10月30日 ハロウィン

突如、城の一角から打撃音と悲鳴が上がる。
そこには魔法使いの恰好の朱然と頭を抑えた周泰。と割れたかぼちゃ。

「これ以上こうされたくなかったらお菓子出してください」

言葉は丁寧だが明らかに脅迫している朱然。

「せめてやる前に言ってくれ……」

ハロウィンはかぼちゃを投げつける儀式はなかった気がする
と思いつつも泣く泣くお菓子を渡す周泰。
そこへ悲鳴を聞きつけた孫権がやってくる。

「義封」
「あ、仲謀様」
「その恰好いいな」
「ありがとうございます!」

楽しく会話する二人。
てっきり自分にかぼちゃを投げつける朱然をいさめてくれるものと思った周泰。
こっそり涙する。

が、落ちているかぼちゃを拾って孫権が朱然に言う。

「でも義封、幼平の頭にかぼちゃぶつけちゃだめじゃないか」
「すみません」

孫権に怒られて謝る朱然。
ああ、さすが仲謀様。なんてお優しいと感動しているのもつかの間。

「ハロウィンはかぼちゃをかぶせるもんだろ?」

そういって割れたかぼちゃを周泰の頭にかぶせる孫権。
見事すっぽり入りもはやコメントの仕様もない周泰。

「でもそれじゃ御菓子もらえなくないですか?仲謀様」
「んーそれもそうだな」

考え込む二人。
そこへ凌統がやってきた。

「こんにちわです」

そんな凌統はなぜか天使の恰好。

「可愛いな凌統」
「お似合いですね」

そういって二人が凌統にお菓子を上げる。
凌統は二人にお菓子を貰ってご満悦。

「いたずらしてないのにお菓子もらいました」

喜ぶ凌統。
それを聞いて二人が思い出す。

「そういえば『Trick or treat』って言うんでしたっけ?」
「そういえばそうだったな」

はははと笑いあう孫権と朱然。
よく分からないけど二人が笑っているので一緒に笑う凌統。

さて、お菓子を貰う方法が分かったので他の人からも貰おうと
城に向かう3人。

「仲謀様は何の恰好にします?」
「そうだな……何がいいかなぁ……」

なんて楽しく3人でお話して歩きますが、肝心の大人達がいません。

「みんなどこいったんでしょう?」

と朱然が疑問を口にしたところで凌統が外を指差します。

「父上達はみんな洞穴に行きました」
「洞穴?」
「あい!なんかピカピカしてました」

言われて二人が首をかしげる。

「そういえば今朝呂子衡が占いで洞穴の方に凶事があると言ってたな」
「父上も急いでどこかに行くとか言ってましたね」

こうなると好奇心旺盛な子供。行ってみたくて仕方ない。

こうして3人はかぼちゃを被った周泰をほったらかして
洞穴のほうへとむかいました。

2

さて、洞穴についてみると確かに入口から怪しげな光が放たれている。
そしてそこには呂範をはじめ、朱治、程普、黄蓋、
凌操や陳武、蒋欽に呂蒙、太史慈、孫策や周瑜まで来ている。

「兄上何してるんですか?」

孫策のもとへ駆け寄り孫権が尋ねる。
孫策たちは洞窟の入口で何やら騒いでいた。

「おお、権か。実はな……」

すごく楽しげに孫権に話しかける孫策を周瑜が脇から
肘鉄をくらわせて止める。

「ここは危険ですから仲謀様は城に帰って待っていて下さいね」

楽しそうな話を中断されて孫権は気になったが、再三訊ねても、

「危険です」

と、他の武将たちにも止められてしぶしぶ来た道を戻る孫権達。

「絶対楽しそうだよな」
「そうですね」

危険冒険が大好きな江東っ子らしくどうにも自分たちも混ざりたくて仕方ない。

「他から入る道とかないですかね?」

と朱然が洞窟のほうに振り返ってみると、入口からやや離れた所にも微妙な光が見える。
孫権と朱然が顔を見合せて笑い、凌統も一緒につられて笑ってその場所へこっそり行ってみると
既にそこには先客がいた。
小さい子供と孫権ぐらいの子供が光る穴を覗いている。

