特別編 健のクリスマス
B-Part
「健君、起きなさい。健君」
「んん……寒い。もう少し寝かせてくれよ直美……」
「何言ってるの。起きてちょうだい健君ったら」
「あー、来年まで大学ねえんだしもう少し……あれ?」
直美と区別がつきにくいものの微妙に違う声音と「健君」の呼称に健は違和感を感じ、側に立っていたのが伯母の美春であった事に随分遅れて気付いた。
「あ、伯母さんでしたか……おはようございます」
「いつも直美に言われてるでしょ。早めに起きてくれないと開店準備で困るって。さあ健君、御飯食べちゃって」
「あーはい、今行きます……ところで直美は?」
「さあ、電話で話してたと思ったら井村さんに会いに行くって言って出て行ったわ。それっきり連絡も何もないわよ」
「ふーん、どこ行っちゃったんでしょうね。いつもなら今日はいの一番に俺に会いに来るはずなのに」
「ふふ、そうだったわね。健君がこっちの大学に通う事になったのをうちで誰よりも喜んでたのは直美だったもんね」
「とにかく俺は朝飯食いますよ。その前に着替えますね」
「ええ、早くいらっしゃい。お汁が冷めちゃわない内に」
襖が閉まったのを確認して、健はパジャマを脱ぎ始めた。
「はい、これは私達から健君にお誕生日のプレゼント」
朝食の後で美春が細長い包みを手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」
「ええ」
健が包みを開けると、出て来たのはクロスのボールペンだった。アメリカ製の高級品で一万円するのはざらにある。しかもご丁寧に「T.YAMAGUCHI」の名前までクローム地に黒文字で刻印してある。
「こんなにいい物を……わざわざ高い物ありがとうございます」
「いいのよ。大事に使ってね」
「はい」
健は上機嫌で部屋に戻ったが、すぐと直美がいない事を思い起こして彼女の携帯にかけてみた。電源が切られていて繋がらない。少し経ってからまたかけてみた。矢張り電源が切られているようだった。
「一体どこ行ってんだろうな直美の奴……」
頭を抱えた健の脳裏に数日前の出来事が甦った。
健が元吉で働いている時間帯に奈々香達がやってきた。
「いらっしゃいませ」
健は愛想良く奈々香に声をかけたが、それまで楽しげに道枝と祐子と話しながら入ってきた奈々香の顔が健に出くわした途端に突然翳った。道枝と祐子も不都合そうな顔をしている。奈々香は二人に目配せし、彼女達はウンと頷いて身を翻して出ようとした。
「おいおい、何だって俺の顔見た途端に逃げるんだよ」
「あんたには関係ないでしょ」
奈々香は吐き捨てるように言って出て行った。去り際に道枝が無言のうちに
「(ごめんね)」
と言いたそうな顔を健に向けた。
「何だよ、露骨に俺避けないでもいいじゃないか」
怒る健。ついこの間の日曜日に開催されたきらっ都プラザのコスプレイベントではさっきとは一八○度違う上機嫌で涼宮ハルヒに扮していたのに。知らない内に俺は奈々香に悪い事してたのかよ。それならはっきり言ってくれりゃいいじゃないか……。
「ほら健君、うどん定食できたから持って行って。健君!」
義郎に声を掛けられて健は我に返り、
「あ、すみません」
些か慌ててうどん定食の乗った盆を持って運んで行った。
「一体ありゃ何だったんだろう。『女心と秋の空』って奴か? それだけじゃねえような気もするけどよ……はぁ、思い当たる事がないだけに余計鬱にならぁ」
健が悶々としている所に彼の携帯が鳴った。発信先は「非通知設定」になっている。普段なら怪しい電話だろうと切ってしまう健だったが、何か予感を覚えて通話ボタンを押した。
「はい、山口です」
『山口健か』
低い女性の声が電話の向こうから聞こえてくる。
「ああそうですが、どちらさんですか?」
『お前の従妹は預かっている。その友人と一緒にな』
「おいちょっと待ってくれ、お前は誰なんだ。一体何が目的なんだ」
『来れば分かるから兎に角来い。安心しろ。お前が来るなら私は直美と奈々香とやら言う女の子に何もしないし、事と次第によっては無条件で解放してやってもいい。奈々香のアパートまで来るんだ。いいな?』
「待ってくれ」
