にもならないわ」
 ぶっきらぼうに言い放つ武藤。
「めぐみってば、そんな言い方」
「本当の事よ。……謝ってる暇があったら、次のプレイの事を考えて。しっかり守って、次の打席で1点でも取ってちょうだい」
「は、はいっ」
 言い方はキツイが、これが武藤なりの励まし方であった。金森はようやく顔を上げ、しっかりと返事をする。
「そうよー、麗子。次にやりかえせばいいんだから」
 ここで永原が首を突っ込んでくる。
「見てなさいよーめぐみ。あたしがドカンと一発レフトスタンドにお見舞いしてやるからねっ」
「……ちづる先輩は少しはボーンヘッドの反省をしてください」
「えー、なんで〜。ちょっと千種、めぐみってばひどくない? 麗子と反応違うんだけど」
「え〜、いや〜、あはは〜。……さっ、今度は私達が守る番です。締まっていきましょーっ」
「こらっ、千種。誤魔化すなーっ」
 大きなチャンスを逃したとはいえ、レジェンズのモチベーションは下がってはいなかった。

 試合は6回裏。いよいよ終盤戦へ突入する。

  〜〜

6回裏。
8番中森がセンター返しでニ遊間を破り、武藤がこの日初めてのランナーを許す。
ここでフェアリーズベンチが動く。
先発の芝田に代打ファントムローズ2号を送るが、
しかし放った打球は定位置に入ったレフトのグラブに収まり、この回も無得点。

7回表。
2番手秋山がマウンドに上がる。
前節のスプリングス3連戦3連投などを含む登板過多の影響で明らかに本調子ではない秋山。
いきなり結城に二塁打を浴び得点圏にランナーを背負うが、そこから踏ん張り三者を連続で打ち取る。
特に小川へはサイドスローからの徹底した外角スライダー攻めを繰り出し、
最後は見逃し三振に切って取った。

7回裏。
2番から始まる上位打線も、タイミングが合わず三者凡退。

8回表。
秋山に代わり、3番手に鉄腕・中江がマウンドへ。
しかし今季秋山以上の登板数を誇る中江、疲労もピークに達しており、
ストレートに押さえが利かず高めに抜け、いきなり3・4番に連続四球。
だがここで両頬を張り気合を入れ直すと、5・6番はストレートで押しまくり連続三振。
迎えた7番金森。汚名返上とばかりに成瀬の脇を抜く鋭いゴロをニ遊間に放つ。
しかしセンター越後が猛チャージで捕球、
すぐさま内野にボールを戻してランナーをサードで釘付けにする。
2アウト満塁でバッターは結城。
8球に渡る勝負の末、最後は高めのストレートで中江が三振を奪った。

8回裏。
先頭の越後が三遊間を破り、初めてノーアウトでランナーが出たフェアリーズ。
意表を突くシンディーのセーフティバントは、送りバントとなり一死二塁。
渡辺のセンターへの大飛球に、越後が判断良くスタートを切り二死三塁。
ここで今日一安打を放っている中森。
一ニ塁間へ完璧に流し打つが、しかし南の堅守に阻まれ、3アウト。
ホームベースが遠いフェアリーズ。

そして、いよいよ試合は最終回を迎えた。

 〜〜

「クソがぁっ!」
 マウンドを力任せに蹴りつける。マウンド上の千秋は荒れていた。
 9回表。延長を見据えてストッパーの八島を温存、送り出されたのは左の村上千秋であった。レジェンズの先頭打者は投手の武藤。甘く見ていたわけではないが、どこかに油断があったのかもしれない。千秋のストレートを打者顔負けのバッティングで弾き返され、先頭打者の出塁を許してしまう。
 続く菊池はポップフライに打ち取ったものの、小川にバントを決められ二死二塁。迎えるは3番南。それでも左の南ならば抑えられる自信があった。2ストライクと追い込んでから外へ放った、決め球の大きく縦に割れるカーブ。しかし南がこれに逆らわずにバットを出すと、打球は三塁線を抜けて行き、その間にランナーの武藤が一気にホームへ駆け抜ける。
 3−0。この土壇場で、あまりに大きい1失点であった。

