「人間 5題」 (配布元 キョウダイ)
知性の定義
触れた指を繋ぎ止め、滴る汗を辿って更にその先へ進む。
吐息が混ざり合い、ため息に昇華して虚空に溶け去る。
血流は狂ったように四肢を巡り、
脳髄から叩き出されるシグナルは神経の網を駆け抜ける。
もはや些細な理性や感情などは入り込む余地もなく、
綿々と紡がれてきた生命の記憶が、
増え満ちようという原始の欲望が、
追及の手を止めることなく暴走し続ける本能が、
そして行為そのものが荒波となって押し寄せてくるから、
所詮唯の一個体では抗えるわけもない。
「こんな知性のカケラもない行為」
冷めることのない熱に浮かされ彷徨い落ちるのは諦めに似た誘いの言葉。
「だから高尚なんだろう?」
躊躇いなく反語を掬い取ってくるから、
その勢いを利用して共に脳髄の芯へと深く潜る。
生きて其処に在ると知ることがどれほどの意味をもつのか。
世界を己をそして先にある何かを知りたいという欲に限りはあるのか。
問うてみても熱の侵食は手加減を知らず、
表面に爪を立てる程度の抵抗では答を得られるはずもなく、
知らぬことを知らぬと悟っても所詮身体の殻の支配の下。
だからやはり意味もないのだと体表を走る熱とそれを導く掌に己を委ねた。
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