相手が電話を切ろうとする気配を感じて、健は押し止めた。
「その前に直美の声を聞かせてくれ。本当に無事って証拠が欲しいんだ」
『……いいだろう』
『ケンちゃん、大丈夫。私は無事よ』
「良かった。今から行くからな、辛いだろうけど何とか耐えてくれ」
『耐える? 何にかしら?』
「へ?」
面妖な思いの健。今の受け答えだけでなく、誰かに拉致されたはずの直美の声が妙に落ち着き払っていたのも気になる。
『だって私は一緒に……』
『ちょっとやめなさいよ』
『だってケンちゃん凄く心配そ……ちょっと、やめ……きゃあ』
直美と誰かが揉み合う音を残して電話は切れた。直前に聞こえた涼宮ハルヒを思わせる耳障りなキンキン声。あれはひょっとして奈々香だろうか? まあ直美が無事なら助けに行くべきではないか。そう思った健は意を決して外に出ようとした。
「行ってきます」
「あら、どこへ行くの健君?」
「奈々香の家です。直美が今そっちにいるらしいんで」
「あらそう、気を付けてね……」
美春をよそに、健は自転車に乗って一目散に目的地へと向かって行った。
『来たな、山口健』
ちょうど目的地の、奈々香のアパートへ健が着いた頃にもう一度電話があって、犯人の声が聞こえてきた。どうやら窓の外から健を見ているらしい。
「おう、ここでいいんだな?」
『そうだ。早く上がって来い』
「直美は無事なんだな?」
『言ったろう。私は直美を無事に返してやると。疑い深い奴だな』
『ケンちゃん、早く来ないとおりょ……んぐぐぐ』
『余計な事言わないでったら』
直美の声が聞こえたと思ったらそこでまた誰かの怒声と共に電話は切れた。
「(何だ? どうやら事態は思ったほど深刻じゃねえみてーだけど)」
まあ直美には無事会えるんだから、と思いつつ健は奈々香の部屋の扉を開けた。
パン、パン
健が扉を開けるなり、クラッカーが鳴って、キーボードの伴奏に合わせて歌声が流れてきた。
まごころこめて 付き合ってくれた
やさしい心を 忘れない ケンちゃん
いろんなことが あったけど
生きていく 生きていく
喜びが 泉のように 湧いてくる
「お誕生日おめでとう(おめでとう)」
しあわせをみんなで わけよう わけよう
ケンちゃんの ケンちゃんの バースディーパーティ
あすへの夢と ねがいをこめて
ふきけす ローソクの 小さな火 ケンちゃん
いろんなことが あったけど
ほのぼのと ほのぼのと いつだって
ゆたかな心を 忘れない
「お誕生日おめでとう(おめでとう)」
しあわせをみんなで わけよう わけよう
ケンちゃんの ケンちゃんの バースディーパーティ
健の前にいたのはメイド服姿の奈々香、道枝、直美だった。横でキーボードを弾いているのは同じくメイド服を着た祐子である。
「ケンとナオには内緒で計画してたの。吃驚させたくてね。電話の声はあたしだったのよ。あたしの声の演技、なかなかなもんだったでしょ?」
「ああ実際吃驚したよ。直美が押し込み強盗に襲われてたって思ったじゃないか」
「怒らない怒らない。私達はケンさんのために頑張ってお料理作ったんだから。アドバイザーに直美を呼んでね。ついでにメイド服着てもらって合唱の練習にも参加してもらってたんだけど」
「そゆこと。ね、機嫌直してケンちゃん。奈々香達だってケンちゃんのためにこのパーティ企画してくれたんだから」
へそ曲がりの健が文句を言う前に先手を打って、直美は鶏の唐揚げを健の口に放り込んだ。
「……うめーじゃん」
モグモグと唐揚げを食べて健は呟いた。それでもまだ健が不足そうな顔をしているのに勘付いた直美は駄目押しで更に言う。
「ね、美味しくできてるでしょ? ケンちゃんが気に入るようにって思ってちゃんと味見もしたんだからね」
「(直美の気持ちを分かってあげなさいよ)」
レイヤーチームの三人組はそう言いたそうな目で健を見ている。散々畳み掛けられて健は苦笑混じりに言った。
「ふ、味な真似するじゃねえか。さすが漫画やアニメの世界にはまってるだけの事はあるぜ」
「(口ではああ言っててもケンちゃんは機嫌直してくれてるわよ。もう大丈夫)」
何か言いたそうな奈々香に直美は目で語りかけておいて、健を促した。
