Restraint
「・・・あちぃ」
恋次は、竹箒に縋って恨みがましく文句を言った。
もちろん矛先は目の前の一護。
「・・・・何でこんなに屋上って広いんだよ、現世のガッコはよ」
「知るかよ!」
「・・・・何で今日に限ってこんなに暑ィんだよ、現世はよ」
「現世現世ってうるせえ、このクソ赤死神っ!! 黙って掃除しろ!」
怒鳴る一護に、恋次はキレた。
「大体テメーが俺の煙草取って逃げるからこんなハメになったんだろ!
この馬鹿が、先公に見つかりやがって!!」
「恋次が煙草なんて学校で吸うからだろっ!
それに記換神機を無くすなんてマヌケすぎだぜ。
記憶置換してりゃあ、罰掃除なんてしなくて済んだのに!!」
しばらく二人は睨みあっていたが、ふう、と同時にため息をついて、ドアの方を見た。
煙草が見つかって屋上の罰掃除が言い渡され、ドアの鍵は内側から施錠されてる。
30分後に鍵を開けてもらえるが、
それまでにこの広い屋上を掃除し終わらないといけないのだ。
「ったく、記換神機、どこ行ったんだろうなあ、
多分、テメーを追いかけたときに落っこちたんだと思うんだけど」
掃除する気が全くない恋次は、
ぶつぶつ文句を言いながら、昼休みを過ごした辺りをうろうろ始めた。
多少罪悪感のある一護は、
恋次の助力はあきらめて、さっさと掃除を済ませることにした。
掃除といっても、ゴミが溜まってる隅っこを適当に掃いて、
バケツに汲んである水をざっと流せば十分キレイに見えるはず。
罰掃除の経験値が高い一護には実のところ、一人でも楽勝なのだ。
もちろんそんなこと、口に出さないけど。
学校中に響き渡る部活の声に重なって、
ざっ、ざっと床を掃く音が規則正しく屋上に木霊する。
空はあくまでも蒼く、初夏の鋭い日差しは午後遅くなっても弱まることを知らない。
こんな午後は、恋次を誘ってちょっと遠出でもしてみたかったんだけど。
一護は、屋上の隅っこで探し物に精を出す恋人をちらりと見た。
せっかく同じ学校に通っているというのに、一緒にいられる時間が少なすぎる。
常に近くにいる恋次と何でも無い風を装わないといけないからストレスは増す一方。
他人に見えない死神の姿や自室で会うときは、すぐに触れることが出来たのに。
それが当たり前だったのに。
照り返しの強い屋上で罰掃除という無意味に重労働な作業のせいか、
一護の心の中は迷走しだした。
大体恋次が悪い。
こんなに近くにいるのに、素っ気なさ過ぎる。
二人っきりになるのを避けてる感じだし。
まさか俺に関心がなくなったとか、そういうことなのか?
つか他のヤツとかできたのか?
「あ、あった!!」
恋次の叫び声が、悶々として暴走しがちな一護の思考を中断した。
「記換神機かよ?!」
手にしていた箒を放り出して一護も駆け寄る。
記憶さえ消去できれば、この苦行からも解放され、さっさと二人で逃亡できる。
嫌が応にも期待が高まった。
「んー、取れねえな、つか入らねえ」
記換神機は屋上の縁、金網の向こうにぽつんと落ちていた。
少し手を伸ばすだけで届きそうな距離なのだが、
金網の目を恋次の大きい手は通らない。
それでも無理やり手を細めて通そうとする強引さに、
一護はため息をついて、俺に貸せよ、と言いかけた瞬間、
「通った!」
ずっぽりと恋次の手が網の目を通った。
手首の上の辺りまで突っ込んで、記換神機を手にする。
だが、
「・・・・・抜けねえ」
「・・・・・阿呆かテメー」
恋次の手は記換神機を掴んだまま金網から抜けなくなってしまっていた。
猿か、テメーは。
手を突っ込んだ穴の中で果物握ったままだから手が抜けないってのは猿だろ。
そんな逸話を思い出し、一護はちょっとため息をついた。
「ほら、記換神機、こっちに貸せよ。抜けるか、手?」
「・・・・・ムリみてえだ」
記換神機は無事手元に戻ったものの、恋次の手は抜けそうに無い。
「石鹸とか、なんか滑るもの無えか?」
「いや、ホウキと水しか無いし。ちょっと水で試してみるか?」
バケツを持ってきて手を濡らし、抜こうとするが引っかかって無理。
恋次は正座のような格好のまま、手首を捕らわれて動けない。
