気持ちを伝えるのは難しい。
だから身体で、って思ったけどコレが思った以上の難関。
たった15年の経験と知恵じゃ足りなくって、当然一方通行になりがちで、
今日も俺は歯噛みしながら、この気持ちを伝えるために身体を重ねる。
Dripping Perspiration
まだ日が高いというのに、もう半裸。
声が漏れるとまずいから窓は閉めてるけど、ブラインドは開けっ放し。
差し込む日の光で汗の粒が光っている。
ベッドに半身を預け床に座り込んだ恋次の背中、
背骨に沿って滴り落ちる汗を、一護は舌の先で舐めとった。
「・・・んっ」
嘆きに似た声、背が反り返る。
小さな刺激にも反応を見せる身体に誘われて、汗の筋を首に向かって遡る。
肌は水分を含み、刺青の漆黒は深みを増していた。
膝立ちになり、紅髪を横にやり両肩を掴んで、後ろから首筋に顔を埋める。
鍛えられた筋肉は柔らかく、でも触れるだけで容易く緊張して肉欲を誘う。
歯を立ててみるとそれは驚くほどの弾力で歯を押し返してくる。
プチとかすかな音を立てて犬歯が肌に食い込んだ。
「いってっ。・・・てめぇ、何してやがる。」
振り向いた顔が本気でイラついていたので、つい笑いが漏れる。
「わりい。でも旨くって、つい。」
痕になった赤い噛み痕を舌でなぞる。
痛みを残した其処を甘く刺激され、
同時に前に回された両手で胸をきつく捏ね回され、
思わず恋次の口から吐息が漏れた。
「ふーん。痛いのもイケるんだ。」
「・・・ち・・がっ・・」
反論しようにも一護の片手は下降する一方。
それが目指す場所がわかっているから、身体は自然と過剰反応する。
片膝立ちで坐る恋次の袴の脇から、一護は手を差し入れる。
それは、これまでの焦らすような動きと比べると乱暴なぐらいの素早さで、恋次の隙を突いた。
思わず艶のある声が漏れる。
シーツを掴んで耐えようとするが、いつも急いで多くを求める一護の手は、
下帯の下で硬くなった恋次自身を確かめるように一撫でした後、ぎゅっと握りこんでゆるゆると前後に動き出した。
じわりと下帯が濡れてきて滑りがよくなる。
その手が見えないだけに、なぜか目隠しされているようで、
荒い木綿越しだから鈍い刺激がもどかしくて、
でも気付かれたくなくて、必死で快楽の波に耐える。
そんな切羽詰った恋次の状況を知ってか知らずか、一護が耳元に嘆いた。
「なぁ。アッチの下着ってなんか、やらしーよな。」
思ってたことを読まれたかと思わず振り向きかけた恋次の身体は一瞬、宙に浮き、
ベッドの上に仰向けに投げ出された。
覗き込んでくるのはやはり上半身裸の、でもまだ幼さが残る少年。
「だってさ。脱がすの大変だから闘志が湧く。」
「ハァ? オメーまた訳わかんね・・・、んんっ・・・」
息があがりながらもきょとんとした恋次の表情がおかしくて、深い口付けを落とす。
「いいんだ。わかんなくても、別に。」
俺がわかってればいいから、と恋次の薄い口唇を食みながらつぶやく。
歯列を割り舌を絡ませ、軽く吸い上げる。
固くなった下半身を強く擦りつけると、過敏になっている恋次の身体は過剰に反応した。
足の間に割り入れた膝で軽く刺激しながら、喘ぎが漏れる口唇を塞ぎ続ける。
行き場の無い快楽をもてあました恋次の身体が震えだした頃、
ようやく一護は身体を起し、自分と恋次の服を取り去った。
「やっぱ直のほうが気持ちいいよなぁ。」
そういいながら一護は恋次にくっついてくる。
足を絡め腕を廻し、頬を擦り付け、まるで全身で恋次を味わおうかというように抱きつく。
いつも必死に背伸びしている一護の、普段見せない子供っぽい振る舞いが愛しくて、