「さあ、早くこっち来て。主役が席に着いてくれないとパーティが始まらないわ」
直美が指差した先のテーブルには、蝋燭が十九本刺さったケーキを中心に色とりどりのディナーが用意されていた。
「はー……」
「ケンには随分無理もして付き合ってもらったしね。この機会にあたし達で精一杯お礼したいって思ってたの。とびきり美味しくできてるんだからしっかり食べてよね」
「ほおん、美味しそうじゃないか。しかも俺が最近食べたいって直美や伯母に漏らしてた物揃えてくれてさ」
「あのねケン、あたし達を誰だと思ってる訳?」
「レイヤーチームだろ」
「何で山女の家政科って言ってくれないかなあケンさんは。ましてみっちゃんはもう辞めたけどメイドカフェでお料理もしてて絶賛されてたんだからね」
「ちょっと……」
恥ずかしそうに祐子を見る道枝。そうして健に向き直って促した。
「さあ、こっちに来て食べましょ。今日の主役はケン君なんだし」
「ああ、ありがとう」
健が上座に座って、女性陣がその後に続く。コップにジュースが注がれた所で、
「それではケンよりお誕生日にあたってのご挨拶をお願いしまーす」
奈々香が宣言し、他の三人が先を促すように拍手を送る。少し恥ずかしそうに健は話し始めた。
「ああ……今年から京都に来て、あんたらの専属カメラマンになって大した事もしてあげられなかったと思いますが、こうしてサプライズまで用意した贅沢なクリスマスパーティを開催していただいたのは嬉しいです。こんな俺でよかったら今後とも宜しくお願いします」
「ううん、あんたの写真のおかげであたし達、コスプレ雑誌のインタビューさせてもらったのよ? 商業誌デビューよ商業誌デビュー! あれは本当に嬉しかったわ」
「そうか、奈々香達に喜んでもらえたなら撮った甲斐があったな」
「あの本は私達の宝物よ。ケン君には本当感謝してるんだから」
「そうそう、永久保存用に私は三冊も買っちゃったわ」
「そこまでしてもらえるとはな、はははは」
「さあケンちゃん、蝋燭の火消して」
直美に言われて健は一息で蝋燭を消した。響き渡る拍手。健は改めてジュースの入ったコップを手にして言った。
「それじゃ乾杯しようかね。山口健十九歳の門出を祝って」
「「「「「「乾杯!」」」」」
その後は一同和やかに談笑しながらの食事が始まった。何度か入った事もある、漫画やアニメやゲーム、そしてそれらを元に作った手製のコスプレ衣装に囲まれた部屋の中である。大型テレビでは涼宮ハルヒのDVDが流れていた。
「(こんな世界を知るなんて、こっちで暮らすようになってから思いもよらなかったよなあ……もう慣れたと言えば慣れたけど)」
「ねえケン、今年あんたが見たり読んだりして気に入ったアニメや漫画って何?」
「そうだなあ、マガジンに一回だけ載ったスケート漫画かな。ほら、今もあるかな。前にここで読んだ……」
「え、そんな漫画あったかしら」
「瀬上あきらの読み切りよ」
「祐、それって誰だっけ」
「ええっと、『KAGETORA』って云う忍者物のラブコメをマガスペで描いてて、本誌にも四回シリーズで描いてた人」
「えー、知らなかった」
「漫画だと何か分かりやすいんだよな。生意気な事言ってはいても本当の所は主人公が大好きなんだってヒロインの気持ちがさ。まあそれがああ云うラブコメでの決まりごとなんだろうけど……それで内苑が言ってた『KAGETORA』も読んでみる切っ掛けになったんだっけ。あれも良かったな。剣道の話出てくるし、ヒロインの設定が直美そっくりでよ」
「あー、分かる分かる。ぽややんとして鈍臭い所なんか似てるかも」
「ふうん、じゃあケンはナオの事内心鈍臭い女の子って思っるんだ?」
「お、おいちょっと待てよ奈々香。到底釣り合わない主人公に精一杯尽くしてくれる所、それがあの漫画のヒロインのいい所じゃないか? そんで俺はそんな所こそ直美らしいって……」
「ケンちゃん……」
心なしか嬉しそうな直美。そこで奈々香が突っ込んできた。
「ケン、本当にそう思ってる?」
「ああそうとも、京都に来て以来直美は俺に良くしてくれてて嬉しいし、その事には感謝してもし足りねえ。そう思ってる事は誓うよ」
