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ウワサバナシと悪魔の辞典


さて第一問。
アークエンジェルの中で一番ヒトが多くて賑やかな場所はどこでしょう?

答え:ビュッフェ(食堂)
理由:AAの乗員が一日に2〜3回は必ず訪れる場所だから。
しかも食事時くらいにしか顔を合わせない者同士が情報交換、とばかりに雑談に興じ、ブリッジやブリーフィングルームではなく、ココで決定する重要事項も多い。AAにおいて全ての情報はココを中心に流れている、と言っても過言ではない。つまり、AAの核、だから。

では、第二問。
そんな目立つ場所で椿事が起こっていたとしたら、どう対処するのが一番賢い選択でしょう?







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「ねぇディアッカ〜」
「うるさい。名前呼ぶな」
「じゃあ何て呼べばいいの?」
「呼ばなくていい」
「ひどぉい、つめたぁい」

ランチタイムでごったがえしたビュッフェ。そのど真ん中のテーブルでは、きつい目をした少年と顔面の筋肉をだらしなく弛緩させた男が向かい合って座っていた。
周囲の喧騒が聞えていないかのように、少年はひたすら淡々と眼の前の皿を空にし、男はランチの乗ったトレイを傍らに押しやり、少年の顔を覗き込むように頬をテーブルに乗せている

「ディアッカってばぁ」
「うざい。うるさい。あっち行け」
「もぉ〜、つめたいんだからぁ。そういうとこもかわいいんだけど、でもかわいくなぁい」
「イイ年して語尾を伸ばして喋んな。気色悪い」

べたべたと話し続ける男を、ちらりと一瞥し、少年は男のセリフを切り捨てた。
小気味良いほどにハッキリとした物言いは、いっそ潔い良くさえあるが、ナイフのような鋭利さで男を一刀両断で切り捨てていく。
しかし。

「もぉ、そんな木で鼻をくくったような言い方しなくてもいいのぃ」

通じてない。めげてない。溶けかかった砂糖のようなねばっこさで、男は更にベタベタと少年を構い続けた。
いや、構い倒し続けた。
そのシツコサは、飼い主に怒られても叱られたことにすら気が付かず尻尾を振り続け擦り寄っていくバカ犬の如き執念深さで。それがせめて子犬のように愛らしい子供や少女であれば可愛らしさもあるのだろうが、悲しいことに男は平均以上に逞しい大型犬に分類される。うっとおしいことこの上ない。
それを徹頭徹尾スルーを続けられるのも、ザフトのエリート中のエリート、ザフトレッドだった少年だからこそだろう。
その証拠に、運悪く近くに居合わせた一般クルーは、「見てはイケナイものを見てシマッタ」とばかりに、そそくさと二人から距離を取っている。
それでもやはりガマンの限界なのか。フォークを握り締める少年の手が、ぷるぷると震えていた。

「オッサン……」

マジギレ5秒前。低い声音に押し殺した怒りが見える。

「食事時くらい静かにできねぇのかよ……」
「じゃあディアッカ。おにーさんのお願い聞いて! そしたら静かにするからっ」
「おねがいぃ?」

いかにも「怪しんでます」と言わんばかりに語尾を上げ、少年は胡乱な視線を男に向けた。

「そう、お願い。一個だけ!」
「……とりあえず言うだけ言ってみろ」
「聞いてくれるのっ?」

きらきらと瞳を輝かせ身を乗り出す男から、すいっと少年は上体を反らして身体を離した。

「聞くだけは聞いてやる」
「ヤラせて!」
「………死ね!」

握り締めたフォークを男に向かって投げつけ、少年は吐き捨てた。投げられたフォークは男の頬をかすめ、背後の壁にビシィッと突き刺さり、ビヨンビヨンと柄を揺らしている。

「チッ……外したか」
「あ、危ないじゃないっ。俺に突き刺さったらどうするつもりっ?」
「どうもしねぇよ。騒音が消えて清々するだけだ」

しれっと言い放ち、少年はトレイを手に取り席を立った。何事も無かったような落ち着いた態度に、周囲の空気が凍りつく。さすが「追い詰められると残虐」と言われるだけのことはある。

「それ以上言うと、マジでキレるぞ」

ここで「もうキレてるじゃん」とツッコミを入れられるのは、「影の艦長」と呼ばれる操舵士氏くらいだが、運悪く彼はこの場にはいない。
平凡な一般人には「ボクは何も見てません。何も聞いてません」と、眼の前の料理に集中するのが精一杯。

「ディアッカ〜」
「シツコイッ!」

眉を顰め、唇をへの字に曲げた男に、「話は終わった」とばかりに少年が背を向ける。
カツカツと響く靴音に、やっと平穏が戻ってくると皆が一様に胸を撫で下ろした時。

「お願いしますっ!」

少年の足元に男が身を投げ出した。膝をつき、額を床に擦らんばかりに下げて、いわゆる「土下座」だ。

「オッサンッ?!」
「もう一回だけヤラせてくださいっ。こないだ、また相手してやる、って言ったじゃない? だからもう一回! ちょっとだけでいいからっ」
「この……クソボケがぁっ!」







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答え:見て見ぬフリ。



END