「何でこんなこと光ってるんだ?」
「入るか?」
「やだよ。何あるか分からないだろ?」
「弱虫」
「なんだと!」
「あれ?文嚮じゃないか」

そう言って孫権が駆け寄る。
朱然も気が付き徐盛に話しかける。

「なんだ文嚮か、何小さい子に馬鹿にされてんです?」
「うるさい!山ン中で、こいつみっけて迷子かなと思って追ってたらここまで来ちまったんだよ」
「迷子はお前。俺違う」
「なんだと!」

怒りだす徐盛を放置して孫権が小さい子に話しかける。

「かわいいなぁ。名前は?」
「丁奉」
「統です。よろしくです」
「ん」

凌統に挨拶されて、丁奉がぺこりとお辞儀する。
その様子を見て朱然が徐盛に話しかける。

「なんだいい子じゃないですか。文嚮」
「言葉が生意気なんだよ」
「まだうまく話せないんですよ。子ども相手に大人げないですよ」
「大人げないぞ」

孫権にまで言われてへこむ徐盛。
そんな問答をしている隙に凌統は光る穴のほうへと向かう。

「きれいです~」

首を突っ込んで覗き込む凌統。
しかし頭の方が重い子ども。うっかりバランスを崩して穴の中へ転げ落ちてしまいました。

「凌統!」

初めに気がついたのは孫権。

「私が助けに行きます」

穴の中へ追いかけたのは朱然。

「義封!自分だけなんてずるいぞ!」

楽しげに追いかけたのは孫権。

「俺を置いていくな~」

一緒に飛び込む徐盛。
そしてなんとなくついていく丁奉。

こうしてみんな穴の中へを飛び込んでいきました。


3

穴の中へ落ちたお子様軍団。
みんなまとめてどさどさどさと地面に落ちる。

「なんで俺最後のほうに落ちたのに一番下なんだ」

そう言って下敷きになっているのは徐盛。

「お決まりですから」
「文嚮ありがとな」
「ありがとうです」
「ん」

そして上に乗っかった朱然、孫権、凌統、丁奉が降りる。
すると頭の上から微妙な光が降りてきた。

「随分ちんまいお客さんっすね」

ふわふわ頭上で浮かぶその物体をみんなで見上げてみると、

「カボチャが浮いてますね」
「しかも話し方が公奕だな」

不思議そうに眺めるのは朱然と孫権。

「公奕さんいつからカボチャに……」

勘違いしてるのは徐盛。

「きれいです~」

喜んでいるのは凌統。
丁奉はただ見ている。
そんなお子様軍団をゆらゆら揺れながら光るかぼちゃが眺める。

「かぼちゃじゃなくてオイラジャックランタンっす。
それよりそのまま居ると奴等の餌食になるっすよ」
「奴等って誰ですか?」
「この時期はあの世とこの世をつなぐ門が開くんすよ。
それにたまたま入り込んだ人間襲いに来るやつがいるんすよ」
「どこにでも好奇心旺盛な奴っているんだな」

自分を棚に上げて言う孫権。

「でもまぁ落ちてきてもオイラが外まで案内するんで、一緒についてきてほしいっす」
「って言われてもお前すっげぇ怪しくないか?」

いぶかしむのは徐盛。
それに対してジャックランタンは踊りながら答える。

「これは頼まれてしてることなんで、信用してついてきて欲しいっす」
「踊ってるしめちゃくちゃ怪しいぞ」
「ちなみにこれ武器っす。敵が来ても自分達で身を守って欲しいっす」
「楽しそうだから行こうぜ、文嚮」
「そうですよ。なんでも疑えばいいってもんじゃないし」