「千秋……」
 ブルペンでは、思わず八島が宙を見上げていた。千秋を攻めるわけにはいかない。このチームがここまで来れた要因の一つが、手薄な左の中継ぎを一人で引き受けていた千秋の力にある事を、ブルペンを纏める立場にある八島が一番良く知っていたから。
 次打者はレジェンズの4番、右の龍子だ。もう最終回、これ以上離される訳にはいかない。当然ここは自分の出番だろう。しかし、最終回の攻撃は9番から。守備の面から考えても、他の打順に自分が入るとは考えにくい。となると、当然9番の自分に代打が送られる。9回裏に追いついたとして、では最後のマウンドは誰が立つというのだ。
「何をしていらっしゃるの、ミス静香。アナタのシスターが待っておりますわよ」
 苦渋の表情を浮かべていた八島に、不意に掛けられた声。そこには、
「お嬢様っ!? どうしてこちらへ」
 八島が口を開くより早く、ブルペンでボールを受けていたファントムローズ1号が驚きの声を上げた。
「どうしても何も、延長戦に備える為に決まっているでしょう。さ、1号。ボールを受けて下さりませんこと」
「で、ですがお嬢様。2日前に登板したばかりですのに……」
 1号の言う通り、ローズは一昨日のスプリングス戦に先発で登板したばかりであった。
「ワタクシが何の為にこんな島国まで来たと思っているんですの。ワタクシはレイアを、このチームを優勝させる為に、わざわざこんな辺境まで出向いたのですわよ。別荘で紅茶を楽しんでいる間に、ワタクシの手の届かない所でチームが優勝を逃してしまうなどという事を、許す訳にはまいりませんでしょう」
 メンバー表に名前が載っているのを知ってはいたが、まさか登板するつもりだとは、八島は思っていなかった。ベンチにいなかったのも、おそらく先日の登板の疲労を少しでも取る為に、裏でマッサージを受けていたのだろう。
「フンッ。やってくれるじゃないか」
 八島が鼻をすする。
「さあ、ミス静香。早く行ってあげたらいかが。それでも、ワタクシにクローザーが務まらないなどと、失礼な物言いをされるつもりではありませんわよね」
「名前で呼ぶんじゃないよ。ったく。……んなこたぁ言わないさ。アンタの力は、この一年でしっかり見せてもらったからね。後は、頼んだよ」
「オホホ。言われるまでもありませんわ」
「ああっ。ステキですわ、お嬢様っ」
 自分の去ったブルペンに頼もしさを感じる、そんな初めての気分を味わいながら、八島はゆっくりと自らの二本の足でマウンドへ向かった。

「八島姐……」
 マウンドに向かい歩いてくるその頼もしい姿を、千秋は驚いた表情で見つめていた。
「ご苦労さん、千秋。後は任せな」
 八島が千秋の頭をグラブでポンと叩く。
「クソッ。八島姐に面倒かけちまうなんて」
「何言ってんだい。これがアタシの仕事だよ。そら、顔を上げて堂々とベンチに戻りな」
 八島にボールを託し、千秋はマウンドを下りる。ベンチに向かう千秋に、スタンドから沢山の拍手が降り注いだ。皆、知っているのだ。千秋もまた、このチームに無くてはならない存在である事を。
「チッ。うるせえんだよ。……クソ」
 千秋は帽子を目深に被り、声援に応える事無くベンチへと下がった。そんな千秋を他のファンとは違う想いを抱いて見つめる視線がスタンドにあった。
「へっ。千秋のヤツ。……来年そこに立ってるのは、私だぜ」
 千秋と瓜二つの顔を持った女性は、その場に立てずに一年を終える事になった自身に歯噛みしつつ、千秋に羨望と嫉妬、そして親愛の入り混じった視線を向けるのだった。

 マウンドに仁王立ちし、目を閉じる。大歓声は遠くなり、そこは自分一人だけが立つ空間となる。いつもの儀式を終え、ゆっくりと目を開く。正面にはバットを構え、仁王立ちする好敵手。
「さぁて。やるとするかい、龍子」
「来いよ、八島。決着をつけようぜ」
 二人の視線が交わり、激しく火花が散る。視線をわずかにずらせば、そこには頼もしい相棒の姿。構えたミットは、真ん中高め。
 中森は、八島に多くを求めない。八島の持ち球はわずかに2つ。八島の力を引き出すには、彼女がその時一番投げたい球を放らせる事だと、わかっているから。
 そして始まる、ガチンコ勝負。
 7球目。落差の大きなフォークに龍子のバットが空を切った瞬間、八島は雄叫びを上げた。

 9回裏。3−0。
 泣いても笑っても、これが最後の攻撃。
 状況は、絶望的。
 しかしフェアリーズの選手達は、誰一人として諦めを抱くものはいなかった。

 龍子を三振に打ち取った八島はお役御免となり、代打に送られたのはRIKKAであった。昨年負った足の怪我は夏前にはすっかり癒えていたが、ルーキー野村つばさの台頭により控えに回る事が多かったRIKKA。しかしその足とテクニックは試合終盤、まさにレイアの切り札として欠かす事の出来ない存在となっていた。
 この打席も、まさにそんな彼女の武器が希望を繋いだ。武藤の投じた3球目、外角スライダーを引っ掛けたRIKKA。しかし一塁線を転がる打球はちょうどファースト永原とキャッチャー結城の中間にを目指して転がり、永原が捕球しベースカバーに入った武藤を振り返った時には、すでにRIKKAが一塁ベースを駆け抜けた後であった。
『速い、速ーいっ! 忍びの末裔・RIKKA、球よりも早く一塁へ駆け抜けたーっ!』

