酔っ払え!



どんちゃん騒ぎ。

まさにその名前がふさわしいバカ騒ぎ。
飲んで歌って踊って怒鳴って。
神サマのはずの死神たちも、酒が入るともう始末に終えない。
つーか普段からか?
残ってるのが酒癖の悪いヤツばっかりってのもあるんだろう。
真っ当なヤツラはさっさと帰ったみたいだしな。
こういう場は慣れないので引き上げたいのは山々なんだが。

横で飲み続けてるヤツを横目で見てため息一つ。

「いやー、すげーっスねっ、流石っスねっ!!」

一角相手にホメ殺しかよ?
理性のタガも何もかも外れきってベロベロの赤いバカ死神は、
体育会系かてめーら・先輩後輩で突っ走るぜーみたいなノリでもうタイヘン。
正直、てめーがそういう盛り上げ上手とは知らなかったぜ。
世話係を気取ってる以上、居残り組に入る自分の身が恨めしい。

「オイ、もう止めとけよ?」

なみなみと湯飲みに酒を注いでいるので、一応止めてみる。

「なんで?」
「どーみても飲みすぎだろ。 いい年なんだから飲みすぎると腹出るぞ?」

ぴくっ。
赤死神のこめかみが痙攣した。

「ぬぁーんだとぉ?
 俺の腹のどこが出てるってんだ、見ろ、この均整の取れた腹筋を!!!」

がばっと恋次は上衣を開けた。
・・・・・このバカ、脱ぎ上戸かよ。

「いけーっ恋次―っ!
 脱げ脱げ全部いっちゃえーーーー!」

何時の間にか乱菊さんが俺の横にいて、酒瓶片手に腕を振り回してる。
ああ、この人が一番性質悪い。

「そーだ、行けぇ恋次ィ!」

その横にはちゃっかり修兵がいて一緒に酒瓶振り回してるし、ギャラリーは更に増えて輪状。

「じゃー、ご期待に応えて一発!
 六番隊副隊長、阿散井恋次、いきますっ!!」

はだけた上衣をがばーっと脱ぎ去る恋次。
おおっとあがるドヨメキ、とどろく拍手、黄色い悲鳴。
酔っ払いの輪の中で両手を上げてそれに応えるバカ赤死神。
再び沸き起こる拍手と歓声。

「よーっし。そんじゃー、もう一枚行ってみようか!!!」

乱菊さんの掛け声に恋次が振り向く。

「・・・へ? もう一枚って袴っスか?」
「あったりまえじゃなーい。こーなったらぜーんぶいっちゃえーー!
 さー皆さんもご一緒に! 
 恋次サンのカラダ、見てみたいっ! ハイっ」

だめだ。
乱菊さん、もう目が行ってる。手拍子とって、会場盛り上げに命かけてる。
つーか、みんないっちゃってる。
オトコ相手に脱げ脱げコールって一体どうなんだよ。恋次脱がしてどーするよ?
つーか恋次、てめーも脱いでどうするよ?
・・・・・・だめだ。もうだめだこのバカ、本当にだめだ。

「飲みすぎだテメー、こっち来いっ」

帯に手をかけた恋次を無理やり飲み屋から引きずりだす。
背後で乱菊さん達の盛大なブーイングが聞こえたが、無視だ、無視!

「イテっ、痛いって一護。ちょっとまてよって」

てめーも無視だ、無視! このバカが。
かまわず裸の腕を引いてどんどん歩く。

「オイ、寒いだろ、待てって!」

掴んだ恋次の腕が震えてる。
そりゃそうか。もう真夜中を過ぎて、霜が地面に薄く白い膜をかけている。
吐く息も白い。

「・・・バカが。脱ぐからだ。」

足を緩めて向き直ると、寒いとガタガタ震えながらも偉そうに仁王立ちの恋次。

「うっせーな。飲みなんだからいーじゃねーかよ。」
「そういうのは、ちゃんと分別があるヤツがいうもんだろ。こんなベロベロに酔っ払いやがって。」

恋次がため息をひとつついた。

「あんなもんなんだよ、飲みってのはよ。
 特に俺たちゃ命張ってるから、飲むときはどうしても派手になんだよ。
 次に同じメンツで飲めるかどうかなんて保障もねーしな。」

そうつぶやく恋次の横顔が妙に大人びて見える。
そういえばコイツは、長い時間の大部分を命のやり取りで過ごしてきているんだった。
ガッコー行って、五番隊入って、十一番隊に移動して、鍛錬続けて副隊長になって。
その長い間、どれほどの修羅場をくぐり抜けてきたのか。
どれほど同僚の命が消えるのを見てきたのか。

「まぁ、でも今日は助かったぜ。あのままじゃ乱菊さんに丸裸にされるところだった。」

明るく笑いとばす恋次に腹が立つ。

「てめー、全部脱ぐ気だったのかよ?」
「あー? 褌まではさすがに脱がねーだろ。」

つーか、褌一丁にはなるのかよ、てめーはよ!

「ダメだ。もうオマエは飲むな。少なくとも俺がいないときは飲むな!」
「なんだよそれ、てめーは世話焼き女房かよ?」

う、と声がつまる。
そんなつもりじゃないけど、でもなんかムカムカするじゃねーかよ、
てめーが俺の知らないところで脱ぎまくってんのはよ。

「・・・なーに嫉妬してんだよ?」

更に言葉に詰まったらいきなり肩に腕を廻された。
急接近したせいで、酒臭い息が顔にかかる。
思わず顔を背けようとしたら、キスされた。啄ばむだけの、軽い口づけ。
そのまま抱きしめられる。

「ななな、何すんだ、こんなところで!!」
「誰も見ちゃーいねーよー。あー、あったけー。」

そういう恋次の肌の方が温かくて。

「人を湯たんぽ代わりにすんな。ほら、帰るぞ!」

幾ら闇夜だといっても赤くなった顔を見られるのは真っ平。
心残りはあるものの、無理やり恋次を引き剥がして、腕を掴んでさっさと歩き出す。
暢気な酔っ払い赤死神は体重を思いっきりその腕に預け、引っ張られるようにしてゆっくり歩く。

「そんなに急がなくたっていーだろー? ホラ、星もきれーだぜー?」

上を向いて鼻歌を歌う恋次は妙に浮かれてて、なんだかこっちまで酔っ払いそうだ。
つーかもう、酔っ払ってるのかもしんねぇけど。

「さー、うちに帰って飲みなおしだ!」

夜空に向けて拳を突き上げる体育会系。

「テメーはまだ飲む気かよ?!」
「あったりめーだろ。すっかり醒めちまっただろーが。テメーのせいだ、テメーも飲めよ?」
「俺も飲むのかよ?!」
「ったりめーだ、テメーの寝顔を肴に飲めってのかよ?」

状況を想像してまた顔から火を吹きそうになる。
なんで酔っ払いってのはこう、発想が自由というか、とんでもない方向に行くっていうか。

「・・・お? 照れてんの?」

こういうことだけは目敏い野郎だ。ちくしょー。

「よっし、じゃー思いっきり肴にしてやる。さっさと帰って飲もーぜーーー!」
「だから往来で叫ぶなこのバカっ!」

気分良くふらつく無駄にデカイ身体。
支えるこっちの身にもなってくれ。
でも顔を見られなくて済むから、俺は黙々と歩く。
恋次のうちはもうすぐだ。







そのころすっかり元のどんちゃん騒ぎに戻った居酒屋では、
「あの二人、本当にデキてたのねぇ。ヘンな趣味・・・」
とつぶやく乱菊の姿があったとか。





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