-わだち-




近道しようぜと、芝生の上を走リ出すと、 足元から微かに枯葉を踏んだような音がした。
振り返ると、芝生の緑に白く残る俺の足跡が続いてる。
踏まれて砕かれた氷の結晶が、朝日を浴びてキラキラと光っている。

少し緑の色が褪せてきたと思ったのは、早すぎる初霜のせいだったのか。
見上げると、すごく澄み切った青空に、吐いた息が白く薄い雲を作って、もうすっかり秋なんだなあと思う。

「… 寒いはずか」

思わず声にしてしまった言葉の響きに、改めて季節を感じた。
どんなに暑くても、どんなに長く感じても、 夏はいつか、終わるんだってこと、忘れてた気がする。


「オイ、どうした、遅刻すんぞ」

頭を叩かれて振り向くと、俺を追い越していく恋次の赤い色が空と重なる。
なんだか一瞬、それが紅葉か何かみたいに見えたけど、 季節なんか関係なしの年中無休だと思うと、笑いが込み上げる。
いつもみたいに、痛てェだろと怒鳴り返す気にもならない。
恋次は恋次で、
「何、笑ってんだ。気持悪りィな」
と見下してくる眼も笑ってて、日差しの透明さを映したか、いつになく明るい色で。
だからなんだろうか。
少し、胸が痛くなった。

その痛みを消したくて、
「何でもねえよ。ほら、行くぜ」
と軽くジャンプして恋次の頭を叩き返し、走り出すと、恋次は案の定、喚きながら後を追って走ってきた。


─── 白い息はすぐに溶けて消えてしまうけど、 やっと訪れた秋も、やがて紅葉と共に消えてしまうけど、 でも今は俺たちの足跡は重なって、途切れ途切れの軌跡を描いてるんだろ。 なら、今日はなんだかすごくいい一日になりそうな気がする。


振り向くと恋次は、鬼の形相で追いかけてきてた。
俺は気分よく、更にスピードを上げた。
きっと学校に着く頃には二人して汗だくだろう。
風邪、引いちまうかもしれないなあなんて思いながら、俺はひたすら走り続けた。




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