楽しそうに武器を選ぶは孫権と朱然。
みんなに武器を分配していく。

「文嚮は嫌ならここにいていいぞ」
「や、や、ついていきます」

置いて行かれそうになって慌てて武器をもらう徐盛。

「じゃ行くっすよ」

こうしてジャックランタンにつれられ出口へ向かうこととなったお子様軍団。
孫権は剣を、朱然は杖を、徐盛はハンマーを、丁奉はボウガンを、
凌統はタンバリンを手に奥へ進んで行く。
それを不思議そうに眺める徐盛。

「タンバリン武器なのか?」
「さぁどうでしょう」
「凌統が持ってるならかわいいからな」
「あい!」
「ん」

そんな事を云いつつもずんずん奥へと向かっていく。
そこへ一匹のミイラ男が現れた。

「幼平殿です!」

喜んだのは凌統。
抱っこしてもらおうとジャンプしたところを、孫権が抱きとめる。

「凌統、これは幼平じゃないぞ」
「でも確かに怪我したときとかに似てますね」
「なんか攻撃するのかわいそうだな」
「俺は全然問題ないけどな」

そう言って攻撃を仕掛ける徐盛。
大きなハンマーを振りかぶり、見事ミイラ男の頭に激突させる。

ぴこっ

「これピコピコハンマーじゃないか!」
「でもダメージ受けてますね」

大きさと重さの割には可愛らしい音のでる徐盛のハンマー。
やけくそになって徐盛が逃げ惑うミイラ男を、そのハンマーで叩きまくる。

ぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこぴこ

「ぴこぴこうるさいぞ。文嚮」
「もはやモグラたたきですね」
「たのしそうです~」
「ん」

こうしてミイラ男は撃退された。

「といっても文嚮が一方的に叩いてたけどな」
「酷いですね」
「ん」
「だって先手必勝だろ」
「おめでとうです~」
「んじゃ先行くっすよ~」

こんな感じでお子様軍団は先へと進んでいった。

4

仲良く進むお子様軍団。次に現れたのは、

「トカゲですね」
「しかも2本足で歩いてるな」
「ん」
「なんか蝶も飛んでるぜ?」
「かわいいです~」
「オレ、トカゲジャナイ!ドラゴンダ」
「なんだ子烈か」
「しかも大戦バージョンですね」
「子烈殿抱っこしてください~」
「丁奉今度お前攻撃してみろよ」
「やだ」
「ゼンゼンハナシキイテナイ。モウオコッタ。
オレオマエマルカジリ」

怒ったドラゴン尻尾でお子様めがけて攻撃してくる。

「今度のは生意気に攻撃くるぞ」
「前のは文嚮が一方的に攻撃してたからな」
「じゃぁ今度は私が行きましょう」

そう言って進み出たのは朱然。
杖を手にした朱然に孫権が話しかける。

「義封それどうやって攻撃するんだ?又叩くのか?」
「どうでしょう?なんかスイッチがありますね」

ぽち。

ドラゴンは黒こげになった。

「どうやら火が出るみたいですね。防柵再建じゃなくてよかったです」
「すっかりトカゲの黒焼きになったな」
「まさに燃えよドラゴンって感じだな」
「さむ」
「うるせぇちび!」
「先進むです~」

黒こげのドラゴンを捨ておいて次に進むと今度は広い河に出る。

「この河渡らないと先に進めないっすよ」

ふわふわ浮いているジャックランタンはそういうと先に川の向こうへ。
子供達は集まって会議を始める。

「俺と義封は泳げるからいいけど後はどうするかな?」
「俺だって泳げます!なんならこのチビ達担いで泳いでっても」
「他にわたる方法考えるか、義封」
「そうですね」
「本当ですって!」

