Vol.02 - 『HAPPY太り』…超短編二段目。

 遠坂凛は絶句していた。

 「な、なによ…なんなのよ、これ…」

 いつものお気に入りのスカートに足を通し、腰まで上げる。そしてチャックを閉めようとしたその時、彼女は気が付いてしまった。

 「き、……きついわ…」

                 
 
 ズガーンと脳内に稲妻が落ちた。

 なによなによなによ、なんなのよー! 今までこんな事なかったのにー。

 なに?なに?何が原因だと言うの!? そう。こうなったのには何か原因がある筈だわ!

 落ち着いてよーく思い出すのよ、遠坂凛。

 仕様が無いので穿きかけのスカートをまた脱いで、パンティいっちょでベッドに腰掛けた。

 むぅぅと、額に手を当て何故こんな事になってしまったのか記憶を手繰る。

 「聖杯戦争が終ったからって鈍ったとでも言うの?いいえ。トレーニングだって毎日欠かさず行っているわ。それに…」

 それに、毎晩アイツとあんなに激しい事してるっていうのに…って、バカバカバカバカバカバカ!私のバカ!何を考えてるのよーー!

 光速よりも早く赤面する。

 でもでも、もっと痩せていいはずよ。だってあんなに激しいのに…ってまたバカバカバカバカ!ちがーう!

 部屋で一人ボケツッコミをする。

 そうよ。ご飯だわ。アイツの作る料理が美味しいからついつい食べ過ぎちゃうのよ!

 一人暮らしの時はどちらかと言えば粗食だったわ。明らかに衛宮家に御呼ばれ(居候だけど)され始めてからよ。

 大人数だと会話も弾むし、セイバーや藤村先生に釣られて私もついつい大食になっちゃうのよね。

 こういう賑やかな食卓は子供の頃からの夢だったもの…。

 もう寂しい生活には戻れない…。戻りたくない…。フフ。私も随分弱くなっちゃったわね…。

 ふぅ、と、一息。溜息を吐ききるとパンパンとほっぺたを叩いて気合注入。

 そうよ。食べたなら食べた分だけ動いて消化すればいいだけの話。なにも今の生活を手放す事なんて無いんだわ。

 今晩から士郎にはもっと頑張ってもらわなくっちゃ!

 だってだって仕様が無いじゃない。アレが一番運動量多いんだもの…。気持ちだって良いし…。

 毎晩の事を思い出し、また赤面してしまった。

 美味しい物を食べて、気持ちいい事して維持出来るのなら万万歳じゃないの。

 両方実践してこそ遠坂凛だわ!

 グッっと拳を天に向かってガッツポーズ。

 「気が楽になっちゃったら何だかお腹が空いてきたわね。今日は士郎が夕食当番だわ。献立はなんだろう」

 「士郎ー。今日の夕食は何を作るつもりー?」

 台所まで聞こえる大きな声で凛はドアを開ける。

 一度吹っ切れてしまった凛は強い。一度決めた事は並大抵の事では捩じ曲げない。

 遠坂凛は今日もゆく。幸せへと向かって一直線。

 穿き忘れたスカートを置いて――


 
 またお馬鹿だ…。
 この後、士郎に「ななな、なにやってんだ、バカ!」と怒られるのは当然の事。
 ここ一番で失敗する女。それが遠坂凛。
 すっかり平和になり、幸せ太りになる凛様でした。

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