頭が重い。
ずっと前から目は覚めていたけれど、瞼を上げるのも億劫で。頬にあたる布地の感触も心地よく、ディアッカは半覚醒の波に漂っていた。
「ディアッカ。起きろ」
ドアがスライドする音の後に自分を呼ぶ声がした。だがその命令口調が気に入らなくて、ディアッカは寝たふりを続けた。
「起きるんだ」
冷ややかな声音と共に顔面に冷たい水がディアッカに上に降ってきた。
「てめぇ、何のつもりだっ!」
「狸寝入りを続けるからだ」
ディアッカが目を開けると、傍らに水差しを逆さに持ったフラガが立っていた。
「何の用だよ」
言いながらディアッカは身を起こそうとしたが、思うように身体が動かない。全身の関節が軋み、身体の奥に疼痛が走る。
「な、なんで……?!」
「そりゃあれだけハードなセックスしたんだし、しょうがないでしょ」
フラガは、ディアッカの腕を掴み身体を引き起こした。その顔には、ニヤニヤと厭らしい笑みを湛えている。
「セックス…?あっ……!!」
脳裏に蘇る記憶。身体を開かれ、男を受け入れさせられた自分。全身を這い回っていた男の指と舌の感触。
フラッシュバックのように蘇り、ディアッカの脳裏に次々と押し寄せてきた。
「ぁ、ぁ、------うわぁぁぁっ!!」
悲鳴が喉から迸り、全身がガタガタと震えだすのを止められない。
どれだけ叫んでも記憶は次から次へと蘇り、ディアッカの眼前に突きつけられる。男に抱かれ、女のようにそれを受け入れた浅ましい自分を。
震える身体を両腕で抱きしめて泣くディアッカの耳元に唇を寄せると、フラガは下卑た笑みとともに囁いた。
「最高だったよ、お前の身体」
「ちがっ、違うっ!」
「違う?何故?お前は自分から足を開いて俺を誘っただろ?俺の口でアレを舐めてほしくて。俺のを銜え込んで可愛く啼いただろ?『イイ』『もっと』って」
「やめろ-------!!」
自分の一言一言がディアッカを追い詰め、涙を流させている。フラガの顔には残酷な笑みが刻まれていた。
もうすぐこの哀れな子供は自分の手に堕ちてくる。
フラガはディアッカの腕を取ると、室内にあった姿見の前へ引き摺っていった。
鏡の前に立たせ、ディアッカの顔を鏡へと向けさせた。鏡に映ったディアッカの身体には、所々赤い痕が印され、腹部には自分の放ったモノが白く乾いて残っていた。
「見ろよ。まだ乳首が立ってる。赤く腫れて……お前はココを弄られただけで、イッたんだ。…この赤い痕が付いてるところ、これ全部お前のイイとこだよ。ここを俺が噛んだらお前はイイ声で啼いたよ。それに、ここ」
フラガは片手をディアッカの最奥に伸ばし、指を潜らせた。
こじ開けられた最奥からは、フラガが放った白濁がディアッカの血を伴ってとろりと溢れ、ディアッカの足を伝って流れ落ちていった。
生々しい光景に耐え切れず、鏡に映った自分から目を逸らそうとするディアッカの顎を掴み、フラガはディアッカの視線を無理矢理鏡へと戻させた。
「ここでお前は俺を受け入れた。女みたいに足を開いて、俺のモノで突き上げられて悦んだだろ」
「やめてくれ、お願いだから……もう、やめてくれ……」
「認めろよ。自分が男に抱かれて喜ぶ淫乱だ、って」
「やめて…違う、やめて……」
ディアッカの双眸は涙が溢れ、嗚咽がとめどもなく漏れていた。
言葉で嬲られ、目の前に突きつけられた現実の惨めさは、ディアッカのプライドを打ち壊すには充分すぎるもので。ディアッカは床に崩れ落ち、顔を上げることもできず泣き続けた。
自分の足元で全身を震わせて嗚咽を漏らすディアッカに、フラガは追い討ちをかけるように言葉を続けた。
「今はそうやって嫌がって泣いていても、男に抱かれてしまえば、お前はまた自分から身体を差し出すんだよ!」
「違う!違う!!違う!!!もう、やめてくれー!」
フラガの言葉を自分の声で打ち消すように、ディアッカは否定の言葉を叫んだ。頭を振り、床をかきむしるように爪を立てて。聞く者全ての胸を引き裂くような、哀れな泣き声が部屋に響いていた。
フラガがディアッカを抱き起こそうと膝を折ると、ふいにディアッカの嗚咽が止まり、小さな声が聞こえてきた。
「……ザフトに…プラントに、帰して…」
「帰る?どこに?」
