恋は恋
糊の効いた木綿のシーツは汗ばんだ肌にさらりとまとわりついた。ざらりとした風合いは、絹とは違う固さが火照った身体には殊更心地よい。粗い生地が汗を吸い込み、さらりさらりと身体を包み込んでくる。
窓越しに差し込んでくる午後の日差しが白い生地に映え、陽光に包み込まれているような気さえする。
ディアッカはシーツに頬を何度も擦り付け、うっとりと微笑んだ。
「どうしたの?」
「んー、なんでもない」
間近に聞こえる声に目を開ける。視界いっぱいにノイマンの顔が飛び込んできた。
藍色の瞳が優し気に細められ、見詰めている。ディアッカはノイマンに手を伸ばし、指先を頬から唇へ、顎先から首筋へと落とした。
指先が首筋から胸に辿り着いたところで、ディアッカは小さく首を傾げた。
「あの人と、したの?」
胸から肩甲骨にかけて、白い肌にいくつも紅い痣が刻まれている。その鮮やかさからは、それがつい最近付けられたばかりだと窺い知れる。
「しょうがないよ。戻ってきたばかりだから」
「そんなに頻繁?」
「殆ど毎晩」
「すごい!」
「前線に出てる軍人サンは体力も無尽蔵みたいで。相手をするこっちはもう限界なんだけど」
うんざりと言わんばかりに溜め息を付くノイマンにディアッカはすり寄り、胸の上に顔を乗せた。
「3年ぶりなんだし、しょうがないんじゃない?」
「それはディアッカも同じってこと?」
「んー」
ディアッカはノイマンの胸に顔を伏せ、低く唸った。
「俺の方は毎晩じゃないんだけど、呼び出されたら長くって。もう最後の方になったら、気持ちいいのか、苦しいのか、眠いのかわかんなくなってくるし」
「なんか……すごいね」
「結構大変なんだから」
「それだけ執着されてるってことじゃない?」
「かもね。でも」
ディアッカはノイマンの胸から頭を下ろし、ころりとシーツの上に転がった。
「おかげで会うのが難しくなっちゃったから」
「……うん」
ディアッカとノイマンが出会った時、その時既にお互い心から愛し、愛される人がいた。
当時も、今も、尋ねられれば、その人が一番大切だと答えられる自信はある。その気持ちに偽りはない。
だが、それでも惹かれあう気持ちはどうしうようもなく、二人が隠れて時間を共にするようになるまで、そう長い時間はかからなかった。
初めて抱き合った時に交わした約束はひとつだけ。二人でいる間はお互い最愛の恋人になること。
その約束に縋り、二人は隠れて逢瀬を重ねた。
やがて激化した戦況と戦後の混乱が、二人から本来の恋人を引き離した。悲しくて、辛くて、寂しくて。いなくなってしまった恋人を求める気持ちは消えることはなく、だから相変わらず隠れた逢瀬を続けていたのだけれど、再度の戦火で恋人たちは二人のもとに戻ってきた。
「俺たち、結構複雑だよね」
「しょうがないけどね。今更だから」
再会は心からの喜びと幸福をもたらしてくれたが、そのせいで二人の時間を持つのが難しくなったのも事実で。
会えないと思えば会いたくなる。帰ってきた恋人への愛情とは別に、会いたいという思慕の念が募る。
「大好き」
「ん、俺も」
白いシーツの上で手を伸ばし指を絡めた。握り合う手の力にディアッカは安堵の笑みを浮かべた。
「好き。ほんとに大好き」
きっと、これからもずっと。
END