「100title」 /「嗚呼-argh」
波
「ん・・・っ」
まだ序の口だというのに、いきなり一護がヤバい声を出した。
堪えた声が鼻に抜けてしまったときの、強請るような甘い声。
それだけでも相当だというのに、自分のその声に驚いたのか、眼を大きく開いた挙句、ぷいと視線を横に逸らしてしまった。
一護の身体の下に広がる寝床の白い布との対比のせいか、月明かりだけとはいえ、目元どころか全身まで薄く色付かせてきてるのがよく見えた。
全く。
そこまで動揺を晒してどうする。
俺は軽くため息をついた。
これだからガキってのは困る。
自分ってもんを知らなさすぎる。
無自覚もそこまでいけば扇情と同意だとか、そんなことまで教えてやんなきゃなんねえのか?
ならば身体に直接、叩き込んでやるかと不埒な考えが脳裏を横切ったが、まだ始めたばかりで不安定なこの関係。
しかもフタを開けてみりゃ、一護は想像以上にまだまだ子供。
生意気盛りだったってのにすっかり騙された感がないでもないが、けど大事に育てるっつってもなあ。
んなのは俺の性分じゃねえし。
まあ仕方がねえ。
とにかく今日はずいぶんとほぐれにくかったしと、落ち着くまでと全部埋めたまま動かずにいたのを、軽く揺すって反応をみてみた。
すると案の定、一護は歯を軽く食い縛り、繋がったままのソコに圧迫感が増した。
押し開いていた足が軽く跳ねて、俺の腰に当たる。
それを押さえつけて少し腰を引いてみると、すぐに全身が強張る。
解し方が足りなかったか、それとも心の準備とやらが出来てなかったか。
とにかく今日は、硬い。
「痛いのか」
「なわけねえだろ」
「ムリならムリって言え」
「んなことねえって言ってんだろ・・・っ」
つか痛てえんだろ?
身体、ガチガチになってんじゃねえか。
訊いた俺もバカだが、そんなふうに痛みの逃し先を探りながら、強がりをほざき返すテメエはもっとバカだ。
マジで誘ってんのか。
つか痛えのがイイとか、変な風に歪んできてるわけじゃねえだろうな?
少し不安になったが、硬いのは身体と表情だけで、肝心のソコは解けて熱く絡んできてるし、モノだってちゃんと硬いままだ。
ってことは、自分の身体に付いて来れてねえだけかもしれない。
ならば今度はと、不規則な締め付けに理性を失いそうになりながらも、繋がってるところ、薄くなった皮膚にこれ以上負担をかけないように気をつけて、
押し付けたままの腰をそろりと上方に向けて軽く揺らす。
すると一護の好きなところに触れたのだろう。
ひくりと肩が竦められ、腰が跳ねる。
声を堪えた緊張が下っ腹まで波のように降りていったと思ったら、俺をきつく締め付け、痛いのか知らねえが、くぅと小さく鳴いた。
そして、まるで俺のせいだとばかりに睨みつけてくる。
勝手なもんだ。
だがこの反応からすると、何も感じられてないわけじゃねえみたいだがな。
さて、どうするか。
一護だって若いだけに、ココで止められちゃキツいだろうし、何より俺が収まりがつきそうにねえ。
今止めたら、無理やりにでも咥えさせてしまいそうだ。
仕方ねえな。
「オイ、一回抜くぞ」
「え・・・? ちょっ・・・」
軽く揺すりながら抜こうとすると、一護の身体が大きく強張った。
これじゃ抜けねえだろと咎めようとしたら、今度は一護の足が大きく俺に絡んできた。
そして俺を睨みつける。
「オイ・・・ッ」
冗談じゃねえぞ?
やる気かテメエ。
つか持つのかよ?
だが声に出して問う前に、
憮然とした、一護らしいといえばこの上なく一護らしい表情と、らしくもなく絡んで離そうとしないその足に、言わんとすることはなんとなくわかった。
ならばハッキリ言葉にしろと怒鳴りつけたくもなったが、絶対一言たりとも強請るもんかとばかりに食い縛られた口元に、あっさりと煽られ、流されるように覚悟を決めた。
ずっと一護の顔の両脇に付いたままだった両手を引いて身体を起こし、軽く開いたままの一護の足、両膝裏に掌を当てる。
遡って腿の内側に掌を滑らせると、一護の眼が少しだけ細くなり、眉間の皺が深くなる。
素直によがって見せればいいものを。
ぐっと、それでも角度にだけは気をつけて腰を入れると、一護は、
「いっ・・・てェ・・・」
ときつくきつく眼を瞑った。
ほら、見てみろ、痛てェんじゃねえか。
声だって妙に堪えるから呼吸が滞って、余計、身体が硬くなんだろ、このバカが。
「オラ、やっぱムリじゃねえか」
すると一護は、慌てて瞼を上げて俺と視線を合わせた。
負けず嫌いの表情が覗く。
けれどやっと唇が薄く開き、吐息が零れ落ちた。
多分、本人はただの呼吸だと思っているのだろう。
自分が刷いたその色に気づいているとは思えない。
だから真っ直ぐに俺を見る。
見続ける。
まるで勝負事のように。
俺はため息を堪えた。
阿呆が。
これ以上、煽るんじゃねえ。
痛い目をみるのはテメエだぞ。
俺は何とか気を逸らそうとした。
だがここまでだってかなり堪えている。
急がないように、
焦らないように、
怯えさせないように。
人間として能力も戦闘経験も精神力も何もかも尋常じゃないのかもしれないが、色事相手じゃさすがの一護もどうにもなんねえだろ。
しかも自分が子供すぎることに自覚ナシときてる。
アタマと身体と意地だけで付いてこようとするから、育ちきれてない心が置いてきぼり喰らってる。
だから、な。
俺は一護の頬に手をやった。
だから俺は、なけなしの理性とか気遣いとかそういうのを振り絞ってんだ。
いつだって必要以上に大人の余裕を演じてる。
テメエがムリしなくていいように。
テメエがいつでも自分の意思で去れるように。
それが裏目に出てる気がしないでもないし、限界だってある。
まあでも、
そんな予防線を張るほど弱い自分のことも、知りすぎるほど知っているしな。
一護を抱きしめたくて身体を前倒しにすると、期せずして深く奥を突いてしまったのだろう。
んんっと一護が切なげな声を上げた。
その髪の中に、そっと指を忍ばせると、
湿った細い髪は頼りなさげに絡み付いてきた。
それが思いがけず柔らかくて気持ちよく、まるで一護そのもののようで、だからそれを壊さないように俺は、ずっと奥まで入れたまま、ゆっくりと腰を揺すり、内壁で擦れて生まれる微妙な快楽だけで欲を逃がし、その間にも一護の肌を擦り、口付けて、一護がちゃんと慣れるのを待った。
どれぐらいそうしていたか、何がきっかけか。
ふっと一護が深いため息をついた。
顎が上がり、身体も少しだけ柔らかくなった。
俺を見てた眼はいつの間にか伏せられ、睫毛に月の光が落ちている。
落ち着いたのか?
