前略ムウ・ラ・フラガ様(宇宙で一番短いラブレター)
ムウ・ラ・フラガ様
とりあえず生きてておめでとう。
あのヤキン・ドゥーエの激戦をどうやって生き延びたのか、聞きたいことは色々あるけど、それは今は聞かないでおきます。
ちゃっかりファントム・ペインの指揮官になってたあたり、意外に世渡り上手だったことに驚きはしたけどね。
まあ、そこんとこは記憶を失くしてたらしいし、あまり問い詰めるつもりはないよ。
蛇足だけど、ユニウス・セブン落下阻止の時、アンタの指揮してた部隊のせいで、俺の部隊、かーなーりのダメージ受けたんだよねぇ…… アンタには関係ないことかもしれないけどさ。
ところで、アンタ、先日の戦闘で記憶を取り戻したらしいじゃん。
それなのにまともに連絡してこない、ってどういうこと?
バルトフェルド隊長経由でキザったらしいバラの花束は受け取ったけど、宇宙でこんなモン用意するくらいならメールの一通でも送る方が簡単じゃねぇの?
っつーか、似合わねぇし。
なんかイザークもAAへ殴りに行きたい相手がいるみたいだから、ついでに俺も同行しよーかなーって思ってます。
……首洗って待っとけ、ボケッ!!
ディアッカ・エルスマン
===========================================================
これは……やばい。まさに危機的状況だ。
ムウ・ラ・フラガは愛しい恋人から届けられた手紙を手に、ふるふると身体を震わせた。
行間に漂う怒りのオーラは、憤怒に顔を歪めたディアッカの姿を伝えてくる。
こんな時は自分の勘の良さを少しばかり恨みたい。知らなければ素直にディアッカの訪問を喜べただろうに。
なんとかしなければ。
折角ケガが治り、記憶も取り戻したというのに、また医務室に逆戻りなんて真っ平だ。
更に言うなら、怒り狂ったディアッカと生身で対峙するくらいなら、旧型スカイグラスパーで完全臨戦態勢のデスティニーとレジェンドとインパルスのド真ん中に飛び込むほうが、よほどマシだ。
少なくともあっちは五体満足で生き残れる可能性が5%ばかりあるけれど、こっちは殺されることはないけれど五体満足でいられる可能性は全く無い。
俺の王子様は、限りなく無慈悲で過激なのだ。
フラガは手紙をデスクに置き、腕を組んだ。
脳細胞のありったけを動員し、考えに考えた。何度も手紙を読み返し、手がかりを探す。
やがて、ふとした一文に唐突に天啓が降りた。
手紙を鷲掴み、食い入るように読み返す。
やはりこれだ。
フラガはデスク上の個人端末に飛び付き、宇宙間通信の回線を開いた。
--------------------------------------------------
From: "Mwu La Fullaga"
To: "Dearka Eltheman"
Subject: To My Sweetheart
ディアッカ。
すぐに連絡できなくてゴメン。
言い訳になるけれど、色々と後始末があって……
お詫びと変わらぬ愛情を込めて薔薇の花を贈ったのだが、
気に入ってはもらえなかっただろうか?
--------------------------------------------------
まずは様子見がてらに、普通に謝罪メールを送ってみる。
返事が来るかどうか。
いや、絶対来る。来るはずだ。
というか、来ますように、神様お願い。
両手を握り合わせ、フラガは端末のディスプレイに祈りを捧げた。
一分、二分……
あぁ、まさかもうこっちに向かってる?!
遅かったかー、とフラガが逃亡の計画を立て始めた時、端末がメール受信のサインを送ってきた。
恐る恐るメールを開く。
--------------------------------------------------
From: "Dearka Eltheman"
To: "Mwu La Fullaga"
Subject: Ass Hole!
アホ、ボケ、スカタン
薔薇の花なんて、今時はやんねぇんだよ
ブァァァァカ 凸( `皿´ )
--------------------------------------------------
やっぱり怒ってるぅっ!
逃亡か、それとも真っ向勝負で謝り倒すか。
……いや、まて。ここで焦ってはいけない。まだ可能性はある。
その証拠に、顔文字が。
きっとこれは「怒ってるけど、本気じゃないよ」のサインに違いない。
希望的観測が当社平均70%程含まれてはいるが、ディアッカの性格からして本気モードでブチギレている時にメールに顔文字は使わない。
おっそろしいほどバカ丁寧な文章で返してくるか、もしくは完全無視。ヘタをすると受信拒否だ。
クモの糸より細い希望に縋って、フラガはもう一度メールを書いた。何度も書き直しているうちに、段々と表情が緩んできた。
なんとなく、だけど。この端末の向こうで、イライラしながらディアッカがメールを待っているような気がする。
何度も文章を読み返し、フラガは送信ボタンをクリックする。
今度こそ、この気持ちの一片がディアッカに届きますように。
--------------------------------------------------
From: "Mwu La Fullaga"
To: "Dearka Eltheman"
Subject: Sorry
ゴメン。本当にゴメン。
でも、愛してる。
会いたいよ。愛してる。
--------------------------------------------------
END