蝶 番
反発しあう光と影を無理やり形にしたような面に、ぴしりとひびが入った。
だがその奥の両眼はひたと正面を見つめたまま瞬きもしない。
ひびは亀裂となり面を蹂躙し、やがて断絶を引き起こす。
今の今まで一護の顔を覆っていた仮の顔、
人の顔の造形を象った無機質なそれは、
意味ももたない白い欠片に、あるいは黒い欠片になって、
カラカラと乾いた音を立てて落ちていく。
面が剥げた跡には、一護の顔。
それは人間の顔。
命と形と死を併せ持つ存在。
自ら纏った仮面を剥がしただけだというのに、
まるで勝利を得たのだとばかりに晴れ晴れとしたその顔つき。
自分こそが絶対律だとばかりに俺に向かって笑むその不遜さ。
ああ、わかってるさ。
今を生きるお前は確かに強くて奇麗だ。
反論の余地もない。
だが、俺の眼が追うのは消えてしまったあの仮面。
まるで泡のように、呼び出されては消えるそのはかない存在。
それもお前の一部じゃないのか?
目を逸らし拒んだ挙句、力ずくで押さえ込んで、ただの力として利用する。
その一方で、その力を憎み、怖れ、また目を逸らす。
自ら呼び起こした恐怖を己の咎と認めながらも、全てを受け入れられずにいる。
まるで自らの尾を喰らう蛇のような堂々巡り。
お前はそれでいいのか?
「頼むから・・・」
堰を切って声が零れ落ちる。
だが、何を頼むというのか?
お前は人間であり続けろと?
それともあの存在をそっとしていておいてやれと?
人であること、生きていることに思い上がるなと?
だがもうひびが入っているんだ。
取り返しなどつくものじゃあない。
もう、誰にも、何もできない。
後はすべてが無に還るのを待つだけ。
俺はそれ以上、言葉を紡ぐことができなかった。
そして項垂れ、一護の胸に頭を押し当て、その鼓動を振動として全身で聴く。
そんな俺を一護はそっと抱きしめる。
防御を失った剥き出しの魂のままで。
三つ巴コラボの習作として、みゃおさまのイラストに付けさせていただいた文です。イラストはPCサイトにのみ掲載しておりますので、ご了承ください
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