途方に暮れた風情の恋次を見てると、込み上げてくるのは絶対的な優越感。
「・・・ダメだ。ギチギチで取れねえ。
なんかこうもっとぬるぬると滑らせるようなもの、無えか?」
恋次が少し切羽詰った顔をして一護を見上げてきた。
その表情に、情事の時の恋次を思い出す。
それでなくてもここ数日、学校でしか顔を合わせられないことに苛立っていたのだ。
先ほどの思考の迷走や二人になりたいと思った気持ちも尾を引いている。
「・・・いい方法があるぜ?」
一護は、恋次の捕らわれてる右手の方に廻り込んだ。
恋次の斜め前に向き合って座り、そのまま金網にギシっともたれかかる。
そして戸惑う恋次をよそに、そのベルトを外しにかかった。
予想外の展開に恋次は驚いて、その手を止めようとした。
「お、おい、ちょっと待て!」
「ギチギチなんだろ? じゃあぬるぬるさせるいい方法があるじゃねーか」
「まさかテメー・・・!」
一護は、恋次の制服のジッパーを下ろし、前を開けた。
恋次は止めようとするが、何しろ片手は金網に取られたまま。
もう一方の手も、体の反対側にある一護の体には上手く届かない。
手首が金網に捕らわれて捻れる。
「・・・・っ!!」
滑り込んだ一護の手が下着の上からやんわりと恋次を揉みしだく。
「・・・何考えてんだ、テメー! 見えるじゃねえか!」
「見えてねえよ、下半身は」
恋次の顔の位置から校庭は見下ろせるが、下半身は屋上の縁に隠れている。
確かに何をされているかは見えていないのかもしれない。
それでも、真昼間の屋上。
校庭を行きかう人間らに、自分の姿も顔も、遠いながら見えているのだ。
「んっ・・・」
「でも声は出さない方がいいぜ? 結構響くから」
既に一護の手の中、恋次のものは熱を持って硬くなり、下着を湿らせてきていた。
現世の下着の柔らかさとか薄さは、普段使っている下帯と違いすぎていて、
ますます状況の異常性を際立たせるから恋次の感覚は鋭敏になる。
焦る恋次に気をよくして、一護は調子に乗り、
下着を少し下ろして恋次のものを出して直接刺激を与えだす。
「ほら、早くイけよ、時間無えんだからよ」
「だ・・・から、止めろって、こ・・んなとこ・・・・で・・」
「っていつもより興奮してるくせに何言ってんだテメーはよ?」
悪戯っぽい笑みが一護の顔に広がった。
それが刺激となったか、恋次からとろとろと染み出てきたものが、
一護の手の中でぬるりと滑り、さらに快感を呼ぶ。
絶対楽しんでやがんな、このクソガキ!
恋次は歯噛みをするが、興奮していく身体を止められない。
気がつくと一護の手の動きじゃ足りなくて、腰が動き出している。
揺れて金網が手首に食い込んで痛むから、
もう片手でしっかりと金網を掴んで上半身を支える。
せっかく片手が開いてるのに、
これじゃあ両手を拘束された上で自慰させられてるようなもんだ。
あまりの状況に、思わず自嘲の笑みが浮かぶ。
その表情に気づいて誤解した一護が、恋次の耳元に一瞬だけ口を寄せた。
「なんだ、やっぱりこういうのが好きなのか?」
耳に吹き込まれた一護の掠れ声と息が甘い刺激になって、
もうだめだと恋次が覚悟したその瞬間、校庭から一護を呼ぶ大きな女の声が響き渡った。
校庭側に振り向いた一護の手が捻れて恋次の根元をきつく絞め、
射精直前だった恋次の喉から、ひぃっと空気を呑む音が響いた。
「黒崎くーん、恋次くーん! まだ帰らないの?」
「何やってんの、あんたたち、そんなところで!」
達する直前に締め付けられたので、ガクガクと下半身が震える。
半開きの口からは涎が滴り落ちていた。
声を抑えるので精一杯。
それでも少女達の声は認識できたので、まさか見られたかと眼下を望んでみた。
校庭には、一護のクラスメートがごく普通の様子で手を振っている。
上半身だけしか見えていなのだったら、
何が起こっているかなんてあの少女達には見当もつかないだろう。
ほっとしたのも束の間、一護の手がまた動き出した。
恋次の表情が強張ったのを横目で確認して、一護は楽しげに少女達と怒鳴りあう。
「井上にたつきかよ! 罰掃除くらったんだよ」
「うわ、だっせー!」