 再び手に入れたノーアウト一塁のチャンス。打席には1番、つばさ。
「なんでもいいから塁に出なきゃ。……あんな凄いボール、どう打っていいのかなんてわかんないけど。でも、なんとかしなきゃっ」
 3点という点差を考えれば打者に集中すれば良いはずだが、今まさにその足を見せつけられ、バッテリーは必要以上にランナーのRIKKAを警戒してしまった。カウント1−2からストライクを取りに投じたボールが、RIKKAの盗塁の気配にわずかに手元が狂い、左打者つばさの懐近く切り込んでいく。そしてつばさは、何としても塁に出なければという使命感の元、無意識にホームベース側ギリギリに立っていた。反応した時には、すでに手遅れであった。
「あうっ」
 つばさの手首に辺り、跳ね上がるボール。幸い大事には至らず、冷却スプレーによる処置だけでつばさは一塁ベースへ向かう。結果として、つばさは死球という形ではあったが自らの使命を果たしてみせたのだった。

「さて。つばさがああまでして塁に出たんや。ウチも仕事せえへんわけにはいかんわな」
 ちらりとベンチを見れば、当然監督であるレイアのサインは送りバント。
「ここで一発、なんてウチはカッコ良う出来てへん。こんな時の為に、ウチはこの一年レイア姉さんにこってり絞られてきたんや。……絶対決めたるで」
 成瀬は隠す事無く、最初からバントの構えに入る。
 キャッチャー結城のサインを見て、武藤はしっかり頷いた。武藤はフィールディングにも自信があった。点差はある。焦る事はない。確実にアウトを取ればいい。自分自身に言い聞かせ、武藤は投球モーションに入った。
 インハイギリギリに、武藤のストレートが唸りを上げて飛び込んできた。しかし、そのコントロールの正確さが仇になった。そこは、バントに生きる道を見出した成瀬が、特に徹底して体に覚えさせたコースであった。
 高めのボールに上手くバットを被せて勢いを殺す。打球は三塁線のまさに真上を転がってゆく。一瞬切れる事を期待した武藤が、結城の声に弾かれてボールを拾い握った時、すでに成瀬は一塁ベースを駆け抜けた後だった。
『決まったーっ! 成瀬の職人芸っ! これが私の生きる道っ! これで、ノーアウト満塁っ。神はフェアリーズを見捨てていないっ。この土壇場で、一打逆転のチャンスが訪れたーっ!』

9回裏。3−0。ノーアウト満塁。
バッターは、3番・来島恵理。

14.今度は逆にノーアウト満塁のチャンスです!監督、貴方の取る行動は?

  「来た……」
 9回裏、ノーアウト満塁。一打逆転のチャンス。いつもの恵理ならば、ここはバットを担いで意気揚々とバッターボックスに向かう所だ。しかし、今は優勝の掛かった最後のチャンス。そして、マウンドには恵理にとって最悪の相手。
「打てんのか……オレに」
 打席に入り、バットを握り締め。それでも恵理は、迷いが捨て切れなかった。打てなくてもバットをぶん回せば、三振で1アウト。後ろへ繋がる。いや、いっその事バットを振らなくてもいいか。上手くすればフォアボール……って、バカかオレは。アイツがそんなタマかよ。
 一旦打席を外して、大きく深呼吸。それでも、迷いを捨て去る事が出来ない。オレに、アイツが打てるのか。チラとベンチを見る。ノーサイン。当たり前だ。この状況でクリーンアップに、しかも器用さとは縁遠い自分に、小細工をさせるヤツがどこにいる。
 審判に急かされ、もう一度打席に入る。マウンドの上で、アイツがオレを見下ろしている。アイツは気づいてるんだ。オレが迷っている事に。だから、見下してやがる。オレが打てるわけがないと思い込んでやがるんだ。
 チクショウ、舐めやがってっ! ……でも。一番そう思っているのは、本当は自分なんじゃないのか? アイツの……祐希子が認めた、アイツの球を、最高の投手の球を、オレなんかが、あの時逃げる事しか出来なかったオレなんかが打てる訳がないと、どこかで諦めてるんじゃないのか。
 この状況で、ワインドアップをする武藤。小細工などないと信じきっている。正面から力で捻じ伏せようと、向かってくる気だ。ならば、オレは……。