孫権、朱然、徐盛達が膝づめで作戦を練っている間、
凌統は丁奉を連れて河のほうへ。

「奉ちゃんは泳げますか?」
「泳げない」
「統も泳げないです。困ったです」
「ん」

河岸で水をちゃぷちゃぷさせながら悩む幼児二人。
そこへゆらゆらと揺れながら幽霊船が近づいてきた。

「おや、そこにいるのはかわいらしいお子様たち。
良かったらこの船に乗りたまえ」

声をかけてきたのは幽霊船に乗る船長らしき大男。

「元代殿です~」
「ん」
「元代とは誰だか知らないが、私は元代でもなければ董襲でもない。
この幽霊船のキャプテンだ」
「あ、元代だ」
「凌統がいるとどこにでも出てきますね」
「だから私は…」
「とりあえずこの船に乗せてもらって岸まで連れてってもらえばいいんじゃね?
おい、乗せろよ。変態親父」

相変わらず相手の話を聞かない子供たち。
怪しみつつも幽霊船に乗る。

「岸まで行けばいいのかね?」
「ええ、お願いします」
「二人はちゃんと俺にくっついてろよ」
「仲謀様にくっつくです」
「ん」
「いやいや何を心配しているのだか」
「お前がいかにも変態だからだよ」

徐盛も朱然と一緒にけん制しながら幽霊船のキャプテンの側に行く。

「変態とは心外だな。私は子供をこよなく愛しているだけなのだが」
「まんま元代殿ですね」
「どこにでもこんな奴いるんだな」
「さてそろそろ岸につく。ここまで連れてきたお礼を頂きたいのだが」

そういうと幽霊船の船長が岸の手前ぐらいで船を止める。
それを見た徐盛が抗議する。

「まだついてないぞ」
「お礼を頂いてから岸につけよう」
「子供にたかるなんてせこいな」
「全くですね」

孫権と朱然も呆れるが、当の幽霊船の船長はそれさえも嬉しそうに聞いている。

「その代り、私が満足しなかったらこのまま私と一緒に旅を続けてもらおう」
「本性だしましたね」
「やっぱ変態だな」
「凌統と丁奉は俺から離れるな」
「あい。仲謀様」
「ん」
「何私を楽しませてくれれば問題ない。
そうだな、そこのタンバリンを持った、たしか凌統とかいったな」
「統が何すればいいですか?」
「こら!凌統そっち行くな!俺の側を離れちゃだめだぞ」
「あい」
「いいのかね?岸にはつけないが」
「うわっ子供脅迫してますよ!」
「楽しませればいいですか?」
「ああ、私を楽しませてくれたまえ」
「凌統!誘惑に乗るな!」

満面の笑みで迎える船長。
孫権がぎゅっと抱きしめる中、凌統がふと手にしたタンバリンに気がつきます。

「なら統、タンバリンで演奏します」

お子様凌統。
かわいらしくタンバリンを叩きます。

たんたんたん

「いや、私が言ってる楽しませるはそれでは……」

といいかけたその時。
凌統のタンバリンの音にあわせてなにやら降ってきます。

「いてっ!なんか当たったぞ」
「ん」
「あ、飴玉ですね」
「クッキーも振ってきたぞ」
「お菓子たくさん降ってきたです~」

凌統の演奏にあわせて降ってくるお菓子。

「たしかに面白いが、そうではなくて……」

と船長が言いかけたとき、凌統が降らせるお菓子がどんどんつもり、
次第に重みを増していき……。

「船が沈むぞ!」
「逃げましょう!」
「凌統!丁奉!文嚮につかまれ!」
「あい!」
「ん!」
「ぐあ!首絞めるな死ぬ!」

こうしてお子様達脱出。
船長は幽霊船と一緒に沈んで行きました。

「岸までが近くてよかったですね」
「本当に泳げるんだな。文嚮」
「疑ってて俺にちび達まかせたんですか!」
「ありがとうです」
「ん」
「……ま、いいか」
「渡って来たっすね。んじゃぁ次いくっすよ」

先に渡っていたジャックランタン。
みんなが渡り終えたところを確認すると、
更に先へと進んでいった。