「ザフトに、帰して……プラントに…戻りたい」
どこまでも自分から逃げようとするディアッカ。
自分がどういう立場なのか、わかろうとしない哀れな子供。
フラガは殊更優しい口調で、ゆっくりとディアッカに最後通牒を突きつけた。
「最初に言っただろ。お前は俺が捕まえた。手放すつもりはない。お前は俺のモノだ。逃げることは許さない」
「ディアッカ・エルスマン。前に出ろ」
連合軍の下士官たちが銃を構えて鉄格子の前に並んでいる。いつもながらの猛獣扱いにディアッカの口から溜息が漏れた。
コーディネーターを化け物だとでも思っているのか。遺伝子操作をされているとは言っても、人間に変わりはないのに。
銃口に囲まれた中、ディアッカの両腕に手錠が掛けられ、拘禁室から連れ出された。
「今日は何の用?尋問?釈放だったら嬉しいんだけどね」
相変わらず返事は無い。元から応えがあるとは思っていなかったけれど。
背後から銃を突きつけられ、連合軍兵士たちの珍獣を見るような視線に晒されながら、長い廊下を渡り、何個もセキュリティドアを潜って、居住区らしいエリアに着いた。
両側に続くドアのそれぞれに電子ロックが付いているところを見ると、どうやら士官クラス以上が使う個室が並ぶエリアのようだった。
つらつらと眺めながら歩いていると、前を歩く兵士がひとつのドアの前で立ち止まり、電子ロックを操作している。ドアが開くと、背後の兵士が銃口で室内へとディアッカを追いやった。
「なんだよ、全く。こっちは大人しくしてるだろ、こういう銃で指図するやり方ってないんじゃないの?」
「相変わらず威勢がいいね、ディアッカ・エルスマン君」
ドアの前に並ぶ兵士の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
からかうような、嘲るような口調に、身体が硬直していく。人垣が割れ、見覚えのある金髪と、蒼い目の男の姿が目に飛び込んできた。
「フラガ少佐、ご指示どおり捕虜を連れてきましたが、本当にいいんですか?」
「あぁ、艦長の許可は得ている。ご苦労さん、あとは俺がやっとくから」
兵士たちが男に敬礼し、部屋から出て行く。ドアが閉まり、部屋には男と自分の二人だけ。ディアッカの背筋に冷や汗が流れた。
「……あんた…フラガっていうのか?あんたが「エンデュミオンの鷹」なのか?」
「あたり。っていうか俺、名前を教えてなかったっけ?ムウ・ラ・フラガだ。覚えておけ」
フラガが歩を進めるにつれ、ディアッカが後退る。
フラガの優しげな笑顔の奥の冷たい眼光が、ディアッカは怖かった。
「来るな!俺に近寄るな!」
「なーに?拗ねてるの?しばらく構ってあげなかったから?」
「違う!」
壁際に追い詰め、逃げ場がなくなったところで、フラガはディアッカの身体を抱き寄せた。腕の中の身体は小刻みに震えている。
「今日からここがお前の部屋だ」
久しぶりに腕に抱く体は相変わらず細く、しなやかで、フラガは確かめるようにその身体に指を這わせていった。
「拘禁室じゃ、お前を抱くのも手続きが面倒でね。警備兵を追っ払ったり、監視カメラを切ったりするのにも、いろいろ理由がいる訳よ。ここなら、いつでも好きな時にお前とヤれる」
「いやだ、そんなの、いやだ。どうしてだよ、どうして俺なんだよ!」
「どうして?お前が俺を誘ったんだよ。戦場でも、ここでも」
「ちがう!」
どうしてこの子供はこんなに自分を煽るのが上手いのか。口では抵抗しても、その身体は大人しく自分の腕の中で震えている。
フラガはディアッカの首筋に顔を寄せると、その褐色の肌を味わうように唇を落としていった。そのわずかな刺激にさえ、身を震わせるディアッカが愛しくて、抱き寄せる腕に力を込めた。
「この俺を誘ったんだ。その代償は高くつく」
フラガはディアッカの身体を抱き上げると、ベッドの上に放り投げた。起き上がろうとする体を押さえつけ、ディアッカの服を剥ぎ取っていく。
「いやだ、やだぁ!!」
これから始まる行為に怯え、ディアッカが泣き叫ぶ。その悲鳴を唇で塞ぎ、フラガはディアッカをベッドに沈めた。
フラガの身体に巻き込まれ、ディアッカの吐息が徐々に熱を帯びていく。
流す涙も、悲鳴も、すべてがフラガのものに。
END