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【Un tournesol】
 注意:直輝一人称/独白/15禁


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−直輝−

注意:直輝ー一人称/独白/15禁
 さらさらと、髪が躍る。
 白いシーツに広がったその黒髪が、やけに艶めかしく、鮮やかに俺の目に残る。
 肩よりも長いその黒髪は俺が一突きする度に、ばらけ、波打ち、まるで、もっと、と言うようにさらさらとシーツの上を躍っていた。

「蒼衣。」

 髪の毛の持ち主の名を呼ぶ。
 すると、甘い声で奴は応える。
 多分もうすでに理性をほとんど手放している蒼衣が、俺に甘くねだり、その綺麗な髪をさらさらと流しながらシーツの上で淫らに乱れた。
 その姿をこれ以上ない程の特等席で見下ろしながら、もっと可愛い声を、顔をさせたくて俺はその体を貪り、ついばみ、指先で弄る。
 そうすると蒼衣は震える様に体を快感で波打たせながら、俺にしがみついてきた。
 可愛い。
 素直にそう思う。
 そして蒼衣の髪が、俺の体にもまとわりついてきた。
 それさえも愛しくて、蒼衣の髪をひと房手に取ると、そっとそれに口付ける。
 ふわりとシャンプーの香りと、そして、発情した汗の匂いが鼻をかすめた。


 ――最初は男の癖にこの長髪はどうよ、とも思った。
 それ程蒼衣の長髪は俺の目には奇異に見え、やたらに目に入った。
 でもそれはほんの最初の頃の話だ。
 大学の教室で。いつもひとりで真面目に。それこそ誰よりも真面目に講義を受け、誰とも慣れ合わず視線さえも合わせずただ黙々と勉強を続けていた、蒼衣。
 最初見た時はその長い髪のせいか、その後ろ姿だけを見て長身な女だと思っていた。
 しかし、傍に寄り、化粧っ気のない横顔や、まっ平らな胸を見て、自分が勘違いをしている事にすぐに気が付く。
 男か、と何故か少しばかり落胆する。
 だから、男の癖にこの長髪はどうよ、と思った。
 それでもただ勉強をしているだけのその姿が、妙に印象に残って、その無造作に結ばれて背中に垂らされているやたらに綺麗な黒髪に目を奪われて、当時まだ名前も知らなかったその男の事が俺の脳裏の片隅へと棲みついた。
 そして、気が付けば、蒼衣の、男の長髪など気にならなくなっていって。
 その猫背気味の長身と、その長髪と、その人を寄せ付けない雰囲気で、時折大学構内で見かけるとすぐにあいつだと気が付くようになった。
 他の人間はあいつの事などまるで見えていないかのように振舞う。
 それなのに、どうして俺はあいつの姿を視線の片隅で見つけては、少しばかり、その姿を追いかけていたのだろうか。


 あの時も。


 あいつだ、と気が付いたのは、遠目にもハッとするほど綺麗なその黒髪。
 その黒髪を強面の男にあいつは掴まれ、なにやら因縁をつけられているようだった。
 普段の俺ならば、きっと、見て見ぬふりをしたかもしれない。
 顔だけしか知らない、話もした事のない、しかも男を助けるような義理などないからだ。
 それでも。
 無意識に俺はその男達の方角に歩き出し、せめてどんな事になっているのか少しばかり窺うつもりでそいつらに近付いて行った。
 風に乗り薄く聞こえてくるあいつを囲んでいる奴らの剣呑な声。
 その声に混じって聞こえてきた奴の、か細い、声。
 そして、その声に導かれるように視線を向けたその時。
 男の手が乱暴に奴の髪を掴み、引っ張った。
 途端に聞こえてくる奴の、引きつったような掠れた悲鳴。
 意識する間もなかった。
 足が勝手に駆け出し、気が付けばあいつの目の前に居た男の横っ面をこの拳で殴り飛ばしていた。
 一瞬自分でも何をしているのか、解らなかった。
 だが、それを考える前に自分の周りから驚きが湧きあがり、その次の瞬間にそれは殺気へと変わる。そして、それは当然のように俺へと向けられる。
 その殺気に反応し、俺の体は目の前で怯えた顔をしていたあいつから反転すると、あいつを庇う形で立ち、一気に周りを囲んでいる男達へと躍り出た。
 一人、二人、三人。
 最後の一人は健気にも俺に向かってへろへろのパンチを繰り出してきた。
 それを軽くかわし、そいつの顎先へと懐かしい感触と共に拳を叩きつけた。
 崩れ落ちる最後の男の向こう側に、怯えたような、驚いているような、そんな表情のあいつが見え、そして、酷く怯えた、びくついた声を俺に向けて出した。