『あーっと! 来島、意表をついたスクイズッ! しかし、空振りーっ!』
 無意識に恵理の体は、産まれて初めて自主的にバントの構えを取り、しかし外角高めのボールゾーンへ唸りを上げて収まったストレートにバットはかすりもせず。バントの構えを見て慌てて三塁を飛び出したRIKKAは、結城が捕球した瞬間に三本間で挟まれてしまった。
『RIKKA、挟まれたっ。これは痛いっ! この大事な局面で、レイア監督の奇襲失敗かーっ!』
『……あれがレイアの指示な訳ないですよ』
 サードの龍子とキャッチャーの結城の間で行ったり来たりするボール。RIKKAは懸命に動き回り、つばさと成瀬が帰塁する時間を稼ぐ。二人がそれぞれ塁に戻ると、観念したかRIKKAは動きを緩めた。
「ちょこまか動き回りやがってっ」
 サードの龍子がグラブでボールを持ち、RIKKAの体をタッチしようとした、その瞬間。RIKKAの体は龍子の目の前から消えていた。
「なっ!? あいつ、どこへ」
「龍子さん、後ろっ」
 結城の声に振り返ると、今まで目の前にいたRIKKAは、どういう訳かサードベース上に立っていた。
「……なっ、なんだそりゃあっ!」
 審判にタッチしたはずだと詰め寄る龍子。しかし、審判は首を縦に振らない。審判としても理屈はわからないが、確かに目の前でRIKKAは帰塁しているのだ。
『なんと、この土壇場て、RIKKAの空蝉の術(?)が炸裂ーっ!? VTRで見ても訳がわかりませんっ。まさに一旦消えて、また現れたとしか思えないっ! 絶体絶命のピンチを、RIKKAがかいくぐってみせたーっ!』
『……なんだこりゃ。意味わかんねえ、わかんねえだろ、ワハハッ!』
 涼しい顔のRIKKAを前に、収まりのつかない龍子。しかしその龍子を止めたのは、意外な人物だった。
「……もういいですよ。龍子さん」
「武藤、お前っ」
「要はあと3つ、アウトを取ればいいんでしょう。早く続きを始めましょう」
「……チッ。わーったよっ」
 武藤の言葉に、龍子はようやく落ち着きを取り戻す。龍子からボールを受け取ると、武藤は再びバッターボックスの恵理を見据えた。

「……何やってんだ、オレ……」
 恵理は呆然と、手の中のバットを見つめていた。前代未聞のプレーに揺れる会場のどよめきも、恵理の耳には入らなかった。
「オレ……逃げたのか……アイツから……また……」
 突きつけられた事実に愕然とし、膝から力が抜けかけた、その時。
「エリイィィィッッッ!!」
 背後で地の底から響くような怒声が上がり、恵理は弾かれた様に振り向いた。球場もその一瞬、静まりかえる。
 タイムを掛けて出てきたのは、レイアだった。恵理の背後まで歩み寄ると。
 バッキイィィィッッ!!
 思いっきり恵理の尻を、右足で蹴り上げた。
「いってぇーーーっ!」
 思わず飛び上がる恵理。
「なーにやってんのよっ、このバカッ! アンタは頭の中までチキンなのっ。その筋肉は見掛け倒しなのっ、ええっ!?」
 レイアに胸倉を掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。何が起きているのかわからず目を白黒させている恵理に、今度はそのままゴンゴンと頭突きを食らわせた。
「私のチームのクリーンアップが、こんなチキンだなんて認めないわよっ。何ビビッてんのよ、だらしないっ。そのデカイ図体はなんなのよっ。あんな生意気な小娘、そのぶっとい腕一本で黙らせてみせなさいよっ!」
 球場全体が一瞬呆気に取られたように静まり返った。しかし次の瞬間、慌ててコーチやベンチにいた選手達が飛び出してきて、いきり立つレイアをベンチに引きずり戻す。呆気に取られていた主審も、相手チームや審判団への暴行ならすぐさま退場を宣告するところだが、自チームの選手への行為だけに、とりあえず厳重警告としてベンチに下がらせた。
「えりりんっ。三振したってかまへんって。いつもみたいに、思いっきりバットブン回してえやっ」
「そうですよ、恵理せんぱいっ。あたし、恵理せんぱいのパワーに、凄く憧れてるんですからっ。だって、あたしには絶対マネできないもんっ」
「…………うむ。…………それは、天賦の才。…………そなただけの、武器」
 塁上の三人が、恵理に声を掛ける。
「恵理センパーイッ。やっちゃえっ、ホームラーンッ」
「来島さんっ。私の頼りにしている来島さんは、どんな相手も打ち砕く力を持っているはずですっ」
「来島さんっ」
「来島ーッ」
 ベンチからも、声。
「お前ら……」
『きーしーまっ! きーしーまっ!』
 スタンドから届く、声。
「……へへっ。何やってんだよ、オレ。こんなに沢山のヤツ等が、このオレのパワーを見に来てるってのにさあ」
 もう一度、マウンドの上のアイツの顔を見る。そこにいるのは、祐希子でも、祐希子の分身でもない。
 武藤めぐみ。生意気なオレの後輩で。祐希子の認めた、最高のピッチャー。そして。……最高の、ライバル。
「そこの筋肉女っ。自信が無いのなら、そこで黙って立っていればよろしくてよ。アナタが無様に見逃し三振に倒れたとしても、次の打席でのわたくしのサヨナラホームランは決まっているのですから。オーッホッホッホッ!」
「……へっ、うるせえぞ市ヶ谷っ。お前の出番なんかねえよっ。このオレが一振りで決めてやっからさあっ」
 ネクストバッターズサークルの市ヶ谷に舌を突き出すと、恵理は思いっきり、自分の両頬を両手で張り飛ばした。
「っしゃあっ!! 来いや、武藤っ!」
 その名を叫び、恵理は大きくバットを構える。主審が、ゲーム再開を告げる。

