「行過ぎる夏の情景 五題」配布元 / LoveBerrys/2008夏 W一護&恋次誕生日企画
ただ零れ落ちる
うわぁっという自分の叫びで目が覚めた。
起こした上半身には嫌な汗が流れている。
頭を掻くと、たっぷりと湿気を含んだ髪が両手の指に纏わりつく。
言いようのない不安が込み上げる。
なんて夢を見てしまったんだ。
あんなこと、俺は望んでない。
それとも予知夢なんだろうか。
そんな未来はいらない。
だが両手に残るのは、熱を帯びた血が伝う生々しい感触。
なんて現実めいた夢だったのだろう。
眼を瞑ると、今もまたあの血の海に身を浸しているようだ。
あれは一護の血。
夢の中で、自分が手にかけた。
しかも背後から。
任せたぜと背を向けた一護を、後ろから斬り捨てた。
俺は何も感じていなかった。
むしろ、やるべきことをやったのだと満ち足りていた。
肩の荷が降りて、ほっとした。
「ちくしょ・・・、なんでこんなに暑ィんだよ・・・」
夏の夜独特の淀んだ空気が膜になって体中に張り付き、熱がこもってる。
身体もいうことを聞かず、ろくに息もできやしない。
だがもちろん、熱帯夜の引き起こす寝苦しさだけがこんな夢を見せたわけじゃない。
出口を求めていたのは俺の奥底に潜む歪んだ欲望。
捌け口を目の前の光に求めただけ。
一護を貶めることで、一時凌ぎに赦しを求めただけ。
わかってはいるのに。
馴染んだ闇の中で繰り返し呼ぶのはその名。
今、ここにいてくれと。
必ず生きていてくれと。
そして俺から逃げろと。
矛盾する願いを込めたその名は、声にならずにただ零れ落ちる。
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