「ふーん、じゃあ証拠見せてあげなさいよ」
「奈々香、別にいいわよ。ケンちゃんの気持ちは私よく分かってるから」
「ほうらケン、こんないい娘もちょっといないじゃないよ。でもケンったらそれに甘えてばっかりみたいなのよね。それは男らしくないってあたしは思うわ。今日くらいはあんたからナオに好意見せてあげたらどうなの?」
女の友情から出た一言のようで、実はそうではない事は意地悪そうに歪んだ口の端が物語っている。健がそれに気付くはずもなかったけれど。
「な……だ、だからってどうすればいいんだ」
「あたしに訊かれたってどうにもなる訳ないじゃない。あんたなりの形でナオに伝えてあげる他ないでしょ(さあ、ここでケンがどう出るかが見所だわね)」
当の健は困惑していた。改めて考えてみれば直美を仲良しの従妹と思ってはいても恋愛対象や花嫁候補と云う意味においての「女性」として考えた事などない。一緒に出かけてもそれをデートと意識した事もなかったし、
まして肉体関係になど想定の埒外である。加えて健は焦りから正常な判断ができなくなっていた。
「(ああ、俺はどうするべきなんだ。口だけなら何とでも言えらあな、でもそれで直美を納得させられるだろうか?)」
そう思った挙句に健は直美の両肩を掴んで、
「直美……」
直美の目をまじまじと見て名前を呼んだ。
「は、はい?」
「こ、こうして俺の好きな晩飯用意してくれて俺は嬉しいよ。本当にありがとう」
「え、あ、どういたしまして……」
「それにそのメイド服、直美に良く似合ってるぜ。こうさ、直美の可憐さが引き立っててよ……今日の直美、凄く綺麗だよ」
「あ、ありがと……きゃっ」
健は周囲を憚る事無く直美に抱きついてきた。慌てる直美。
「け、ケン君?!」
「ああら、晩熟に見えて大胆な所もあるのねケンさん」
「ゲレンデの雪も溶けるほど熱いわね、憎い事」
三人三様の外野の反応。奈々香が更に追い討ちを掛ける。
「いやー、流石に二人は昔からお互いをよく知ってるだけに仲いいわよねー。今あんたら、一つ屋根の下で暮らしてるんでしょ? そんならさあ……」
ツツツと奈々香が直美に寄って来た。
「おいちょっと待て奈々香、お前飲んでないか? 匂うぞ」
奈々香は健の発言を聞き流していたが、道枝は奈々香の背後でさいぜんまでほとんど使われていなかったはずのケーキ用ブランデーの小瓶が空になっていたのに気付き、更に目の下がほんのり赤くなっている奈々香に気づいて傍らで蒼い顔をしていた。まさに今これからとんでもない事が起きる事を予感しているかの如く。
「ケン君、ケン君、奈々ちゃんを止めて! じゃなかったら……」
「え?」
健は状況を掴みかねている間に奈々香は直美の背後に回りこんで、後ろから直美の胸を鷲掴みにした。
「きゃああっ?!」
直美が慌てたのは言うまでもない。まして目の前には健がいる。喜ぶどころか突然の出来事で反応に困ってオロオロする健が。
「ちょっと奈々香やめてよぉ、ケンちゃんだっているのに」
「ふふーん、そんなに恥ずかしがるって事はやっぱりナオはケンの事好きなんだ。ケンも勿体無い事してるわねぇ。あそこまでやっちゃうならこの際思い切って……」
「な……」
「ちょっと奈々香、そんな事……きゃあ」
奈々香は直美の着ていたメイド服の後ろのファスナーを外し、上半身を脱がせてしまった。ピンク色で赤いハートマークのプリントを散らしたブラジャーに包まれたそこそこ成長している直美の胸が露になる。奈々香は直美が恥ずかしがって嫌々をするのも構わずブラジャーのカップ越しに直美の胸を揉んだ。
「いやあ、駄目よ奈々香」
「うふふ、ナオったら結構おっぱいあるじゃない。形もいいしさあ」
「な、奈々香、いい加減にやめてやれ。直美は嫌がってるじゃないか」
「何よケンったらいい子ちゃんぶって。本当は従妹のセミヌード見られて嬉しい癖にほらほら」
奈々香はブラジャー姿の直美を健の前に突き出した。慌てて飛び出して道枝が奈々香を押さえて暴走を止めようとする。
「奈々ちゃんもうやめてあげてよ。直美ちゃん嫌がってるし、ケン君も却って困ってるの気付いてないの?」
「うーん、何よ、つまんない」