「……まったく。暑苦しいんだから。……だからあたしは、貴方が苦手なのよ」
 めぐみはボールを握り直し、ホームを見つめる。千種のミットは、真ん中高めのボール球を要求する。
「……せぃっ!」
 一番スピードが出るコースへ、明らかなボール球のストレートを放る。
「ぅおらあっ!」
 しかし来島はバカ正直に、そのボール球に向かってフルスイング。
「ストライィークッ!」
 主審のストライクのコール。しかし、めぐみは頬がひりつくのを感じていた。凄まじいスイングスピードで、バットがボールの下をすり抜けた。
「……これが、あの人が認めたパートナーの、本当の力」
 千種が投げ返したボールを受け取り、マスクの下の瞳を見つめる。めぐみの気持ちは、パートナーの千種へ正しく伝わった。遊びはいらない。最高のコースへ、最高のボールで勝負。

「……いくぜ、武藤」
 先程のフルスイングで、恵理はこれまで自分を縛っていた何かが全て解けた気がしていた。ならば後は、持てる全てで勝負するのみ。

 大きく振りかぶった武藤が、全身のバネを全て解き放ち、ボールを投げ込んでくる。恵理の膝元、ストライクゾーンギリギリへ、最高の切れ味の高速スライダー。
「よしっ!」
 読み通りのコースへ、読み通りのボール。しかし、そこは恵理が一番苦手なコースでもあった。恵理に向かい、唸りを上げて飛んでくるボール。それが、恵理の中でとある軌道を描く。しかし、これはあいつが投じたそのボールではない。恵理はその予測軌道をボール半個修正し、その為に右足の踵を、半歩だけ後ろについた。
「どぅおりやぁーーーっ!!」
 カキイィーーーンッ!
 バットの真芯に当たったボールは唸りを上げて低い弾道で飛んで行き、ファーストベースに直撃して、大きく跳ねた。その一瞬、全ての視線が一塁塁審に集まる。
「…………フェアーッ!」
 塁審が腕をグルグル回す。歓声が弾け、球場全体がグラグラと揺れる。ファーストの永原がボールを拾ったその時すでに、恵理がファーストベースを駆け抜け、RIKKAがホームベースを踏んだ後だった。
『やりましたーっ! 来島、渾身のタイムリーッ! とうとうあの武藤を打ち砕き、1点返したーーっ!! 来島っ! 来島ぁーーっっ!!』
 一塁の塁上で、恵理は空を見上げ、そして目を閉じた。
「……へへっ。やったぜ、祐希子」
 そう小さく呟き海の向こうの相方へ報告を終えると、スタンドに向けて拳を突き上げた。 「うっしゃぁーーーーっ!!」

 マウンド上で、めぐみは呆然と一塁ベースの来島を見ていた。
「……打たれた。……来島さんに……」
「……めぐみ」
「最高のボールだったのに……打たれちゃった……」
「めぐみっ!」
 バチンッと両頬を叩かれて、めぐみは驚いて目を見開き、目の前を見た。そこには、千種の顔がドアップで迫っていた。
「しっかりしてよ、めぐみっ! まだ、終わってないんだよっ」
 ミットを投げ捨て、両手でめぐみの両頬を挟み、真っ直ぐに瞳を見つめてくる、パートナー。
「……痛いじゃない」
「良かった。いつものめぐみだ」
「……当たり前でしょ。ヒット一本打たれたくらいで、バカになったりしないわよ。ほら。ちゃんとミット持ちなさいよ」
 めぐみは転がっているキャッチャーミットを拾い上げ、千種の胸に押し付けた。
「いけるよね。めぐみ」
「当たり前よ。私を誰だと思ってるの。残りをきっちり抑えて、優勝して。メジャーに行って、世界一になって、祐希子さんを超えるんだから」
「うんっ。それでこそめぐみだよっ」
 満面の笑顔を浮かべ、千種はミットを填めマスクを被り直し、ホームへ戻って行く。めぐみはその後姿をしばし見つめ、そしてグラブに視線を落とし、しっかりとボールを握り直した。

