「ごめんよ。でも今日はちょっと冴に聞いて欲しい事があってな」
「何じゃ?」
「昼休みの事なんだけど……」
例によって大村部長と福本副部長、後輩の彩乃と一緒に部室で昼食を食べようとしていた健。だが後期授業の始まった昨日から新参者が現れた。
「はーい坊や、お弁当よー♪」
満面の笑みで風呂敷包みの重箱を持ってやって来たのは小鈴の八乙女。夏休みに冴と一戦交えて負けてからは改心して付喪神の一味から抜け、大将軍八神社の巫女として奉職する傍ら、京都文科大学に転入生の「八乙女小鈴」として通い出している。だがその実は健に惚れ込んで、側に居ようとしているだけなのであった。
「坊やに食べてもらおうって思って、頑張って作ってきたんだから。さあ食べて食べて」
「いや、今日俺は冴が持たせてくれたのがあるんだよ。悪いけど……」
「さっちゃんが?」
嘗ての敵同士、そして今も恋敵として、喧嘩相手として対立している相手の名前を出されて面白くない八乙女。だがここはぐっと堪えて包みを解く。
「さっちゃんのはさっちゃんので食べればいいじゃない。せっかく私も坊やのために頑張って作ってきたんだし。ささ、私の坊やへの愛情こもりまくりのお弁当を召し上がれ」
八乙女が蓋を取った重箱には、一つ一つが健の拳ほどもあるおにぎりと、これでもかと云う程の量の出汁巻き、焼鮭、ケチャップ風味のスパゲティ、ハンバーグと何れも体育会系の学生でも見ただけで降参しそうな程のボリュームで入っていた。それらは健の好きな定番のお弁当のおかずであったにもかかわらず、である。
「(今度ばかりはあのハイエナどもに分けてやる、どころかこっちから食ってくれとお願いしたい所だよ)」
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