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彼女が僕に恋をする 甘く悲しい夢を見た


砂塵舞う黄色い風が吹く街で、一人の女性と暮らしたことがある。
長い黒髪が美しい、百合のように凛とした人だった。
いつも砂糖菓子のような甘い声で名前を呼んでくれた人だった。

幸福、だった。
常に危険と隣り合わせの日々だったが、それでも思い返す記憶はどれも幸せに満ちていた。

だが、両手を血に染めた人間がその手に幸福を掴むことなど、神には到底見過ごすことなどできなかったようで。
大天使の振るう剣の一閃に、優しい時は終わりを告げた。

長く美しい黒髪は灰になり、ひと時の幸せは永遠の夢と化した。


無為の時の中、怨嗟の記憶は繰り返し甦る。
何故、かの人は死ななければならなかったのか。
あの美しい人が、何故炎に包まれ、その美貌の欠片すら残さず灰塵とならねばならなかったのか。

全てを戦争のせいに出来るほど若くもなく、ただ戦場に二人身を置く選択をした己を呪い続けた。

暗黒の宇宙は爆炎と閃光に照らされ、数多の名も無き兵たちの命が散った。
生き急ぐつもりは無かったが、いずれ自分のその屍の一つになるのだと。
かの人が待つ黄泉路への旅に出るのだろうと思っていた。

だが、永遠に続くかと思われた戦火もやがて終焉を刻を迎え、束の間の平穏が訪れた。
誰もが平和を喜びながら、亡くした命に涙した。





小さな、小さな御伽噺の国で、僕は彼女と出会った。
その人は最愛の人を失い、さみしい、さみしいと泣いていた。

さみしい者同士がその手を取り合うまでに、そう長い時間はかからず。
欠けた心を補うように、海辺の小さな家で一緒に暮らすようになった。

懺悔と後悔は尽きることはなかったが、一人ではない、ただそれだけが嬉しかった。
欠けた者同士、幻影と暮らすママゴトのような生活の中、控えめな優しさが暖かくて。
いつかは、と儚い夢すら抱いて。


だが再び戦火は世界を覆い、そこで彼女は欠けた半身を取り戻した。


その日、人形の家はその役目を終えた。





精一杯の恋をした。
そして、僕はまた誰かに恋をするだろう。






END