 レジェンズベンチでは、一つの迷いがあった。ここで武藤を諦め、ストッパーの理沙子を投入するという手段もあったのだ。しかし、バッテリーの二人の様子を見て、このままこの試合を託す事に決めた。
 武藤は大きく振りかぶり、結城の要求通り、内角高めにボールになるストレートを全力で放った。ストライクはいらなかった。ただ1球、内へ見せる為だった。
 来島に打たれたショック。ここまで全力で飛ばしてきた疲労。優勝へのプレッシャー。逆転への焦り。いずれが原因かと尋ねても、武藤は全てに首を振るだろう。しかし、その複数の要因が少しずつ集まって、武藤の投じた一球を、わずかに内へ押し下げた。
 それでも、その1球は確かにボール球であり、並の打者に対してなら十二分に打ち取れるだけの球威は備えていた。
 ……しかし、その打者は、あらゆる意味で規格外だった。

「オーーッホッホッホッホッホッホッホーッッ!!」
 グワガキイィーーーーーンッッ!!
 次の瞬間、白球はフェアリーガーデンを飛び越え遥か彼方まで吹っ飛ばされていた。

『い、い、市ヶ谷ぁーーーっ!! 市ヶ谷の、逆転満塁サヨナラホームラァーーーンッッ!! この瞬間、フェアリーズ、球団史上初の優勝決定ぃーーーっ!! これは夢か幻かぁっ!?』
『竹ちゃん、夢でも幻でもないよ、ないだろうよ! ワハハ!!』
『い、痛いです、霧子さんっ。しかし、この痛みこそ現実の証っ。フェアリーズ、苦難のシーズンを乗り越え、とうとう優勝を成し遂げたぁーーーっっ!!』

15.遂に優勝した貴方のチーム‥選手に一言!

「みんな……」
 マウンドの中心で、レイアは選手達に囲まれていた。今まさに、優勝の胴上げが始まろうとしている。しかし、レイアはどうしても皆に言っておかなければならない事があった。
「ありがとう。そして……ごめんなさい」
 レイアが頭を下げると、皆どうした事かと顔を見合わせた。
「この優勝は、皆が死力を尽くして勝ち取ったもの。でも、その代償に、私は皆にかなり無理をさせてしまった。来季に影響が出てしまう子もいるかもしれない。それは、私の責任」
「……なに言うてんねんな」
 そう言って笑ったのは、成瀬だった。
「今年を逃したら、次いつこんなチャンスが来るかわからへん。だからみんな、必死で掴んだんや。別にレイア姉さんに味わってもらう為ちゃうで。ウチらが味わってみたかったんや。なあ」
「そうだよ。正直ボク、さっきまで体はパンパンで動きたくないくらいだったけど、今はもう、そんなの忘れちゃった」
「私も。今この気分を味わう為に、自分で選んだ事ですから。レイア監督が責任を感じる事なんて、何も無いですよ」
 中江と秋山が、お互いに肩を貸し合いながら、笑っている。
「まあ。わたくしが入れば、この後100回は味わっていただく事になるでしょうけど。オーッホッホッホ」
「あら、珍しく意見が合いましたわね。確かにワタクシが入れば優勝など定例行事になってしまいますわ、オホホ」
「ああっ、さすがですお嬢様〜っ」
 響き渡る、2つの高笑い。
「美紀センパイは高笑いしないの〜?」
「わ、私をあの人達と一緒にしないでくださいません?」
 その言葉に、ドッと笑いが起きる。
「なんか変な方向に話がいっちまいそうだし、さ、さっさとやる事やっちまうよ。しのぶ。アンタが音頭を取んな」
「あ、はいっ! よし、それじゃみんな、監督を胴上げだっ」
『オーーッ!!』

「……おめでとう。レイアさん。皆さん」
 スタジアムの隅。そっと見守っていた光は、優勝を見届けて目尻を拭った。そしてそのまま立ち去ろうとしたのだが。
「お、伊集院さんがいるぞっ」
「よしっ、伊集院さんも胴上げだーっ」
「えっ、あらっ、あらあら〜?」
 ファンに見つかって胴上げされ、そのままグラウンドまで運ばれていってしまった。
「あれ、なんや光姉さんが運ばれてきたで」
「なんだかわかんないけど、光さんも胴上げしちゃおーっ」
「って、コラーッ! わたしはされる側じゃなくて、する側だってばーっ」
 こうしてレイアと伊集院、そしてなぜか巻き込まれた沢崎もまた、何度も宙を舞ったのだった。

「……負けちゃったね」
「……うん」
 三塁側ベンチ前。フェアリーズの歓喜の胴上げを、めぐみとちぐさがぼんやりと見ていた。つい先程までそこで試合をしていたのが、なんだか遠い昔のようだ。
 ふと、めぐみの視線が来島の姿を捉える。彼女もそれを感じたのか、こちらを振り返ると、袖を捲くってグッと力こぶを作って見せつけてきた。そんな来島に、めぐみはアッカンベーを返してやる。
「ねえ、めぐみ」
「……うん?」
「来年からは、違うチームだね」
 少し寂しそうに、千種が呟く。
「……行かない」
「え? でも……」
「行ける訳無いじゃない。こんな気持ちで。来年優勝して、すっきりしてから行くわ。千種はあと、何年だっけ」
 千種は小首を傾げて、少し考える。
「あと1年でしょ」 「あっと。そうそう。来年一年上で過ごせば、取得できるんだ。よく知ってるね、めぐみ」
「……一緒に来なさいよ」
「ええっ?」
「イヤなの?」
「そ、そんな訳ないよっ」
「じゃあいいじゃない。でも、まずは」
「来年、だね」
 二人は手を繋ぎ、フェアリーズの歓喜のシーンを目に焼き付けて。
 お互いの手をギュッと握り合うと、その光景に背を向け。
 手を繋いだまま、並んでその場を後にした。