「やかましい、さっさと帰れっ!!」
「がんばってねー」
「サボってんじゃないよー!」
「うっせー!」
「恋次くんもまた明日ね!」
一護が声をあげるたびに恋次のを扱く手の動きも強まって、
衝動を堪えるのに必死で息が止まりそうになる。
「ほら、返事しろよ、ヘンに思われるだろ?」
一護がからかうように囁いてくる。
声を出したら喘いでしまいそうで、
仕方なく開いた方の手を軽く振って挨拶に変えると、
遠目のせいで表情までは見えなかったらしい。
少女達は手を振り返して楽しげに帰途に着いた。
その後姿にほっとしたのも束の間、
不安定な姿勢の隙をつくように、一護がまた恋次を攻め始めた。
今度は両手を使い、根元を上下に動かし、
もう一方の手で先の敏感なところを捏ねまわす。
耐え切れず、金網に縋るようにして体を支える。
「はぁ・・・・っ、うっ・・んん!」
「はやくイケっつってんだろ、教員がくるぞ?」
いくら記憶置換をすればいいといっても、
こんなところを見られるのは真っ平ゴメンだ。
でも一回奔流を止められたのと焦りのせいで、
恋次の緊張は増してなかなか最後までいけない。
「ああもう、後ろも弄んねえとダメなのか?」
少し焦ってきた一護が舌打ちをし、
恋次の背骨から掌を滑らせて下着ごと半端に制服を下ろす。
滴り落ちる汗と共についと滑り降りてきた指が後孔の縁を掠めた。
「あぁ・・・っ」
「声、出すなって言ってんだろ?!」
忍び込んだ指が、汗の滑りを借りてするりと潜り込んだとき、
恋次の背が大きく撓り、一護の手の中に精を吐き出した。
「・・・くそっ・・たれが・・・」
ぜいぜいと息を荒くして金網に縋りつく恋次に、
「テメーのせいだろ」
と一護は言い、掌に溜まった恋次の精を手首に擦り付ける。
きし、と奇妙な滑りの助けを借りて、恋次の手は鉄の戒めからやっと解き放たれた。
「やっと取れた。ほら、早く服着ろよ。もう時間だぜ?」
恋次の手首の周りの細く赤い痕を一護の赤い舌が舐める。
「やっぱ不思議な味」
「・・・・!」
呑気な風を装う一護の眼はぎらついていて、恋次を挑発してくる。
一護がこんなことぐらいで満足したわけもないのだ。
でも、とんでもないところでとんでもない行為をさせられた恋次は、
落ち着いたふりをして服を着た後、側にあったバケツで手を洗った。
そして、
「このクソガキ、盛んのも大概にしやがれっ!!」
とバケツの水を盛大に一護の頭にかけた。
「うわぁぁっ、何しやがんだっ!!」
「いい気味だ、このクソッタレ!! 好き放題しやがって!」
「んだと?! 見られてコーフンしまくってたくせに、この変態っ!!」
「あァ? もう一回言ってみろ、この野郎っ!」
グシャッ。
何かが潰れる嫌な音がした。
恐る恐る二人が足元を見ると、
「・・・・あ! 記換神機がっ!!」
そこには、水浸しの上、踏み潰された記換神機。
「・・・どうすんだよ、コレ!」
「つか掃除も終わってねえよ!」
そしてタイミングよく、
階下に繋がるドアがギギイと音を立てて開き、クラス担任が顔を出した。
「掃除は終わったか? ・・・って全然終わってないじゃないの!
しかも黒崎はずぶぬれだし。何してたのアンタたち!」
まさかナニをしてたとも言えず、
かといって記憶を消去できる手段もなくした二人は声も無く立ちすくむ。
とりあえず、服はちゃんと着ててよかった。
というか現場を目撃されなくて本当によかった。
そんな思いが二人の表情に出たのだろう。
担任は一つため息をついて、
「あああ、もういいよ! もう帰った帰った! 続きは明日、便所掃除ね!」
と言い渡して階段を駆け下りていった。
今日解放されたことを喜んでいいのか、
それとも明日にまわったツケを恨んでいいのか。
とりあえず、記換神機さえ失った二人に出来ることは、
大人しく頷いて帰途に着くことだけだった。
そしてその夜、一護が酷い仕返しにあったのは言うまでも無い。
2007.06.27 素敵お祭669祭への投稿作品でした。
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