Missing Ring　第五話「二重写しのlabyrinthos」　Opening

　轟々と吹きつける風の中、
　銀髪の少女が一人、渓谷を見渡す切り立った崖の上で立ち尽くしていた。

　あと数歩足を踏み出せば、
　その華奢な命など簡単に失うことになるだろう場所に居るというに、表情に怯えの色は無い。

『どうシたというノダ。このようなトコロ、我らの目的にハ関わりないと思うガ』

『ソウだぞ。危ないから、ハヤクこんな所離れろー？』

　どこからともなく娘に言葉が届く。
　魔法とは違う、耳元で直接語りかけられたような感覚を伴う声。

　辺りには彼女以外、何者の姿もないというのに。

「……わからない。わからないけど……、
　この先で……誰かに、会わなきゃいけない気がする」

　瑞々しい葉が一枚。強風に巻かれ、彼方へと飛び去っていく。
　まるで、唇引き結ぶ少女の導きとなろうとしたかのように……。

　◇　◇　◇

　埃まみれの書庫で、青年が一人、
　──肩に青銅色の仔猫が乗っているが、まあとにかく一人で──書を探していた。

　遠い昔魔術師達が忌避し、隠蔽した、
　しかし後に同じ過ちを繰り返さぬよう、口伝としてのみ残した忌わしい物語。
　世界には存在しない筈のその書物を。

「『識りたがり』な『死にたがり』の姫君の書庫、とか、聞こえは良いけど……。
　皆おおざっぱに本を積み過ぎだよ。……これじゃただの迷路だ」

「あら。何百年でもかけて貴方が掃除すればよろしいんじゃなくて？
　どうせ『語り部』の役割もろくに出来ていないのですし」

　青年──ルイスは、アウローラの刺してきた棘に、苦い笑みを浮かべて応える。

「そんな事云って……ホントは、アウがレトの傍に居たいだけなんでしょ。
　……っと、こ、れ……は」

　そんなの当然ですわよ！とぷんすかしだした仔猫に構わず、
　青年は本で築かれた山の麓から、一冊の書を掴み出した。

「〈巫祝〉が消えて、〈天使狂い〉が再来した。
　……予感、が外れていてくれればいいけど」

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