「あ、あ……、あの……っ。あ、あ、あ、な、なん……。」

 その時の俺は、あまりにびくついて、怯えるあいつに少しばかり苛立ち、つい、不機嫌な声を出し、あいつの名前を出すとあいつは更に驚いたような、不安な顔をして俺をおどおどと見下ろした。
 その顔に、俺が倒した奴らに乱暴に扱われたあいつの綺麗な黒髪がさらりと流れた。
 白い頬にかかった黒い髪に、一瞬どきりとして、そして、俺は苦笑をした。


 
 思えば、最初からこの黒髪がずっと目に入っていた。
 心の奥底では、触れて見たい、とそう思っていたのかもしれない。
 人差し指に蒼衣の髪を一束絡め、その艶やかさを楽しむ。
 指先で梳くようにして蒼衣の頭を撫でれば、うっとりとした顔であいつは微笑む。
 その顔が、ひょっとしたら見たかったのかもしれない。
 今になってそう思う。
 いつも一人で。平気なふりをして。黙々と勉強をして。誰とも友達になろうともしなくて。話をしようともしなくて。信用もしていなくて。
 だから、気になった?
 目で追っていた?
 構内を一人で歩き、その速度で、風で、背中に無造作に垂らしている黒髪がふわりとなびくその姿を、俺はいつもどこかで探していたような気もする。
 手を伸ばせば届きそうで、だが、奴の人を拒絶する雰囲気のせいで、届かなかったそれに、今俺は思う存分手を伸ばし、指に絡め、この手のひらで、唇で、その柔らかく、さらささとした感触を楽しんでいた。
 そして、蒼衣もまた。
 俺が蒼衣の髪を撫でるのを、触れるのを、梳くのを、キスをするのを、嬉しそうに照れくさそうに受け入れて、微笑む。
 それが嬉しくて。
 俺は飽くことなく、奴の髪を触り、奴の全てを貪りつくした。


 俺の体の下で蒼衣が甘く啼く。
 その綺麗な黒髪をベッドシーツの上に淫らに躍らせながら。
 白と黒の隠微なコントラストを俺は脳内に焼き付け、更に激しく蒼衣を攻め立てた。
 あぁ……っ、と蒼衣が啼いて、そして俺にしがみ付き、びくびくと痙攣を起こす。
 俺の腹の下で蒼衣自身が太く膨張し、どくっ、とその先端から欲望を吐き出した。
 それとともに俺もあいつの髪に鼻先を埋めながら、蒼衣のナカへと何度目かの精を叩きつけた。
 指を蒼衣の髪に絡ませ、その汗ばんだ感触を愉しみながら……。



「直輝くんって、誰の髪もこんな風に触るの?」

 つるみ始めて少ししたころに、不思議そうに蒼衣に聞かれた言葉。
 それを聞いて初めて俺が必要以上にこいつの髪に触れている事に気が付いた。
 そして思考を過去の彼女達へと持っていく。
 思えば。
 付き合った女達の誰一人としてこんな風に頭を撫でたり、髪を触ったりしていたような記憶がない。
 いや、無意識で触っていた事はあるかもしれない。
 今、俺が蒼衣にしているように。
 だが、幾ら記憶を掘り起こしてみてもあまり他人の頭を、髪をこんな風に撫でたり触ったりした事はない。

「……いや。そういや、あんま触らねーな。」
「……そう、なの?」

 どこかほっとしたような、嬉しそうな表情をする蒼衣。
 それに気が付くと俺はひっそりと笑う。
 そして、蒼衣の体を抱き寄せるとその耳に囁いた。

「……お前だけだ、蒼衣。」

 ちょっとばかし意地悪な気持ちを込めて。悪戯のつもりで。
 だが、蒼衣は俺のその言葉にかぁあああ……っ、と顔からうなじから真っ赤に染め上げると、思わずキスしたくなるような可愛い顔になって俺を見下ろした。
 だからそのまま、その驚き、どもっている唇を俺の唇で封じ込める。
 口の中にあいつの驚きが反響して、そして喉の奥へと消えて行った。
 手は頭に。その髪に。
 さらさらと心地よいその髪の感触をたっぷりと感じながら、自分が思っていた以上に髪フェチだった事に俺は小さく苦笑した。
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