「一護・・・?」
薄く睫毛の下から強気な瞳が覗いた。
ならば。
「・・・一護」
ぐっと腰を入れて、一護の好きなところを狙った。
体が跳ねる。
背の下に空いた隙間に腕を入れ、反った腰を抱えて引き寄せる。
反射的に捻じって逃げようとした一護の身体が、雄弁な吐息の代わりに、その場凌ぎの嬌声を紡ぎだす。
真似事の域を出てないと感じるのは、俺の勘ぐりか。
それとも覚えたてというのはこんなものだったか。
思い出せない。
せっかく一護の体勢が整ったというのに、今度はこっちが集中できない。
歯車が噛み合わない。
どうしようもない逡巡に、単純なはずの欲望まで行き先を失い、一護の身体も、一護自身のことも、意識からブレてはじき出される。
なんで俺はこんなに一護を真っ直ぐ見れていないんだろ?
抱え上げて膝に乗せようとしてた一護の身体を再び、寝床に下ろすと、一護が少し、驚いたように俺を見た。
と同時に、俺の腰を挟み抱えたままの足にぎゅっと力が入った。
身体の反応とは裏腹に、一護自身は視線をふいと逸らす。
一護の下には、寝床を覆う白い布。
その白い布がつくる波に、顔を埋めたり、肩や両手首を押し付けられたりして、一護は何度も何度も溺れそうになっていた。
その様子が酷く痛々しい気がして、無理強いしてる気がして、俺はその度に不安になってたのは否めない。
何か大事なものが壊れてしまうような気がして、進めずにいるんだ。
ちくしょう。
突然、頬を撫でられて俺は驚いた。
逸らされていた一護の視線は真っ直ぐと俺に向かい、しかも口元に余裕さえ見せていた。
俺の頬に当てられた一護の掌は熱く柔らかい。
それが
気持ちよくて擦り付けてしまったけど、だけど納得できない。
なんなんだよ、これ。
さっきまであんなにガキ丸出しだったくせに、なんでそんなに突然、変わってしまえる?
テメエ、勝手すぎなんじゃねえか?
けど、きっと、どうせ、あっという間に追いついて、あっという間に追い越していくんだろ。
俺がいつまでも戸惑ってるうちに。
なんてザマだ。
「チクショウ」
両手を掴んで寝床に押し付けると、一護は眼を丸く見開いた。
と同時に、くぅっと肺から漏れた空気が可愛らしい音を立てた。
けどもうそんなことに構っちゃいられねえ。
これ以上動けないようにしてやる。
腰を擦り上げて、深く打ち込む。
口は掌で覆い塞いで声を消し去る。
反抗的な視線は、睨みつけて黙らせる。
それでも一護は一護のままで絶対譲ってなんて来ない。
そうだな。
テメエにそんだけの器量があるんだってんだったら、俺だってどこまでも付き合ってやるさ。
叩きつけるように、淀みきった欲を全部注ぎ込むと、一護の身体は難なく全てを飲み込んだ。
わざとらしかった嬌声も、
たどたどしかった誘いも、
中々ほぐれなかった硬い身体も、全部溶け去って消えた。
耳の奥に残るのは、繰り返された俺の名前。
あんなふうに俺の名を呼べるようになってたなんて。
どこまで何を隠してやがる。
俺のジレンマはなんだったってんだ。
クソ。
呼吸を整えながら、それでも一護を抱きしめると、俺の腕のきつさを咎めるように、荒い息の下から、
「この遅漏」
と一言、一護はほざきやがった。
「んだと?」
身体を起こしてみると、もう眼を瞑ってやがる。
テメエん中じゃ今の俺はそういう立ち位置かよ、つかテメエのせいだろ自覚ナシかよと思うと、ガクリと全身から力が抜けていくのを止められない。
だから俺は、そのまま一護の上に上体を投げ出した。
ぐえっとカエルがつぶれたような声が聞こえたが、ザマアミロと呟いて、そのまま眼を閉じた。
一護の身体は酷く柔らかく、そして熱いままで、未だ早鐘のような鼓動も正直で。
忙しく上下する胸に押しつけた耳介には、潮騒のような音が流れ込んできてとても心地よく、
瑣末なことなどどうでもいいように思われた。
あれ? 一護が好きすぎで遅漏疑惑な恋次の話・・・?
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