そんな二人のヒメハジメ
「どれだけ食う気だよ。つーか何読んでんだよ」
「いーじゃねーかよ、こんなんアッチにはねーんだからよー」
遊子がつくった御節の残りをがっつきながら、ひとん家でだらだらと雑誌に読みふける赤死神。
死覇装んときはともかく、義骸に入ってコッチの服。
その赤い髪、ガタイ、刺青、どれもこれもハミ出して見える。
現代日本規格には合わねぇよなぁ。
つーか正月なんだから死覇装の方が雰囲気でるんじゃねーか?
「しっかしアレだな。現世は風紀が乱れてるよな。見放題だよなぁ、オンナの体もここまでなあ?」
そういってガバーっと雑誌のグラビアを開いてみせる。
下着姿の女の子、にっこり笑って見開きでポーズ。
ブッ。
思わず噴出しちまって、顔に手をやる。
死神オトコがこんなの見てると思ってなかったから、まさかの不意打ち。
ビビリすぎて鼻血出るかと思った。
「へぇぇ、オマエもオトコなんだなー。やっぱ好きなんだ」
いやいやいや、それは当たり前。
なんか勘違いしてっかもしんねーけど、俺はオトコ好きじゃねーっつの。
でも俺の反応に妙に感心した赤死神は、また雑誌鑑賞に戻る。
へぇぇと眼を輝かせてたりしてっから、またオンナの裸にでも見入ってんじゃねーかと気が気でならない。
でもそれ、ルキアが借りてきたやつで女用の雑誌だし、さっきのも唯の下着の宣伝だから。
少年誌とかもっとスゲーから。大人用とかもうそりゃーアレだから。
見せて驚かせたいような、見せたくないような。
うー、オトコゴコロが複雑。
つーかテメー何しに来てんだよ。
正月っつったら、姫始めってのがあるんだろ?
食ってばっかいるんじゃねー、雑誌なんか呑気に読んでんじゃねー、俺の相手しろ!
とりあえず、にじり寄ってみる。
「裸も多いけど、占いも多いよなぁ。なんだこりゃ、パンツで占うのか?!」
つられて覗き込むとパンツの色一覧と恋愛傾向。
「すげーな。パンツで相性ってわかるんだ。向こうじゃ考えらんねーな。いや、アリか最近は。
女性死神協会が地下活動してっかんなー。いっそ売りつけるか?」
上の空でブツブツ煩い赤死神は放っといて雑誌を奪い取り、記事に見入る。
で、俺の今日のパンツは何色だ? 黒か。
何々、一見クールで実は情熱的? 一途な性格? そんなんどうでもいい。
相性はどうなんだ、相性は。
“下着で言えば、堂々とビキニを穿くような男性”
「ビキニーッ?!」
「・・・何叫んでんだ、うるせーぞ」
「つーか恋次、パンツ見せろ、ビキニかビキニ?」
「履くかビキニッ、つーかヤメロ、うぁああっ」
殴られながらも無理やり脱がせたら、パンツはボクサーだった。
俺がやったやつ。
街中探して見つけてきた、炎のボクサー、恋次のご注文どおり。
履いててくれて、それはそれでイイんだけど、でも相性悪いじゃねーか。
「何しやがんだテメー!」
ジーンズ足首に引っ掛けたままゴスゴス殴ってくる恋次は放っといて、
雑誌記事の中、探してみる“妙な柄物を好む男”。
・・・・あった!
“キャラクタープリントのトランクスや派手な柄物を好むのは、
一筋縄ではいかない、何を考えているのかわからない、神秘的な男性”
“一筋縄ではいかない”って、一筋どころか百筋あったって無理だこんなやつ。アタリ。
“何を考えてるか分からない”って、何も考えてないかもしれない。これもアタリ。
“神秘的”ってのはアレか、死神だから未知の世界、怪奇現象とかソッチか?!
これもアタリだちくしょうめ!
恐るべしパンツ占い。こんなに当たるものなのか?!
俺のパンツ全部、柄物オトコと相性のいい赤や緑に変えてやるか?!
「オイ、人の服脱がしといてテメー、何呑気に雑誌読んで百面相してやがる、あァ?!」
振り向くと鬼の形相、青筋立てた赤い死神@パンツまで派手な怪奇系。
「もう腹いっぱいだし、せっかく脱いだんだからやるぞ、いいな?」
そう言っておもむろに俺の服まで脱がせ始める恋次。
姫始めってそんなんでいいのか?!
ムードとかなくっていいのか?
所詮、襲い受けってやつか?!
受けて立つぜ、ちくしょう!
つーわけで今年も全然敵いそうにねー。
惚れた弱みの勢いで正月行事、始動。
◇
無事、正月行事も完了して二人でぎゅうぎゅうとベッドの上、気だるい空気が漂う。
「で、テメーはなんであんなにパンツにこだわってたんだ?」
「・・・相性とかあるんだってよ」
「相性? あれ、男と女だろ、しかも人間同士の。そんなんこだわってどーすんだ、阿呆が」
そういって軽くため息をつく恋次。
・・・いーじゃねーかよー。そういうの、気になるときもあんだよ。
「ほら、コレ見ろよ」
そうやって目の前に突き出されたさっきの雑誌、“前髪でわかる恋愛願望と相性”の記事。
何々。
おでこをしっかりと出したスタイルの女性は、年下の男性と相性がいい?!
性別とか死神とかおでこに刺青とか、そういうオプションを別にしたらバッチリじゃねーか?!
振り向くと恋次、にやにやにや。
「これで満足したか?」
・・・してません。またキました。
安直な下半身を抑えるためにも、雑誌に目を戻す。
“このタイプは、好きな人と2人きりの時は思い切り情熱的に愛情を表現することもあります”
何ィ?
ツンデレか? ツンデレなんだな?!
今までのアレもコレも、全部ツンデレの裏返しだな?!
期待に満ち満ちて振り向くと、既に恋次、爆睡中。
テメー、時間稼ぎか今のは?
食ってヤったから今度は寝るのか?
三大本能のまま生きてんのかテメー?!
握り締めた雑誌でスパコーンと殴ってやりたいのを耐えに耐え、
寝込みを襲ってやりたいのも堪えに堪え、ひたすら恋次の目覚めを待つ。
そんで第二戦だ、復活戦だ。
思いっきり、二人だけのときの情熱的な愛情ってモノ、披露してもらおうじゃねぇか。
正月早々、主導権握られてたまるかってんだ、ちくしょうめ!!!
2007.お正月
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