奈々香が口を尖らせる。カチンと来た健。
「奈々香、お前やっぱりそれが本音だったか」
「え、あははは、バレたぁ?」
「『バレたぁ?』じゃねえよ。俺と直美を玩具にしやがってこの……」
「うふふ、ケンさんと直美を困らせた奈々ちゃんにはおしおきだべぇ〜」
「う、内苑?」
健は祐子の顔も桜色になっていたのに気付いて慌てた。どうやら奈々香と一緒にケーキ用ブランデーを空けていたらしい。健もどこかで聞いたことのあるフレーズを口にした祐子は奈々香の背後からスカートをめくった。
「きゃあ、祐何するのよ」
「あらまあやっぱり一流のレイヤーは見えない所でもお洒落してるわねえ。クリスマス仕様の樅の葉っぱのプリント入りパンツなんて。ほらケンさんも見てよ可愛いからさあ」
「そう言う祐だって……あーやっぱり何気に気合入ってるじゃない。赤に白のライン入りサンタっぽいパンツ穿いて」
奈々香の矛先は祐子に向いて、お返しとばかり祐子のスカートをめくった。
「もう奈々ったら……あ」
セクハラで動揺していた祐子の視線がふと困惑していた道枝に向いて、奈々香もそれに続く。
「みっちゃ〜ん、あんただけパンツ見せてないのってやっぱ不公平じゃな〜い?」
「え、そんな恥ずかしい事……」
「でもあんた、露出の機会は公平にってのはあたし達西陣歌劇団の掟ですから〜、残念!」
「いや〜ん、そんな事駄目よ」
「そんなみくるちゃんみたいなとこが可愛いのよね〜」
「ほらほら覚悟決めてケンさんに見せたげなさいよ……ってあら、あんただけ普通の白パンじゃない。つまんないの」
「あー、あたしエッチなパンツ持ってるよ。この間ゲーセンで取ったの」
「それ面白そう、色も真っ赤で今日にピッタリだし。はいみっちゃん脱ぎ脱ぎしましょうね。こんな色気のないパンツよりこっちの方がいいわ」
「ああん、やめてったら。恥ずかしいから〜」
「お前らいい加減にしろよ。穏やかでない事はやめてまた楽しくパーティしようぜ、な?」
健は必死で騒動を止めに入り、道枝は健の背後に回って何とか事態は収拾の方向に向かって行った。酔いの回っている奈々香と祐子は面白くないような顔はしながらも。
「やれやれ、とんだ誕生日パーティになっちゃったな」
夜。健と直美は帰路についていた。歩いて奈々香のアパートまで行っていた直美に合わせて健は自転車を押して歩いている。
「うーん、奈々香は普段はあんな娘じゃないんだけど、お酒飲むとエッチになっちゃうみたいで……」
「おい、あいつら俺達とタメだろ。酒飲んでいいのか」
「新入生歓迎会でお酒が出てね、嫌がる奈々香に無理矢理飲ませた先輩がいるのよ……」
「で、その先輩は奈々香の餌食になったってか?」
「当たり。止めるまでずっとおっぱい触っててね、脱がせて直に触ろうとまでしてたの」
「何だそりゃ。ある意味セクハラオヤジより酷くないか」
「勿論奈々香は後で先生や先輩に怒られたわ。本人はその時の事は覚えてなかったみたいだけど。それでその後奈々香はフラフラになっちゃって、その時介抱してあげたのが私だったの。あんまりにも気分悪そうだったから……」
「ほおん、優しい直美らしいな」
「で、そこから私達はお友達になったの。お酒飲むとああなっちゃうけど普段は本当にいい娘達だから、これからも仲良くしていってね」
「そうだな。せっかく俺のモデルになってくれてるんだし」
やがて夜道にチラチラと雪が降り出した。
「あ、そうだ。渡しそびれてたけどこれ、私からケンちゃんにお誕生日のプレゼント」
直美は手に持っていた大きな紙袋から大きいサイズのジャンパーを出した。
「俺に? ありがとう、早速着てもいいかな」
「うん」
健はジャンパーに袖を通した。
「暖かいな。フードも付いて雪避けになるし。わざわざありがとう、直美」
「良かった、ケンちゃんが喜んでくれた」
「こんな従妹と一緒に暮らせて、俺は嬉しいよ。これからもよろしくな」
「うん、私もケンちゃんと一緒にいられて嬉しい」
従妹として、同居人としての絆を再確認しつつ、健と直美はクリスマスの夜道を歩いて行った。
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