I'm seen.



 ここはパプニカにあるポップに与えられた一室。何故かダイがいた。
 部屋の主が体を休める為のベッドに、不機嫌そうに腰を下ろして、ある一点を見据えている。
 その視線の先にあるのは、この部屋の主であるポップの姿。そのポップはと言うと……ダイの方を見ることもなく、話しかけようとすらしないで、一心不乱に何か、書き付ける作業をしているのだった。
 ダイはその姿を恨めしそうに、眉を寄せて睨み付けていた。

「……ポップ」
「……あ? んだよ」

 ダイが耐え切れなくなって、それでも感情を抑えようと押し殺した声で相手の名を呼べば、気のない返事が返ってきた。しかも、書物から視線を逸らさず、作業の手も止めぬまま。ダイの額にうっすらと青筋が浮かび上がる。

「……まだ?」
「まだだ」

 簡潔な答え。だがそれはダイが望んでいる答えではなかった。我慢が出来ず、唇から本音が零れ落ちる。

「……暇」

 無意識に口からついて出た言葉は、たった一言だった。それも相手には聞こえないくらいの小さな声。しかし――

「……おれは最初になんと言ったか、思い出してみろ」

 しっかり聞こえていたようだ。地上最強の大魔道士は、強力な魔力だけでなく、聴力をも手に入れていたらしい。ポップはゆっくりと視線を動かし、ダイを横目に捉えると、静かに言い放った。

「それとも、足りないおつむじゃ思い出せねぇってか。数時間前の記憶は」

 険のある言い方だった。だが、ダイは言い返せずに黙り込む。確かにポップは、「今日は忙しいから相手出来ねぇぞ」と前置きした。それでも一緒にいたいから、大人しくしているからと駄々をこねて部屋へ入れてもらったのは自分だった。
 最初は大人しくしてポップの姿を見つめていた。ダイはポップの動く姿を見る事が好きだった。大好きなポップの姿なら、どんな姿でも飽きずに見ていられる自信はあった……あったのだが。
 自分が部屋を訪れたのは日も頂点に達していた午後。今は開け放たれた窓から月が見えていた。間にお茶の時間があったものの、ダイはベッドに座ったまま数時間ポップをただ見つめていたのだった。いや、すでに数十時間と言ったほうがいいのかもしれない……いい加減飽きていた。
 何も言わないダイに興味を失ったのか、ポップは机の上の書類に視線を戻し、平然とした顔で作業を再開させる。ダイはしばらくの間、相手の姿を睨み付けていたものの、なんだか無性に悲しくなって俯いた。シーツをぎゅっ…と握りしめ、唇を噛み締める。
 胸の中に溜まるどす黒くもやもやした気持ちを吐き出して、すっきりしたかった。でも、それをすればポップの事だから怒って自分を部屋から追い出して、次の日から口を聞いてもらえない……目も合わせてくれなくなってしまう。それどころか嫌われてしまったら……!
 悪い方へ、悪い方へと考えが進む。取り止めのない思考の渦にぐるぐると飲み込まれてしまったダイの目から、知らず涙が零れた。耐えるべく噛み締めた唇から僅かに声が漏れる。

「……ダイ?」

 人の気配と同時にすぐ近くで名を呼ばれ、慌てて顔を上げたダイの目の前に、困惑の表情を浮かべるポップの姿があった。

「っな、何泣いてんだ! お前っ」

 頬を濡らすダイの姿に驚いたポップは、床に片膝をつくと、着ている上着の袖で乱暴にダイの涙を拭う。ひとしきり拭い終わって、困ったように笑う相手に、ダイは顔をくしゃくしゃに歪めて抱きついた。

「ポップぅ〜おれ、おれ……っ」
「あーわかった、わかったから。ったく……」

 自分の首に腕を回し、すがりついてくるダイの背をあやすように叩いて、ポップはため息をついた。

「悪かったよ……これ終わらせたらまとまった休みが出来るから、お前と過ごそうと思って頑張っちまったんだよ。悪い」
「……え?」

 その言葉に、ダイは伏せていた顔を上げて、ポップをマジマジと見た。

「休み?」
「そ。パプニカのお偉い方はうるせぇからな。ちゃーんと仕事しといて堂々と外へ遊びに行く。そう決めてたんだよ」
「そう……だったんだ………」

 しばらく呆然としていたダイであったが、ポップの言葉に嬉しそうな笑みを浮かべた。

「そっかー」
「そうなの! だーかーら、もうちょい我慢しろ」

 恥ずかしさのあまり僅かに顔を赤らめたまま、ポップは反動をつけて立ち上がる。と、物凄い力で腕を引っ張られ体勢が崩れた。

「ぅおわぁ!」

 前のめりに倒れる寸前ダイの胸に抱きこまれる。鼻をしたたかに打ったポップは痛みに顔を顰めた。

「ダぁ〜イィぃ」

 恨みを込めて名を呼ぶポップに、先程の泣いたカラスはなんとやらの上機嫌な顔でダイは笑いかける。

「ポップありがとう、おれ凄く嬉しい!」
「……はーさいですか」

 その笑顔に毒気を抜かれたポップは、呆れたようにため息1つ零し、離れるために立ち上がろうとする。が、ダイはにこにこ笑うばかりで腕の力を一向に緩めない。ひ弱な魔法使いでは振りほどけなかった。

「…ダイ、いい加減離せ。作業、すっから」
「嫌だ」
「!!」

 がーん……ショック。あの良い子ちゃんのダイが……いきなり反抗期? ちょっと遅くねぇ? とかポップが頭をぐるぐるしている間に、ダイは次の行動に出ていた。ポップの上着の裾から片手を滑り込ませ、手触りのよい肌を確かめるように撫で、その首筋に唇を寄せると舌を這わせた。

「っ……! だ、こらっ……ダイぃ!!」

 思わず感じてしまい、真っ赤な顔でダイの体を引き剥がしにかかるポップの体を、やすやすと抱えてダイはベッドに押し倒す。スプリングの利いたベッドは二人分の体重を柔らかく受け止めた。

「な、こらてめ…おれぁ仕事がっ」
「うん、分かってる。でもおれもう我慢できないから先にさせて」

 にっこり笑ってダイはポップの唇を塞いだ。

「んっ……ふ、っ」

 口腔を思うまま蹂躙され、舌を嬲られ。ポップの抗う力を、思考を奪ってゆく。このままでは駄目だ、とポップは魔法力を練ろうとするも、先程のダイの表情と姿を思い出し集中を途切れさせた。あんな表情は金輪際させたくもないし、見たくもなかった。あれを見た時、どれほど自分の胸が痛かったことか。
 しょーがねぇ……と、諦めてダイの背に腕を回す。

(今回だけ、今回だけだあああ!!)

 心の中で念仏を唱えるように叫び、快楽の波に身を任せるポップであった。

「休みの日もいっぱい、いっぱいしようね」

 ポップの耳元で、ダイが声を弾ませながら恐ろしいことを、嬉しそうに言った……ような気がした。




去年のクリスマスぷれぜんとーとかって猫柳女史に送りつけたブツをかなーり手直ししてリサイクル(笑)
またなんか司城ポップは司城ダイ好き好ビーム垂れ流してますが(汗)
つーことは、去年からそうなんだなーと自分省み。
これはまだ手直し効くレベルであったからいいものの、伝染〜なんて手直しすら利かないまんまへたれ文でお送りしてます よ?

by司城らうい



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