「首を。銀の大皿に乗ったヨカナーンの首を」
七枚のヴェールの踊りの褒美に、サロメがエロド王に所望したのは預言者ヨカナーンの首。
「私を退け、酷い言葉で罵ったヨカナーン。
一目でいい。この私の姿を見てくれたなら、きっと私に恋したはずなのに。
ヨカナーン、貴方は私を見もしなかったのに、私を拒んだ。
こんなに私は貴方に恋しているのに」
銀の大皿を満たし滴る血は苦く、サロメに恋は苦いと知らしめた。
-----この恋も、やはり苦いのだろうか。
「ん、ぅ……」
ずるりと体内から抜け出るものは、つい先程まで熱を孕んで自分を穿っていたもの。
穿たれる度に、切ないような心地よさに包まれ、声が上がる。甘い、掠れた声が。
その声に煽られたかのように、ソレは一層の熱と質量で自分を穿つ。
だから、もっと煽ってやるために、声を上げ、啜り泣きすら零してみせる。
もっと深く。
もっと激しく。
混沌の中でしか会えない、アノ人を見るために。
「ディアッカ。おまえ、誰を見ていた」
情交後の疲労に揺蕩い、気だるげな呼吸を繰り返すディアッカの髪を指で梳きながら、
フラガは何とはなしに問いかけた。
答えがあると期待した訳ではない。
きっとディアッカは冷え切った瞳のまま甘えた仕草で誤魔化すのだろう。
だが、身体を重ねる度に募る焦燥感は、臨界点を迎えそうになっていて。
この紫瞳が写すものが、自分だけであれ、と。
この紅色の口唇に触れるものが、自分だけであれ、と。
願わずにいられない。
身体を重ねるうちに、いつか自分の手の中に落ちてくるかと思っていたが、一向にその気配は
無く、いつも視線は自分を素通りする。
ならば。
聞けばいいのだ。
「おまえを俺だけのものにするには、どうしたらいい?」
止める間も無く口をついた言葉に、ディアッカの唇が笑みの形を作る。
濡れた唇の狭間に、茜色の舌先が薄く覗き。
魅入られる。
「…………を…」
「何?」
掠れた声で小さく告げられた言葉は聞き間違いだと思いたくて、フラガはもう一度問い直した。
「ラウ・ル・クルーゼの首を」
配下にいたのに。
同じ隊にいたのに。
仮面越しの視線は、自分に向けられる前で止まる。
まるでここにいないかのように。
視線すら惜しむように。
クルーゼは自分を見なかった。
自分はこんなにも、恋しているのに。
あの仮面の奥の瞳は蒼いのだろうか?
それとも翡いのだろうか?
想うのは、そんなことばかり。
頤の線が似ている気がしてフラガに抱かれてもみたけれど、やはり募るのはただ一人への思い。
「クルーゼの首を」
恋に比べれば、死など何と簡単なことか。
それでも、恋だけを一途に想う。
END
みゃおさんからイメージイラストを頂きました。画像サイズが大き目なので
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