「ちょっと私の家に寄っていくから―」 それだけを言うと、遠坂はスタスタと歩き出した。 お互いに無言で、いや、俺の方は話したいんだけど、今日は何だか声を掛け辛いから少し後ろを歩こう。 いつも「私の隣を歩くの」と言ってくるのに、今日はそれも無い。 どうしたんだろう。また機嫌を損なわす事でもしてしまったのだろうか。それとも、女性特有のあの日なのか…。 あれこれと考えている間に遠坂邸へ到着。  遠坂邸― いつ見てもでかくて立派な洋館だよなぁ。今ではすっかり俺の家に住み着いちゃってるけど、こんな所でこいつはずっと一人で暮らしてたんだよな。 遠坂は玄関扉に手をかざして対敵用結界の魔術施錠を解いている。聖杯戦争が終った今となってはただの空き巣防犯にしかなっていないようだが。 そして物理的施錠を外し、玄関を開けた。 「お邪魔します」 ガチャと出来るだけ静かに玄関を閉め振り返る。と同時に、遠坂もぐるりと勢い良く俺の方へと回れ右をし一声。 「士郎!」 「うわっ!な、なんだ!?」 目の前で呼ばれ、かなり驚いた。 ここまでずっと遠坂の後ろにいたから分からなかったけど、やけに顔が赤いぞ?それに息遣いも荒いような。 「遠坂、ひょっとして熱でもあるのか?」 熱を測ろうと遠坂のおでこに手をやろうとした瞬間、 「私、もう我慢出来ないのよっ!」 そう言うとバッと俺の手を取り駆け出した。リビングを突っ切り、階段を駆け上り、遠坂の部屋までは一瞬だった。 何が何だかさっぱり分からない。それにしてもこいつの手…。すごく熱い…。 ガチャリッ! 部屋のドアをふんっと開ける。そのまま部屋に連れ込まれると乱暴にグイっと引っ張られ放された。 「うわっ!」 ボフッ! その勢いでそのままベッドへと頭から倒れ込む形となってしまった。ったく、乱暴だなぁ。どうしたってんだよ…。 しかし、これは…。フカフカのベッド。遠坂がいつも寝ていたベッド。遠坂の匂いがする。 カァッとなって我に返る。 「すっ、すまん!勢い余ってついベッドに。」 謝りながら遠坂の方を向くと、目を疑うような光景が。 遠坂が制服を脱いでいる…。 既にスカートは床にあり、ベストはほっぽられ、ブラウスのボタンをブチブチ外している最中だった。 唖然としている俺に向かって遠坂が言う。 「さぁ始めるわよ、士郎。覚悟なさいよね」 妖しくペロリと舌なめずりすると、まるでムササビが飛膜を広げるの如くブラウスをはだけさせた。 「い、一体どうしたって言うんだよ、遠坂!」 「さっきも言ったじゃない。我慢出来ないって」 フフンと不敵に微笑む遠坂。 「我慢出来ないって…」 ふと我に返り、遠坂の大事な部分に目をやる。と、そこにはある筈のモノが無い。 「ととと、遠坂っ!シシシ、ショーツはっ!?」 最早、呂律が回らない。慌てふためく俺にこいつは更に追い討ちをかけるように、とんでもない事をさらりと言ってくれた。 「そんなもの端から穿いてないわよ」 「!??」 「大丈夫よ。ウチの制服は丈長いんだから」 「そういう問題じゃ…!」 ほとんど網掛かっていて、隠す部分を寧ろ目立たせているブラにガーターにストッキング。色は遠坂カラーの一つであるブラック。 それ等はただでさえ妖艶さをかもし出していると言うのに、ショーツだけを穿いていないという状態が 遠坂のアレを際立たせていて余計にいやらしい。それによく見たらもう濡れてる…。 「そんな事どうでもいいの!もう限界なんだからっ!!」 じりじりと迫ってくる遠坂。 「わーっ!待て待てっ!待てって!!」 「なによ。私とするの…、嫌なの?」 「違う。違うけど、こんなんじゃぁ…。うん。今日の遠坂はちょっとおかしいんだ。もう少し冷静になるんだ。な?」 ピクリと眉をひそめる遠坂。 「これから性交するのに冷静になれっていう方がどうかしてるわ!だって私達まだ性交に関しては未熟過ぎるもの。  それとも何。士郎は沈着冷静に性交出来るほど男を上げたっていうの?」 くっ。惜しげも無く「性交」という言葉を連発してくる。 「そんな事ある訳ないだろ」 …そう。そんな事ある訳がない。普段でさえ、遠坂が居るってだけで緊張するってのに、ましてや遠坂と交わる時なんていつも心臓が 口から飛び出そうなくらいだ…。今だってそうなんだから…。しかし、今の俺って完全に男下げまくり……。 「あぁ、もう!こうしてるだけでも限界なんだから!」 バフッ! とうとう遠坂が抱きついてきた。 「うぉわっ!?」 ドクッ ドクッ ドクッ 胸の鼓動が聞こえそうになるくらい激しく高鳴る。そして暫く見詰め合う。沈黙の中、二人の荒い呼吸だけが交わされる。 「遠坂…顔、真っ赤だ…体もすごく熱い…」 「なによ…士郎だって…。アソコ…すごく硬い…」 「うっ!」 と、ジワっと遠坂が瞳を潤ませる。 「…誰の所為で…こんな風になったと思ってるのよ…」 うわっ、ヤバイ…。今のは来た。こんな風に迫られたら、俺…。 「…誰の為に…こんなにエッチになったと思ってるのよぅ…。ぐすっ…」 うわわっ、マジで…ヤバイ…。遠坂の泣き顔…。可愛すぎる…。ていうか、遠坂…。俺の為に? 「…士郎の為なら、こんなにエッチにだってなれるんだからぁ…。ぐすっ。士郎の事、思ってない時なんて無いんだからぁ…」 そうだったんだ。初めての時も遠坂からだった。本当はすごく脆くて壊れそうなのに、今だってこうして…こんなに体当たりで…。 あぁ、俺ってバカだな。 俺の中で何かがはち切れる。 恥ずかしさという、こいつの前では無意味な感情。冷静なんていう俺には相応しくない薄っぺらい関が破られたのはあっという間。 「遠坂っ!」 ぎゅうと遠坂を抱き締めた。 「きゃっ!?」 遠坂の声。遠坂の匂い。遠坂の吐息。遠坂の鼓動。遠坂の体温。伝わる全てが。遠坂の全てが愛しいと感じる。 そしてまた見詰め合う。 「遠坂…」 「ん…」 「泣き顔、可愛いかった」 「もう…。バカ……。キス…して…」 「分かった」 優しいキスをしながら二人、その日は激しく獣のように混じり合った――