 〜1年後〜

「わーっ」
 大きく上げた手のさらに上を、白球が抜けていく。
「こらっ、早瀬っ。ちゃんと捕れっ」
「す、すいませーんっ」
 大声で謝りながら、少女は慌ててボールを追い掛ける。
「あ〜あ、またやっちゃった。ちーちゃんの為にも、しっかり頑張んないといけないのに」
 てんてんと転がるボールが、コツンと女性の足元にぶつかった。
「あ、すみませ〜ん」
 少女がペコンと頭を下げると、女性がボールを拾い上げ。
「いっくぞーっ!」
 気合一閃、球場の端まで投げ返してしまった。
「わーっ。す、すごいですっ」
「もう。このくらいで驚いてちゃ、優勝はほど遠いわよ」
 そう言って屈託なく笑う女性。ふと、その笑顔に見覚えがある気がして、少女はまじまじと女性の顔を見つめた。そして。
「ああーーっ!? あなたはっ」
 その女性を指差して口をパクパクさせる少女。
「なかなかやりがいのありそうなチームじゃない。恵理、今年はどっちが勝つか、勝負だからねっ」
 女性は少女の頭をグリグリと撫で、雲一つ無い空を見上げた。かつてのパートナー、そして今は親友かつライバルである、豪快に笑うアイツもまた、今この時、同じ空を見上げている、そんな気がしていた。

 〜Fin〜


「野球編・雑記」

12/12

……ハイ。プロ編にしちゃいました。
だって、どうしてもローテ組みたかったんだもん!
ワタクシ高校野球にあまり興味がないので。トーナメント好きじゃないんですよ。
年間通しての数字をニヤニヤ見るのが好きな人なのでね。
しかし、ものっそい強引に学園を絡めたなあw

基本、レジェンドとHalデザインのニューキャラを抜いて構成してみました。
と言いつつ、クリーンアップは全部レジェンドになっちゃいましたが(^^;
どうしても来島えりりんと市ヶ谷様は使いたかってん。堪忍して。
それにしても、気づけばサバイバー3大お嬢様が勢揃いしてしまった。
やはりアナライシスの結果通り、セレブ好きのようです。

2003の阪神優勝は、金本、伊良部というしっかりした軸が出来たのが大きいと思う訳で、
地味な面子が揃うフェアリーズが優勝するには同じように劇的な変化が必要かなと。

 なんとなくのイメージ。
越後=打撃は打点王時の今岡。
 守備はヤクルトの宮本。ファインプレーを普通のプレーに見せてしまう守備。
シンディー=アレックス。レーザービーム。
成瀬=良い元木w
つばさ=平野(オリ→阪神)内外野守れる。
渡辺=宇野(元中日)ポカあり、長打あり。
中森=矢野
1号=今期の野口(阪神キャッチャー)
芝田=山本昌
真壁=石川(ヤ)
中江=久保田
秋山=伊藤敦規
八島=豊田

……変なチームw

あ、監督のイメージはカレイドスターのレイラさんです(なぜに
最初レイラにしてたけど、それだと霧島さんと被るので、レイアにしました。
ビジュアルは金髪ロングで赤いスーツとサングラスが似合う美女って感じ。

レジェンズやスプリングス(=Hal)は高素質ばかり残ってるんで、リーグ優勝は茨の道だよなぁ。

ここまで書くのに凄い時間掛かっちまったんで、続きはまた後日〜。

12/16

部活動じゃなくプロにしたのでマネージャーを置くのも変だと思い、
じゃあ保科ちゃんあたりをトレーナーにしようかと思ったけど、
それも失礼な気がしたので、どうしようかと考えた所、ふと閃いた。
昨年まで古田監督がやっていたじゃないですか。プレイングマネージャー。
引退ポジションにしたので、サバ未参戦の光さんにお願いしました。
(しかし光多いなあ。小川、沢崎、伊集院)
これでレッスル4大お嬢様揃い踏みだぜ。どんだけセレブ好きなんだ俺。