恋次は汗で湿った一護の頭を両手で抱きしめた。
それに応えるようにしがみついてきた一護だったが、
ダメだ俺もうもたねー、と身体をずらして恋次の腕から抜け出した。
不意に消えたその温もりを寂しく感じたが、一護の眼が切羽詰っていて逆に煽られてしまう。
その戸惑いに誘われるようにもういちど口唇を合わせながら一護は、恋次の身体をひょいっと裏返す。
そこには先ほどまで舐めていた背中。
汗は跡形も無くシーツに吸い取られていた。
「あーあ、もったいねぇ。」
きれいだったのだ。
鍛え上げられた端正な背とそれを彩る墨、散らばる汗の粒。
水滴が刺青の縁を通る瞬間、その墨と肌を区切る直線をゆがめ、踏みにじるようだった。
骨や筋肉のくぼみに溜まると、まるでレンズのように輝いた。
日の光を集めて発火するんじゃないかと思うほど。
宝物を集める子供のように、永遠にとっておきたいと思った。
「口、開けろよ。」
既に半開きだったのをさらにこじ開けて、一護の指が恋次の口に割り入る。
纏いつく熱い舌で遊びながら、片方の膝裏に手を入れて、力の抜けた足を腹につくようにずり上げた。
十分に滑った指を、大きく開かれたその中心に背後から当てる。
唾液がたっぷりついてるから指は滑るように中に入り込む。
異物に引きつる背は、唇で優しく宥める。
この、胸を圧迫する気持ちをどうやって伝えよう。
俺の大事な紅い死神。
背中に半ば圧し掛かるようにして、ほぐした其処に己を押し込むと、
髪で顔を隠したままの死神はため息とも嘆きともつかないものを漏らす。
それが泣き声みたいに聴こえて、また更に胸が痛くなった。
決して痛みだけではないとわかっていても、
泣かせたくないという気持ちが先にたって、守りに入る。
そんな自分がいやで、下半身からしびれるように流れ込む快感に身を任せる。
激しく動くと、すべてが脳髄から消えていく。
恋次の喉から漏れる声がかすれて高くなり、終わりが近いことを示した。
いつもその瞬間を隠したがる彼が、それでも体中を緊張させると自然に伝わるものがある。
彼が限界を超えられるように前に手を廻し手伝ってやる。
軽く先を引っかいてやると、汗を浮かべた背を丸めて震え、小さな声で啼いた。
「・・・・オマエ、暑いから離れろよ・・・」
二人寝転ぶだけで狭いベッドの上、一護は恋次の背中に思いっきりくっついたままだった。
「んー? だって気持ちいいぜぇ、恋次の背中。」
そういって、2人の間のわずかな空気も押し出そうかというように密着してくる。
実は恋次だって、背の一護が気持ちいい。
水分をたっぷり吸った案外柔らかい髪の毛が首の後ろをくすぐる感じとか、
肩甲骨のくぼみや背骨の辺に吸い付く一護の胸の辺りの弾力とか。
一護のまだ荒い息が、肩口の汗を気化させて、そこだけヒヤリとする。
「・・・恋次ィ。 俺、オマエのこと、すっげー好きだ。」
額を耳の後ろのあたりに擦りつけながら、余韻が残ったどこかうっとりとした声で囁きかけてくる。
この子供は知っているだろうか。
惜しげもなくぶつけてくるその言葉と身体がどんなに俺を熱くするか。
ややもすれば闇に落ちていきそうになる俺をギリギリのところで引きとめているのだと。
「・・・ああ、俺もだよ。」
背を向けて吐く言葉のなんと嘘っぽいことか。
でもコイツは真っ直ぐ受け止めるだろう。
その残酷なほど澄んだ瞳で。
それを知っているから、怯えることなく恋次は振り向く。
オレンジ色の光に包まれた頭をかき抱き、そっと耳元で囁き返した。
「俺もオマエが好きだよ。」
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