次は番外編として来島さんの過去に触れる予定。

12/19

脳内設定などを、軽くご紹介。

何度か文中に出ているように、
女子野球界は最初のFA権取得まで5年。2回目はそれから3年。以降2年ずつ。
高卒で入団すると、23でFA、26で再取得。祐希子がこのパターン。
移籍金とかはどこのチームも手が上げやすいように低め。
というか、基本的に金の為って選手は少ない。なぜなら夢の世界だからラララ。

1リーグ制だけど、全何チームかは決めてない。
主だったチームは、
レジェンドキャラ中心のレジェンズ、
ニューHalキャラ中心のスプリングス、
そしてオレの好きな子を集めたフェアリーズ。さかなや、ゲストキャラ多め。
さかなやキャラ中心のフィッシャーズも作ろうかと思ったが、
フェアリーズでかなり人数取っちゃってるので止めた。
レジェンズから4人も抜いちゃってるので、せめてものお返しに葛城←→来島でトレード設定。
葛城さんはレジェンズでもちゃんと二桁勝ってローテ守ってます。

来島さん外伝の後書き的なもの。

祐希子とむとめが重なってしまい捕球イップスになってしまった来島さんが、
(野球ではイップスって送球にしか使わないけど、ニュアンスとして)
移籍&コンバートを機に再生する、ってのが初期のコンセプト。
またも予想以上にボリュームアップで睡眠時間が削られてしまった(^^;

むとめを決して悪役にはしたくなかったので、気を入れて書いてみた。
例の有名なフレーズも一文字足して、「来島さん『と』じゃ勝てない」としてみた。
それが俺の来島さんへの愛。

移籍後の話は、もっとあっさり書くつもりだったのに、まあキャラが次々出てくる出てくる。
智美の悪送球をガムシャラキャッチして回復のきっかけ、ってのだけしか決めてなかったんだよな。
最初はバッテリーコンビもしのぶもここでは出ないはずだったんだよな。
ちなみに美紀姉さまは、投球スタイルは山本昌モデルだけど、
ポジション的には藪御大のイメージ。防御率2点台で負け越しとか。
その報われなさがなんとも言えず、ずっと応援してたなぁ。

しかし、伊集院さんがこんなにキーパーソンになるなんて、自分でも思いもしなかった。
マネージャを強引にプレイングマネージャーに引っ掛けたら、いつの間にやら話が膨らんだ。

ちなみに来島さんは左の一本足打法(ホークス好き設定から王さんスタイル)、
市ヶ谷様は落合の神主打法。

後はお題を盛り込んで決戦を描くつもりだけど、
あとどのくらいで完結するのか自分でもわかんないわw

1/10

来島さん外伝であんな前フリしといたんで、
やはり最後の相手はレジェンズだろう、という事で
じゃあどういうチームなのかというのを改めて考えてみた。

とりあえず、来島さん、市ヶ谷様、しのぶ、おまけで智ちゃん、
を差っ引いてもなお毎年首位争いを出来るだけのチーム、という事で、
かなり打者重視で振り分ける事に。
で、組んでみた打順が、上にもあるけどコレ。

1.菊池(左)
2.小川(遊)
3.南 (ニ)
4.龍子(三)
5.上原(中)
6.永原(一)
7.金森(右)
8.結城(捕)
9.武藤(投)

いや、強いよこのチーム。さすがレジェンドって感じ。

典型的1・2番の菊池・小川に、.340くらい打ちそうな南さん、
40発はいける龍子、走攻守揃った上原さん。この辺までは最初から頭にあった。

で、6・7番。
最初は涼美姉さんをファーストにしようかと思ったけど、
やっぱりファースト=破壊力という事で、ならばホームランバカ一代のちづるかなと。
投手にしてストレートバカ一代にするか迷ったんだけどね。

7番の金森は上手くはまったと思う。
と言っても、サバのロリ金森でなく、3やSPの次世代エースな金森。
多分左打ちでシュアだと思うんだ。3割、15本、意外と走れる。
常に好調の鳥谷、みたいな感じ。

控えとしては、プルヒッター小縞と、クセ者レイを置きたい。
スタメンは外れたけど、25本は打つUSAもいる。

で、投手陣。
残ったレジェンドは、石川・神田・金井・斉藤・堀・理沙子・藤島・吉原。

エースむとめ、ストッパー理沙子さんは決定として。

ローテ的には、
1.むとめ
2.吉原(ベテラン)
3.葛城(来島さんとのトレード設定はまだ生きてる)
4.斉藤(速球派)
5.神田(カミソリシュート)

後は中継ぎの柱に涼美姉さん。
ビハインドでもいける堀にゃんに、
将来の先発候補として中継ぎで経験を積ませてる、金井・藤島のアイドルコンビ。

こう見ると、安定感ではフェアリーズより上だなあ。

てな事を妄想してると、久々にレッスルキャラでパワプロのサクセスをやりたくなるけど、
いざやってみると、龍子よりちづるの方が圧倒的に能力が上になったりするんだよな(^^;

明日はスプリングスの妄想でもしようかな。名前だけのやられ役になってしまったし。


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